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1.民主党の新成長戦略
昨年12月30日に、「民主党の新成長戦略(基本方針)」が閣議決定され発表された。最初の「新需要創造・リーダーシップ宣言」では、「成長戦略で新たな需要・雇用をつくる」という第三の道を進むとしている。そこでは、2020年までに環境、健康、観光の三分野で100兆円超の「新たな需要の創造」により雇用を生み、国民生活の向上に主眼を置く。日本経済の2009年度の名目GDPは473兆円にまで減少する見込みであるが、国民生活の課題(地球温暖化と少子高齢化)に正面から立ち向き合った時、その課題解決の先には潜在的需要が満ち満ちているのだとしている。
また、社会変革につながる技術・システムのアジア地域など海外への展開を図るとし、日本発の「課題解決型の処方箋の輸出(システム輸出)によるアジア需要の創造を目指す。また関連して、海外との玄関口となる空港や港湾などの公共インフラを選択し、集中投資するとしている。
各論の、「6つの戦略分野の基本方針と目標とする成果」では、わが国の新成長戦略を次の6つに分けて、2020年までの目標や主な施策を取り上げている(具体性が少ないのが残念であるが)。
(1)強みを活かす成長分野と主な施策
1)環境・エネルギー: 電力の固定価格買取制度、エコ住宅等の普及、蓄電池や次世代自動車などの技術開発
2)健康: 医薬品、医療・介護技術の研究開発推進、アジア等海外市場への展開、バリアフリー住宅の供給
(2)フロンティアの開拓による成長分野と主な施策
3)アジア: 貿易・投資の自由化推進、安全・安心の国際標準化推進、鉄道・水・エネルギーなどのインフラ整備支援、羽田の24時間国際拠点空港化、国際コンテナ・バルク戦略港湾の整備
4)観光・地域活性: 訪日観光査証の取得容易化、休暇取得の分散化、定住自立圏構想の推進、過疎地域の活性化、都市再生、農家の個別所得保障制度の導入、6次産業化、中古住宅の流通市場、耐震改修
(3)成長を支えるプラットホームと主な施策
5)科学・技術: 大学・公的機関改革、若手研究者の多様なキャリアパス整備、イノベーション創出のための制度・規制改革
6)雇用・人材: トランポリン型社会の構築、ジョブ・カード制度の職業能力評価制度への発展、幼保一体化、教員の質の向上
2.新成長戦略の課題
民社党の成長戦略の基本的考え方は、地球温暖化や少子高齢化という国民生活の課題に取り組んだとき、その課題解決の先には潜在的な需要が満ちている。そこで、その需要サイドから日本経済の成長を図ろうとするものである。
例えば、
1)医療・介護・健康関連産業に民間事業者等の参入促進がはかれれば、拡大する需要に見合った成長産業になり、雇用も創出される。
2)幼稚園と保育園の一体化や規制の見直しをして多様な事業者の参入促進を図れば、待機児童問題の解消をはかりながら、子ども関連産業の成長を促進することができる。
3)新たな職業能力や技術を身につける求職者支援制度の創設等により、需要に対応した成長を支える雇用・人材のプラットホームができる。
また環境・エネルギー関連では、
1)電力の固定価格買取制度の拡充等により再生可能エネルギー(太陽光、風力、小水力、バイオマス、地熱等)の普及拡大を図る。
2)環境コンシェルジェ制度をつくり、エコ住宅の普及や、住宅・オフイス等のゼロエミッション(廃棄物をゼロ排出)化を図る。
3)地方交通の利用促進等による都市・地域構造の低炭素化など、環境、健康、観光を柱とする自立した持続可能な経済社会構造の変革を図る。
このような、需要サイドから日本経済の成長を図るという視点は、今までの政府にはなかったものである。これからの日本経済の成長を考えるとき、需要サイドの内需を中心とした経済成長は欠かせないものであり、高く評価することができる。しかしながら民主党の成長戦略には、以下に述べる幾つかの点で、課題もあると思われる。
一つ目は製造業などの供給サイドの課題である。民主党の成長戦略では、小泉・竹中路線で進められた「構造改革」を、「選ばれた企業にのみ富が集中し、格差拡大をもたらした」と批判している。しかし、新自由主義的な規制緩和や労働市場の自由化など市場原理による「構造改革」は従来の日本型企業モデルではない。従来の日本企業は、長期的視野に立つ姿勢や、従業員を資産として扱う姿勢、サプライヤーとの密接な関係、技術改善のための積極的な投資に代表される。それが、経済のグローバル化等の影響により収益性や明確な戦略(製品分野の集中化)などがより強く要求される環境になり、ときの政府がアメリカの新自由主義の真似をして対応したというべきであろう。
従来から日本では、製造業が外需や内需に対応して日本の成長を支えてきた。医療・介護・健康など内需産業を支えるには、税金、保険、費用という形での国民の負担が必要であるが、それらの経費をまかない雇用を生み出してきたのは製造業である。内需と外需は車の両輪であり、この両輪が回ってこそ、日本の成長があるのではないだろうか。需要だけでなく供給サイドの発展も重要である。
二つ目は産業クラスターについてである。経済成長における政府が果たすべき役割は、需要を起こすだけでなく、生産性や競争を促進するために環境を整えることである。この生産性や競争力を高めるために、日本の企業は多くの分野の産業クラスターから利益を得てきた。自動車は多くの部品の集合体である。ファミコンには、ICメーカーの専用チップが搭載されており、カードリッジ製造企業やゲーム開発業者とも密接な関係を有している。
地方分権が進展すると、地域による産業特化が進み、企業活動とクラスター形成の必要性が更に高まる。成長戦略では、地域資源の活用による地方都市の再生等をかげているが、森林等の資源だけでなく、産業クラスターに代表される地域のネットワークこそが地域資源ではないのだろうか。このクラスターの形成を促進するには、地方分権による地域経済圏の戦略目標の明確化、国の各省の連携による総合的な振興策、地域開発や雇用促進を視野に入れた振興策、などが必要である。
成長戦略のアジア経済戦略では、「日本がアジアの成長の架け橋となるとともに、環境やインフラ分野等で固有の強みを終結し、総合的かつ戦略的にアジア地域でビジネスを展開する必要がある」としている。アジアなどの海外に需要を創出しても、他国の企業との競争に勝ち残ってビジネスを展開するには、国内の部品産業など関連する産業クラスターネットワークの有無が大きな役割を果たしている。
三つ目はイノベーション創出の問題である。成長戦略では、科学・技術、雇用・人材をプラットホームと位置付けている。科学・技術立国戦略では、「世界をリードする環境や医療・介護分野のイノベーション等を推進し、独自の分野で世界トップに立つ大学・研究機関の数を増やすとともに、博士修了者の完全雇用、中小企業の知材活用を推進する」としている。日本の経済を活性化するには、起業のベースになる基礎技術研究にしっかり投資をすべきである。しかし同時に、起業志向を持った人材の育成が図られなければ、日本の経済を活性化することができない。
日本企業には新規事業のためのインフラが整っている。しかしながら独立ベンチャーのための社会的支援システムがあまり整備されてないので、日本経済の将来を担っていくのは新規事業を担当する企業内ベンチャーだと言われている。そこで、大企業は社内インキュベーションセンターや新規事業推進部を設置して、特別な経験や能力が不足している社員でも新規事業に取りかかれるように支援している。
同様に、中堅企業・中小企業が企業内ベンチャーを起こしたり個人が起業家になるには、それを支援するインキュベーションセンターの機能が必要である。日本では独立してベンチャーを起こす人が少ないのを嘆く声が少なくないが、そのような成功確率が低くてリスキーなことは従来の日本のインフラではなかなかできないからであろう。新規事業には新しい部分や未知の部分があり、既存事業と比べて学習しなければならないことが格段に多い。新規事業の位置づけと方針を明確化して、十分な支援をする体制作りが望まれる。
ここでのポイントは、インキュベーションセンターの運営に補助金を出すのではなく、ベンチャーなど起業家を直接支援し、起業家が支援を受けるインキュベーションマネジャーを選べるようにすることである。また、これらの起業家やインキュベーションマネジャーの育成プログラムも必要である。さらに長期的には、自分で考えて行動する力や正解を導き出す能力を習得するなどの創造性教育が小学校から求められている。
1.欧米諸国の家族支援
内閣府ホームページ<http://www.cao.go.jp/>の共生社会政策・小子化対策に、「小子化社会白書」が載せられている。その「平成17年版小子化白書」の、第1部第4章第2節に「欧米諸国の小子化対策」が紹介されている。
その第2節では、「1.主要国の出生率低下の認識と政策スタンス」、「2.仕事と家庭の両立支援」、「3.働き方の見直しーヨーロッパで様々な動き」、「4.保育サービス」、「5.経済的支援(児童手当、税制)」が取り上げられている。ここでは、保育サービスと経済的支援について、この資料を引用して紹介する。
保育サービスの各国比較では、フランス、スエーデン、ドイツ、イギリス、アメリカが取り上げられているが、待機児童が解消したと言われるスエーデン、家庭保育が充実しているフランスなどで際立った特徴が見られる。
スエーデンの保育サービスはわが国の市町村に相当するコミューンが所管している。5歳までの子供のうち、保育所で35.2万人が、家庭型保育等で約3.3万人(いずれも2003年)がそれぞれ保育サービスを受けている。これら保育サービスを受けている者の人口に対する割合は1〜5歳で82%(1歳45%、2歳87%、3歳91%、4歳96%、5歳97%)であり、いわゆる待機児童はほとんど解消していると言われている。また、個別保育として、ファミリー・デイケアー(チャイルドマインダーが自宅でチャイルドケアを引き受ける、自治体のサービス)がコミューンの実施責任の下に実施されている。なお、スエーデンでは育児休業制度が充実しているので0歳児保育はほとんど見られない。
フランスでは在宅での保育サービスが発達している。その代表が、認定保育ママである。これは在宅での保育サービスを提供する者のうち、一定の要件を備えた者を登録する制度で、県政府への登録者数は34.2万人、このうち就業している者は25.8万人である。この認定保育ママが現在の保育需要の約7割を担っているとされている。認定保育ママは、その利用者が雇用し、賃金や社会保険料を負担する。3歳未満の児童(約230万人)のうち、認定保育ママを利用する児童は約50万人と、集団託児所(約13万人)に比べ圧倒的に多い。なお、3歳未満を対象とする保育所(施設型、親管理型、家庭型等)もあり、集団託児所13万人、ファイミリー保育所7万人となっている。
一方、児童手当に関しては、多くの国で給付水準が高い児童手当等の経済的支援策が行われている。経済支援が最も手厚いと言われているのがフランスである。一般世帯全体を対象としており、日本の児童手当に相当する「家族手当」は、第2子以降の20歳未満の子どもに対して支給される。1ヶ月当たりの支給額は、第2子で115.07ユーロ(約1万5千円)、第3子以降は147.42ユーロ(約2万円)となっている。このほか、両親の一方または双方を失った遺児等を養育する家庭への補助、認定保育ママを雇用した場合の補助(支払った賃金の50%)などがある。
スエーデンでも経済的支援は充実しているが、税制による支援はなく、児童手当に一本化されている。原則として16歳未満の第1子から所得制限なしで支給されている。1ヶ月当たりの支給額は第1子、第2子では950クローネ(約1.4万円)、第3子では1204クローネ(約1.8万円)となっている。
イギリスでは、原則として16歳未満の第1子からの支給で、1週間当たりの支給額は第1子で17.00ポンド(約3,300円)、第2子以降で11.40ポンド(約2,200円)となっている。ドイツでは18歳未満の者を対象に所得制限なしで支給されている。1ヶ月当たりの支給額は第1子から第3子で154ユーロ(約2.1万円)、第4子以降では179ユーロ(約2.4万円)となっている。
2.親の就労と子供の育成の両立を支える支援
「平成20年度版 厚生労働白書」の、第3章第1節「子ども・子育て期における支援」の、「次世代育成支援のための新たな制度体系の構築」では、現行の次世代育成支援に関する給付・サービスの制度的課題として、「児童福祉・児童給付・母子保健・・・等が、体系的・普遍的にサービスが提供される仕組みとなっていない」、「欧州諸国と比べ、財政的規模が小さく、負担について国民的合意が形成されていない」等をあげている。
そして、給付・サービスに関する課題・対応の方向性について、「親の就労と子どもの育成の両立を支える支援」、「すべての子どもの健やかな育成を支える対個人給付・サービス」、「すべての子どもの健やかな育成の基盤となる地域の取組み」の三つに分けて述べている。このうち両立を支える支援では、保育所への円滑な入所や、保育所の提供するサービスに加え、認定こども園(3歳から小学校就学前)、家庭的保育事業(資格を有する家庭的保育者がその居宅において保育する事業)の制度化、事業所内保育の活用などが必要であるとしている。なお、家庭的保育事業は、出生率が回復したフランスの保育サービスを参考としていると見られる。
先の衆議院選挙において、子供手当てに関しては欧米諸国に比較しても少なくない金額(国によってはその他の現金給付があるので、単純に比較できないが)をマニフェストで公約した民主党政権が誕生した。
子供手当てについては、消費税など税の徴収に比較的消極的な国民が多い日本の現状(無駄な公共事業等による税金の浪費が数多く指摘されている現状では仕方がない面もあるが)からすると、かなり思い切った額を支出しようとしているように見られる。しかし、保育サービス等を提供する施設の運営費に補助金を出すのではなく、サービスを受ける市民に直接補助金を出すのだと考えると理解できる。市民によって優良な施設が選択されるという効果が期待できよう。
このように考えて一人当たり2万6000円の児童手当を2分の1の補助金だと考えると、利用者が2分の1を負担すれば、1ヶ月当たり5万2000円まで支出できるという計算になる。勿論、一部の低所得家族や片親家族などには、地方自治体による助成が別途必要になろう。
保育サービスの形態については、すべての共稼ぎの市民などが保育サービスを受けられるようにするにはフランスの認定保育ママによる在宅での保育サービスが参考になろう。また、スエーデンの保育所は社会省から教育省の管轄へ移行し、保育サービスは、就学前教育システムと位置づけたとのことである。役所の縦割りの弊害を除くことにより、小学校の構内での保育サービスの提供など、保育所、幼稚園、小学校の一体的な連携がスムーズに行われるようになるのではないだろうか。
1.知事の要請
松沢成文知事ら13道府県知事は16日、自民党と民主党、公明党に対し、道州制の推進のため、次期衆議院選のマニフェスト(政権公約)に「道州制基本法」の制定などを明記するよう要請した(Yah00!ニュース)。松沢知事らは各党の党本部などを訪れ、(1)1年以内に「道州制基本法」を制定し、道州制を実現するための行程表や検討機関設置などの明記、(2)4年以内に「道州制推進法」を制定し、道州制下での国や道州の役割分担や税財政制度などの明記──の2点を要請した。
このように、知事や市長などの地方自治体の首長が、道州制に積極的な発言や行動をとるようになってきた。もっとも、道州制に積極的な首長は少ないとの話もあり、今回の提言でも、橋本大阪府知事や川勝静岡県知事などが賛成したが、署名は13道府県に留まっている。
道州制に積極的な首長が必ずしも多くない理由の一つは、さきの市町村合併をみても分かるように、「国からの税財源や立法権などの大幅な権限委譲を伴う道州制」を進める意向が政府にあるのか疑わしいと考えていることにあるようだ。三位一体改革のときも、国の補助負担金削減4.7兆円、地方交付金抑制5.1兆円に対して税源移譲3兆円、国から地方への資金は合計で9.8兆円も減らされた。国からの税財源や立法権などの大幅な権限委譲が伴わない道州制では、なんら効果があがらないとみているようだ。
もう一つの理由は、国からの大幅な権限委譲を伴う道州制が進んだ場合、道州、市町村(基礎自治体)の権限が増える反面、その責任が大幅に増大するからとみられる。適切なリーダーシップを取れない首長の自治体では、その行政成果が上がらない場合に、現在のように国の責任に転嫁することができなくなる。首長だけでなく、市民の行政参加機会も増えるので、市民の責任も大きくなる。
なお、全国知事会では、平成19年1月18日に「道州制に関する基本的考え方」を提言しているので、簡単に紹介しておきたい。ここでは、道州制の検討に当たっては、以下の基本原則を前提とならなければならないとしている。
(1)道州制は地方分権を推進するためのものでなければならない。
(2)道州は、都道府県に代わる広域自治体とし、地方自治体は道州と市町村の二層制とする。
(3)国と地方の役割分担を抜本的に見直し、内政に関する事務は、基本的に地方が一貫して担うことで、地方において主体的かつ総合 的な政策展開が可能となるものでなければならない。
(4)役割分担の明確化に当たっては、事務の管理執行を担っている「地方支分部局」の廃止は当然のこと、企画立案を担っている「中央省庁」そのものの解体再編を含めた中央政府の見直しを伴うものでなければならない。
(5)内政に関する事務について、道州に決定権を付与するため、国の法令の内容を基本的事項にとどめ、広範な条例制定権を確立しなければならない。
(6)道州が地域の特性に応じ、自己決定と自己責任のもとで政策展開できるよう、国と地方の役割分担に応じた、自主性・自立性の高い地方税財政制度を構築しなければならない。
(7)道州の区域については、国と地方双方のあり方の検討を踏まえて論議されるべきものであり、枠組みの議論ばかり先行させるので はなく、地理的・歴史的・文化的条件や地方の意見を十分勘案して決定しなければならない。
2.デンマークの“道州制”
道州制導入で注目される海外事例として、下記の資料を引用してデンマークの事例を紹介したい。(1)地域再生コンサルタントの水津陽子氏の、日経グローカル「グローバル・リポート」2007.11.19「デンマークで“道州制”導入 市の権限強化で何が変わったか?」(筆者が再編したものが、「持続可能な未来プロジェクト」<http://mirai-pro.weblogs.jp/blog/2008/02/2007119-65fa.html>に載っている)、(2)関西学院大学稲沢克祐教授がインターネットで紹介している資料「分権改革と道州制─英国とデンマークの経験に学ぶ─」。
2007年1月、北欧のデンマークは地方自治制度を転換した。県を廃して、道州のような新たな広域圏へ再編するとともに、基礎的自治体の数を3分の1近くに削減する大がかりな「地方自治の構造改革」を断行した。稲沢氏の資料によると、デンマークは、1970年にカウンティ(県で14)とコミューン(市で275)の完全二層制化を実施したが、その後2007年に、カウンティの廃止とリージョン(州で5)制の導入を行い、リージョンとコミューン(市で約100)の準連邦制へ移行した。
1970年時点でも横割型の機能分担で、中央政府と地方政府とが機能を明確に分担しており、地方政府の中でも、広域的自治体(カウンティ)と基礎的自治体(コミューンで市に相当)で機能分担をしていたが、2007年の地方政府再編後の政府間機能分担では、保健衛生、国民健康保険サービス、家庭医関連業務、リージョン内地域振興の機能が、国からリージョン(広域自治体の州)に移されている。また、約100に統合されたコミューン(基礎自治体)には、心身障害者福祉、広域公共交通、(旧)カウンティ道路、(旧)カウンティ内環境保護の機能が移されている。
なお、準連邦制等の国家の形態については、次のように定義している。
(1)連邦制国家:憲法において高度の独立性、自主性を保障され、国家に準じた存在である広域的地方政府を有する国で、アメリカ、ドイツ、オーストリア、スイス、オーストラリア。
(2)準連邦制国家:憲法において大きな政治的独立性を認められた広域的政府を有する国で、スペイン、イタリア、英国の一部(スコットランド)、デンマーク。
(3)行政機能分散型単一性国家:一定程度の独立性をもった広域的地方政府を設置している国で、フランス、オランダ、ポルトガル、スエーデン、フィンランド、ノルウエー。
(4)単一制国家:広域的地方政府を設置していない国で、英国の一部(イングランドの一部、ウエールズ)、ギリシャ、アイルランド、ルクセンブルグ、その他欧州小国。
水津氏の資料では、人口5万8千人の地方都市でありながら、新たな自治体経営の手法を取り入れ、地域経営や産業振興で成果を上げているスヴェンボー市を紹介している。2007年の改革の目的は、様々な課題を、市民により近いところで効率的に解決する「より強く、持続可能な自治体の創造にあった。この改革により市の数が減る一方、新しい市は、権限の委譲と同時に、より多くの課題と責任を負うことになる。国の管理下で細かく指示されることはなくなるが、反面、自ら計画と目標を作り、それを達成する能力も求められる。水津氏は、合併時の課題、リーダーの360度の評価制度などを紹介している。
スエンボー市では、首都コペンハーゲンからのクリエティブ・クラス(創造的な仕事に携わり、経済を成長させる価値を生み出す、経済的にも、精神的にも豊かな人たち)の大量移住が起きている。彼らがスエンボーを選んだ理由の一つは、それが、ワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭生活の調和)であり、自然豊かな中で、家族と過ごす時間を持ち、人間らしい生き方をすることだったとしている。
そして、デンマークにおける「地方自治構造改革」への戦略とプロセスを追っていくと、その強さの根底には、国や地域の在り方について、市民が参加して意思決定を行い、国のあり方を決めていく「参加型民主主義」があることに気づくとし、また、国が地域のあり方を既定するのではなく、国民と地域の声が国のあり方を変えていくという発想は、日本の道州制などの議論には全く見当たらないと指摘している。
デンマークは、GDP(国民総生産)が2,423,4億ドル(2004年)と、日本の20分の1、北海道と同じ程度の規模である。日本の地方政府と同程度の規模の国が準連邦型の道州制を実施している。日本のような大きな規模の国家が、中央集権の単一性国家の形態で、日本を元気にできるはずがない。
道府県や市町村の首長も地方議員も自治体の経営をそっちのけにして、永田町の議員会館や霞ヶ関の官庁を訪れ、地元への公共投資や補助金の交付などの陳情を行ってきた。また国民の間にも自立心と責任感が消えうせ、あきらめや無関心が蔓延してしまった。首長が、道州制について発言し、行動するようになったのは一歩前進だが、道州制実施後の地方政府や基礎的自治体の明確なビジョン、およびそれを実現する戦略とプロセスを市民とともに作り上げていくことがもっとも重要なのではないだろうか。
1.グローバル資本主義
中谷巌氏が書かれた著書「資本主義はなぜ自壊したのか」(集英社発行)が注目されている。構造改革の必要性を強く唱えていた著者が、グローバル資本主義との訣別宣言をした「懺悔の書」として話題になっているのである。
著者はまえがきで、「グローバル資本主義は、世界経済活性化の切り札であると同時に、世界経済の不安定化、所得や富の格差拡大、地球環境破壊など、人間社会にさまざまな「負の効果」をもたらす主犯人でもある。そしてグローバル資本が「自由」を獲得するほど、この傾向は助成される」と述べている。
日本の現状に対して、「一時日本を風靡した「改革なくして成長なし」というスローガンは、財政投融資制度にくさびを打ち込むなど大きな成果を上げたが、他方、新自由主義の行き過ぎから来る日本社会の劣化をもたらしたように思われる。たとえば、この20年間における「貧困率」の急激な上昇は日本社会にさまざまな歪みをもたらした。あるいは、緊急難民や異常犯罪の増加もその「負の効果」に入るかも知れない」としている。
この書で著者は、なぜグローバル資本主義が一方で世界経済の活況を呼び込み、中国などの新興国の経済発展を実現させながらも、サブプライム・ローンに代表される金融商品によって世界経済を著しく不安定化させ、拡大する格差社会によって各国において人間同士の連帯を破壊し、地球環境を汚染せざるをえなかったのか-----そのメカニズムと思想的な背景を解き明かしている。
第7章「「日本」再生への提言」で、貧困率やジニ係数を使って、日本の貧困率は国家による課税や社会福祉がなされた再配分後に、世界ワースト2位になっているなど、「貧困大国」になった日本の原状と、「ダボス会議」で発表された国際競争力において日本は9位、IT部門に至っては19位という低い評価が与えられていることを説明している。
能力主義・成果主義に基づく人事システムを導入し、同時に、いつでも簡単に首を切れる非正規従業員を活用するなどの構造改革を積極的に推し進め、市場を開放した日本は、国際競争力において、「高福祉・高負担」で有名な北欧諸国(デンマーク、スウェーデン、フィンランド)より低い評価しかなされていないのである。
著者は、このように日本の国際競争力が低下したのは格差の拡大にあるとし、「社会の平等性、一体性によって成長を続けてきた日本経済にとって、新自由主義の思想とは、結局のところ自らを殺す「毒杯」であったのではないか。「日本株式会社」としばしばやゆされもした日本社会の平等性や一体感は今は見る影もない。社会としての連帯を失えば日本経済のパホーマンスが落ちてしまうのは、むしろ当然すぎるほど当然であったのではないか」と指摘している。
2.北欧の福祉国家
週刊東洋経済の2008年1月12日号に、「北欧はここまでやる。格差なき成長は可能だ!」特集が載せられている。95年から2006年までの一人当たりGDP伸び率と、平等性を図る指数であるジニ係数との相関を調べると、GDPの高い伸びを示しているのは、むしろ所得の平等性が高い国々(ジニ係数が低い国)が多いことをあげ、そのような国は、福祉政策に積極的な国が多いと指摘している。
北欧諸国は、高福祉・高負担の国として知られる。たとえばスウェーデンの国民負担率(税金と社会保障費のGDPに占める割合)は70%を超える(日本は07年度見込み39.7%)消費税は25%と先進国で最高だ。それでもなぜ経済成長が可能なのか。その理由について次の四つをあげている。
1)国内の総生産は総支出にバランスするので、高齢化が進む成熟社会では、福祉産業に対する需要は大きい。スウェーデンの社会保障支出の総額は8556億クローナ(約14.5兆円)GDP比で32%に及ぶ。就業者の割合を見ても、福祉産業を含めた「対地域・社会・個人サービス」は38.3%(4年、日本は22.1%)。生産と需要が一致するから失業者が出にくい。
2)保育や介護といった分野では女性の活用が進む。保育サービスが社会インフラとして定着するから、小子化に歯止めがかけやすい。実際、スウェーデンは今後も緩やかな人口増が予想されている。福祉国家=人口が増える国は、長期的にも成長が可能だ。
3)一方、福祉産業が社会保障として提供され、担い手として政府部門の役割が増えると、非効率に陥るリスクはある。それを回避するのが、徹底した「分権化」だ。スウェーデンでは福祉や教育サービスは市町村によって提供されるが、その費用は歳出のおよそ80%を占める。市町村はほとんど福祉と教育に専念しているといっていい。そして、個人の所得税はまず市町村に納められる。
4)さらに、デンマークには柔軟性(flexibility)と安全性(security)を組み合わせた「フレキシキュリティ」と呼ばれる労働政策がある。このモデルでは、成長を促進する市場の柔軟性と、勤労者の所得保障・平等の双方を追及する。政府は手厚い失業補償や職探しのための積極的な後押し、特定企業に縛られない年金・医療保障プランを用意する。
この労働政策のフレキシキュリティは、三つの要素を組み合わせて初めて機能する三角形であり、三角形の3辺を構成する要素とは、(1)雇用と解雇が容易な柔軟性のあるルール、(2)失業者への手厚い失業給付、(3)求職者と企業の欠員を仲介すると同時に、労働者のスキル向上につながる積極的な労働市場プログラム。
積極的な労働対策と失業給付を合わせると、2005年にデンマークはGDPの4.6%を、スウェーデンは2.4%を支出したが、デンマークは失業率を1993年の10%から今日の3%未満に引き下げ、長期失業者(期間1年超)の割合はわずか0.8%だ。スウェーデンでは1%だ。
このように北欧は福祉国家で人材も豊富で国際競争力も高い。高福祉を支えているのは国民の税金であり、福祉、教育、その他のサービスを提供しているのは地方自治体である。国民がこのような高い税金を支出できるのは、医療費、教育費が無料など、高負担がちゃんと自分達に帰ってきていることを実感していることと、国全体のGDPが高く、国民が高収入を得られるからであるが、その根底にあるのは教育であると感じた。
フインランド教育が重視するのは集団での問題解決力と価値観の共有を前提としないコミュニケーション力であるが、グローバル化した世界、国際化した社会においては、さまざまな価値観の人々と対話し、共に問題を解決していかなければならない。同友(経済同友会)ひょうごの視察旅行の記事で、企業はなぜ高額な給与が払えるのかとの質問に市長が、「高付加価値の仕事を合理的にやっているから」「低付加価値の仕事をする企業はないほうがよい」と答えていたのが印象的であった。
このような高福祉は、福祉産業等の内需型産業を増やすと同時に、人材を育成して国際競争力の高い企業を実現しなくては成り立たないであろう。非正規雇用を増やして企業の日本からの流失を防ごうとする思想とは正反対の考えである。日本における社会の活力の低下は、格差社会と小子高齢化が招いていると考えられるが、北欧の表面的な施策を部分的に真似るだけでは国際競争力の高い福祉国家は実現しないと感じた。
1.現場改革リーダーを鍛えよ
日経情報ストラテジー2008年5月号の特集「現場改革リーダーを鍛えよ!」では、2008年に企業が最も力を入れている経営課題は、現場改革リーダーの育成であり、経営者がどんなに素晴らしい経営戦略を打ち出しても、それを現場で推進できるリーダーが育っていなければ、経営戦略は実行されないとして、特集を組んでいる。
この特集の第1部では、業績が好調な企業5社における現場改革リーダーの具体的な養成方法を取り上げている。第2部では成果を上げている現場改革リーダー6人に密着し、彼らが育った背景や部下との接し方を紹介。第3部では現場改革リーダーのスタイル別にスキルを高める方法を整理している。
第1部で取り上げている企業は、トヨタ自動車グループやキャノングループ、リクルートなど、もともと人材育成に定評があるところであるが、そうした強い企業が今、あらためて組織の要である現場改革リーダーの育成に焦点を当て始めていると強調している。共通するのは「部下の育成」や「チーム力の向上」に主眼を置きながら、新しい現場改革リーダーのあり方を模索している点であり、各社とも「部下を通じて成果を上げられるリーダー(上司)」に重きを置く。そこで必ず持ち上がる話題は、リーダーと部下の密なコミュニケーションとのことである。
現場力を向上させたければ、経営者が意図的に現場改革リーダーを鍛え上げる教育機会を創出しなければならない。それは現場改革リーダーにターゲットを絞ったコーチングや部下理解の研修であったり、現場での業務改善活動を通じたリーダー育成であったりと、やり方は様々だが、そうした場がなければ計画的に現場改革リーダーの層全体を底上げすることはできないからとのこと。
第3部では人事コンサルティング会社ヘイグループのアセスメントを使って、リーダーシップを6つのスタイルに分類し、経営課題や環境別に適したリーダーシップスタイルについて解説している。さらに各スタイルで組織を運営するうえで効果的なコミュニケーションやマネジメントのスキルを提示している。
このリーダーシップスタイルは次の6パターンである。
スタイルA「ペースセッター型」:高い目標を設定し、自ら率先垂範して周囲を引っ張る。
スタイルB「指示命令型」:「いつまでに何をどうやるべきか」を明確に指示し、進ちょく状況を細かくチェックする。
スタイルC「調和型」:人と人との関係や調和など情緒的な側面を重んじる。
スタイルD「指導育成型」:時間がかかっても、部下の成長を優先し、組織力を高める。
スタイルE「民主型」:部下を意思決定プロセスに参画させ、コミットメントを引き出す。
スタイルF「ビジョナリー型」:「なぜその仕事をするのか」という目的やビジョンを理解させ、部下を導く。
このうち、新規事業やベンチャー企業の立ち上げなどでは、高い専門性を持ったプレーイングマネジャーが率先垂範し、スピーディーに事業を形にしていくペースセッター型のリーダーシップスタイルが有効だ(スタイルの強化に有効なスキルはKPIマネジメント)。業績が芳しくなく、短期間のV字回復が急務となっているような状況では、部下の行動を逐一指示し、達成状況をきめ細かくモニタリングする指示命令型スタイルが有効に働く(スキルは行動科学マネジメント)。指示命令型を長く続けていると、メンバーが受身になってしまうリスクもあるが、こうした局面で有効なのが、部下との公私にわたる結び付きを高める調和型のリーダーシップだ(スキルはアサーティブ・コミュニケーション)。
以上のような短期的な成果の希求から、持続的な成長へとミッションが変わると、求められるリーダーシップも変わってくる。この場合は部下を鍛えるだけでなく、部下の潜在的な力を引き出し、組織力の総和を高めることがポイントになるからだ。
部下一人ひとりの成長を支援することで、組織力の向上を図るのが指導育成型スタイルだ。行動を逐一指示するのではなく、質問や対話を通じて、部下が自ら考え、自己洞察できるように導く(スキルはコーチング)。同様に部下の潜在的な力を引き出そうとするのが民主型のリーダーシップスタイル。会議やミーティングなどの場で意見を引き出し、合意を形成する過程で、部下のコミットメントを醸成する(スキルはファシリテーション)。最後のビジョナリー型リーダーシップスタイルは、思いやビジョンを発信して、組織をまとめメンバーを動機付けていく(スキルはストリーテリング)。
2.コーチング・マネジメント
組織の力を引き出して持続的成長を図るためのスタイルの強化に有効なスキルである、コーチング、ファシリテーション、ストリーテリングのうち、後者の二つのスキルはすでに以前紹介しているので、ここではコーチング・マネジメントを紹介したい。特集「現場改革リーダーを鍛えよ!」第1部の事例の中のキャノンマーケティングジャパンの「SPR(セールス・プロセス・リエンジニアリング)が、「コーチングの「オープン質問」で課長を磨く」というテーマなので、最初にこれを簡単に紹介する。
キャノングループの販売会社であるキャノンマーケティングジャパン(キャノンMJ)は現場改革リーダーの教育プログラム「SPR(セールス・プロセス・リエンジニアリング)」という独自の業務改善活動を通じて課長を鍛えようとしている。課長が普段から課のメンバーと共有しているはずの仕事の目標や営業案件の進ちょく管理、コスト削減策などについて、「具体策は何?」「いつまでに?」「どうやるの?」「ゴールはどこ?」とタスクと呼ばれる課長のコーチ役は質問する。
これはコーチングで用いられる質問術の一つである「オープン質問」そのものだ。タスクは質問中、手にメモを持ち、課長が発した質問に対する受け答えを一言ずつ書き取って、壁に掲げられた大きな茶色の模造紙に張っていく。この茶紙は「ファクトペーパー」と呼ばれ、課長育成には欠かせないSPRの名物になっている。
ファクトペーパーには「O−P−D−C−A」という5つの項目が用意されていて、そこに課長の発言を当てはめていく。OPDCAとはキャノンMJ独自のPDCA(計画・実行・検証・見直し)サイクルのことで、その先頭に「O(目標設定)」がくるのが特徴である。ファクトペーパーにメモ紙を張っていくと、その課ではOPDCAのどの部分に欠落があって、どこでサイクルが分断されているかが一目で分かる。
約18週間続く課長とタスクの二人三脚でのSPRは、このようなファクトペーパーを使った課の問題発見である「明確化フェーズ」で幕を開ける。ここに4〜6週間を費やして課長の意識改革を促した後、続いて4週間かけて新しい目標設定やOPDCAサイクルの再構築を始める。これが「構築フェーズ」で、新たに用意する「ニューファクトペーパー」にOPDCAの要素を張りつけて現場のプロセスを見える化し、設定した目標をいつまでにどうやって達成していくかを決めていく。
また、事例のリクルートのGM研修(ゼネラルマネージャーの育成)が、指導育成型のリーダーを育てるミドル層向けの集合研修を取り上げている。GM研修では部下とチームの育て方を学んでいるが、部下一人ひとりの悩みや課題に向き合い、一緒に解決していく姿勢が求められる。
そうしたリーダーシップスタイルを形成するうえで有効なスキルがコーチングだ。部下との1対1の対話を通じてその潜在能力を引き出し、自身とやる気を持って仕事に臨む意識を醸成する。
著書「コーチング・マネジメント(伊藤守著、ディスカヴァー社発行)」から引用していくつかの解説を付け加えると、コーチングの質問には、オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョンがある。一般にはオープン・クエスチョンは5W1H(いつ? どこで? 誰が? 何を? なぜ? どのように?)を用いたものとされ、答えの内容はさまざまになる。これに対してクローズド・クエスチョンはYES/NOで答えさせるもの。コーチングの効果的な会話では、オープン・クエスチョンを使うのが原則である。
コーチング・スキルは、大きく次の六つに分類することができる。1)リクエスト(要求する)、2)聞く、3)聞き分ける、4)質問する、5)アクナレッジメント(受け入れる)、6)目標達成プログラム。
リクエストは、物事をはっきりさせたり、具体化させるのに効果的なコミュニケーションで、して欲しいことは、不平不満という形ではなく、リクエストの形で相手に伝える。よい聞き手となるために知っておくべきポイントは、時間をとる、相手を尊重する、話しやすい環境をつくる、さえぎらずに最後まで聞く、判断しないなど。
相手の話を聞く時にコーチはいくつか聞き分けるためのソフトモデルを持っているが、そのひとつが次のようなタイプ分けである。同じことを言っても、タイプによっては受け止め方がまるで違うからである。タイプを知ることの意味は、お互いの価値を認めていくことにより、より自分の特質を生かせることで、相手のタイプを知ることによって、関わり方のレパートリーを広げることができる。1)人も物事も支配していくコントローラータイプ、2)人や物事を促進していくプロモータータイプ、3)分析や戦略を立てていくアナライザータイプ、4)全体を支持していくサポータータイプ。
効果的な質問のためにすることは、1)まず考える、2)オープン・クエスチョンを使う、3)答えを誘導するような質問は避ける、4)論理的な選択を迫るような質問は避ける、5)正確な表現を使う、6)時には、挑発する、刺激する質問をしてみる、7)シンプルで的を得た質問を、8)時にはビジュアルを活用する、9)質問は1回にひとつ。
なお、抽象レベルの高いアイデアは、具体的な行動にチャンクダウンしない限り、人は動けない。ここで、チャンクというのは、塊という意味で、チャンクダウンは塊をほぐす、チャンク・アップは塊をつくる。代表的なコーチング・スキルのひとつで、ブレーンストーミングなど、アイデアを出す段階ではチャンク・アップが有効で、自由に発想を広げていくには、ミドルチャンクのレベルにテーマを定めておくとよい。
1.明日の顧客をつかむ現場プロセスイノベーション
日経情報ストラテジーの2009年1月号に、「明日の顧客をつかむ現場プロセスイノベーション」特集号が載せられている。「世界同時不況の足音が迫る厳しい経営環境にあっても、収益を拡大し続ける企業がある。従来の常識を打ち破るイノベーション(革新)を起こし、成熟市場に眠る空白地帯を見つけ出し、新たな市場を作り出している企業だ。イノベーションを起こすといっても、画期的な新技術は必須ではない。販促や商品企画の現場のプロセスを根本的に変える「現場プロセスイノベーション」によっても、新たな市場は掘り起こせる」
特集ではこのような前書きのもとに、総論で「介護事業に居酒屋流を持ち込んだワタミ」と「商品企画・検討を顧客に任せる良品計画」の事例をもとに、プロセスイノベーションを起こすには3つのアプローチがあるとして、「異種モデルの適用:攻め込む市場とは別の市場で通用しているプロセスを持ち込む」「顧客との協働:商品企画や販売促進のプロセスに顧客に主体的に参加してもらう」「価値の引き算:プロセスを見直すことで顧客にとって重要性が低い価値を取り払い、別の新しい価値を際立たせる」をあげている。
事例編では、上記の3つのアプローチを採用してプロセスイノベーションを起こした次の4社の取組を紹介している。1)ロート製薬の、肌への保湿成分を訴求する「肌研(ハダラボ)」シリーズなどの機能性化粧品(異種モデルの転用、価値の引き算)。2)江崎グリコの、オフイスに設置した箱に菓子を入れておき、顧客は菓子を取る際に料金箱に100円玉を入れるという、オフイス向け菓子直販事業の「オフイスグリコ」(異種モデルの転用、価値の引き算)。3)福助の、20代の感性に合うファッション品としてストッキングを訴求し、通常なら百貨店で売るデザイン性の高い商品を総合スーパーで販売した「エフィング」(顧客との協働、価値の引き算)。4)ジョンソン・エンド・ジョンソンの、主にがんを手術する外科医に、絹糸の代わりに身体に吸収されて抜糸する必要がない合成吸収糸と、手軽な真皮縫合の手法を提案した「手術用の縫合糸」(価値の引き算、顧客との協働)。
続く実践編では、プロセスイノベーションを実際起こす際に求められる実践的なノウハウを、変革に取り組む現場リーダーや識者への取材から明らかにしている。ここでは、1)変革に前向きな土壌を作ることや、2)既存事業に取り組む現場からの理解を得ること、3)戦略的思考法やイノベーションを起こす際のプロジェクト管理といった基本スキルを学んだ人材を育てること、も重要なポイントだとしている。
2.ブルー・オーシャン戦略のツール
特集の実践編3)「変革を促す手法を知る」では、新市場掘り起こしの具体的な方法論として、W・チャン・キムとレネ・モボルニュが提唱した「ブルー・オーシャン戦略」を紹介している。ブルー・オーシャン(青い海)は、競走にまみれた血みどろの市場であるレッド・オーシャン(赤い海)の対義語で、競走がない新市場を指す。
上記で紹介されているW・チャン・キム他の著書「ブルー・オーシャン戦略(ランダムハウス講談社発行)」では、ブルー・オーシャン戦略の6つの原則を、第2部「ブルー・オーシャン戦略を策定する」と、第3部「ブルー・オーシャン戦略を実行する」に分けて、前者で4原則(市場の境界を引き直す、細かい数字は忘れ森を見る、新たな需要を掘り起こす、正しい順序で戦略を考える)、後者で2原則(組織面のハードルを乗り越える、実行を見すえて戦略を立てる)提案している。また第1原則の、「市場の境界を引き離す」では、代替産業に学ぶ、業界内のほかの戦略グループに学ぶ、買い手グループに目を向ける、補完財や補完サービスを見渡す、機能志向と感性志向を切り替える、将来を見通すの、6つのパスを紹介している。
第1部第2章などで、ブルー・オーシャン戦略の分析のためのツールとフレームワークを紹介しているが、ツールとしては、「四つのアクション」「アクション・マトリクス」「戦略キャンパス」を取り上げている。この著書では、最初に、カナダが世界に誇るパホーマンス集団シルク・ドウ・ソレイユを例にして、ブルー・オーシャン戦略を説明しているので、同じ事例を使って分析ツールを簡単に紹介したい。
紹介されているシルク・ドウ・ソレイユがもたらす娯楽は、まさに差別化と低コストが同時に実現されている点に特徴がある。従来のサーカス団は業界内の互いの比較をもとに、従来とさして変わりばえのしない演技で、すでに縮小傾向のあった市場でシェア競争をしてきた。有名な道化師やライオン使いを引き抜いてくるため、コストばかりが膨らんだ。シルクはサーカスの楽しさと興奮はもとより、パホーマンスとしての知的洗練度、豊かな芸術性をも追求して、課題そのものをもまったく新しく設定した。テントは華麗な外観を演出し、内側については観客の心地よさに気を配った。道化師は採用したが、ドタバタ喜劇ではなく、洗練された魅惑的なユーモアを追及した。アクロバットなど、スリルあふれる演技は受け継がれたが、芸術性や神秘性を添えてよりエレガントに生まれ変わった。
シルクはサーカスだけでなく周辺の市場にも目を向け、それまでのサーカスになかった要素を取り入れた。その一つがストーリー性である。ストーリー性を持たせたことでパホーマンスが理知的な色彩を帯び、音楽やダンスによる味付けもなされた。演目の種類も増えた。複数の演目を設けて、サーカスに足しげく通う理由を用意したことで、需要を目覚しく押し上げた。要するに、シルクはサーカスと演劇の枠だけを集め、それ以外の要素は取り除くか役割を軽くしたのである。
さて、ツールの説明に戻るが、買い手に提供する価値を見直して、新しい価値曲線を描くために、著者たちは四つのアクションという手法を生み出した。四つのアクションでは、差別化と低コストのトレードオフを解消して、価値曲線を刷新するために、次の四つの問いを通じて、業界のこれまでの戦略ロジックやビジネスモデルに挑み、新しい価値曲線を作り出す。
・Q1:業界常識として製品やサービスに備わっている要素のうち、取り除くべきものは何か
・Q2:業界標準と比べて思いきり減らすべき要素は何か
・Q3:業界標準と比べて大胆に増やすべき要素は何か
・Q4:業界でこれまで提供されていない、今後付け加えるべき要素は何か
アクション・マトリックスは、上記の四つのアクションを補う分析手法であり、取り除く、減らす、増やす、付け加えるという四つのマトリックスに、あてはまる要因を書き込んでいく。このマトリックスを用いると、四つのアクションに関係した問いについて考えるだけでなく、四つのアクションを漏らさず実現して新たな価値曲線を描くことができる。例えば、シルクの事例をアクション・マトリックスで描くと、花形パフォーマー、動物によるショー、隣接するいくつもの舞台での同時ショーなどを取り除いた。そして、テーマ性、洗練された環境、複数の演目、芸術性の高い音楽とダンスを付け加えた。特に、業界が長らく競争のよりどころとしてきた要素のうち、いかに多くを取り除いたり、減らしたりすることで、新しい顧客をつかむ視点が不可欠としている。
戦略キャンパスは、横軸に競走要因、縦軸に享受レベルをとって、チャート化したものである。戦略キャンパスのねらいは二つあり、既存の市場空間について現状を把握することと、先行きを見通すことである。優れた戦略には、メリハリ、高い独自性、訴求力のあるキャッチフレーズがあるが、シルクの戦略キャンパスもまた、ブルー・オーシャン戦略に必須のこの3条件を満たしている。価値曲線は際立った形状を示しており、テーマ性、複数の演目、快適な鑑賞環境、芸術性の高い音楽やダンスなど、従来のサーカスとは異なる新鮮な要素を備えている。
ここで紹介されているブルー・オーシャン戦略の手法は、この著書で事例として取り上げられている自動車、コンピュータ、娯楽、ワイン、腕時計、などの業界だけでなく、農業、農産品、環境など、他分野の多くの業界にも応用することができよう。
1.ビジネス・コンセプト
著書「リーディング・ザ・レボリューション(日本経済新聞社発行)」は、「コア・コンピタンス」の提唱者、ゲーリー・ハメルが圧倒的な実例をもとに解き明かす「企業革命」へのガイドである。ハメルは、「過去を尊重する企業と将来に賭ける企業のあいだには、明白な違いがあるが、それは、組織内部にイノベーションを起こせるか否かをめぐっての違いだ」としている。この著書ではイノベーションをテーマに据えているが、その意味は一般に信じられている新製品や新技術であるよりも、「まったく新しいビジネス・モデル」ということに比重がかかっている。
また、ハメルは、「イノベーションの出発点として、最近の産業革命家たちは、製品やサービスにとどまらず、ビジネス・コンセプト全般に視野を入れているが、その理由は、競争が製品やサービスのレベルで起こるのではなく、ビジネス・コンセプトのレベルで起こることを彼らが理解しているからだ」とも述べている。ここでの問題は、技術をユニークな方法で応用できるか否かである。ビジネス・コンセプトの中核で、富を創出する戦略を策定する能力はイノベーションなのだ。
ハメルは著書で、ビジネス・モデルは次のような、コア(中核)戦略、戦略的資源、顧客とのインターフェイス、価値のネットワーク、の四つの部門で構成されるとしている。そして、四つの構成部門は、行動のコンフィギュレーション、顧客の利得、企業の境界(守備範囲)の三つの「ブリッジ要素」によって結び付けられている。
1)コア戦略: ビジネス・コンセプトの第1の構成要素で、企業がどのようにして競争をするかを選ぶための本質となるものだ。コア戦略には、下位部門としてビジネス・ミッション、製品と市場の範囲、差異化の基礎がある。ビジネス・ミッションは、戦略の全般的な目標を明確にしたもので、具体的にはビジネス・モデルの到達目標と達成目標をうたったもの。また、差異化の基礎は、企業がどのように競争するかの本質。特に競合他社と異なった方法で行う競争のあり方を規定する。
2)戦略的資源: 戦略的資源には、コア・コンピタンス、戦略的資産、そしてコア・プロセスが含まれる。コア・コンピタンスは、企業が所有する知識全般で、技術や独自の能力も含む。戦略的資産は、現在企業が所有している戦略的資源であり、ブランド、特許、インフラ、顧客データなど、独自性があって、しかも価値のあるもののすべてが含まれる。コア・プロセスは、企業で日常的に行われている業務のことで、資産や技術というよりは行為に近い。それは、コンピタンス、資産などのインプットを、顧客に提供できる価値へと変換するプロセスである。
3)顧客とのインターフェイス: これは、顧客満足とサポート、情報と洞察力、関係の変化、価格構造の四要素から構成されている。
4)価値のネットワーク: これは企業の周囲にあって、企業がもつ経営資源を補完し、増強するものである。今日、企業の成功を左右する重要な資源は、企業の管轄外にあることが多い。価値のネットワークの構成要素は、サプライヤー、パートナー、連合である。
2.コア戦略
日経情報ストラテジーの2007年12月号の特集で「激動時代の競走戦略」が取り上げられている。戦略と現場力の掛け算で企業の業績が決まるとし、“優れた競走戦略とは何か”として、何人かの経営者の経験と幾つかの企業における事例を取り上げている。このうち経営者の経験を語るリーダー編では、北海道日本ハムファイターズの大社啓二代表取締役、セーレンの川田達男代表取締役社長、ワタミの渡邊美樹代表取締役社長、ミスミグループの三枝匡代表取締役社長などが戦略を語っている。また事例では、清涼飲料の日本コカコーラ、電子マネーのJR東日本、女性用インナーウェアのワコールなどを取り上げている。ここでは経営者の事例を紹介したい。
この競走戦略は、先に紹介したハメルのイノベーションを起こすビジネス・モデルのコア戦略に相当するが、すでに紹介したように、コア戦略にはビジネス・ミッション、製品と市場の範囲、差異化の基礎がある。特集のリーダー編では、各企業の経営者が、このコア戦略、すなわち、ビジネス・モデルの到達目標と達成目標、製品と市場の範囲、競合他社と異なった方法で行う競争のあり方などを語っていると考えればわかりやすいであろう。
まず、2004年に本拠地を東京から札幌に変え、2年後には22年ぶりに日本一の座を手にした日本ハムの大社啓二オーナーは、人口の多い大市場で他球団とフアンを取り合うのではなく、オンリーワンの環境で地域と密着する戦略を選んだ。移転と同時に選手データベースなどのメジャーリーグ流の経営手法を取り入れ、収益の改善にも成果を上げた。
北海道に移る時、「スポーツと生活が近くにあるスポーツコミュニティーを形成する」という経営理念を明文化し、「フアンサービス・ファースト」という戦略を打ち出した。勝つためのチームをつくるために、役割分担を明確にし、編成や補強の責任は高田繁GM、すなわちフロントにあり、編成されたチームを指揮する責任を負うのがヒルマン監督である。
また、大きな武器となっているのが、BOS(ベースボール・オペレーション・システム)という選手のデータベースで、1,2軍の全選手のコンデションや試合成績、コーチのコメントなど、あらゆる情報が入っている。
繊維染色会社セーレンの川田達男氏が1987年に社長に就任した時、業界は斜陽化、会社は経営危機に瀕していた。翌年発表した経営戦略は、現在のIT化社会の到来を予見する内容で、同社は内で異端児扱いされた。だが、300億円だった売上高は2007年3月期に1100億円を突破。2005年には旧カネボウの繊維事業を買収し、20年来の戦略実現に近づいた。
社長を引き受けた翌年に打ち出した経営戦略は「IT化・流通ダイレクト化」「非衣料・非繊維化」「グローバル化」「企業体質の変革」である。斜陽化していたのは「繊維産業=衣料」のところであり、技術を非衣料の成長産業分野に応用できないかと考えたとのこと。現在、薄型テレビに内蔵する電磁波遮断フイルム、人口血管、住宅資材など多様な分野に進出している。
また、ITが5年先10年先に必ず育ってくるから、ITを繊維産業に取り入れられないかを考えた。ジャスト・イン・タイムで売れたものだけを作る。これが企業の在るべき姿。だから、従来型のSPA(製造小売)のビジネス・モデルもそろそろ時代に合わなくなると考えており、2年以内に、等身大のディスプレーを20台そろえたファッション店を作る。お客さんはバーチャルに試着でき、注文を受けてから製造し、約1週間でお手元に届ける。
居酒屋チエーン大手、ワタミの渡邊美樹社長は介護事業で第2の創業に挑戦、同事業は2007年3月期に10億円弱の経常利益を計上した。どれだけその事業戦略に自分自身で情熱を持てるか、どれだけその事業をすることで感謝されるか、これこそが事業を立ち上げる際に戦略を検討するポイントだと語る。
「ワタミの介護は大変な人気で、全部空き待ちですけど、理由は簡単なんですよ。自分の親が安心していられる施設という基準で作っているからなんです」「もともと戦略の「生みの苦しみ」は僕にはないんです。思いで決めますから。自分がわくわくするかどうか。いい笑顔が集まる場所を提供したいという思いだけで居酒屋をやると決心したんです」「戦略的に考えていたということといえば、経営はヒト。モノ、カネだから、小さい会社が大きくなるなら、ヒトという要素で勝っていけるものを選ばなきゃだめだということぐらいです」と語っている。
農業を始めた最初の理由も、農薬だらけの野菜を嫌でしょうがなかっただけとのこと。将来、世界は食料不足になるが、日本で誰が農場を守れるのか。きっととてつもないありがとうをもらえるぞ、利益が出るぞと確信して農業をやっている。介護も、結果としてお食事など居酒屋チエーンのノウハウが生きているが、そうゆうことはやってみて後から分かったことで、最初はそんなこと考えずに飛び込んだとのこと。
金型部品のカタロク通販を中心に独自のビジネス・モデルを持つミスミ。三枝匡社長は創業者の田口弘氏の後を継いで2002年に就任した。就任時の懸案だった海外進出を推し進め、6期連続の増収増益を続けている。会社再建のコンサルタントとしても有名な三枝氏が、現場社員に遂行への執着心を生む戦略の秘訣を次のように語っている。
「お客さんのニーズに製造などしかるべき部署に戻してその答えを返すという、ぐるぐる回しのスピードによって、企業の勝ち負けは決まってくるというのが基本的な考え方なんです。著書「V字回復の経営」に書いたように、この“ぐるぐる回し”の中には、価値、戦略、時間、情報とマインドの5つの連鎖が含まれています。それをしっかりつなぐには、「創って、作って、売る」をワンセット持つ形で小さく組織をデザインしたほうがいい」
5つの連鎖がうまくいくためには、まず戦略に絞りと集中があって明確な競合相手の認識があることだと指摘している。ただ、持たざる経営という発想の下に、間違えた施策もあったとして、外注していたコールセンターや倉庫、配送センターの自社への切り替えを進めているとのことである。
1.日本の大逆襲
先日、長谷川慶太郎・田原総一郎両氏の対談集「日本の大逆襲」を読んだ。まず、“「格差」「改革」を超えて、新しい成長が始まる”として、「いま生じている「格差」は新自由主義の結果であり、工場誘致に成功した地方は活性化しつつある」として、岩手、長崎、富山など、いくつかの事例をあげている。また、一時中国やアジアへ出て行った工場が日本にどんどん帰ってきているとも指摘している。これには二つの理由があり、国内でつくったほうがスピードが速いということと、中国には賄賂などの「目に見えないコスト」があるからとのこと。
農業衰退の原因は農協と農水省が農業を守ろうとしたからで、かえって弱体化した。日本の農業が守りばかりしているのは、農協を守るためなので、農協をつぶせばいいが、つぶせないのは、借金を代表者が個人補償する仕組みにある。このように指摘して、農民が自分でやる株式会社や、農業法人をつくって株式会社に貸す仕組みの事例を紹介している。そして、日本の農業には世界の中で果たすべき役割があり、それは、世界最高の品質の食材を世界に供給することだと、弘前のりんごなどの事例をあげている。生産規模というよりも品質や安全などに特色があるかどうかが成功のカギのようである。
アメリカの景気は住宅に支えられてきたが、サブプライムローンで景気が悪くなるのではと心配されているが、今度は大型の公共事業があると指摘している。そして、たとえば原発、空港、橋、道路、鉄道、港湾であるが、本当に大型の原発をつくれるメーカーは、世界で、日本の三菱重工、東芝、日立しかない。アメリカは日本から設備を買わなければ、経済が動かない。このように、日本の製造業を中心とした産業は、金融資本主義が拡大しても、新しい成長をしていくとして、長谷川氏は明るい未来を展望している。
2.TV・新聞が報じない生情報
この本を読む気になったのは、「省議にも出てこない社保庁」「小泉氏も断念した「霞ヶ関大改革」」「「令外の制」を破った小泉元総理」「政治を変えるにはマスコミから変えなければダメ」などの項目で、「TV・新聞が報じない生情報」が書かれていたからである。
「霞ヶ関大改革」で田原氏は、「霞ヶ関の改革を初めにやろうとしたのは橋本龍太郎さんでした。そのとき官僚たちは「人数を減らしたり、定年制をやめたり、あるいは仕事を減らしたり、権限を減らしたりするのは、枝葉末節です。本当の改革は省庁を減らすことだ」と言った。それで顧問会議の人たちは、みんなその気になっちゃったんです」。小泉さんから聞いたんですけど、「見事に、してやられた」と言っていた。
小泉さんに、「あなたは道路公団の改革と、郵政民営化の改革をやったが、これは両方とも端っこであって、改革の本丸は霞ヶ関大改革じゃないかと聞いたら、「田原さん、それは無理だよ」と答えたとのこと。しかしながら、行政のプロである橋本さんや小泉さんが、だまされたというのは信じがたい。官僚と適当にお手打ち手をしたのではないのだろうか。郵政解散をした小泉さんは、郵政改革こそ本丸であると叫び、本当の意味での行政改革を本気でやる気がないのに、選挙のために利用したのではとも考えられる。
郵政民営化のときも、竹中平蔵さんから田原氏に電話がかかってきて、「小泉総理が郵貯を民営化しようとおっしゃっていて、おまえが担当大臣をやれと。でも、いまは小泉総理のおっしゃる意味での民営化は必要ないんですよ(郵貯は財政投融資の入り口で、官僚たちが無茶苦茶に使っていたが、だんだん財投の整理が進んできた)」と言うんです。「じゃあ、「民営化の必要はない」といったらどうか」と聞くと、「そんなことを言ったら、「ならばオマエは辞めろ」と言われて、別の人間にやらせる。でも、私以外にできる人間はいない」と答えたとのこと。
社保庁の問題に関して、厚生労働省の事務次官が、「社保庁というのは厚生労働省にとって関東軍だ」と言っていたとの田原さんの話に対して、長谷川氏は、厚生労働省の予算省議に社保庁は出てこないんですよ。社保庁は自分で保険料を持っている。それを(庁の予算として流用して)使っているから予算省議にも出てこないと言われたと話している。厚生労働大臣も、それに対して何の指示もしないとのことである。
また、マスコミも官僚の子分のみたいなもので、官僚から情報を受けているから官僚の手先になる。そのような事例として、小泉首相がハンセン病で控訴しないときめたときも、記者クラブの連中は厚労省から情報をもらっているから、「小泉首相が元患者らと面会して控訴決定を伝える」と書いた。また、小泉首相が次官会議で「これからは、次官の人事は全部官邸で決めます」と述べたのも、新聞には一行も出なかったとのこと。
マスコミもゴシップ記事にばかり力を入れるのではなく、取材能力がある記者を派遣して、問題解決の役に立つ生の情報を読者に提供していただきたいものである。今回の肝炎訴訟問題にしても、福田首相が最後は議員立法で対応せざるを得なくなったのは、行政の場における官僚の力がいかに大きく、立法の場で対応しなければ解決できなかったというのかもしれない。
それにしても、「副作用が発生すれば国の責任となると、薬を承認できなくなる」という江利川厚労事務次官の発言(12月29日の朝日新聞)はどうかと思う。設計・製作時に事故を予測できないで、自動車の欠陥による人身事故を起こした責任をメーカーが問われるようになると、自動車は作れなくなるといっているようなものである。承認時やその後の対応において、安全性に対する見逃しや過失があれば、国や企業が責任を問われるのは当然であろう。薬事行政は、国民の命にかかわる重要な職務だということを、認識すべきである。
3.ガソリン税の暫定税率延長法案
さて、今国会は、ガソリン税の暫定税率延長法案が提出され、「ガソリン代」か「道路」かが争点となっている。暫定税率の一部は、地方の道路財源として配分されているので、自治体減収が9064億円になると総務省は試算しているが、要は国や地方自治体が行う道路建設のペースを落とすか落とさないかの選択ではないのか。
もし、道路のみに特化する税金である道路特定財源を創設して進めてきた道路建設のペースを、今後も落とせないとするならば、まず、国や各地方が進めようとしている道路建設の年度計画の具体的内容を公開すべきである。そして、その個々の事業が、福祉、医療や環境など他の行政需要に優先して施行する必要があるのかどうか、国民の評価にゆだねるべきである。
また、道路特定財源を創設した当時とは異なり、他の行政需要に比較して道路建設の優先度が相対的に低くなっているとするならば、道路特定財源を縮小または一般財源化したうえで、その収入をどのような行政需要に配分するのかは、それぞれの地方自治体や住民の選択にまかせるのが、あるべき姿なのではないだろうか。
今年か来年に衆議院が解散すれば、少なくとも自民党会派が衆議院で3分の2以上を獲得する可能性は殆どないと思われる。民主党も目先の党略にこだわって国政を混乱させることなく、霞ヶ関改革を含む、国政や地方自治のあるべき姿をマニフェストで堂々と展開し、国民の選択を待つべきではないのか。
1.京セラの原点回帰
日経情報ストラテジーの2007年8月号の特集で、「「京セラの原点回帰」稲盛流改善魂を呼び戻せ!」が載せられている。京セラ創業者の稲盛和夫・名誉会長が確立した「アメーバ経営手法」。今や同社以外にも様々な業種で導入されている経営管理手法だが、本家本元の京セラではここへきて再徹底を図っている。現場や幹部のアメーバ経営の進め方に“迷い”が見られていたからで、川村誠社長のリーダーシップの下に「強い京セラ」づくりが再び始動したとのこと。
「アメーバ経営の原点回帰に取り組む」。2005年6月に社長に就任した川村誠氏は、反年間積極的に京セラの全国の拠点に足を運んだ後、2006年1月の経営方針発表会でこう宣言した。この原点回帰宣言をした翌日、事業部長クラスの精鋭約20人を集め、原点回帰の具体策を練るプロジェクトチームを結成。自らチームリーダーの座に就いた。
このアメーバ経営手法は、管理会計、リーダー育成、全員参加経営、業務改善の特徴を持つ。会社を平均6〜7人のアメーバに細分し、アメーバごとに採算管理を徹底される。各アメーバはまず、次年度の累計および各月の採算計画「マスタープラン(MP)」を作る。新年度が始まったら、毎月月末に月次管理会計表「実績採算表」を取りまとめ、MPで掲げた計画値と比較、達成度合いを見て翌月の「予定採算表」を作る。毎月この作業を繰り返し、重要指標の年度累計計画値の達成を目指す。
MPと採算表は同じフォーマットで作る。表に記入する最重要項目は「時間当たり(時間当たり付加価値)」と呼ぶ独自指標で、「(売り上げ−経費)÷総労働時間」で算出。売り上げ最大、経費最小、時間最短につながる業務改善を重ねれば、この独自指標は大きくなる。MPにも採算表にも労務費(人件費)を書く欄はない。時間当たり付加価値は労務費を度外視した値なのだ。手法を考案した稲盛氏が、労務費を含むと他の経費の削減効果の実感が薄れてしまうのと、人間関係がぎくしゃくすると考えて除いたとのこと。
プロジェクトチームはこの調査結果などを基に議論を重ね、アメーバ経営の揺らぎに起因する現場の課題を洗い出した。活気の低下、支持待ち社員の増加、MPの達成力の低下、重視すべき指標に関する混乱などだ。チームはこれらの課題に対処すべく、2006年7月に原点回帰のための具体策を複数発表した。その最大の目玉は「MP達成キャンペーン」だ。2006年度下期の時間当たり付加価値の計画達成を競わせ、優秀な職場を表彰することにした。特集では、目標達成度が高かった「横綱賞」「関脇賞」の現場の検証を紹介している。
2.アメーバ経営
このアメーバ経営を紹介した書籍に、稲盛和夫著「アメーバ経営(日本経済新聞出版社発行)」がある。「アメーバ経営」は、京セラグループになくてはならない経営手法であり、何の違和感もなく全従業員が日々の仕事で使っているが、これまではその背景にある思想や仕組みを正式に文書化したものはなかった。稲盛氏が経営の第一線から離れるなか、アメーバ経営の真髄を伝える書籍の編纂が長年の課題となっていた。そこで、忙しいスケジュールを縫って、約5年にわたり、京セラ幹部を一堂に集め、稲盛氏が「アメーバ経営講義」をおこなった。その内容を凝縮したものが、本書のベースとなっているとのことである。
本書の概要を紹介すると、第1章「ひとりひとりの社員が主役」では、アメーバ経営の誕生を取り上げ、アメーバ経営が目指す三つの目的として、「市場に直結した部門別採算制度の確立」「経営者意識を持つ人材の育成」「全員参加経営の実現」をあげ、順を追って述べている。
創業当時、さまざまなファインセラミックス製品を開発し、次々に製品化していった。そのため、会社の規模は急速に拡大し、成長を続ける会社をどうすれば運営していけるのか、ひとりで悩み続けた。そんなある日、「従業員が100名のころまではひとりでやれたんだから、会社を小集団の組織に分けたらどうだろう」「どうせ会社を小集団に分けるのなら、その組織を独立採算にできないだろうか」と考えたのである。
第2章「経営には哲学が欠かせない」では、アメーバ経営を実践していくために、必要欠くべからざる要諦のポイントを取り上げている。「事業として成り立つ単位にまで細分化」「アメーバ間の値決め」「リーダーには経営哲学が必要」をあげ、ここで述べている要諦は、アメーバ経営の成否を握るといっても過言ではないとしている。
アメーバを切り分ける際の第1の条件は、切り分けるアメーバが独立採算組織として成り立つために、「明確な収入が存在し、かつその収入を得るために要した費用を算出できること」、第二の条件は、「最小単位の組織であるアメーバが、ビジネスとして完結する単位となること」、第三の条件は、「会社全体の目的、方針を遂行できるように分割すること」である。
またアメーバ間のでは、各アメーバの仕事をよくわかっている経営トップが、そのアメーバにかかる経費や労力を社会的な常識から正しく評価し、それに見合う売値を公平に決めるべきであり、アメーバのリーダーには、個として自部門を守ると同時に、立場の違いを超えて、より高い次元で物事を考え、判断することができる経営哲学、フィロソフィを備える必要があるとしている。
第3章「アメーバの組織づくり」では、組織の内容と、アメーバ経営を支える経営管理部門の役割を取りあげている。経営管理部門がアメーバ経営において果たすべき三つの基本的な役割として、「アメーバ経営を正しく機能させるためのインフラづくり」「経営情報の正確かつタイムリーなフィードバック」「会社資産の健全なる管理」の三つがある。必要なインフラとしては、「受注生産システム」や「在庫販売システム」などのビジネスシステムの構築、運用のほかに、社内ルールを立案し、それを維持管理することである。
第4章「現場が主役の採算管理」では、時間当たり採算表による採算管理のポイントとその効果を取りあげ、最後の第5章「燃える集団をつくる」では、マスタープランの立て方やリーダー育成について取り上げている。
実績管理のポイントは、「部門の役割にもとづく活動結果が採算表に正しく反映される」「公平・公正かつシンプル」「ビジネスの流れを「実績」と「残高」でとらえる」。後半では、採算を計算する上で必要となる、収入、経費、時間の各実績のとらえ方を取りあげている。
第1章で述べているように、アメーバ経営が目指す三つの目的として、「市場に直結した部門別採算制度の確立」「経営者意識を持つ人材の育成」「全員参加経営の実現」をあげているが、現在も多くの企業で課題になっている、経営情報の共有とリーダーの育成という面から、非常に興味深い経営手法である。
1.小泉改革の継承者
参議院選挙での自民党大敗については、年金問題、政治とカネ、閣僚の失言、格差の増大、国際政治への対応などいくつかの原因があげられている。だが、河野太郎衆議院議員は根底にある本質的な敗因は、小泉改革の継承者である安部政権と自民党が継承者としての責務を果たさず、むしろ逆行していることだとし、「昔の自民党に戻るなら、次の選挙も危うい」と断じている(日経ビジネス NB
online No.323)。
「官民を問わず、既得権益を押さえている組織や団体がそれに安住しているような社会構造は変えていかなければいけない。国民もメディアも、そうした小泉改革を圧倒的に支持したのです。今でも国民の多くはその改革の方向性を支持しているはずです」。「郵政選挙」と呼ばれた2年前の衆院選で、自民党は「歴史的大勝」を収めました。郵政民営化に象徴されるように、既得権益に鋭く切り込んだ小泉改革を国民が圧倒的に支持したからです」。
「それなのに、既存の組織や団体にたよった選挙をした。実際、無駄な公共事業を減らしてきたことで建設業協会は昔のように動かなかった。郵政民営化に反対していた「大樹(特定郵便局長OB会)」も全く動かなかった。医師会も同じです。高齢化で膨張する医療費の削減を進めてきたからですよ」。
この河野氏の発言は、小泉チルドレンで代表される自民党改革派の立場からみた、総選挙の総括をしているようにみえる。しかし、今回の選挙における国民の判断はそんな単純なものではないとみられる。年金問題は、社会保険番号の管理がずさんなだけでなく、職員による年金の着服、グリンピアなどの年金流用や利権など、何年も前から指摘されてきた官僚と政治家がからんだどろどろした問題がなんら解決への努力がはかられてこなかったことを国民に見抜かれてしまった結果であろう。
参議院選挙間際になって自民党では、年金の時効を延ばす法律の整備や社会保険庁を解体して非公務員型の日本年金機構に移行させるなどの対応を言ってきたが、なぜこのような事態になったのかという本質を解明してその解決策を示そうとしないで、やる気の無い職員は辞めてもらうというだけで、中身の変わらない非公務員型への組織移行を唱えているだけでは問題の解決を引き延ばしているとしかみられない。最大の責任者である高級官僚や政治家の責任を問わずに、単なる社名変更と移動でその場しのぎをしていると見られても仕方がないのである。
前の衆議院選挙の最大の争点になった郵政民営化にしても、郵便預金で集めた国民の資産が、官僚や政治家によって第二の税金のように流用され、国や地方自治体の借金が膨れ上がるのではないかという国民の心配を、国営事業の民営化という分かりやすいテーマに焦点をすり替えたところは小泉元首相の作戦勝ちということであろう。郵政事業の民営化というのは経営効率をあげるための手法であり、どのような基準で国営と民営の線引きをすべきは一つのテーマではあるが、国体のあり方を選別するための重要課題には、高齢者、少子化、財政、格差、国際対応、安全、環境など、もっと緊急を要する問題が山積している。
そもそも、無駄な公共事業や医療費の削減は、どの政党が政権を担っても、避けて通れないテーマであるが、例えば、小泉元首相の行ってきた道路公団の民営化にしても、40兆円を越す過大な責務を積み上げてきた公団方式を清算せずに、高速道路の新規建設計画における国の関与が色濃く残されている。道路の建設は国(機構)が実質的に行い、維持・管理を民間に任せるという下駄履き方式であり、既存債務が予定通り返済されるのか、債務が増大することがないのか、国民の不安はなくならない。
既得権益といえば、天下り後の給与と退職金の合計が最大で10億円にもなるといわれる、高級官僚の天下りがある。このような天下りの問題としては、関連法人や企業にOBが行くことにより癒着が生じることと、天下りのために必要性の少ない関連法人がつくられ、その関連法人を通じて多額の税金が官僚に支払われることであろう。例えば、中央官庁の契約の多くが随意契約であり、これを競争入札にすると、契約価格が7割程度になるとみられている。
小泉元首相は天下りの削減を声高に唱えていたが、キャリア制度や早期勧奨退職制度などの、実質的な改革がなされなかった。自民党の斡旋禁止法のように、官庁が個別に斡旋をしなければ天下りをしても官民癒着はなくなるのであろうか。キャリアの早期退職をなくして、天下りを禁止することがどうしてできないのであろうか。参議院選挙における自民党の敗北は、小泉改革がほんとの改革に値するのかどうかが、国民から問われているのということなのである。
なおこのほか、閣僚の相次ぐ政治とカネの問題と安部首相のリスク対応のまずさや、閣僚の失言も当然選挙に影響したと思われるが、あまりにも低レベルで非常識な話であり、国会議員の資質が問われている。
2.民主党のマニフェスト
一方の民主党は、マニフェストの冒頭で、「年金通帳と基礎年金部分の国庫負担で年金の全額支給」、「1人月額2万6000円の子供手当て」、「農業の個別所得保障制度」をあげている。「財政をどう捻出するのか」、「消費税の一部はすでに地方自治体に配分されている」、「年収600万以上の人は損だ」などと議論されているが、多くの国民にとって最重要な政策ならば、他の無駄な予算の削除や優先度の低い事業の削減をしても重点的に配分すべきであろうから、予算が無いなどという後ろ向きの議論をする気はない。しかしながら、民主党が2大政党の一つとして今後の行政を担っていくのであれば、単にその予算の捻出だけでなく、現在ある国の債務の段階的削減まで含めた長期的な財政計画を示していただかなければならない。
行政を担当する政党ならば、財政政策に関して、無駄な予算の削除や大企業増税、軍事費の削減を唱えていればよいというわけにはいかない。予算の効率的な運用や無駄な事業の削除のほか、グローバルな国際経済の中での産業経済のあり方をどのように考えるのか、その政策を国民に提案していく必要がある。もっとも、企業幹部と一般社員の給与が2桁も異なる米国の賃金構造が国際的なもので、日本の企業もそれに近づけた格差拡大をしなければグローバルな企業にならないというわけではない。また、株主よりもまず従業員を重視する日本企業の伝統は今後も持ち続けてもらいたいものである。
格差是正に関しては、自民党は、格差を縮めるのではなく、経済成長を続けて社会全体が豊かさを実感できるようにする「底上げ」を図るとしているが、その効果が出るかどうかは景気頼みが多いほか、豊かさが弱者に重点的に配分される保証はない。民主党は、あくまでも格差の是正を優先し、その目玉政策として当面「自給800円の全国最低賃金設定」を明記している。しかし、格差是正を企業に迫るだけでなく、正社員の既得権をある程度犠牲にしても、派遣社員の正社員化等の弱者救済をしていくのかどうか明らかでない。
一方、歴代政府は地域格差の解消のために地方交付金等の財政支援を進めてきたが、産業政策ビジョンや戦略の伴わない地方空港や高速道路をつくっても企業誘致にむすびつかない。そこで最近は、地域格差解消策として「ふるさと納税」を言い出している。民社党は、首都圏や東海に企業本社等が集中している現状は、日本全体の経済発展のために仕方がない産業ネットワーク構造だと考えるのか。そうでなければ、首都圏や東海以外の地域にも、世界的に魅力ある産業立地をどのようにしてつくりあげていくのか、主要な道州制の地域ごとに住民や企業と協力して、その特色にあわせた産業誘致政策を示すべきである。
民主党も自民党も国内問題への対応に比べて、国際問題へのウエイトが少ない。例えば、日米関係に関しては、民主党のマニフェスト 政策各論の「憲法(3)日米関係」で、「(2)日米の共同行動に関して基本方針を明確にします」として、「日本の主体性を前提にして米国との防衛協力を明確にします。また、日米の共同行動に関して基本方針を明確にします」としている。しかしこれでは、例えばイラク周辺やアジア等に展開しているアメリカ軍が攻撃されたときに、自衛隊は集団的自衛権を発動して共同で反撃するのか明らかでない。具体的なケースにおける対応を明確に示すべきである。
安部首相は憲法9条を改正して自衛隊を普通の軍隊にしたいようだが、米国に対して主体性のない日本が、世界の領主を目指している喧嘩早い米国に引きずられて、共同防衛の名目で他国と戦争になる恐れはないのか。米国国民ですらイラク攻撃の理由が間違っていたといっているのに、ブッシュ政権に気兼ねして間違っていたという事実すら率直に認めようとしない日本政府を、国民はどうして信頼できるというのであろうか。
1.本書の概要
この「「論語」の読み方(渋沢栄一著、三笠書房)」は、渋沢栄一の大書「論語講義」のエッセンスを集大成したものであり、竹内均氏の解説がついている。竹内氏の解説によると、以前、三笠書房から「孔子 人間、どこまで大きくなれるか」と「孔子 人間、一生の心得」の二冊で出版されたが、今回これを再編成して、広く世に問うものである。
渋沢栄一は、1840年に、現在の埼玉県深谷市大字血洗島の豪農に生まれ、年少の頃から商才を発揮した。また少年時代から本好きで「論語」との出会いもこの頃であった。幕末の動乱期には尊王攘夷論に傾倒したが、後に京都へ出て、一橋家の慶喜に仕えた。幕末大動乱の直前に将軍慶喜の弟の昭武がパリ万博に派遣されると、その随員として欧州各地を視察し、資本主義文明を学んだ。
帰国後、静岡に商法会所という組織を興し、合本組織の商業をやっていたが、大隈重信の説得で明治新政府に移り、大蔵官僚として度量衡の制定や国立銀行条例制定に携わる。1873年に大蔵省を辞してから実業に専念し、第一国立銀行(現みずほ銀行)の創設をはじめ、東京ガス、東京海上火災保険、王子製紙など、70歳で実業界から退くまで五百あまりの会社を設立した。晩年は社会、教育、文化事業に力を注ぎ、東京慈恵会、日本赤十字社の設立などに関わり、各種社会事業に広く関係した。
渋沢栄一が講義している「論語」は、孔子とその弟子や時人との問答を記録したものであり、孔子が亡くなってから収録・編集されたものである。渋沢栄一は終生「論語」を手放さず、日常生活、仕事に「論語」を実践していった。
本書は以下の12篇から構成されている。「学而(がくじ)篇:人生いちばんの楽しみをどこに求めるか」、「為政(いせい)篇:心に“北極星”を抱く人の生き方」、「八いつ;(はちいつ)篇:自分の資質にさらに磨をかける」、「里仁(りじん)篇:この心意気、この覚悟が人生の道を開く」、「公冶長(こうやちょう)篇:“一時の恥”にこだわって自分を小さくするな」、「雍也(ようや)篇:成功のカギ「先憂後楽」の生き方」。
「述而(じゅつじ)篇:これぞ沈勇、大勇の人」、「泰伯(たいはく)篇:孔子の恐ろしいまでの“現実主義”」、「子罕(しかん)・先進篇:男子一生の“本懐”をどこに求めるか」、「顏淵(がんえん)・子路(しろ)篇:ともに生きるに足る友、切り捨てる友」、「憲問篇:自分への”厳しさ“に自信がもてるか」、「衛霊公・季氏・陽貨・子張篇:孔子流の最高の”自己実現“法」。
2.渋沢栄一と論語
21世紀政策研究所のホームページ「田中直剛コーナー」に、同所前理事長の評論家田中直剛氏の「渋沢栄一」と題した評論が載っている。この文章は、日経新聞2005年9月21日〜30日「やさしい経済学―ニッポンの企業家」に掲載されたものである。
制度づくりのための知恵を論語に求め、経済社会の制度化のため努力した渋沢栄一を論じ、尊王攘夷主義者から開国主義者に、官僚による上からの改革路線から農商など従来の被支配階級による実業の興隆へと自らの位置づけを変化させたのを、経済学者ノースの、その時代ごとの制約条件から特定の行為の選択を合理的とみる「限界合理性」を用いて説明している。
また、渋沢は株式会社制度の下で日本の企業興隆に道筋をつけ、生涯に500社の設立に関わったが、渋沢財閥をつくることをしなかったのはなぜかとして、「明治初期にあって民間の経済活動の不振を放置する弊害を認識したがゆえに、大蔵省を辞して「論語に拠り算盤を把る」ことを決意した渋沢にとっては、「利を以って利とせず、義をもって利とす」が基本」であり、自らについては決して利の世界での願望を満たそうとはしなかったと紹介している。
田中氏は、後半のテーマ、「市場と社会結合」「受け継ぐべき精神」「論語と日本の変質」で、渋沢の行動を論語と並べて説明している。中国の「先富論」と「特権階級」、「市場原理に基づく経営者の報酬体系」と「将来の利益の先取り計上」、「論語講義」を通じて日本の基本を説きおこす「晩年の渋沢栄一」。ここでもそのような背景を提示しながら「論語の読み方」を紹介したい。
中国の故・とう小平主導で進んだ「先富論」は、富の機会を得た国内組の優遇を許容したものだが、その欠陥は早く露呈し、経済の一部で早熟な過熱現象が生まれた。しかし調整を進めようにも、適切な政策手段や政策の波及経路についての設計はおぼつかない。市場はつくること自体が難しく、新興成金や差別化による貧困層が重要な課題になっている。渋沢はいつでも事業に対するときには、まず道義上から起こすべき事業であるか盛んにすべき事業であるかどうかを考え、損得は二の次に考えた。すなわち、「利」に先立つ「義」の重要性を認識し、これを範とした。
『子曰く、君子は義に喩(さと)り、小人は利に喩る(里仁)』・・・君子と小人とはその心ばせがまったく違う。君子は事に臨んで、それが、道理に合っているかということを考え、それを行動の判断基準とした。すなわち道義にしたがって行動した。これに反して小人は常に私利私欲を考え、万事につけて利害を目安に行動する。渋沢は、「私はいつでも事業に対するときには、まず道義上から起こすべき事業であるか盛んにすべき事業であるかを考え損得は二の次に考えている」といっている。
『子曰く、人にして信なきは、その可なるを知らざるなり。大車げい;(だいしゃげい)なく、小車げつ(しょうしゃげつ)なければ、それ何を以ってかこれを行らんや(為政)』。・・・牛車にはげい;(げい)、馬車にはげつ(げつ)という連結する器具があり、牛馬を御す役をする。「信」は人において、ちょうどこのげい;げつのようなもので、もし人に信がなかったならば、いかに才智があっても、いかに技量があっても、無益な人どころか有害な存在になる。また、この信は義とあいまって、行動に移してはじめて意味をもつ。渋沢は、適切な市場をつくるにはこのげい;げつが必要であるとして、静岡に商法会所という組織を興した。
経営者が、業績に基づく報酬を求めるのは自然であるが、実現した当期利益にのみ報酬体系を直結させれば、金融派生商品を組み合わせて、将来の利益を賃借対照表にもぐり込ませる経営者も出かねない。高い当期利益のゆえに過大な報酬を得ても、株主や後継の経営者が不当利益を返還請求し難い例もある。わが国の武士道の精神は忘れてしまったのであろうか。
『子曰く、位なきことを患(うれ)えず、立つ所以(ゆえん)を患う。己を知ること莫(な)きを患えず、知らるべきことを為すことを求めるなり(里仁)』。・・・人はみな自分が認められず、地位を得られないことを気にやむけれども、これは間違いだ。地位というものは人が認めてはじめて授けられるものだから君子は地位のないことを悩まず、地位を得てその職についたときは、自分にその力が不足していないかどうかを考える。
『子張曰く、士は危うきを見て命(めい)を致し、得るを見ては義を思い、祭りには敬を思い、喪には哀を思う。それ可なるのみ(子張)』・・・いやしくも士たる者は、人の危難を見たら、これを救うためにその身を投げ出し、逃げたりしない。また利を得ることがあれば、それが正義に合うかどうかを考えて決め、祭りには敬をもって誠を尽くし、喪には哀しみをもって痛みをともにする。渋沢は、「利を見て義を思い、危うきを見て命を授けるのは、わが武士道の中心思想である。応神天皇の時代に「論語」10巻が朝鮮の王仁(わに)によってわが国に伝えられてから日本流に消化されて、日本魂を培養する肥料となり、武士道を磨く砥石となった。この項の金言は、本国の中国よりも、日本で発達したといえよう」と言っている。
明治日本は近代国家の骨格をつくりあげる体制変革に成功した。しかしその後、軍部の独走などでしだいに変質が明らかになり、国際社会との調和の面でも基軸を欠くようになる。渋沢の晩年は日本の基本を「論語講義」を通じて改めて説きおこす作業と重なる。迫り来る不安を排除するためにも、論語からの行動基準の提示に傾く。渋沢は、移民排除や海軍縮小問題で渡米して日本の軌道修正に努力した。
『子曰く、富と貴(たっとき)きとは、これ人の欲する所なり。その道を以てこれを得ざれば、処(お)らざるなり。貧しきと賎しきとは、これ人の悪(にく)む所なり。その道を以てこれを得ざれば、去らざるなり(里仁)』。・・・富と地位とは万人の欲するところである。しかし、これを得るためにはそれ相当の方法がある。つまり学を修め功を立て、身をつつしみ徳をそなえることだ。
『子曰く、その鬼にあらずしてこれを祭るは、諂(へつら)うなり。義を見て為さざるは、勇なきなり(為政)』。・・・祭るべきでないものを祭るのは、鬼神にへつらって自分の利益を得ようとするものである。またこうすることが正しい道だと知りながら、自分の利益を考えて、これを行わないのは勇気のない人間である。
1.日本は正しい選択ができるか
「第三の過度期にある日本は、これからどうなる?」イギリスの賢人ふたりが、未来を決定する重大な選択を日本人に問う。本書(ビル・エモット、ピーター・タスカ著、講談社インターナショナル(株)発行)は、英エコノミスト誌編集長を務め、「日はまた沈む」、「日はまた昇る」の著書でもあるビル・エモットと、「日本は蘇るか」「日本の大チャンス」「ハゲタカの饗宴」等の著者でも知られる、マーケット・アナリストのピーター・タスカ両氏の対談から構成されている。
本書は、第一部「日本は正しい選択ができるか」と、第二部「日本の未来を決める決断」の二部構成である。そのうちの第一部「日本は正しい選択ができるか」は、「復調の日本にひそむ問題と今後1年の展望」「このまま“反成長主義”を貫くのか」「世界の動向の中で揺れる日本」「これからの日本の重要課題」から構成されている。
「復調の日本にひそむ問題と今後1年の展望」では、まず「企業は豊かだが、個人は貧しい」として、経済は順調だが、それが一般市民の生活に変化をもたらすところまではいたっていない日本の今後1年間の展望をしている。エモットは、「2007年中には、投資の勢いがさらに加速して雇用状態が改善され、賃金は上昇、その結果、消費は次第に経済を牽引するようになる」とみているのに対し、タスカは、「戦後の歴史を振り返ってみると、日本でもどこでも、企業から個人への資産の移行は、つねに景気サイクルの比較的早い段階で起こっているが、今回は非常に遅くなっている。特に日本では、雇用状態の構造的な変化と、旧態依然とした投資重視政策のため、企業と個人の不均衡はこれからも続く」と、やや意見を異にしている。
タスカが、「資本へのリターンは大きく、労働者へのリターンは小さいという構造と、女性や高齢者が労働力として果たす新しい役割が賃金の伸びを抑制するという構造は、今後も変わらない」「企業は巨額の投資をしながらなおかつ大きな純貯蓄を抱えているが、意味のない公共事業への投資、見返りの小さいプロジェクトへの投資、アメリカの資産の法外な値段での購入という、過去に起こした無駄な投資をしないか」と危惧しているのに対し、エモットは、「日本の企業はいまも生産性の向上のために巨額の投資を続けており、賃金の上昇が抑えられ、内需はますます鈍化する。しかし、いま日本経済が直面しているのは、景気回復期の生産性と賃金アップのせめぎあい、グローバリゼーションといったノーマルな問題であり、苦痛に満ちた90年代とは違う」とし、解決できる課題であるとみている。
「このまま“反成長主義”を貫くのか」では、「日本の企業のなかには、世界的な成功をおさめ、世界ブランドとなったところもあるが、ごく一部にすぎない。しかも家電とか自動車とか、製造業ばかりである」「サービス産業の分野では、残念ながら世界企業と呼べるものがない」と指摘し、企業のグローバル化が必要であるとしている。
「世界の動向の中で揺れる日本」では、過去3年にわたって、世界経済があらゆる地域で活況を呈し、円相場は80年代初期のレベルに落ち着いており、日本は非常に恵まれた経済環境のもとにあったとしたうえで、しかし、「円高になっても不思議ではない。デフレの影が忍び寄る可能性は充分にある。だからこそ、金融や財政政策を引き締めすぎるのは、きわめてリスキーである」と指摘している。
「これからの日本の重要課題」では、5年から8年くらいの中期予想を取り上げいる。日本の規制緩和はもうすでに相当程度まで進み、競争は日増しに激化しつつあり、日本の問題は供給側の規制や競争の欠如にあるのではなく、企業のほうに軸足を置いた経済のいびつさにあると指摘している。そのうえで、「日本に必要なのは基本的には収入の増加である。そのためには、求人が増え、労働者が雇用主との交渉力を取り戻し、生産性や利益の伸びの恩恵をシェアできるようになる必要がある」と強調している。たとえば、人口減少は、職場における女性の地位の向上とも微妙にかかわっている。女性が高収入を得られるようになると、子供を持つことで犠牲になる経済的価値が大きくなるので、託児所だけでなく、税制面で思い切った優遇処置を講じる必要もある
としている。
2.日本の未来を決める決断
第二部「日本の未来を決める決断」は、「アジアと組むか、アメリカと組むか」「実践的軍事力か、平和主義か」「グローバル化か、日本的孤立主義か」「日本はいま、第三の過度期」「「美しい国」か「刺激的な国」か」から構成されている。
日本の未来を決める決断に関して著者達が日本の読者に言いたいことの概要は、エモットがまえがきで、タスカがあとがきで書いている。ここではそれを要約して第二部の紹介に変えたい。
エモットは、日本の未来を決める選択肢に関して、1)日本が経済をどれだけダイナミックかつフレシキブルにし、どれだけ市場原理に重きを置こうとするか。2)日本の文化や人間や企業や考え方をどんなふうにグローバリゼーションと折りあわせようとしているか、3)日本の政治や経済や文化をどこまでアジアの近隣諸国のそれに関連づけようとするかということであり、アメリカとの同盟関係にどこまで固執しつづけるか、の三つをあげている。
それは、イギリスがかって直面したのと同じものであり、地理的、外交的ジレンマ、大陸から切り離された島国であるという点、特別な関係を結んであるアメリカとの距離の置き方を見直さなければならないという点でも同じであるとしている。日本と世界の関係については、タスカに比べていくらか楽観的である。
一方タスカは、「日本は、明治維新や冷戦時代に、外部の大きな出来事につねにきわめて敏感に反応し、そのつど国家的な戦略をすばやく劇的に変えてきた。現在の日本を特徴づける平和主義、内向性、リスク回避、官僚支配、サラリーマン気質といったものを、生得の日本らしさであると思っているものは多いが、それは特殊な世界構造の産物であり、そのような時代はもうすでに終わっている」と指摘している。
そして、新しい世界の構造は1600年(徳川時代)より1870年(明治維新)の状況に似ているとし、「21世紀の鎖国はたしかに選択肢のひとつである。当面はそれでいいかも知れないが、長い目で見ると、受けるダメージは大きい。今回日本のもっとも大きな脅威となるのは中国の台頭である。日本は鎖国政策を採るのではなく、世界とダイナミックな関係を取り結ぶという道しかないのではないか。アジアも世界もこれまで以上に積極的で外交的な日本を必要としている」と問うている。
1.本書の構成
この本(小林由美著、日経BP社発行)は、筆者がアメリカで26年間暮らしてようやく見えてきた、アメリカ社会の構造とその生成過程について、自らの経験と知見をもとに記したものである。筆者は本書で、アメリカと日本とのさまざまなズレに着目しながら、アメリカという国の社会構造について、日本人にも皮膚感覚で実感できるように解き明かしていこうと試みている。そこで特に焦点を当てたのが、アメリカの「階層社会」の現状と歴史と将来についてである。著者は、日本長期信用銀行に女性初のエコノミストとして入社し、長銀退社後スタンフォード大学でMBA取得。現在、経営コンサルタント/アナリスト、JSA
International取締役。
いま日本では、社会の階層化に関してさまざまな議論が交わされているが、その中でアメリカとの比較が出てくると、筆者はしばしば強烈な違和感を覚えると述べている。日米間のさまざまなズレを実感するというのである。そこで、アメリカの階層社会の実相を、データや事実・経験をもとに、解明することにしたのが本書である。
本書は8章から構成されている。第1章では、アメリカの階層社会の現実を、筆者の周りにいる人たちの具体例(特権階級、プロフェショナル階級、貧困層、落ちこぼれの各階層)を挙げながら記している。第2章ではアメリカにおける現在の富の偏在の状況を、第3章では1980年代以降、アメリカで富の偏在が加速した過程を見ている。この中で筆者は、「こうした富の偏在は、実はアメリカでは新しいことではなく、富の分布が平準化した1930年代から第二次世界大戦後に至る20世紀半ばのアメリカは、歴史的に見るとむしろ例外的な時期だった」としている。
第4章では、そのような富の偏在を当然とするアメリカの土壌、ウオール街の利益を代表するワシントンの金権政治体質、アメリカの支配層が構築されてきた過程、移民が持つ意味などについて、歴史的な経緯を含めて説明を試みている。
第5章では、民主主義を掲げるアメリカで、なぜこのような支配構造が維持されているのか、なぜ富の偏在が続いているのか、その主要原因であるアメリカの職業教育とキリスト教の影響について考察している。
第6章は、グローバリゼーションを推し進めるアメリカの外交戦略の基本と、その背後にあるアメリカ国内のパワー構造や人脈について記している。
利己主義まがいの個人主義、評価の唯一の物差しがカネ、社会は一部の金持ちと大多数の貧乏人に階層化されて、といったアメリカと、元気で、明るく、ポピュリズムが貫徹していて、広範囲の世界で次々とスーパースターが生まれてくるアメリカ。第7章では、そんなアメリカのリアルな空気を、筆者が日ごろ暮らしているシリコンバレーの生活感覚で描写している。そして最後の第8章では、アメリカ型階層社会の行方に簡単に触れている。
2.アメリカ型の競争社会
第4章「アメリカン・ドリームと金権体質の歴史」で、「自由の国アメリカはいかにして階級社会国家となったか」、として、植民地の形成、独立戦争、南北戦争、第一次・第二次世界大戦と、アメリカがたどった歴史を取り上げている。そこから浮かび上がるのは次のようなことである。アメリカの資本蓄積は軍事予算や財政が大きな役割を果たし、それを支配したことが東北部エリート層の大きな基盤であった。経済体制はレッセフェール(自由放任主義)のスローガンの下に規制が乏しく、所得税がなかった(豊かな土地があったので、所得税を徴収しなくてもやっていけた)から、いったん蓄積された資本は集積するのも増殖するのも速かった。
そして、技術革新をもとに新しい産業や企業が生まれたことは間違いないが、それが短時間で大きな事業に成長できた背景には、エリート層に集中していた巨大な資金とレッセフェールの枠組みがあった。いったん特権階級の仲間入りを果たしたエリートの多くは、そのままその特権的地位を維持し続けている。そこから落ちこぼれる比率は、一代で特権階級入りのできる人の比率と同様、極めて稀なことであると指摘している。
「アメリカはヨーロッパの封建領主による支配体制を基本的に継承しており、富と権力の集中による効果は封建体制下の階級制度と実質的に差がないし、再配分される所得や富が小さければ、富の集中が進む」。このように述べて、全く新しいロジックで始まった法治民主主義体制は、それらの権利の根拠を法律で明確にし、支配権の根拠を変えた。だから支配権を握る人々は(移民当時の支配階級から)確かに大幅に入れ替わった。しかしいったん交替した後は、制度が変わらない限り、世襲が続くと指摘している。
このようなアメリカの現状に対し、「民主主義を国家の基礎にしているアメリカ国民は、特権層が存在することになぜ怒りもせず、アメリカの機会平等を信じているのだろうか」。「アメリカの他国に対する軍事介入や経済支配を“自由と民主主義”を広める聖なるミッションと理解し、スーパーパワーの責任だと信じている理由はどこにあるのだろうか」。この疑問に対し著者は、機会平等が一部で与えられていること、アメリカが移民によって成り立った国であること、および教育制度をあげている。
現実的に見れば、「アメリカでは機会は平等に与えられている」という証拠が、確率は低いにせよ、現実にある。カーネギーも最下層の移民だったし、1980代以降の情報革命は、ビル・ゲイツを筆頭に多くのヌーボリッシュ(新興成金)を生み出した。また、移民は、新しい社会に溶け込むために努力する。それは端的に言えば周囲の人と同じように行動することである。
そして、アメリカの公教育には悲惨ともいえる状況に陥っているところも少なくないので、教育に真剣で富裕な家庭は、子供を私立の学校へ通わせる。だが、私立の一流セカンダリースクール(小・中・高校)へ行くと、年間月謝は通学の場合でも2万ドル、寄宿舎ならば3万ドル近くかかるので、これだけの教育費を出せる家庭は、アメリカでもさすがに限られる。だから教育に真剣なプロフェショナル階層は、高級住宅街に住み、その中にある公立学校やチャータースクールへ子供を通わせる。そこでの(プロフェショナルになるための)職業教育は、既存の社会システムを前提にして、その中で役立つスキルを教えることだから、既存体制に疑問を持つことを教えたりはしない。
最後の第8章「アメリカの本質とその行き方」で、このように、「今のアメリカには、階層ごとに地域的な住み分けがある。だから個人は自分の所得水準に合わせて住む場所を選ぶ。アメリカ型の競争社会は、階層社会の徹底化と、相互の隔離によって維持され得る」。だから、「アメリカ型の市場資本主義が世界に広がれば、世界中で住み分けが進むことになるだろう。そしてどこに住めるのか、選択肢を決める最大の要因は、資本の分布と教育水準ということになる」と、指摘している。
1.本書の構成
今回取り上げた本書(イーサン・M・ラジエル、ポール・N・フリガ共著、嶋本恵美、上浦倫人共訳、ソフトバンククリエイテェブ発行)は、英治出版より2002年に刊行された「マッキンゼー式世界最強の問題解決テクニック」を文庫化したものである。1999年に出版された、マッキンゼーの元アソシエート、ラジエルによる「マッキンゼー式世界最強の仕事術」が、ラジエル自身の体験やマッキンゼー卒業生の逸話などを織り込んで、マッキンゼーのコンサルタントが用いるテクニックを紹介したものに対し、本書では、どうすればマッキンゼーの方法を自分のキャリアや組織に応用できるかを論じている。
マッキンゼーはクライアントが抱える戦略的課題への解決策を明らかにし、場合によっては解決策の実行を手伝う。マッキンゼーで実践されている問題解決プロセスはビジネス課題、分析、プレゼンテーション、マネジメント、実行、リーダーシップの六つの要素に分けられる。このうち本書では、「分析」、「プレゼンテーション」、「マネジメント(管理)」を中心に取り上げている。
第1章「問題の構造を把握する(構造を把握する、仮説を立てる)」から、第2章「分析を計画する」、第3章「データを収集する(リサーチ戦略とツール、面接調査のテクニック、ナレッジ・マネジメントを究める)」、第4章「分析結果を解釈する(データを理解する、最終結果を生み出す)」までは、事実に基づいた仮説主導の問題解決プロセスを取り上げ、読者の組織で発生した複雑な問題と取り組むとき、それをどう活用せればよいかを説明している。
第5章「最終結果をプレゼンテーションする(プレゼンテーションの構造、同意を得る)」では、プレゼンテーションの戦略に目を向け、対象が上司、取締役会、会社全体のいずれの場合でも、読者の考えが最大のインパクトとともに伝えるテクニックを紹介している。
最後に、第6章「チームをマネジメントする(チームを編成する、コミュニケーションを促進する、きずなを育てる、成長を促す)」から、第7章「クライアントをマネジメントする(クライアントを獲得する、クライアントとの関係を調整する、クライアントを保持する)」、第8章「あなた自身をマネジメントする(職場での生活、個人的生活)」で、あなたの問題解決に向けた努力がスムーズに進むように、必要なマネジメント・テクニックを取り上げている。
本書は「仕事術」を基盤として話を進めているが、「仕事術」を読んでいなくても支障がないように、各章の初めに<マッキンゼーのテクニック>という項を設け、「仕事術」で学んだことを要約している。本書執筆のために75人以上のマッキンゼー卒業生と面接し、アンケート調査に答えてもらったが、この人たちは、マッキンゼーの手法や戦略を他の組織で実行して成功を収めている。そういうわけで、本書に示されている問題解決テクニックと意思決定のプロセスは、マッキンゼー卒業生が退社してから就いた職場での経験に裏打ちされている。各章の各節は、「マッキンゼーのテクニック」、「マッキンゼーでの教訓と成功例」、「活用・実践ガイド」、「練習問題」から構成されているが、ここでは、本書の目的である応用を視点にしている「活用・実践ガイド」を中心に、その内容を紹介する。
2.仮説主導の問題解決プロセス
第1章「問題の構造を把握する」の「構造を把握する」では、「現実を構造化する」、「問題を構成要素に分解する」、「ロジックツリーを活用する」、「複雑な問題を単純な形で表現する」、「新しいフレームワークを考える」を、取り上げている。ここで、構造を把握するために問題を分解するのにマッキンゼー人が利用する最も一般的なツールは「ロジックツリー(論理樹形図)」であり、ロジックツリーは、マッキンゼーのコンサルタントが用いる数多いフレームワークの一つで、マッキンゼー退社後もとりわけよく利用されている。
このように適切なフレームワークを利用して、問題を本質的な構成要素にまで煮詰めた後は、構造を把握するプロセスの次の段階に進む。解決策となりうる仮説を立てるのであるが、仮説を立てると問題解決の効率や効果を向上させられるとは言っても、しっかりした仮説を生み出してテストする必要がある。仮説は問題解決プロセスの初めに立てるものなので、どちらかと言うと事実より直観に頼る部分が大きい。「仮説を立てる」では、「仮説はクイックテストにかける」、「ロジックツリーを作製する」で、USA社(架空の会社)の有力製品であるスラム・マット製造を例にとって、コスト削減の選択肢のクイックテストを紹介している。
クイックテストに合格する仮説を見つけることができた次の段階は、仮説をもっと徹底的にテストし、必要であれば、イシューツリーを作製する。ここで、イシューツリーは、ロジックツリーを進化させたもので、仮説を証明あるいは反証するのに取り組まなければならない一連の質問や問題点を示している。ここでも事例として、USA社のスラム・マット処理プロセスを短縮するためのイシューツリーを紹介している。このように初めにほんの時間をかけて、論理的なに矛盾している仮説を取り除き(クイックテスト)、それからツリーを利用して分析の範囲を決めるほうが時間の節約になるうえ、よりよい結果が得られる。
第2章「分析を計画する」では、「問題点を把握する」、「無用な分析を省く」を、取り上げている。例として取り上げたUSA社では、第1章で、インシューツリーが完成したところまで見た。そのツリーの枝の一つに「会社は必要な変更を実施できるか」という問題点があったが、それを展開させて細かい問題点に分け、イエス/ノーで答える質問にしている。
第3章「データを収集する」の「リサーチの戦略ツール」では、「戦略的なデータ収集とは」、「事実を重視する文化を築く」、「適切な情報源を探す」を、「面接調査のテクニック」では、「面接前後のフォローに気を配る」を、取り上げている。
このように、第1〜3章では、最初に仮説を立てるところから、分析の計画を経て、分析の対象となるデータの収集まで見てきた。第4章では、マッキンゼー人がどのように分析から結論を導き出し、クライアントにとって有益な提案にまとめるのかを紹介し、読者がこれを自分の組織で実践するにはどうすればよいかを説明している。分析の解釈は、二部に分かれている。第一部は、データを理解するプロセス、第二部では、この作業によってわかったことを、読者の組織または顧客がとるべき処置にまとめていく。
「データを理解する」では、「事実が仮説と矛盾するときは、仮説を変える」、「80対20の法則を活用する」を、「最終結果を生み出す」では、「すべてを話してはいけない」、「クライアントが変化を起すのを手伝う」を、取り上げている。マッキンゼー卒業生に、データの理解を助けるものとして何を利用しているかを尋ねたところ、ほぼ全員が「80対20の法則」をあげた。例えば、販売員の20%が売上高の80%を稼ぎ出していると判明したら、なぜそうなるのか、残りの販売員をトップのレベルにまで引き上げるにはどうすればよいのかを考える。報告書をどういうストーリーにするかを決めるときにも、どの提案がクライアントにとって最大の価値を生み出すかを考えて、重要な20%に集中する。
また、問題解決プロセスの目標は、素晴らしいアイデアを思いつくことだけではない。マッキンゼーのコンサルタントにファームのしていることは何かを尋ねたら、「クライアントが変化を起すのを手伝う」という答えが大勢から返ってくるはずだ。それは、このうえなく優れたアイデアや巧妙な戦略でも、クライアントに受け入れられないで実行されなかったら何の価値もないことを知っているからだ。「クライアントが変化を起すのを手伝う」では、「受け入れられるようにするには、人を動かさずにはおかないような物語にまとめあげることで、それにはストーリーの進行に役立たない事実を省かなければならない」と強調している。
1.国家の品格
約1年前に発行された、藤原正彦氏の「国家の品格」がベストセラーになった。前書きに書かれているように、筆者は、30歳前後にアメリカに3年間ほど教鞭をとり帰国後、次第に論理だけでは物事は片付かない、情緒とか形が大事だと考えるようになった。情緒と形は共に日本人を特徴づけるもので、国柄ともいうものであった。だが、これらは昭和の初め頃から少しずつ失われ、バブル崩壊後は、崖から突き落とされるように捨てられてしまった。
経済改革の柱となった市場原理をはじめ、留まるところを知らないアメリカ化は、経済をはるかに超えて、社会、文化、国民性にまで深い影響を与えてしまったのである。金銭至上主義に取り憑かれた日本人は、マネーゲームとしての、財力にまかせた法律違反すれすれのメディア買収を、卑怯とも下品とも思わなくなってしまった。筆者は、「日本はこうして国柄を失った。「国家の品格」をなくしてしまったのである。現在進行中のグローバル化とは、世界を均質にするものです。日本人はこの世界の趨勢に敢然と闘いを挑むべきと思います。普通の国となってはいけないのです」と言っている。
日本が国家の品格を取り戻すために、何から手をつけ、何をしたらよいのであろうか。筆者は最後の第7章で、この問題を取り上げている。よく政治家が、「日本はもっと普通の国になるべきだ」というが、その意味するところは、たいていの場合、「アメリカみたいな国」に過ぎない。これに対して筆者は「異常な国」であり続けるべきだといっている。
京都議定書の批准を拒否し、国際人道裁判所の設置に反対し、自分の言いなりにならない国連に対して分担金を滞納するようなアメリカの鼻息をうかがい、「国際貢献」などといってイラクに戦えない軍隊を送ることに賛成できない。市場原理といって、各国の利己的な利潤追求を自由に放任していたら、ゴミ問題一つ解決しない。福祉はどうなるのか。必然的に弱者や敗者が大量に発生するが、誰が救済するのか。「神の見えざる手」が何一つ解決してくれないことは、過去の戦争、植民地獲得、恐慌が証明している。
筆者は、品格ある国家の指標は四つあるといっている。1)独立不羈、2)高い道徳、3)美しい田園、4)天才の輩出。1)の独立不羈(ふき)とは、自らの意思に従って行動のできる独立国ということ。誇りと自信がないと、繁栄しているならどこの植民地であろうと構わないとなる。また2)、3)では、日本人の道徳心や美しい田園が、市場経済によりはびこった金銭至上主義に徹底的に痛めつけられている。4)では、天才が輩出するためには、役に立たないものや精神性を尊ぶ土壌、美の存在、跪く心などが必要と強調している。そして、このような世界を救えるのは、日本人しかいないと主張している。
2.政党の政策ビジョン
近年、グローバル化に伴う格差の問題がクローズアップされている。経済のグローバル化によって、中国や東南アジアで生産できるものはアジアで、ITなどインドで生産できるものはインドでというように、少しでも人件費が安くすむ地域にアウトソーシングされる。それを日本でやろうとすると、人件費をよほど安くしないと引き合わない。「新しいものを発想していく能力」や「右脳を生かした全体的な思考能力」など、先進国でなければすぐには生かしきれない「感性」を磨いて、新しい分野に進出していかなければ、グローバル化によって格差が生じるのを避けられないのであろう。
先に、西部ライオンズの松坂大輔投手が米大リーグのボストンレッドソックスへ入団した。入札額が60億円、契約金も61億円と、これは松坂本人もビックリという額である。西部球団は、松坂の穴は大きいが、ポスティングシステムに乗せたお陰で、大金がはいったと報じられている。松坂のケースは、米国の大リーグの話であり、アメリカの球団が自ら決めたルールの中でどのような対応しようが、彼らの勝手である。野球選手の場合、強い選手がいればその選手目当てで観客が集まるわけで、当然、選手の年俸には大きな格差が生じる。プロ野球でなくても、利益を上げるために貢献した人には、多くの収入が得られるのは当然であろう。
しかし、世界のグローバル化のルールは特定の国だけで決めることではない。グローバル化の結果生じる格差社会はどうあるべきか、グローバル化の改革のために日本の政治は何をすべきか、それは日本の国民が選択することなのである。青色ダイオード訴訟で発明者の中村修二氏が日亜化学と8億4300万円で和解したが、金融関連企業の専門家が数年で得られる年収相当である。それぞれ異なる分野での貢献者がどのような評価を受ける社会が望ましい社会なのだろうか。各階層の年収や資産の格差は。
また、ルールを勝手に作るのと同様に、ルールを無視することも許されないことである。無視が許されるということになれば、粉飾決算などで多数の投資家を欺き、巨額の利益を得ようとする者がでてくる。ルールが特定の国や特定分野の人だけが利益を得るようにつくられていれば、合法活動の範囲でも、結果として大きな不公平が生じる。
さて日本の政治をみると、2大政党といいながら、どちらの政党も、「美しい日本」「生活維新」というような抽象的な言葉を羅列しているだけで、その政策が国民に見えてこない。外交では、アメリカのやったイラン政策に賛成しており、今後も強いアメリカの傘の下で安全を守るために両国の友好を何よりも優先して対応するというのか、それともブッシュのイラン政策は間違っていると考えており、日米安全保障条約はお互いに尊重していくが、多くの友好国との協力関係を基に国を守っていこうとするのか。
小泉内閣の経済閣僚が進めてきた経済政策に賛成するのか、政府(選挙の洗礼を受けない官僚ではない)が適切な規制と介入を行わなければならないと考えているのか。道路公団や郵政は、現在進めているような民営化がよいと考えるのか、役割を果たした事業の改革的削減が先だと考えるのか、グローバル化の影響による格差の縮小のため、(資産に関係なく)教育や職業訓練を受けたり、職種や勤務先を変えやすい環境をつくるのか、再チャレンジのチャンス拡大にまかせるのか。
混沌とした今の世の中、いずれかが全て正しく、一方がまったく間違っているということではないのかも知れない。いずれにせよ、2大政党がその基本政策と実現のプロセスを提示し、国民が選択できるようにしていくことが民主政治の第一歩なのではないだろうか。
1.不平等を軽視して経済効率を重視する人々
「昨今、日本では「格差社会」という言葉が声高に喧伝されている。格差の拡大は、何より社会基盤そのものを揺るがせる結果につながる。格差は国民の結束を蝕み、ひいては社会的な対立を誘発する。社会全体で格差を埋めていく努力をするということは、極めて重要なことだ」「実際、わたしが本書の中で主張しているひとつの大きなテーマは、「グローバル化が進むと、富めるものと貧しい者との格差が拡大せざるをえない」ということである。だからこそ現実世界で進行する不公正なグローバル化を、われわれは阻止しなければならない」本書(ジョセフ・E・スティグリッツ著、徳間書店発行)の著者が「日本の読者へ」で強調している言葉である。
スティグリッツは、95年よりクリントン政権の大統領経済顧問委員会委員長に就任し、アメリカの経済政策の運営にたずさわった。97年に辞任後、世界銀行の上級副総裁兼チーフエコノミストを努めた。2001年「情報の経済学」を築き上げた貢献によりノーベル賞を受賞した。グローバル化には、先進国と途上国の双方に巨大な利益をもたらす潜在力があると著者は信じているが、その潜在力は発揮されるに至っていないとし、本書では、問題がグローバル化自体にあるのではなく、グローバル化の進め方にあることを示している。
本書は、序と、第1章から第10章からなっている。序「不平等を軽視して経済効率を重視する人々」では、著者は本書執筆の基礎となった経験と本書の関係について語っている。第1章「不公平なルールが生み出す「勝者」と「敗者」」では「アメリカモデルの押しつけ」を取り上げ、第2章「発展の約束―ワシントン・コンセンサスの失敗から学ぶ」では、ワシントン・コンセンサスの処方箋として、アジア、アフリカなど各国のグローバル化への対応の経緯を論じている。
この序と1章、第2章が全体的な問題を扱っており、第3章から第9章では、「アメリカを利する不公平な貿易システム」、「汚染大国アメリカと地球温暖化」などのタイトルで、それぞれ個別テーマを取り上げている。そして最後の10章「民主的なグローバリズム」で、グローバル化の改革の鍵となる政治的な論点を論じている。
著者によれば、所得の不平等にあまり重きをおかないエコノミストたちは、政府の格差是正の試みはコストがかかりすぎて割に合わないと考えがちで、政府の介入がなくても市場は充分に効率的である、という信念をもっている場合が多い。そして、彼らにとって最善の貧困対策とは、経済全体を成長させることで、成長によって得られた利益は、おこぼれ(トリクルダウン)効果によって最下層の貧困者までしたたり落ちていく、と信じこんでいる。また、不平等と貧困の解消に重きをおく人々は、おしなべてその根源を“運”に求めるが、軽視する人々は、富を勤勉さのご褒美とみなす。そこで、所得の再分配は労働と貯蓄のインセンティブをそぐだけでなく、個人から正当な報酬を奪うという点で非道徳的でさえあるのだ。こうした人々は、社会正義、環境、文化の多様性、医療分野でのユニバーサルアクセス、消費者保護などを軽視する傾向があると批判している。
第1章「不公平なルールが生み出す「勝者」と「敗者」」では、「アメリカモデルの押しつけ」を取り上げている。アメリカモデルの開発戦略は、政府の役割の最小化に主眼をおき、民営化(政府系企業を民間セクターへ売却する)と、貿易の自由化(輸出入と資本の流出入にたいする障壁を取り除く)を重要視した。実際、ワシントン・コンセンサスは公平性に重きをおいていなかった。アメリカモデルの推進者には、トリクルダウン理論を信奉する者もいれば、公平性は経済でなく政治の領分だと主張する者もいた。
筆者が支持している別の立場では、開発促進の面でも、貧困層保護の面でも、より大きな役割を政府にあてがっている。繁栄している経済の中心には必ず市場が存在するが、産業界を成長させて雇用を創出するには、そのための環境を政府が整えてやらなければならない。必要なのは、物理的なインフラと、制度的なインフラだ。
2.ワシントン・コンセンサスの失敗から学ぶ
第2章「発展の約束―ワシントン・コンセンサスの失敗から学ぶ」では、「東アジアが学んだ教訓」、「ラテンアメリカの幻滅」、「旧共産諸国のショック療法」、「アフリカの誤った道のり」、「教育に投資しつづけるインド」、「GDPが上がっても、貧しくなる生活」、などのテーマでワシントン・コンセンサスの問題点を指摘している。
「東アジアが学んだ教訓」では、「東アジア諸国の政府は、経済成長の恩恵を少数だけにふりむけず、国民全体に広くいきわたるよう手段を講じた。彼らはグローバル化をゆっくりと、自国の実情に合わせて進める一方、慎重ながら毅然とした態度で経済に介入した。最先端技術を吸収できる熟練労働者集団を養成するため、初等教育と高等教育を同時に拡充した。また、計画立案と技術進歩の面では決定権を市場に丸投げせず、重点的に育成する分野をみずから選択した」
また、資本市場の自由化に関しては、「アジアの二大巨頭、インドと中国は、長期投資向けに市場を開放しても、短期の資本移動には制限を掛け続けた。貯蓄率の高い東アジア諸国には、さらなる資本調達の必要はほとんどなかった」。「しかし1980年代になると、おそらくはIMFとアメリカ財務省の圧力に屈して、(タイ、インドネシア、韓国などの)多くの国が市場を開放し、自由な資本移動を認めてしまった」。このように述べて、その後に起こった通貨危機、銀行危機と、(不安定な投機マネーの流れに生身をさらす形のグローバル化は経済の荒廃をもたらすという教訓を学び)、各国は公平性と貧困救済策にさらに重きをおくようになったことを指摘している。
一方、中国以外の途上国では、過去20年間に貧困は悪化した。世界人口65億のうち、およそ40パーセントが貧困状態にあり、8億7700万人、すなわち6人にひとりが極貧状態におかれている。アメリカモデルはGDP値でみればうまく機能したが、国民の寿命の延びや、貧困の縮小度や、生活水準を保っている中流層の割合など、ほかの指標では検討したとは言いがたいと指摘している。
具体的には、「世界の最貧国の一部は、世界銀行やIMFや日米欧からの援助を得るために、さまざまな条件を無理やり押し付けられており、たとえ東アジアの成功を見習いたくても、経済政策を選択する自由さえない」「例えば、貿易協定はときとして約束どおりの機会拡大をもたらさず、不公平な競争の場をつくり出してきた。世界中の国々から天然資源を奪い、環境破壊の爪痕を残して去っていく企業と、このような行為を野放しにする世界共通の法的枠組み、地球温暖化への対応をこばむ富裕国と、破滅的な影響をまともにかぶりそうな最貧国」。このように述べて、途上国の貧困や格差拡大の原因を指摘している。
本書の最終章では、「本書であつかうのはグローバル化の経済的な側面だが、問題のかなりの部分は、経済のグローバル化が政治のグローバル化に先行してしまっていることにある。グローバル化の改革は、政治の領域に属することなのだ」。このように論じて、鍵となるいくつかの政治的な論点を取り上げている。具体的には、非熟練労働者の将来とグローバル化による不公平の拡大、先進国の運営に対する国際経済機関における民主制の欠如、急速にグローバル化する経済の中にあってもなお根強い局地的な考えかたの壁などである。
非熟練労働者の将来については、「完全に統合されたグローバル経済のもとでは、世界はひとつの国のようになり、非熟練労働の賃金は世界中どこでも同じ額になる」と著者は指摘している。過去を振り返ると、発展途上国における資本不足や先進国と途上国のあいだの知識の差が、賃金格差の存続に大きな役割をはたしてきたが、賃金均一化へのこれらの障害が、いま消えつつある。グローバル化と貿易の自由化は総所得を増大させるが、平均所得がふえて、賃金、特に最下層の賃金が停滞もしくは下降すれば、所得格差は拡大することになるのだ。
著者は、このような難題に、先進工業国としては三つの対応のしかたがあるとしている。ひとつは、問題点を無視して、不公平の拡大を受け入れるやりかただ。二つ目の対応のしかたは、公正なグローバル化を阻止するというものだ。すなわちゲームのルールを永遠に自分たちに有利なものにするということだ。
しかし上記の二つの対応は受け入れられないので、「のこる選択肢はひとつしかない。グローバル化と正面から向き合い、その軌道を修正することだ」。このように述べて、グローバル化のあるべき姿を著者は次のように論じている。先進工業国は、ひきつづき自国の労働者の技術向上をはかる必要があるが、その一方で、労働者たちの安全ネットを強化し、所得税の累進性を増大させなくてはならない。また、研究への投資もまた重要だ。
また民主制の欠如では、「ゲームのルール作りとグローバル経済の運営を託された国際機関(IMF,世界銀行、WTO)は、先進工業国の利益のために、もっと正確に言うなら先進国内の特定の利権のために動いている」と指摘して、アメリカとその他の先進国の政策を批判し、グローバルな協調行動と世界の準備金制度を提案している。
1.本書の構成
本書は2005年3月に米国で出版された The Next Global Stage の日本語への翻訳である。著者が「日本語版へのまえがき」で述べているように、本書は、1)グローバル企業の戦略展開の舞台がどのように変化したのか、2)その中でなぜ中国が台頭し、それは企業にどのような戦略の変化をもたらしているのか、3)著者の大前研一自身はこうした世の中の変化にどのように対応しているのか、という三部作の第一作目となる予定であった。しかし書き進めていくうちに1)と2)は不可分であるということになり、本書では中国、そしてインドなどがグローバル企業にもたらす影響についてかなりくわしく扱っている。
大前氏は、「世界で繁栄しているところを見れば共通項があることがわかる。それは大国の場合には地方自治体への分権が進んでいるところ、またしっかりした政府をもつ小国である」と指摘している。前者が米国、中国、インドであり、後者はフィンランドやデンマークのような北欧諸国にアイルランドやシンガポールが続くとしている。
またボーダレス・エコノミーに関して、「20世紀が国民国家の時代とすれば、21世紀は明らかに地域国家の時代である。20世紀の繁栄は国家が自らつくりだすものであった。21世紀の繁栄は世界から呼び込むものである」。「日本ではまだ繁栄のために政府は何をなすべきか、という議論をしているが、政府がすべきは世界から繁栄を呼び込むための邪魔をしないこと、安全で快適な生活環境をつくること、優秀な人材の育成、すぐれた情報・通信および交通のインフラをつくることである」。「日本の政党も政策要領で道州制を唱え始めたが、世界から企業や資金、そして情報や人々を呼び込むための新しいアイデンティティの確立、勝負できる産業の確立、欲しくなるような人材の供給、などの概念はどこを探しても見当たらない」と指摘している。
本書で、著者はまず世界の置かれている状況を概観し、それをどう理解すればよいのか、という問題から始めている。「第一部 舞台」では、爆発的な成長を遂げている地域をいくつか観察し(「第1章 世界旅行」)、グローバル・エコノミーの特徴を確認している。その後で、この新時代生誕の地をふり返っている(「第2章 初演の夜」)。第一部の最後では、グローバル・エコノミーを理解する目的で伝統的経済学または経済学者の失敗を検証している(「第3章 経済学の終焉」)。
「第二部 演出」では、グローバル・ステージに出現してきている主要トレンドを考察している。「第4章 劇作家」では、まず国民国家に何が起こっているかを概観している。そして、著者が「地域国家」と名づけた、グローバル・エコノミーの中でも最も有益、かつ、強力な経済組織の力学を考察している。続いて「第5章 進歩のためのプラットホームでは、「プラットホーム(英語、ウインドウズ、ブランド、米国ドルなど)という概念を紹介している。そして最後に、はっきりと姿を現しつつある新たな経済システムと歩調を合わせるには、ビジネスのどの部分を変えていかなければならないのかを考察している。こうした変更を強いられる部分には、ビジネス・システムとプロセス(「第6章 彷徨」)、そして製品、人材、ロジスティックス(「第7章 連鎖を断ち切る」)が含まれる。
「第三部 脚本」ではこうした変化やトレンドが各国の政府(「第8章 政府を再設計する」)、また企業や個人(「第9章 未来を先取りする」)にどのようなインパクトを与えるかを分析している。そしてグローバル・ステージを越えて、さらに進んだ世界をかたちづくる経済的な原動力となりうる地域をいくつか観察している(「第10章 ネクスト・ステージ」)。最後の章では、グローバル・ステージで企業戦略を考えるためのフレームワークには変更が求められるのかどうかを考察している。
2.地域国家の経済組織
ここでは、印象に残ったいくつかの章の内容を簡単に紹介したい。すでに紹介したように、第4章では著者が「地域国家」と名づけた、グローバル・エコノミーの中でも最も有益、かつ、強力な経済組織の力学を考察している。まず、「地域国家を定義する」では、人口規模(ただし柔軟に考えるべき)、国際空港、国際貨物を扱える機能を備えた港、良好な域内交通インフラ、よい学生を惹きつけることができるいくつかの大学および研究施設が存在することも非常に重要な要素であるとしている。地域の成功に必須の要件としては、外の世界への開放度(投資の制限、反外国的規制、生活環境の整備等)が最も重要であり、多様性(流入してくる人が多く、その人たちの背景やスキルが多様、各種のサービス)が好循環を呼ぶとしている。また「地域は発展のために何をすべきか」では、とがった特徴を身につける、柔軟性を身につける、地名をブランドにする、成功を求める意思を強調している。
変更を強いられるビジネス・システムとプロセスを扱った「第6章 彷徨」では、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)を紹介している。この10年間に起きた最も重要な変化は、国境を越えたビジネス・プロセス・アウトソーシング(x−BPO)であり、x−BPOには二つのタイプが存在する。特定機能分野のオペレーションを海外に移転するもの(コールセンター)と、支援機能や間接業務を移転するもの(GE,シティバンク、アマゾン)である。
最後の章(第11章 追記)では、グローバル・ステージで企業戦略を考えるためのフレームワークには変更が求められるのかどうかを考察している。著者が以前に「企業参謀」(プレジデント社、1975年)で提案した戦略的思考に関する多くのコメント、アプローチ、そして思考ツールはいまでも役立つものではあるのだが、三つのCを使った戦略の定義そのものがいまではあてはまらなくなってしまった。この三つのCによる戦略とは、企業(Company)のもつ長期的に維持可能な、競合(Competition)に対する相対性優位性を最大限活用しながら、顧客(customers)のニーズを満たすというものであった。
今日のグローバル・ステージでは、企業も、競合も、顧客も、簡単に定義できなくなってしまったとして、コダック、デル、ソニーの事例をあげている。そして、「グローバル・ステージに登ろうとするにつけて、3C(企業、競合、顧客)を定義するのが困難なことになっているが、戦略の策定する第一歩がその三つを明確に定義することなのだ。1980年代には、戦略の策定とは三つのCの関係を定義することだったが、いまでは戦略とはそれぞれのCが何なのかを定義し、時間の経過に応じて臨機応変に三つの関係を定義することなのである」と指摘している。
1.実践的戦略プロフェッショナル
本書(三枝 匡著、日経ビジネス文庫)は、ダイヤモンド社より刊行された「戦略プロフェショナル」(1991年3月初版)の最新版を文庫化したものである。10年以上前に初版されたものであるが、現在でも参考になる内容なので、紹介させていただく。なお、取り上げたものは、2006年6月発行の第14刷である。
本書は、もともと経営者向けの戦略トレーニング・セミナーの教材として、ダイヤモンド社の支援の下で作られたものがベースになっており、本当にあった話をもとにしているとのこと。機密上の差しさわりを極力さけるため少し古い話をとりあげ、それを最近のビジネス環境に合わせて書き直したものである。新しい競争のルールを創り出し、市場シェアの大逆転を起こした36歳の変革リーダーの実話をもとに、改革プロセスを具体的に描く迫真のケースストーリーとメモのかたちでまとめた戦略ノートから成り立っている。
本書の主人公広川洋一は、日本で有数の鉄鋼メーカー第一製鉄の新事業開発部の36歳の主査である。入社して8年目にハーバーと大学への派遣留学生に選ばれ、BMA(経営学修士号)をとっている。事業提携したメディカル関連企業、新日本メディカルの社長に誘われて、常務取締役で出向することになった。経営トップが使える「時間」には、限りがある。広川はまず自分の仕事の優先順位(プライオリティ)をはっきりさせ、社長と合意しておこうとした。日本メディカルには、医療機器事業部、プロテック事業部があるが、粗利益率の高さなどから、米国プロテック社の商品を販売するプロテック事業部の業績アップに取り組むことにした。
プロテックの主力商品は臨床検査薬といわれるもので、病院で患者の血液や尿などを検査するときに使う検査薬のことである。プロテック社ではジュピターという新製品を出してきた。これまで人の手でやっていた検査を自動化できる画期的な機械であるが、日本での機械の売り上げが伸びないので、プロテックの副社長から日本メディカルの経営姿勢を問いただしてきていた。広川が見るところ、新製品ジュピターがプロテック事業部の市場ポジションを飛躍的に改善できる救世主である可能性は強いと思われたが、競合メーカーが同じ様なものを出してきたらチャンスの窓は閉ざされてしまう。
広川がその後の四ヶ月に戦略検討のプロセスを第4章の「戦略ノートー戦略はシンプルか」を参考に箇条書きすると次のようになる。(1)仕事の優先度、(2)全体市場の俯瞰、(3)戦略製品の抽出、(4)製品の差別化能力の確認、(5)価格と利益構造のチェック、(6)戦略ロジックの策定、(7)組織の強み弱み、(8)市場ターゲットの絞り、(9)戦略展開の時間軸、(10)価値観の「混乱化」、(11)新戦略と実行プログラム。
なお、ここで打ち出された新戦略プログラムは、アドオン・プログラム(ジュピターを無償で納入し、検査薬は定価に機械代金を加えたアドオン価格で販売する)、組織変更(スペシャリスト制廃止)、機械の直販化(検査薬は従来どおり代理店ルートで販売)、販促ツールの整備、提案書の作成、営業インセンティブの実施。
2.絞りと集中
本書で取り上げた経営戦略の要諦は「絞り」と「集中」である。もし事業に絞りがなければ、組織のエネルギーを統一して集中することはできない。ここでは、第5章の「戦略ノート—絞りと集中」から引用して、その概要を紹介しておく。絞りと集中の道具として有効なものはセグメンテーションである。セグメンテーションは「市場のなかを同じ様な購買性向を持った顧客グループに分ける(セグメントする)ことである。この手法をどんな時に使うかと言えば、二つの正反対のアプローチがある。一つは「先に商品ありき」で、もう一つは「先に市場ありき」である。
「先に商品ありき」というのは、すでに手元に何か商品があって、それをどんな人に売ろうかと対象を絞る場合であり、広川たちが直面したのはこのケースである。「先に市場ありき」というのは、これから新しく商品開発や事業開発をする時に問題になる。まず市場を見る。顧客の購買動機や特性の変化を分析し、すでに世に出ている商品で満たされていないニーズ(製品空間)を見つけ、それに狙いを絞って開発を行う。
セグメンテーションの作業では、広川たちは皆でワイワイガヤガヤとブレーン・ストーミングでやった。そしてマトリックス(四角形を区切ったもの)を使っている。普通の人間が頭のなかで扱える分類マトリックスは、せいぜい3×3の九コマが限界だと著者は思っているとのことで、ストーリーのなかで広川たちはマトリックスを単純化するために二段階方式を使っている。すなわち、一つ目のマトリックス上でA,B,Cという第一次のランクづけ(絞り)を行い、その結果を、二つ目のマトリックスの縦軸にもってきて、最終のランクづけ1,2,3を行った。
セグメンテーションは、コンセプト(概念)レベルで戦略的に組み立てるだけでなく、さらに、各地区別、営業マン別に当てはめ、彼らの行動や実績の把握を同じ考えの下で行っている。さらに大切なことは、しっかりとしたモニターと管理である。広川はこの点を明確に認識しており、進捗状況のコード化をした彼なりの報告システムを作ったのである。コードはF(まだ何もしていない)から、E,D、C(デモおよびその後の訪問)、B1,B0(価格など条件交渉及びその後の訪問),A1,A0(売上)までと、Z(アプローチ中止)からなる。
最後に、第4章の戦略ノートに、リーダーであると同時に参謀である実践的「戦略プロフェッショナル」の条件が書かれているので、紹介しておこう。(1)トップとして、強いリーダーシップを発揮する覚悟があること。その目標がなぜ達成されなければならないかを部下に説得し、士気を鼓舞し、創意工夫を促し、「共に考え、共に戦う気概」を見せなければならない。(2)新しい戦略を考え出す作業手順をマスターしていること。作業のステップごとに、どんな選択肢があるのかきちんとチェックし、責任者として自分でそれを詰めていく「緻密さ」を持っていること。(3)だれもやったことのない新しい戦略を実行に移そうというのだから、多少のリスクは気にせず、また何があっても「夜はグーグーとよく眠れる」性格であること。
1.導入時の課題
本書(フィールドブック、学習する組織「10の変革課題」なぜ全社改革は失敗するのか、ピーター・センゲほか著、柴田昌治/スコラ・コンサルタント監訳、日本経済新聞社)は、「最強組織の法則」の著者であるピーター・センゲたちによって現場(フィールド)のメモとしてまとめられたものである。本書の読み方と題した導入部で、本書の背景について次のように記されている。「最強組織の法則」が出版された後、多くの読者から、「学習する組織をつくるためにはまず何から着手すればよいか、をもっと知りたいという要望があった。それに答えるために、本書の著者たちは「フィールドブック――学習する組織「5つの能力」」を執筆した。同書はさまざまな状況に中で日常的に取り組む学習を支援する目的で、実践の手引き、演習、物語、評論、短いエッセイを収録した。
「フィールドブック――学習する組織「5つの能力」」が世に出て以来、著者たちは、変革活動を進める過程で遭遇する様々な課題をますます意識するようになった。1994年から1995年にかけて、このテーマを中心としたいくつもの集中的な研究会が、MIT(マサチューセッツ工科大学)の組織学習センター(現・組織学習協会=SoL)によって開催された。これらの研究会で参加者から提示された洞察や研究内容を、「フィールドブック――学習する組織「5つの能力」」の著者たちが自身の経験や思索を踏まえて考察し、肉付けしていくうちに、「10の課題」が浮かび上がってきた。
そこで著者たちは、それらの課題に対して優れた取り組みを行った組織の事例を収集する作業に取りかかったのである。本書はそのようにしてできあがった。著者たちは、根本からの変化に取り組むに誰もが直面する、壁といえる「10の課題」(下記)をこのようにして発見し、同時に、変化を促進する3種類の成長プロセスも見つけることができた。ここでは、同書に載せられている、スコラ・コンサルタント 三好博幸氏の解説を引用して10の課題を簡単に紹介する。
まず、根本からの変化への取り組みが始まる導入段階では、おもにパイロットグループ自体に課題が現れる。
■課題1「時間がない」
パイロットグループのメンバーが時間に対する柔軟性に欠けることから、変革活動に注力すべき時間が有効に使われなかったり、変革活動の優先順位が下げられてしまう。これにより、内省や探求、対話といった基本的な学習能力の発達が妨げられ、変革へのコミットメントが低下してしまう。
■課題2「孤立無援」
変革活動はパイロットグループ、あるいはそのメンバーだけで進めることは困難であり、さまざまな「支援」が必要である。しかし、支援する、あるいは支援を受ける土壌と体制が整っていない場合、パイロットグループは十分な成果が上げられず、孤立感と徒労感のうちに変革活動は勢いを失っていく。
■課題3「意味がない」
変革の必要性や意味がパイロットグループのメンバー、あるいは組織内に十分に共有されていない場合、メンバーは変革の目的を自分と結びつけることができず、コミットメントを維持することができなくなってしまう。
■課題4「言行不一致」
変革を提唱したり、支持していると見られるリーダー、特に経営層やパイロットグループのリーダーの姿勢や本気度合い、価値観や変革の目的、メンバーが内省することへの安全性に関しての言行の不一致が感じられる場合、変革活動に関する信用が低下し、メンバーのコミットメントが失われていく。
2.変革を維持するための課題
変革活動から1〜2年で、パイロットグループの動きも軌道に乗り、成果も出始めてくると、パイロットグループの活動の影響がグループ外へも及ぶようになる。初期段階を終え、次の変革を維持する段階では、パイロットグループ内部と外部とのかかわり合いの中で課題が発生する。
■課題5「恐れと不安」
パイロットグループの学習能力が高まってくると、オープンに話し合える開放性が高まってくるが、パイロットグループや組織の中に何を話しても安心という安全性と信頼が十分確保されていなければ、セーフティネットのない変革活動に対する恐れと不安が生み出され、変革を維持することが困難になってくる。
■課題6「評価と測定」
変革活動が進むと、パイロットグループの内外で変革の成果に対する期待が高まる一方、従来の評価体系では新しい変革の意義と成果が測定できないことから、期待と成果実感のギャップが大きくなり、次第に根本からの変化への取り組みに対する信頼が失われていく。
■課題7「改革者と部外者」
パイロットグループの変革への熱意と信念、成果への自信が強くなるにしたがい、グループの凝集性が高まり、外部との溝が広がってしまう。グループに対する周囲の脅威感や反発が増し、変革活動への巻き込みも困難になる。
3.再考とリデザインの課題
パイロットグループでの変革の取り組みがある程度成功を収め、正当性が認識されるようになると、今まで部分的だった変革の取り組みが組織全体に影響を及ぼすようになる。第三の段階では、変革の普及、組織の構造基盤・統治原理・慣習への影響の中で課題が現れる。
■課題8「ガバナンス(統治)」
パイロットグループの現場での自立的な自己統治能力の高まりや、組織内の他グループや他メンバーとの相互依存性や協働関係の自律的な管理に対して、役員層が寛大な新しいガバナンス構造を開発できない、あるいは現場の自律性が未成熟な場合、管理統制への揺り戻しが生じ、メンバーの変革に対する熱意と積極性を低下させてしまう。
■課題9「普及と浸透」
パイロットグループでの成功事例に学べない、組織の壁を越えて成功の経験やノウハウを伝える能力がない、または組織内に学習や普及の土壌、インフラがない場合、組織全体にわたる変革は困難なものになる。
■課題10「戦略と目的」
根本からの変化が進み学習能力が高まると、パイロットグループのメンバーの視点が高くなり、組織全体の戦略や目的にまでかかわりを持つアイデアが生み出されるようになる。これを受け入れ、新たな創造を行う組織能力が不足していたり、もともとの組織戦略や目的が志の低いものである場合、組織全体の成長が停滞してしまう。
4.GEの組織学習と進化
最後に、「時間がない」という問題が、包括的で革新的な組織学習構想へと繋がった経緯について、ジェネラル・エレクトリック社(GE)の事例が載せられているので紹介する。この事例は、「GEの組織学習と進化」と題したGEの企業大学の経営幹部の解説である。GEは、「企画がすべてを左右する」企業から、「変化を尊重する」組織に変わるための取り組みを行っている。顧客が新しいことを要求したり、競合他社が市場に新規参入したり、何か予期せぬ出来事が起きることを、社のメンバーは予測できなおかも知れない。しかし、私たちはそのことを認識し、会社全体にとってよい結果が生まれるように素早く対応していかなければならない。
1989年に開始された「ワーク・アウト」は、もともと、システムから余分な「仕事(ワーク)を取り除く(アウト)」ことによって官僚主義を根絶し、働く人たちの時間を自由にするという考え方からつけられた名前である。何年にもわたるGEの学習活動は、基本的なワーク・アウトからシックス・シグマ品質プログラムに至るまで、次のような7つの段階を経て進化してきた。
第1段階:ワーク・アウト「RAMMP」マトリックス、第2段階:ベスト・プラクティス、第3段階:プロセス・マッピング、第4段階:変化の加速、第5段階:戦略的構想、第6段階:顧客を勝者に、第7段階:シックス・シグマ品質
1.ロジックの壁を突破する
本書(ロジカル・シンキング入門、日本経済新聞社発行、日経文庫)の著者茂木秀昭自治医科大学助教授は、教育ディベートの啓蒙、普及活動をおり、著書に「論理力トレーニング」などがある。本書は、論理的な思考法のみでなく、あらゆる事に疑問を持ち合理性を検証していく方法としてのクリティカル・シンキング(批判的なものの見方)も併せて「論理力」として解説している。また、本書では、ロジカル・シンキングのベースとしてディベート的な手法を用いるが、ディベートからロジカル・シンキングを学び、それらをビジネスにおける問題解決や説得力向上のための手法として実務に活かす事を意図したものであるとしている。
本書は、第1章「ロジックの壁を突破する」、第2章「問題解決に活かすロジカル・シンキング」、第3章「意思決定に活用するロジカル・シンキング」、第4章「説得力を高めるロジカル・シンキング」、第5章「日常で鍛えるロジカル・シンキング」から成っている。
第1章「ロジックの壁を突破する」では、「ロジックの壁(論理的になれない障壁という意味)を認識することから始めよう」として、まずロジックの壁を突破する心構えとして次の五つのヒントを挙げている。(1)他人の立場に立って、客観的にものを見る。(2)感情的にならない。(3)問題を両面から、複眼的に見る。(4)結論を先に述べ、合理的な根拠で具体化する。(5)異見の中に良い部分を見出し活かしていく。
コミュニケーションは「相手に何が伝わるか」という受け手の問題が全てといっても過言ではないので、相手の立場に立って考える態度や自分の意見を客観的に見る視点がどうしても欠かせない。ロジカル・シンキングのスキルを学ぶために越えなければならない最大の壁は、この客観的な論理が使えるかどうかにかかっているといってもよいと指摘している。たとえば、個人的には「成果主義を導入すべきである」と思っていても、即断したり、押し付けたりしないで、成果主義の功罪を多角的な視点で考え、それぞれの理由に対して具体的なデータを挙げ、最終的により合理的な方策を客観的な基準で判断することが必要になる。
「問題を両面から複眼的に見よう」では、ディベート的手法を用いれば、たとえば、社内に10名程度のプロジェクト・チームを設置し、社内外の情報や意見を徹底的に収集し、次に肯定側・否定側の二手に分かれその是非を議論し、そこであらゆる面から成果主義を検討した上で、そこで提示された合理的な根拠をもとに、最終的にトップや上層部が判断するということになる。もちろんディスカッションでも意思決定は可能だが、特定の人しか意見を言わなかったり、議論がかみ合わなかったり、建設的な結論がでなかったり、ということがしばしば起こるとしている。
なお、ロジカル・シンキングとクリティカル・シンキングの関係について、「問題解決の手法としてロジカル・シンキングを用いるためには、単に問題を「分類・整理・組み立てる」だけでは不十分で、問題の全体像を把握したり、問題を多角的に見たり、深く掘り下げて分析することが必要となる。そうした多様な視点や発想の転換、客観的な問題分析をする際に必要となるのが、クリティカルなものの見方です」と説明している。クリティカル・シンキングは、「多角的な視点や客観的な根拠をもとに、合理的な判断を主体的に下していくこと」だとしている。
2.問題解決・意思決定・プレゼンテーションに活用するロジカル・シンキング
第2章「問題解決に活かすロジカル・シンキング」では、次の点を実践することが重要だとまとめている。(1)徹底した情報収集により、問題の全体像を浮かび上がらせる。(2)その際には、従来のやりかたにこだわらず、予測や偏見を排し、客観的にゼロペースで行う。(3)チェック・リスト(リサーチ・シート)を早めに作成し、問題点のピックアップやデータのファイリングに活用し、さらなる情報収集をしてMECE(モレなく、ダブリなく)を意識しながら適宜項目を追加したり、修正していく。(4)ある程度情報収集が進んだら、重要な問題点に絞込み、早めに問題解決のロジック・チャートを仮説として構築してみる。(5)論理の一貫性を含め、ロジック・チャートの各ポイントをどれだけ具体的に証明できるか、データと照らし合わせ、必要なデータを絞ってさらに情報収集をする。(&)問題解決チャートの五つのポイント(問題の深刻さ、因果関係、改革案の実現可能性、改革案の問題解決力、メリットとデメリットの比較)を両面から検証する。(7)逆の論理で反対の提案を構築してみる。(8)反論を乗り越えて当初の案を再構築できるか、そのための補強材料はあるかを考えて、どちらも難しい場合には、一部反対側の論を踏まえて第三の案に昇華する。
第3章「意思決定に活用するロジカル・シンキング」では、ディベート的な発想を活かした意思決定を行うのに必要なポイントを挙げている。また、このような賛否両論を自分自身で組み立てて、五つの基本争点(深刻性への反論、因果関係への反論、プランの実行可能性、プランの問題解決能力、デメリット)に沿って、どちらの議論がより合理的かを判断するというディベートを自分で行う方法のほか、もっと簡略したセルフ・ディベートの方法も紹介している。すなわち、メリット・デメリットを中心に両論を組み立てる。その際の主要なポイント(比較優位型議論の基本争点)は次の五つである。実行可能性、メリットの発生過程、メリットの意義、メリットの証明、メリットとデメリットの比較。
第4章「説得力を高めるロジカル・シンキング」では、「説得力を高めるロジカル・コミュニケーション」「三角ロジックを用いたプレゼンテーション」「ロジック・チャートを用いたプレゼンテーション」「論理力を活かした企画提案や報告」「合理的な意思決定に向けた会議の進め方」「論理力を活かした「対立解消」の交渉」を取り上げている。
1.ファシリテーションの応用
ファシリテーションは、問題解決や合意形成を促進する技術としてアメリカで生まれた。「中立な立場で、チームのプロセスを管理し、チームワークを引き出し、そのチームの成果が最大となるように支援する」(フラン・リース)のがファシリテーションであり、またその役割を担う人がファシリテーター(協働促進者または共創支援者)である。この著書「ファシリテーション入門」(堀公俊著、日経文庫)では、応用範囲が高い、会議やプロジェクト活動でのファシリテーションに焦点を当てて、「場のデザイン」「対人関係」「議論の構造化」「合意形成」の4つのスキルを解説している。
著者は、ファシリテーションが持つ機能について、次のように従来型のリーダーシップやマネジメントと対比している。今までのリーダーは、コンテンツにもプロセスにも強い指導力を発揮していた。それに対して、ファシリテーターは、コンテンツはメンバーに任せ、プロセスのみにイニシャティブを発揮する。いわば黒子(演出家)的なリーダーである。ただし、これで組織が回っていくには三つの条件がある。一つ目は、ミッション、ビジョン、バリューなど、組織としての大まかな方向性が共有されていること。二つ目は、環境に対する認識が正しくなされ、それが組織のなかで一致していること。三つ目は、メンバー間の相互理解が進んでいることである。
また、今までのマネジメントのやり方は、ピラミット(ヒエラルキー)型の構造を前提に、組織活動を意思決定の連鎖ととらえて考え出されてきた。組織の機能や目標をブレイクダウンして個人に落としこむ、あるいや個人の特性や能力を組み合わせて組織をつくりあげる、構造的(要素還元的)な考え方が根本にある。それに対してファシリテーションは、組織活動を人と人との相互作用の集まりと考え、人の能力も働きも、環境や周囲の人々に応じて変化するものととらえる。そのため、個人(要素)ではなく、人々が協働する「場」(関係性)を重視する。こういった「場のマネジメント」を促進するための実践的なスキルがファシリテーションなのである。
ファシリテーションの応用分野は、問題解決型、合意形成型、教育研修型、体験学習型、自己表現型、自己変革型の六つのタイプにわかれるが、この著書では、ビジネス活動そのものである問題解決型のタイプを中心に、それと比較的近い合意形成型、教育研究型を取り上げている。
問題解決型のファシリテーションが威力を発揮するのは、なんといってもビジネス活動であり、その中で現在もっとも応用が盛んなのは、会議やワークショップでのファシリテーションである。たとえば、ワークシップを使って組織のビジョンをつくりあげ、問題点や可能性を探求していく。次に多いのは、クロスファンクショナル(部門横断的)なチームによる大きな組織変革やシステム開発など、継続的なプロジェクト活動のファシリテーションである。なおワークショップとは、多様な人たちが主体的に参加し、チームの相互作用を通じて新しい創造と学習を生み出す方法であり、ビジネスから自己変革まで、あらゆる分野で利用されている。
2.ファシリテーションのスキル
本書の後半は、会議やプロジェクト活動でのファシリテーションに焦点を当てて、「場のデザイン」「対人関係」「議論の構造化」「合意形成」の4つのスキルを次のように解説している。
1)場のデザインのスキル――場をつくり、つなげる
異なる人々が知識を共有しながら、新しい創造を生み出していく知覚的なスペースを「場」と呼び、そのデザインが場のデザインである。何を目的にして、誰を集めて、どうゆうやり方で議論していくのか、という知的相互作用からファシリテーションは始まる。これらの作業では、リーダーやクライアントと相談しながら、目的、目標、規範、プロセス、メンバーを決めていく。もう一つ大切なのが活動のプロセス設計である。活動のプロセスには「起承転結」「発散・収束」「ダイヤログとディスカッション」「問題解決」「体験学習」の型(パターン)がある。
2)対人関係のスキル――受け止め、引き出す
活動がスタートすれば、自由に思いを語り合い、あらゆる仮説を引き出しながら、チーム意識と相互理解を深めていく。このときファシリテーターは、しっかりとメッセージを受け止めると同時に、そこにこめられた意味や心の底にある本当の思いを引き出していかなければならない。具体的には、(1)聴く力(傾聴で共感を呼ぶ):耳で聞かず、心で聴く、復唱で相手を承認する、ペースを合わせてから引き込む。(2)訊く力(質問で話を深める):開いた質問で発想を広げる、閉じた質問で話を絞り込む、内に秘めた想像力を引きだす、メンバーを依存的にさせない。(3)観る力(言外のメッセージ):口調、表情、態度の三つに注目する、聞く力と観る力で場の空気を読む。(4)応える力(話をつないで広げる):要約と言い換えで橋渡しをする、事例と比喩で直感的に理解させる、質問を使って自己主張する。
3)構造化のスキル――かみ合わせ、整理する
互いの意見を尊重するだけでは創発は生まれないので、意見の幅や深さなどがある程度見えてきたら、異なる意見を整理して、少しずつまとめていかなければならない。発散から収束へ、ダイアログからディスカッションへと切り替えていくのである。ところが、そもそも議論がかみ合っていないケースがよく見受けられる。互いの主張を正しく理解しないままに、誤解や曲解にもとづいて議論しているのである。こうなってくると、正しく議論がかみ合うよう、ファシリテーターが橋渡し役をしなければならない。ロジカルシンキングや図解技法など、思考系のスキルの出番となる。
誤解が生まれるのは、論旨があいまいだったり、意見を理解するのに十分な情報が話してから提供されなかったりするからである。このとき大切なのは「論理」である。論理とは話の道筋であり、話の前提となる知識、根拠(理由)、主張したい結論の三つをそろえればよいのである。これを「論理の三点セット」と呼んでいる。
具体的には、(1)前提となる知識を明らかにする:テーマを明らかにする、前提となる事実を明確にする、事実と意見を切り分ける、言葉の定義を明確にする、暗黙の価値観を明らかにする。(2)主張の根拠を提示させ・論理の飛躍をつなげ直す:根拠を提示させる、根拠のつながりをチェックする、例証の適切さを確認する、基準の妥当性を確かめる、他に根拠がないかを調べる。(3)あいまいな結論を明確にする:主張を具体化させる、事例や定量的表現を求める、文脈を明らかにする、思考停止ワードを避ける、他に結論がありえないかを調べる。また、ダラダラと脈略もなく意見を述べる人には、発言全体を整理して、ポイントを分かりやすく言い換えてあげる。ツリー(ピらミット)構造を頭のなかに描きながら、発言を整理していくのである。これをロジックツリーと呼ぶ。
いろいろな人の意見を引き出し、かみ合わせていくと、膨大な意見が出てきて、そのままでは収拾がつかなくなってくる。このときは、「同じものを束ねる」(ブロック化)と「順番に並べる」(体系化)の二つを組み合わせて整理する。これを「構造化」と呼ぶが、そのために開発されたのが、「ファシリテーション・グラフィック」と呼ばれる技法である。発言のポイントを短い言葉で要約したり、キーワード(キーフレーズ)を抜き出したりして、箇条書き(アウトライン)の要領で並べていく。次に、このキーワードに装飾をほどこし、ポイントとポイントとのつながりを、矢印を使って関係づけていく。
ファクシリテーション・グラフィックスを使って発言を逐次記録していくと、だんだんホワイトボードが言葉で一杯になる。ある程度議論が出尽くしたところで、別のスペースを使って、整理しなおす。この情報整理の基本パターンは、ツリー型、サークル型、フロー型、マトリックス型の4種類あり、それぞれの図解ツールが用意されている。その多くはQC活動などで使われてきたものであり、例えば「ツリー型」では、ロジックツリー、意思決定ツリー、特性要因図、マインドマップなどがある。
4)合意形成のスキル――論点がある程度絞られてきたなら、創造的なコンセンサスに向けて意見をまとめていく。集団による意思決定には、メリット・デメリット法、ペイオフマトリックス、意思決定マトリックス、イーブンスワップ法など、いくつかのやり方がある。
1.ウエルチの経営哲学
強烈なリーダーシップでGEを時価総額・世界No.1企業に育て上げ、「20世紀最高の経営者」とよばれるジャック・ウエルチ。そんな彼が、「人材採用のチェックポイント」から、「ライバル会社に勝つ「戦略」の選び方」「社内に率直なコミュニケーションを根付かせる方法」「新規事業に挑戦するときのガイドライン」「天職の探し方」「中国との競争に勝つ方法」まで、ビジネスで成功するためのノウハウをたっぷりと、具体的に明かす。本書「ウイニング 勝利の経営(日本経済新聞社発行)」は、自伝「ジャック・ウエルチ わが経営」の出版後の講演で、寄せられた多くの質問に答えるために書かれたものである。
この本は四つのパートに分かれる。まず、最初の「四つの原則」のパートは、経営哲学について書かれている。著者のビジネスに対するアプローチの基礎をなす原則とも言うべき内容である。次のパート、「あなたの会社」では、組織の内部構造について書いており、その次の「あなたの競合会社」では、あなたの組織の外の世界について語っている。次は「あなたのキャリア」である。ここでは職業人生の軌跡とクオリティをどう管理するかについて述べる。適切な仕事を見つける、昇進するには何をすればよいか、いやな上司のもとで働くという厳しい状況、仕事と家庭のバランスについて書かれている。
PART1の「最初の四つの原則」では、「ミッションとバリュー」「率直さ」「選別」「発言権と尊厳」が取り上げられている。ミッション(経営理念)は方向性を正確に示し、バリュー(行動規範)は、その目的に到達するために取るべき行動を表現する。著者の経験から言えば、効果的なミッション・ステートメントは、基本的には次の問いかけに回答を与えるものだとしている。「私たちはこのビジネスチャンスでどうやって勝とうとしているのか」。この問いかけは、激しい競争の中、収益を上げながら戦える分野はどこかを評価するために、会社の強み、弱みを明確にすることを迫る。
ミッション策定とは違い、バリューに関しては全社員が発言の機会を持つべきだとしている。最初の原案は役員クラスが作ることになると思うが、それを社員全員に発表して、繰り返し、細かに吟味・詮索してもらう。このように、コメントを出して会社に貢献するのが社員の役目だと思わせるような雰囲気づくりに、役員は全力を尽くすべきだと強調している。そして、どんなに明確なバリューと行動規範を書いたとしても、サポート体制がなければ意味がない。好成績を上げているマネージャーを解雇し、その理由はバリューに基づく行動をしなかったからだ、と公に発表するたびに、GEの組織は信じがたいほどよい形で反応したと述べている。
四つの原則の最後は「発言権と尊厳」。ウエルチ氏の信念は、「世界中の人が発言権と尊厳を求めており、誰にでもその権利がある。」そこで、みんなが自由に発言できるような環境を作り出さなくてはいけないと、ワークアウトを始めた。世界中のGEで、2、3日かけて行うイベントで、30人から100人の社員が集まり、外部のファシリテーター(進行役)を招いて、どうすれば仕事が改善されるか、官僚的な部分、障害を取り除くにはどうしたらよいかを話し合う。どこでもワークアウトは画期的な生産性向上をもたらした。GEが変わった最大の理由は、一つにはワークアウトがあると信じているとのことである。
2.あなたの会社と競合会社
PART2の「あなたの会社」では、組織の仕組み、人材、業務手順、カルチャーについて取り上げ、リーダーシップ、人材採用、人事管理、解雇、変革管理そして危機管理について書かれている。
「リーダーシップ」では、八つのリーダーシップのルールを挙げている。第1のルールは、評価し、コーチし、自信を持たせること。第2のルールは、常にビジョンを語り続け、きちんとやったときに「お金を見せる」こと。第3のルールは、ポジティブなエネルギーと楽天的志向。第4のルールは、率直な態度、透明性。第5のルールは、人から嫌われるような決断を下す勇気。第6のルールは、好奇心で部下に質問し、プッシュする。第7のルールは、リスクをとること。第8のルールは、派手にお祝いをする。
「人材採用」では、「採用を考える前に、厳しくチェックすることは三つある」として、そのチェックポイント(「誠実かどうか」「知性」「成熟度」)を取り上げ、次に4つのE(と一つのP)のフレームワークを説明している。このフレームワークは、ポジティブなエネルギー、エナジャイズ(周囲の人にエネルギーを吹き込む能力)、エッジ(イエス・ノーを決めづらい事柄に決断を下す勇気)、エグゼキュート(仕事を実行する能力)、パッション(情熱)である。
変革管理については、会社に「変化」を起そうとするときの行動は次の4点に絞られると説明している。変化の一つ一つに明確な目的と目標を持たせること。変化の必要性を心底感じ、一緒にやっていこうとする人だけを採用する。抵抗する輩を探し出して放り出す。不幸な出来事があってもあらゆる機会を捉える。
PART3の「あなたの競合会社」では、戦略的優位性をいかに作り上げるか、意味のある予算策定方法、新規事業で成功する方法とM&Aによる成長を取り上げ、戦略、予算、社内ベンチャー、企業合併・買収、シックス・シグマについて書かれている。
「戦略」では、それを実践するための三つのステップについて書かれている。第1に、「あ、そうか!」ということを思いつくこと。すごく冴えていて、現実的で、永続的な競争優位性を比較的早くもたらす何か、だ。「あ、そうか」となるには、ウエルチが「5枚のシート」と呼ぶ質問に答えていくのが一番だとしている。シート1:競技場は今どんな状況か? シート2:競合相手は何を考えているのだろう? シート3:あなたは何をしているんだ? シート4:曲がり角の向こうには何がある? シート5:勝利するための一手は? そして、どんなにすごい戦略だって、人を配して息を吹きこまなくては最初から死んでいるようなものだと、適材適所の重要性を強調している。
社内ベンチャーに関しては、新規に何かを立ち上げるとき、会社は共通の三つの過ちを起こすようだとして、成長して勝つための三つのガイドラインを紹介している。ガイドライン1:最初に金をたっぷり使うこと。ハングリーで熱意のある最高の社員をリーダーに据えること。ガイドライン2:新規事業の可能性と重要性を、大げさすぎるくらい騒ぎ立てること。ガイドライン3:自由裁量を与えない間違いを犯すより、与えすぎる間違いをしよう。新規事業を放っておくように。
PART4の「あなたのキャリア」では、職業人生の軌跡とクオリティをどう管理するかについて述べている。適切な仕事を見つける、昇進するには何をすればよいか、いやな上司のもとで働くという厳しい状況、仕事と家庭のバランスについて書かれている。そしてPART5「最後のまとめ」では、「あれ、これ、すべて」として、中国との競争に勝つ方法など、これまでの章で抜け落ちた質問をカバーしている。
1.ファシリテーション型リーダー
日経情報ストラテジー2006年6月号に、「改革を成功させるファシリテーション」特集が載せられている。自らけん引役になるのではなく、触媒となって組織が持つ潜在的な力を引き出し、変化を促進(ファシリテート)する。こんなリーダーショップを持つ経営者が注目を集めている。戦略策定や改革実行のプロセスにおいて、社員が本音を納得さるまで話し合う場を運営し、上意下達ではなく、「自らが当事者」という意識を社員に感じさせることで改革を成功に導く。この特集では、このようなファシリテーション型リーダーを紹介している。
最初に、経営が悪化して2004年に民事再生法の適用を申請した古牧温泉渋沢公園の再建を手がけた、星野リゾート社長の星野佳路氏を取り上げている。星野氏は、父が経営していた軽井沢町星野温泉の経営改革を成功させた手腕をもって、破たんした大型リゾートを再生させてきた。
古牧温泉渋沢公園の従業員有志からなる「コンセプト委員会」では、メンバーがリゾートの今後のあるべき姿を探るために議論を戦わせる。再生委員会の主役は社員。星野氏は社員の意見を板書きしたり、現状分析に必要なデータを提供したりするものの、自分の意見を打ち出したり、アドバイスしたりといったことはしない。「経営者が自分の目指す場所に社員を無理やりつれていこうとしても、社員は動かない。大事なことは、「自分たちが本当にこうなりたい」という像を社員が描けるようにすること。それができる場を提供するのが自分の役割だ」と星野氏は話す。社員自らがリゾートのコンセプトを描き出せば「あとはほっていてもうまくいく」。
特集では、ピープルフォーカス・コンサルティング(PFC)の松村取締役の、「上意下達型のリーダーシップに対し、ファシリテーションは「触媒型」のリーダーシップと位置付けられる。多様な人材による「協働」活動を促進することで、各人のパワーを最大限に引き出す役割を担う」との指摘を紹介し、典型例として日産自動車の事例をあげている。日産が2001年から取り組んでいる業務改善活動「V-FAST」では、部署が抱える課題の解決策を1日の集中討議で解決する。この場で活躍するのが社内研修で育成されたファシリテーターだ。「上司に遠慮したり、その意見に流されたりせずに、各メンバーが本音で討議することを促進するためにはファシリテーションが不可欠だ」としている。
経営トップがファシリテーターとしての役割を果たすとき、その効果はさらに大きくなる。まず戦略策定において、ファシリテーションを活用することで全社の人材から様々な視点を取り込み、最適解を見つけ出せるようになる。ファシリテーション型リーダーシップのもう一つの効用は、戦略策定や改革に参画するメンバーに当事者意識を醸成することである。また、ファシリテーションを実行するためのスキルとしては、「場をデザインするスキル」「対人関係に関するスキル」「構造化のスキル」「合意形成のスキル」の4つが挙げられるが、この中で経営トップが特に重要な役割を果たすのが、「場作り」だ。メンバーが本音で話し合える「場」を作るには、経営トップが自由な発言を保障することが不可欠となる。ルールの設定や、場合によっては組織や権限の見直しも併せ、トップダウンで環境を整備することが求められると指摘している。
星野社長はリゾート再生に当たって、まず根本的な組織改革を敢行した。古牧温泉のケースでは、全社を60ユニットに分け、ユニットディレクターの給与はすべて均一にし、年齢やかっての役職による上下関係を排した。コンセプト委員会のキックオフに当たって、「言いたいことを言いたい時に言いたい人に言う」「そのために必要な経営データはすべて公開する」の2つのルールを打ち出す。場つくりにおいては、目標を明確にしてメンバー全員が共有することも重要だ。星野社長は目標として、「お客に喜んでもらえるサービスを提供すること」を掲げる。
2.ウエルチのファシリテーション
トップダウン型の経営者といわれるGEのジャック・ウエルチ前会長もファシリテーションを活用した経営者の一人である。著書「ウイニング・勝利の経営」によると、同氏のビジネスに対するアプローチの基礎をなす原則は四つある。揺るぎないミッションと具体的なバリューの重要性、経営のすべての面で求められる率直さの絶対的な必要性、能力主義に基づく選別システムの力、そして個人が発言する機会を得て敬意を持って接することのできる価値の四つである。
ミッションは方向性を正確に示し、バリューは、その目的に到達するために取るべき行動を表現する。ウエルチによれば、効果的なミッション・ステートメントは、基本的には次の問いかけに回答を与えるものである。「私たちはこのビジネスでどうやって勝とうとしているのか」。GEのミッションは、「世界でもっとも競争力のある企業になる。そのためにすべての市場でナンバー1かナンバー2になる。その可能性のない事業はテコ入れするか、売却するか、閉鎖する」。ミッションを作るのは経営トップの責任だ。
ミッションと違い、バリューに関しては全社員が発言の機会を持つべきだと次のように指摘している。バリューの内容を決めるのは、どうしても反復作業となる。最初の原案は役員クラスが作ることになると思うが、それを社員全員に発表して、繰り返し、細かに吟味・詮索してもらう。コメントを出して会社に貢献するのが社員の役割だと思わせるような雰囲気づくりに、役員は全力を尽くすべきだ。GEのバリューは、「垣根を越えて行動しよう。どこから出てきたアイデアかにこだわらず、一番よいアイデアを探し、採用しよう」「官僚主義を許すな」「変化は成長をもたらす新たな機会と捉えよう」などというものだ。
ウエルチは、発言権と尊厳に関して、職階にかかわらず、みんなが自由に発言できるような環境を作り出さないといけないと認識し、ワークアウトを始めた。「ワークアウト」とは、「無駄な仕事(work)を追い出す(out)」ために、組織横断的な小チームを作って業務改善案を募り、現場主導で素早く具現化するというプロセスを繰り返すというもの。30人から100人の社員が集まり、外部のファシリテーター(進行役)を招いて、どうすれば仕事が改善されるか、官僚的な部分、障害を取り除くにはどうしたらよいかを話し合う。各セッションの冒頭にトップがなぜワークアウトをするのかを説明し、ボスはそのセッションの終わりまで姿を消して、オープンな会話の邪魔をしないようにする。最後にふたたび戻って、ワークアウトででた提案の決断をしていく。
その手法はかつて日本に広く普及したTQCにヒントを得ているが、解決案が直接トップに提示され、それをその場で判断するという点が特徴である。そしてこのワークアウトが組織に浸透することによって、直接的な問題解決だけでなく、官僚制を打破し企業の風土を変革することまでが可能だという。GEのどのセクションでも、ワークアウトは画期的な生産性向上をもたらしたとのこと。ウエルチは、私の時代にGEが変わった最大の理由は、一つにはワークアウトにあると信じているこのことである。
1.ブルー・オーシャン戦略の徹底検証
日経情報ストラテジー2006年2月号の特集「ブルー・オーシャン戦略の徹底検証」で、「ブルー・オーシャン戦略」の著者であるW・チャン・キム、レネ・モボルニュの両氏に戦略の本質をインタビューし、また、日本における事例を紹介している。製品・サービスのライフサイクルが短くなり、価格と機能の競争は激しさを増している。そんななか、海外発の「ブルー・オーシャン戦略」という理論が注目を集めている。両氏は、価格や
機能などで血みどろの競争が繰り広げられる既存市場を「レット・オーシャン(赤い海)」と呼ぶ。一方で、競争自体を無意味にする未開拓の新市場を「ブルー・オーシャン(青い海)」と呼ぶ。
著書「ブルー・オーシャン戦略」で、ブルー・オーシャンを創造した事例として紹介しているのが、「10分1000円」の理容店「QBハウス」を展開するキュービーネットである。成熟産業である理容業界にあって、2005年6月期の売上高は前年比約4割増の37億9200万円、経常利益3億5700万円という高収益を上げている。ブルー・オーシャンを創造しても、すぐに他社がマネをするのが世の常だが全く意に介さない。「作業自体はマネできる。だから、我々はシステムに投資をした」「この投資を、(後発チェーンが)数店で償却するのか、300店で償却するのかの違いは大きい」(小西会長)。
顧客は入り口の券売機で1000円を出してチケットを買う。一方で、理容師がチケット番号と顧客の年齢・性別などを入力しなければ、エアーウオッシャーが動作しない仕組み。これらのデータはインターネット経由で本部に送られる。本部は店の繁閑を把握できるうえ、現金と来店客数の一致を常にチェックできるため、内部不正の余地がない。こうした仕組みに約4億円を投資。ビジネスモデル特許も取得した。
著者たちはインタビューで、「提示したツールで有効なものは」との質問に、まず、「戦略キャンパス」を使ってみてほしいと答えている。特集で紹介している日本サムスンのブルー・オーシャン戦略では、特に戦略キャンパスの考え方を組織に根付かせようとした。1日目の研修では、まず午前中に、書籍に出てくる事例を基に、グループ単位で戦略キャンパスを描く演習を行う。「レンズ付きフィイルム」「高齢者向け携帯電話」など日本の事例も提示した。その後、ブルー・オーシャン戦略を応用した新事業を考えて発表する。
特集の中の「ブルー・オーシャン戦略を実践する」で取り上げている3つの事例は、1)KDDIの携帯電話「ツーカーS」、カシオ計算機のカード型デジカメ「EXILIM(エクシリム)」、イサキグリコのオフィス向け菓子販売事業「オフィスグリコ」である。液晶画面を無くし、機能を徹底して取り除いた「ツーカーS」は高齢者の間で利用が広がり、当初は月間2万件ペースで新規契約を獲得した。「EXILIM」のコンセプトは「ウエアラブル(身に付ける)カメラ」。画素数は130万画素にとどめ、光学ズームもオートフォーカスもない。その代わりに、名刺サイズでわずか11ミリの薄さを実現した。「オフィスグリコ」は、薬箱に似たプラスチック製の「リフレッシュボックス」をオフィスに設置。顧客は菓子を取ったら付属の貯金箱に100円を入れる。1999年事業開始以来、ボックス設置数は6万6000個、2006年3月期は、前年比6割増の18億円の売り上げを見込む。
特集で挙げている3社の事例は、技術そのものの力で成功しているわけではない。例えば、カシオ計算機の場合は、ズームや画素数などは減らし、小型化という価値を「付け加える」ことに技術開発のリソースを集中させた。単に「減らす」「取り除く」だけでは顧客は満足しない。減らすことが、使いやすさや感動など新たな価値につながるように製品・サービスを設計する必要があると強調している。
2.戦略キャンパス
戦略キャンパスは、ブルー・オーシャンを創造するための分析を助けるだけでなく、行動のためのフレームワークにもなる。その狙いは二つあ。第一に、既存の市場空間について現状を把握することだ。これを通じて、競合他社が何に投資しているか、各社が製品、サービス、配送などの何を売りにしているのか、さらには、顧客はどのようなメリットを享受しているのか、などが理解できる。例えば、「ブルー・オーシャン戦略」の第2章で紹介しているアメリカのワイン業界の戦略キャンパスで、横軸に並ぶのは、業界の各社が力を入れる競争要因(価格、ワインづくりの極意や謳い文句、マス・マーケティングなど)。これに対してカセラ・ワインズが開発した「イエロー・テイル」は、飲みやすさ、選びやすさ、楽しさや意外性という三つの要素(競争要因)をワイン業界に持ち込み、瞬く間に新規顧客の心をとらえた。イエロー・テイルは、味がまろやかで、ビールやカクテル飲料と同じ様に気軽に飲め、フルーティな口当たりの
ワインを狙ったのである。
また、サウスウエスト航空の戦略キャンパスはほかの航空会社の戦略キャンパスの競争要因(機内食、ラウンジ、座席の選択肢など)の値は低くして、心のこもったサービス、スピート、本数の競争要因を高く(価格は低く)した。自動車による移動のように、多くの人々にとって手の届きやすい運賃で、便数の多い融通の利くフライトを提供したのである。
日経情報ストラテジーの特集で紹介している日本サムスンは、薄型ディスプレーを使ったコンテンツ表示機「サイトスクエアらくっぴー」を企画、NECネクサソリューションズを通じて2005年10月から販売しているが、予想を超える引き合いが来ており、2006年3月までに500台以上の販売を見込む。「サイトスクエア」ブランドの表示機は、銀行の店頭にある金利・為替情報表示機などに使われている。サイトスクエアは、為替やニュースなど刻々と変わる情報をネットワーク経由で受信して表示する高度な機能を持つ。一方でもっと単純に、ホテルで宴会場の催事を表示したり、小売店の店頭で目玉表品を「ポスターチェンジャーのように表示したいという需要もある。
そこで、日本サムソンの宮田営業企画担当次長はNECネクサと相談しながら、余分な機能を取り除いた。ネットワーク機能を無くし、表示内容はUSBメモリに入れた。ネットワーク工事が不要でどこにでも設置できるという、顧客にとっての価値を生む。また、静止画に特化するため簡易な表示ソフトを使うなどして、コストを削減。1台60万円程度で販売できる。ホテルチェーンなど大口顧客のほか、メニュー表示に使う居酒屋など、従来にない顧客を開拓した。
このように見てくると、ブルー・オーシャン戦略とは、既存市場での市場開発競争から抜け出し、未開拓の新市場を開拓して競争自体を無意味にするための、競争戦略の一つである。その分析ツールとして、「戦略キャンパス」「四つのアクション」「アクションマトリックス」を提案しているということであろう。
1.ブルー・オーシャンを創造・支配するのに欠かせない分析のツール
「差別化、低コスト、コア・コンピタンス、ブランディング・・・。これまで数々の「戦略」がもてはやされてきたが、ライバルと同じ市場で戦うかぎり、どれほど巧妙に戦略を練ったところでいずれ消耗戦を強いられることになる。血みどろの戦いが繰り広げられるこの既存の市場を「レッド・オーシャン(赤い海)」と呼ぶのなら、いま企業がめざすべきは、競争自体を無意味なものにする未開拓の市場「ブルー・オーシャン(青い海)」の創造だろう」。本書(ブルー・オーシャン戦略、W・チャン・キム+レネ・モボルニュ著、有賀裕子訳、ランダムハウス講談社発行)のカバーにこのように紹介されているように、ブルー・オーシャンとは、いまはまだ生まれていない市場、未知の市場空間すべてをさす。
ここ25年というもの、戦略研究は主として、レッド・オーシャンでの競争に焦点を当ててきた。既存業界の経営構造をどう分析すればよいか。低コスト・差別化・フォーカスといった戦略のどれを選ぶべきか。競合他社との比較はどうするのか・・・。ブルー・オーシャンをめぐる議論も皆無ではないが、そもそもブルー・オーシャンをいかに創造すべきか、という点については、実用的な指針はほとんどないのが現状である。著者はこのように指摘し、ブルー・オーシャンを追い求め、掴み取るための実践的な枠組みと分析法を示している。
本書の第2章「分析のためのツールとフレームワーク」では、オーストラリアのカセラ・ワインズの新ワイン<イエロー・テイル>等の例をあげて、ブルー・オーシャンを創造・支配するのに欠かせない、「戦略キャンパス」、「四つのアクション」、「アクション・マトリックス」というツールやフレームワークを紹介している。アメリカのワイン業界は、各社とも同じような味をもとに、風味や香りに深みを持たせている。オーストラリアのカセラ・ワインズは、ビール、アルコール飲料、カクテルなどの代替産業を見渡して、ワイン業界はこれまで意識していなかった課題を抱えているのではないか、と思いいたった。「だれでも気軽に飲める、これまでにない楽しいワインをつくるという課題である。
「四つのアクション」は、「取り除く」「減らす」「増やす」「付け加える」という四つの問いを通じて、業界のこれまでの戦略ロジックやビジネスモデルに挑むことである。カセラ・ワインズは、四つのアクションをすべて実践して、競争のない新しい市場空間の扉を開いた。発売したイエロー・ワインは、価格、うたい文句、マス・マーケティング、ヴィンテージ、伝統や格式、香りや味わい、品種は、デイリーワインと同等で、飲みやすさ、選びやすさ、楽しさや意外性を加えたのである。横軸に上記のような項目をとり、縦軸に高低(レベル)をとって、視覚的に比べたものが「戦略キャンパス」である。
次に、ブルー・オーシャンの創造に欠かせない第三のツールは「アクション・マトリックス」という、四つのアクションを補う分析手法である。このマトリックスに四つのアクションを具体的に書き込んでいくと、差別化と低コストの同時追求など、アクション・マトリックスをどう活かせばよいのか、そこから何がわかるのかが垣間見えるとしている。
2.ブルー・オーシャン戦略をうまく策定・実行するための指針
第2部の第3章から6章では、ブルー・オーシャン戦略をうまく策定・実行するための指針を示すとともに、それを分析手法と併せてどのように実地に応用すればよいかを述べている。優れたブルー・オーシャン戦略を策定するための指針は、大きく四つに分けられるが、第3章から第6章ではそれらを一つずつ説明している。
第3章「市場の境界を引き直す」では、既存の枠組みにとらわれずに多彩な業界の枠を集めて、競争のない市場空間を体系的につくり出し、探索リスクを減らすための道筋を示す。具体的には、1)代替財や代替サービスを提供する業界に目を向ける、2)さまざまな戦略グループを見渡す、3)従来とは異なる買い手グループに目を向ける、4)補完財や補完サービスを見渡す、5)機能志向あるいは感性志向を問い直す、6)時間軸を長くする、などである。
ブルー・オーシャン戦略の第一原則は、市場の境界を引き直して競争を迂回することである。筆者たちは、市場の境界を引き直してブルー・オーシャンを創造する体系的な方法があるかどうかを探った。その結果、主として6種類のアプローチがあるとわかり、これらを六つのパスと呼ぶことにした。六つのパスは、多くの企業が戦略のよりどころとする下記の六つの前提を問い直す。これらの前提を無条件に受け入れ、戦略を築くことで、たいていの企業はレッド・オーションの泥沼にはまっていると指摘している。
パス1:「代替産業に学ぶ」。ネットジェッツは、一般の航空会社のフライトや航空機のチャーターという代替産業と比較して、ジェット機の短期リース事業を立ち上げて、ブルー・オーシャンを創造した。
パス2:「業界内のほかの戦略グループから学ぶ」。テキサスを本拠とする女性専用のフィットネスクラブ、カーブスは、従来型のヘルスクラブと家庭向けエクササイズ・プログラム、両方の決定的な利点を取り入れ、その他のすべての要素をそぎ落とした。
パス3:「買い手グループに目を向ける」。デンマークの製薬会社ノボは、糖尿病患者が血糖値を下げるために用いるインスリン分野で、カートリッチの使いやすさを追求したインスリン注入器や使い捨て注入ペンを発売し、ブルー・オーシャンを創造した。
パス4:補完財や補完サービスを見渡す、パス5:機能志向と感性志向を切り替える、パス6:将来を見渡す。
第4章「細かい数字は忘れ、森を見る」では、それまでの延長を抜け出してバリュー・イノベーションを実現するためには、戦略策定プロセスをどう組み立てればよいかを示している。そこでのねらいはプランニング・リスクを低減させることである。ビジュアルを用いた、四つのステップからなる戦略策定プロセスを提案している。
第5章「新たな需要を掘り起こす」では、ブルー・オーシャンを最大化するための方法を論じている。各企業は従来、既存顧客の嗜好によりよく応えようとして、市場セグメンテーションに工夫を凝らしてきたが、本書では逆に、需要をかき集める方法を示そうというのである。具体的には、顧客ごとの違いでなく、非顧客層の大きな共通点に着目して、ブルー・オーシャンの最大化をめざす。
第6章「正しい順序で戦略を考える」のテーマは、数多くの買い手にきわめて大きな価値をもたらし、しかも利益を上げながら成長するための頼りになるビジネスモデルを生み出すために、いかに戦略を組み立てるか、である。ここではビジネスモデルにまつわるリスクの低減をめざす。
第3部の第7章と第8章では、ブルー・オーシャン戦略を効果的に実行するための指針に話題を移している。特に第7章「組織面のハードルを乗り越える」ではティッピング・ポイント・リーダーシップを紹介。第8章「実行を見すえて戦略を立てる」で扱うのは、実行を通じて得た教訓を戦略プランニングに活かす、というテーマであり、主に公正なプロセスという概念である。
本書の帯で、日産自動車のカルロス・ゴーン社長が、「本書を読むと、企業間競争についての見方ががらりと変わるだろう。創造性をテコニして争いとは無縁な戦略を追及している本書は、ビジネスに携わる人々の必読書である」といっているが、たしかに読みごたえのある戦略経営の実践書である。
1.日産自動車のブランド力
元プレジデント編集長の清丸恵三郎氏が著書「ブランド力」で、日産のブランド力について次のようにレポートしている。カルロス・ゴーンが部門横断チームである「クロス・ファンクション・チーム」(CFT)を発足させた。CFTは当初9チームがつくられたが、第1番の「事業の発展CFT」にあって、「ブランド・アイデンティティ」(BI)を検討するチームだけは論議が颯爽し、「日産リバイバルプラン」(NRP)発表時までになお結論が出せなかった。
「日産リバイバルプラン」(NRP)発表の場で、ゴーン氏はこう述べている。「今日、アメリカ、日本、ヨーロッパ、それぞれの市場で日産自動車は競合車より安い価格で販売されており、日本ではその差は少なくとも4万円と試算されています。われわれは今後3年間で、このブランド力不足を35%削減することを目標としており、今後10年間でこのギャップを解消するつもりでいます」。
こうして難産の末、年末近くなって、日産がコーポレートとして目指すべきブランドコンセプトがようやく誕生した。この後BICFTは、例えばビジュアル・アイデンティティ(VI)、つまり日産と社会、あるいは顧客との接点で目に見える部分、ビジュアルとして出ていく部分をどうするかなどの諸点に関してのルール決め作業に入っていった。
中村常務デザイン本部長は、「ブランド・アイデンティティ確立は、ゴーンが当初いっていたように、とりあえず日産車の価値を高めることが目標だった。だがそれだけではなく、日産自動車そのものの価値を高めることが究極の目標としてあった。そのために何を、どのように展開すべきかをスタッフはさまざまに論議した。そのうえで出てきた課題一つひとつに、5年後にはどういう数字になっていなければならない。10年後には、というように目標数字を設定していったんです」
商品のデザイン性を高め、プロダクトブラインドの価値を高め、最終的に企業のブランド価値、そして企業価値そのものを高める。ゴーンのこの手法を成功に導いているのは、目標数字の設定、そして追跡調査である。ブランド・アイデンティティの追求により、かって国内では大衆車レベルで4万円余りあったライバル車との価格差は、相当に詰まってきているという。
VIは、商品から広告・宣伝、コーポレート・アイデンティティ(CI)、販売店やショールームの空間デザイン、新車発表会の会場選択・企画演出、あるいは応接室の什器、社員の制服やレターヘッド、名刺にいたるまで、「日産ブランド」が目に見える形として出てくるすべてのもの、中村常務の言葉を借りるならば、「商品が消費者に届くまでのあらゆる過程における統合的デザインワーク」がブランド戦略の対象ということになる。
かって日産自動車は「技術の日産」が業界の通り名であり、社員もそれを自負していた。しかし90年代の経営低迷期を通過する過程で、技術面でもトヨタ、ホンダに遅れをとりはじめ、商品も、市場も、イメージもバラバラになり、「これが日産だ」というものが見失われていった。同時にコーポレートなブランドイメージも拡散し、社会への日産のメッセージも伝わりにくくなってしまった。そうしたなかで、「日産が世界のマーケットにおいて何を求められ、期待され、どうイメージされているのか」を探り、それを言葉に置き換え、評価していく作業「タグライン・プロジェクト」が始まった。“SHIFT_the
future”(未来に向かってシフトしよう)はゴーンが委員長をつとめるブランド・アイデンティティ・ステアリングコミッティに提案されて決定された。
2.ブランド力回復への挑戦
三菱総研のホームページに掲載されている、MEXTING Vol.5 No.4に、企業ケーススタディとして「日産自動車のブランド戦略」〜リバイバルプラントブランド戦略〜のレポートが載っている。すでに取り上げたような、日産リバイバルプランとCFT、日産のタグラインである“SHIFT_the
future”、VIの意義を述べた後、ブランドの価値評価・モニタリングを紹介している。
ブランドの価値評価・モニタリングのツールとして、日産ではブランドスコアカードを策定し、2009年までの10年間でどのレベルに上げているかという目標を設定している。ブランドスコアカードでは、「購入意向」、「C/D率(Conquest/defectionratio)」、ロイヤリティ(定着率)」、「実売価格」、「中古車価格(残価率)」の5つの指標で管理している。
「購入意向」は、主にシェアとの比較で分析される。通常、ブランド力の高い製品の場合、購入意向は高いものの、経済的な理由や家族などの理由から実際の購入に至らないケースが多い。しかしながら、日産の場合、購入意向よりも実際のシェアのほうが高かった。結果的に「価値の安売り」をしていたということになるが、この状態を改善するため、前述のようなブランド価値向上施策を実施したところ、購入意向が実際のシェアよりも高くなった。
「C/D率」は、どれだけのお客様が日産のファンになり車を購入してくれたかと、どれだけのお客様が日産から離脱していったのかのレシオを見る指標である。また、「ロイヤリティ(定着率)」は、日産車に乗っていたお客様が次も日産の車を購入してくれるかを表す指標。従来は、販売台数と売上・収益で管理が実施していたため、販売台数を上げるためには得てして値引きをするという結果になってしまっていた。しかし、ブランドスコアカードにおいては、値引きをしてしまうと指標の1つである実売価格が下落する。
日産の変革はこれで終わったわけではないし、ブランド構築も道半ばである。清丸氏は、キーは「技術」ということになろう。そこに日産の本当の意味でのブランド回復、」そして新たな飛躍への鍵がある。メーカー、それも高度な技術を競う産業であるかぎり、最終的なブランド力は商品の品質によるし、商品の品質は技術力による。日産はその点で、さらなる高度化とスピードアップが求められていると指摘している。
日産のホームページを見ると、「環境への取り組み」のCEOメッセージで、クルマの燃費と性能の向上に寄与するCVT(連続トランスミッション)の搭載車を増やしていること、SU-LEV(平成17年度基準排出ガス75%低減レベル)の開発にも力を注ぎ、ブルーバードシルフィは日本で初めて認定を受けたこと。2003年には日本で燃料電池車「X-TRAIL
FCV」のリース販売を開始すること、ハイブリット技術に関しては、トヨタ自動車と提携し、2006年より米国市場からアルティマのハイブリット自動車の販売を始めることなどを発表している。
無段変速機エクストロイドCVTは、ギアチェンジの必要のないまったく新しい変速機である。従来の無段変速機はVベルトやチェーンを使って動力を伝えているが、エクストロイドCVTはデスクとパワーローラーを使って、動力の伝達と変速を行っている。同じホームページの「技術紹介」では、ティアナに採用された、マニュアルモード付6段変速エレクトロニックCVT-M6のほか、高圧水素式燃料電池車「X-TRAIL
FCV」などが紹介されている。トヨタは生産方式とハイブリット技術で、ホンダは高速エンジンと環境対応をブランドとしているとみられる。日産自動車の新技術への挑戦が今後どのように進むのか、企業のブランド力という点からも興味深いものがある。
1.アスター事業部の再建
日本企業をめざましく生き生きとした組織に変えるためには、われわれはどんな壁を乗り越えなければなあないのだろうか。企業再建支援を行うコンサルタントの三枝 匡氏(一橋大学大学院商学研究科非常勤講師)が書かれた本書(V字回復の経営〜実話をもとにした企業変革ドラマ〜、日本経済新聞社)は、こうした疑問に一つの答えを提供することを目指している。本書のストーリーは、同氏が過去にかかわった日本企業5社で実際に行われた事業改革を題材にしている。
ストーリーが展開される太陽工業は、売上高3200億円、五つの事業部の中で、アスター事業部の業績が急速に崩れはじめた。香川社長はアスター事業部のリストラ策を強化するように指示したが、一昨年にはとうとう赤字に転落し、5億円の欠損を計上した。市場の縮小が下げ止まらず、しかも競合企業にシェアを食われ、そのダブルパンチで売上高が減り続けたのである。
香川社長は子会社である東亜テック社長の黒岩莞太を呼び出し、アスター事業部の事業部長に就任するという人事を内示した。2年以内に黒字にするという時間軸で、黒字化できるという見通しが立たないならば事業売却か閉鎖をするという条件である。黒岩は、6年前に東亜テックの救済話が持ち込まれ、社長として送り込まれ再建した人物である。彼は、東亜テックの再建で使っていた経営コンサルタント五十嵐直樹をアスター事業部の再建に連れて行きたいと要望し認められた。
アスター事業部には大きく分けて六つ商品群がある。総売上高410億円のうち、A商品群は130億円で、今年度見通しの経常利益約5億円、B商品群は売上高90億円で約4億円の利益。これらA、B商品群は比較的大きな企業への直販が主体で、本社の中に直販営業部があった。これに対して、C,D,E,Fの四つの商品群の営業活動は子会社のアスター工販を通じて行われ、全国の約3万社といわれている中小企業ユーザーをカバーしている。このC〜F商品群がすべて赤字であった。
黒岩莞太はすぐに、管理職や若手など約50名と個人面談を行う予定を組んだ。社内の実情をつかみ、改革の切り口を最短距離で見つけるほかに、重要な目的が隠されていた。黒岩は2ヶ月ほどの「静かな観察期間」が終われば、直ちに数名の「改革タスクフォース」を編成し、この事業をどう改革するか、そのシナリオ作りを始めるつもりであるが、この一連の面談でそのメンバーを選び出したいと目論んでいた。黒岩は興味ある一人のミドル、工場の生産管理室長川端祐二に出会った。
黒岩が着任して二ヵ月後に事業改革のシナリオ作りを目的とする改革タスクフォースが発足した。人選のカギは「気骨と論理性」、黒岩は最初に川端祐二を選んだ。これで黒岩、五十嵐、川端の3人が、タスクフォースの主導チームを形成することになり、フルタイムの専任メンバー4人と、現在のポジションで仕事を続けながら、必要に応じて動員される兼務メンバー4人が決まった。
改革タスクフォースの最初のミーティングはいきなり2泊3日の合宿だった。黒岩は、「これから4ヶ月間で、事業部の改革案を実行可能なところまでまとめ上げる」「検討に聖域はない・・・事業をばらばらにしようが、工場を閉鎖しようが、余計な部署はつぶそうが」「改革タスクフォースは、この事業を利益の出る「勝ち戦」に変える方法を探す。しかし、それが難しいと判明したら・・・「事業撤退」の方策を検討する。
合宿1日目は、まず「負け戦」の原因を徹底的に洗い出すことから始めた。問題点をカードに書き込み、それを壁に貼りながら「改革の切り口」を整理する作業である。五十嵐は次のようなテーマを提示し、壁には約500枚のカードが並んだ。「顧客の不満は何か。なぜわれわれはそれを満たせないのか?」「競合はなぜわれわれより強いのか。その負け戦の原因は何か?」「部署と部署の連携の問題点は?」「リーダーシップのとり方。それについて起きている問題点は?」「これまでの事業戦略の問題点は?」
五十嵐は、「もしアスター事業部の「時間連鎖」をダントツに早くすることができたら、どんな効果を生むのか討議したいと思います。発想の原点は「小さい組織」です」五十嵐が提案しているのは、仮の結論を先に出し、それを現状に当てはめて正しいかどうかを検証するという、仮説検証の手法だった。D商品群のビジネスユニットを作ると、解決なし大幅に改善できるカードを隣の壁に移したところ、500枚のうち実に300枚近いカードが、移ってしまった。他のカードは、「事業全体の「事業戦略」を明確に示せば解決できる問題点」などの視点を提示して、分類して言った。
2.タスクフォースの作業
タスクフォースが取り組んだ第一作業は、過去に対する「強烈な反省論」を、具体的な事実関係や数字の裏づけを示して、クールに画き切ることだった。1月の中ごろには、タスクフォースはようやく反省論を整理し終えた。その次のステップは「改革のシナリオ」を作ること、つまり第二作業は全体戦略と組織案の検討だった。これは2月の初旬、つまり作業期間4ヶ月の約半分を少し過ぎたところでようやく固まった。その結果を見て黒岩はF商品群の撤退を決断した。
こうしてタスクフォースは、それぞれのビジネスユニットの基本戦略の立案という第三作業に入っていた。ビジネスプランの検討は、タスクチームをいくつかのチームに分け、同時並行的に進められた。4ヶ月に入ると、あとは時間との戦いだった。第四作業がそっくり残っていた。部署別の重要な改善テーマについて、基本的な方向付けを検討しておかなければならない。「工場における納期短縮、工程改善、品質向上などの進め方と目標設定」「部品調達や外注先の見直しなど、購買政策の改善と目標設定」「営業への戦略的手法の導入、営業マン行動管理システムのデザイン」などである。
物語はこの後、香川社長へのプレゼンテーションと承認、アスター事業部とアスター工販役員に対するプレゼンテーション、全国の管理職対する説明、気骨の人事、全国7ヵ所を回る2回目の巡業、改革の実行と成果の認知に進んでいく。
著者は最後のエピローグで、成功の要因とステップでアスター工販の改革がうまくいった要因を次のようにまとめている。
1)改革コンセプトへのこだわり:コンセプトは、「戦略」「ビジネスプロセス」「マインド・行動」
2)存在価値のない事業を捨てる覚悟、
3)戦略的手法と経営手法への創意工夫:事業の絞りと集中、
4)実行者による計画作り、
5)実行フォローへの緻密な落とし込み:開発のセグメンテーション、顧客のセグメンテーション、顧客魅力度判定ツール、目で見て分る管理など、戦略ストーリーを具体的な実行管理ツールに落とし込み、フォロー体制が連動、
6)経営トップの後押し、
7)時間軸の明示、
8)オープンで分りやすい説明、
9)気骨の人事、
10)しっかり叱る、
11)ハンズオンによる実行:トップ経営陣が現場で目を配り、障害の早期排除。
1.ビジョナリーカンパニー〜時代を超える生存の法則〜
コリンズほかが書いた「ビジョナリー・カンパニー」(ジェームス・C・コリンズ/ジェリー・I・ポラス著、山岡洋一訳、日経BP出版センター発行)は、設立年が平均で1897年という、時の試練を乗り越えてきた真に卓越した企業を選び出し、設立から現在に至るまでの発展と軌跡をあますところなく調査分析したものである。このプロジェクトの全体を通じて、著者たちはこう問い続けた。「真に卓越した企業と、それ以外の企業との違いはどこにあるのか」
ビジョナリー・カンパニーとは、ビジョンを持っている企業、未来志向の企業、先見的(ビジョナリー)な企業であり、業界での卓越した企業、同業他社の間で広く尊敬を集め、大きなインパクトを世界に与え続けてきた企業である。重要な点は、ビジョナリー・カンパニーが組織であることだ。ビジョナリー・カンパニーは、商品のライフサイクルを超えて、ずっと繁栄し続ける。
著者たちは、経営のはやり言葉や流行を超えるものを見つけたかった。傑出した企業に、時代を超えて、一貫して見られる経営理念を見つけようとした。調査が進むに従って、今日の「新しい」経営手法も「革新的な」経営手法も、決して新しくないことが明らかになった。従業員の持ち株制度、権限の委譲、不断の改善、総合的品質管理、経営理念の発表、価値観の共有といった今日の経営手法の多くは、場合によっては1800年代にはじまった慣行に、新しい衣装をまとわせたものにすぎない。
調査結果の次のような九つの基本理念は、第2章からだい10章にわけて、紹介している。ただし、最終章の「一貫性」は、本書の全体にわたって説明してきた中心的な概念を、改めてまとめて提示しているものである。
1)時を告げるのではなく、時計をつくる:この章では、ビジョナリー・カンパニーの創業者が概して時を告げるタイプではなく、時計をつくるタイプであったことを明らかにしている。ビジョナリー・カンパニーをつくり、築くには、すばらしいアイデアも、カリスマ的指導者も、まったく必要ないことがわかった。
2)利益を超えて:基本理念がしっかりしていることが、ビジョナリー・カンパニーの成長、発展、転換にとって、とくに重要になっている。ほとんどのビジョナリー・カンパニーにとって、「株主の富を最大限に高めること」や「利益を最大限に高めること」は、大きな原動力でも最大の目標でもなかった。
3)基本理念を維持し、進歩を促す:基本理念が重要とはいえ、それだけではビジョナリー・カンパニーは生まれない。基本理念は大事に維持し、守るが、基本理念を表す具体的な行動は、いつでも変更し、発展させなければならない。
4)社運を賭けた大胆な目標:ビジョナリー・カンパニーは進歩を促す強力な仕組みとして、ときとして大胆な目標を掲げる。例えば1952年、ボーイングの経営陣は危険を承知で賭けに出た。民間航空機市場で大手になるという大胆な目標を掲げ、ジェット機をつくった。
5)カルトのような文化:ビジョナリー・カンパニーに比較対照企業より顕著にみられる特徴のなかに、カルトと共通した点が以下の四つあることがわかった。「理念への熱狂」「教化への努力」「同質性の追及」「エリート主義」
6)大量のものを試して、うまくいったものを残す:ビジョナリー・カンパニーの社史を調べていったとき、各社でとくに成功した動きのうちいくつかが、綿密な戦略計画に基づくものでなく、実験、試行錯誤、臨機応変によるものであったり、文字通り偶然の結果であったりするのに驚かされた。
7)生え抜きの経営陣:ビジョナリー・カンパニーは比較対照企業よりはるかに、社内の人材を育成し、昇進させ、経営者としての資質を持った人材を注意深く選択している。両者の差をもたらしている最大の要因は、経営者の質ではない。重要なのは、優秀な経営陣の継続性が保たれていること、それによって基本理念が維持されていることなのだ。
8)決して満足しない:ビジョナリー・カンパニーでは、もっとも大切なことは、「明日にはどうすれば、今日よりうまくやれるのか」である。ビジョナリー・カンパニーが飛びぬけた地位を獲得しているのは、将来を見通す力が優れているからでも、成功のための特別な「秘密」があるからでもなく、主に、自分自身に対する要求がきわめて高いという単純な事実のためである。
9)一貫性:ビジョナリー・カンパニーの真髄は、基本理念と進歩への意欲を、組織のすみずみにまで浸透させていることにある。ビジョナリー・カンパニーは一貫した職場環境をつくりあげ、相互に矛盾がなく、相互に補強し合う大量のシグナルを送って、会社の理念と理想を誤解することはまずできないようにしている。
2.最強のジャパンモデル
先日、「最強のジャパンモデル」(柳原一夫慶応大ビジネススクール教授、大久保隆弘同MBA著、ダイヤモンド社)を読んだ。この本の研究の発端は、バブル経済が本格的に崩壊した90年代半ばに遡る。不況下にあって、業績を著しく損なう企業群が見受けられる一方、景気の影響を受けずに「元気で」社会的使命を果たす企業群がある状況に着目したものとのことである。構造的な環境変化にも耐える企業体質を備えている企業が、長引く不況のなかでひときわ鮮明になったのである。
このような企業群に対して、文献調査やインタビュー、アンケート調査を試みている。調査の結果、それら企業には「長期的に競争力を保つ仕組み」が内在しており、「いかなる環境変化にも適応するための仕組み」「長期にわたって経営に一貫性を持たせる仕組み」の存在が読み取れた。著者たちはそのタイプの企業を「長寿型企業」と名づけた。この本では、「ストック型」企業モデルとして、この長寿型企業を紹介している。時間が経過するにしたがって、競争優位性を蓄積する仕組みが備わっているゆえに、「ストック型」と命名した。著者たちは「ストック型」経営モデルの特徴として、以下の八項目をあげている。
1)問題解決の先送りをしない:対症療法的な解決策をさけ、本質的な解決をする。
2)個人的な能力に依存せず、システムとしての競争優位を確立:製品やサービスをつくり出す技術やノウハウ、あるいはシステムの差別化。
3)規模拡大・シェア拡大を重視しない:製品やサービスを差別化したニッチ市場への進出。
4)短期環境変化に対して安定的な企業システム:競って需要を追いかけるよりも、ニッチ市場でダントツの競争優位。
5)環境の構造変化に適応する企業システム:短期的にはできるかぎりリスクを避けるが、企業システムの構造変化には挑戦的なリスクテイクを行う。
6)本業重視:多角をする場合も関連多角化。
7)社員重視の経営風土と学習する組織:学習する組織と、学習した成果をシステム化する企業。
8)経営理念の浸透と継承:全社員に経営理念が浸透し、それによって組織を目的に向かって結集する。
この本では、短期的成果や株主重視に代表されるとしたアメリカ型経営を「フロー型」として、ここに紹介した「ストック型」と対峙している。ここで、フロー型の特徴は、短期間の成果の重視、無差別な競争、商社による富のひとり占め、繰り返される買収と合併、雇用の不安定性である。しかし、本書で紹介されている優良企業の特徴をみたとき、先に紹介した、コリンズほかの「ビジョナリー・カンパニー」を思い出した。最強の企業モデルは、日米ともによく似ており、共通する理念や特徴を持っているようである。
1.再設計の10年
本著(ジェームス・C・アベグレン著、日本経済新聞社発行)は、1958年に刊行され、日本的経営論の原点となった著書「日本の経営」の著者で、「終身雇用」という言葉の生みの親であるジェームス・C・アベグレンが、日本企業の過去数十年間の歩みを分析するとともに、これから進むべき方向を提言。半世紀におよぶ日本企業研究の集大成として書き下ろしたものである。著者は研究者として、経営コンサルタントとして、50年にわたって日本企業の経営をみてきた立場から、日本で成功している企業が実は、技術面では最新のものをとりいれ開発しているが、経営組織という面では日本的な価値観を維持している企業だということを明らかにしている。
本書も「日本の経営」も日本にとって新しい時代の始まりを扱っているが、前回の調査でも今回の調査でも、主に同じ企業から学んだ点が分析の中心になっている。日本電気(NEC),住友電気工業、住友化学、東洋レーヨン(東レ)、富士製鉄(現在は新日本製鐵)の5社)の5社である。
本書は、第1章 50年後の日本的経営、第2章 再設計の10年、第3章 社会の高齢化――日本経済の成長は終わるのか、第4章 日本的経営、第5章 空前の嵐に見舞われた企業財務、第6章 研究開発という必須の課題、第7章 企業統治――アメリカ型か日本型か、第8章 対日直接投資はほんとうに少ないのか、第9章 変化する国際環境、から構成されている。ここでは、2,4,6,7章を簡単に紹介する。
第2章の「再設計の10年」では、過去10年間に日本企業が進めてきた再設計は、産業構造上の二つの問題を解決するためのものであったと述べている。第1の問題は、日本のほとんどの産業で企業数が多すぎること。第2の問題は、事業多角化の行き過ぎ。経済が成熟すれば、業界統合の動きが起こるし、どのような事業でも成功を収めるには、圧倒的な市場シェアを獲得するまで、その事業に資源を集中させる経営戦略をとる必要があるからだ。
そして、ここ何年かは日本にとって「失われた10年」になり、日本経済は「停滞」しているとする見方があるが、日本経済は、産業の再構築と再設計をきわめて活発に進めてきたと指摘し、とりわけ複雑な事業再構築と再設計を進めてきた例として、電機産業をあげている。日本の総合電機メーカー9社は、2002年度には平均2千億円を超える特別損失を計上したが、戦略の完全な失敗に起因している。9社のすべてが、MOSチップ事業に参入していたが、どの分野でも世界市場で4位以下にしかなれず、3位以内にはなれなかった。同様な理由で、半導体、大型液晶事業、プラズマ・ディスプレー事業、ハード・ディスク・ドライブでも撤退と統合を余儀なくされた。このように大手電機9社が苦しんだのは、電機産業が全体として低迷していたからではない。過去10年にとくに大きな成功を収めてきた日本企業は、事業を絞り込んだ専業電機メーカー(ヒロセ電機、マブチモーター、村田製作所、ローム、キーエンス、ファナック、京セラ、TDK,日本電産)が多いと指摘している。
2.日本的経営
第4章の「日本的経営」では、日本経済を担う企業が大きな成功を収めてきたのは、欧米の技術を吸収し、日本社会に特有の性格に基づく経営の仕組みと組み合わせてきたからだと述べている。1950年代にまとまた前著の「日本の経営」で、著者は日本的経営の主要な特徴を三つ指摘した。「企業と従業員の間の社会契約(終身の関係)」、「年功制」、「企業内組合」である。本書でも、その後パートや派遣社員が増えているが、日本の終身雇用制は変わっていないと述べ、終身雇用制の長所を指摘している。
第6章の「研究開発という必須の課題」では、日本経済の将来は科学者と技術者の研究の成果にかかっていると次のように指摘している。特許審査の遅れや知的所有権の価値があまり認識されない、他国との科学技術交流が不足しているなどの問題があっても、日本の研究開発が他国とくらべて全体的に遅れていると結論づけるのは間違っている。だが、日本の将来にとって、世界クラスの研究開発によって新しい概念と新しい製品を着実に生み出していくことほど重要な点はない。
第7章の「企業統治――アメリカ型か日本型か」では、企業統治に関する英米型の見方は、会社とは完全に株主の所有物だとする見方から導き出されている。すなわち、経営陣は会社の所有物である株主の代理人であり、経営の目的は株式の価値を高めることにある。著者は、アリー・デ・グースの、「実際には今日の世界には二種類の企業があり、その違いをもたらしているのは、事業を行う基本的な理由の違いである。第一の種類の企業は純粋に「経済的」な目的のために経営されている。これに対して第二の種類の企業は、「共同体」としての生命をいつまでも維持していくことを目的に組織されている(「企業生命力」から)」を引用して、二種類の企業があることを指摘している。ドラッカーも英米型モデルと日本・ドイツ型モデルの違いを指摘しており、「株主にとっての価値を最大限に高めるとする目標が最大の違い」だとしているとのことだが、アメリカの企業は経済的企業であり、日本企業は共同体である。
著者も、この日本の仕組みは完璧ではない。企業の経営陣が総会屋の脅しに屈し、法律に違反して利益を供与する事件が相次いである。食品会社や製薬会社が法規に違反する事件が繰り返し起こっている。経営者が会社軽費で贅沢三昧にふけることもある。としながらも、「社内取締役、内部昇進、終身雇用、平等主義の報酬制度、企業内組合、仕入れ先との長期的な関係といった日本的な経営の仕組みによって、日本企業がきわめて優秀になっていることは否定できない。日本経済が苦しい再設計を進めてきた時期にも、大きな成功を収めた日本企業は、日本の経営の伝統をとくに大切にしている企業である。日本企業の強みと統治の仕組みが共通の文化をもつ緊密な共同体の発展によるものであることだ。これに対して、失敗しているのは、きわめ規模が大きく、事業が極端に多角化している企業である」と指摘している。
また、日本企業の多くが進めてきた多角化には、大きな危険が二つあったとして、次のように述べている。「第一は戦略面の危険である。企業経営の成功は、自社が競争上の優位をもつ少数の分野に注意深く絞り込み、経営資源を集中して投じることで達成される。第二に、経営多角化によって、企業文化が極端に薄まっていく危険がある。最高の日本企業は、共通の企業文化をもっている。多角化した企業では企業文化が薄まっていく。専業企業と多角化企業とで、近年の業績がこれほど対照的なのは、多角化企業の経営がいかにまずかったかを示している」
1.ソニー経営陣の刷新
ソニーが経営陣の刷新を決めた。出井伸之会長兼CEO(最高経営責任者)のほか、次期社長の本命とされていた「プレイステーションの生みの親」、久多良木健副社長を含む現取締役6人が一気に退任、出井氏の後任にハワード・ストリンガー氏が選ばれた。6月に発足するソニー新経営陣の最大の課題は、業績が低迷する本業のエレクトロイニクス事業の立て直し。技術系の中鉢良治副社長を社長(兼エレクトロニクスCEO)に起用するのも、ハード復活のカギを握る技術・生産部門の社員の求心力が必要だからだ。3月8日の日経新聞は、このような書き出しで、ソニーのトップ交代を報じている。
ソニーの中鉢氏は、東北大では資源工学を専攻、博士課程修了後、29歳でソニーに入社した。録音テープなどに使う磁性体開発を手始めに、電子部門を中心に生産・開発畑を長く歩んだ。「エレクトロニクス事業の復活なくしてソニーの復活はない。設計やモノ作り、マーケティングなどの現場の力は健在だが、今のソニーの商品力に消費者の目線が欠けていたことは否めない。常に顧客の目線に立ち、再び夢と感動を与える企業になりたい」中鉢氏は記者会見で商品開発力の強化を重点課題にあげた。最近のエレクトロニクス事業の業績不振に、現経営陣への不満が噴出。社内では「次の社長は技術やモノづくりが分かる人でないと務まらない」との声も広がっていると伝えている。
日経ものづくり2005年3月号の特報、「ソニー業績不振の理由とものづくり力の検証」では、ソニーの弱い「本社」と強い「工場」を取り上げている。1997年度以降営業利益率が年々低下し、今期は1.5%になったというグラフを背景に、ソニーの業績不振は、多角化でリソースが分散したことによる出遅れが原因だと指摘している。「他社よりも多少価格が高くても、ソニーの製品だから買う」という「ソニープレミアム」が急速に消滅し、製品の1台当たりの利幅を急速に縮小させた。そこに拍車を掛けたのが、思うように進まないコスト削減だというのである。
ソニーと松下電器産業の営業利益率の増減要因を比較し、ソニーと松下電器産業の競争力の開きを、大和総研シニアアナリストの三浦和晴氏は「設計面でのコストの差、特にキーデバイスである半導体のコストの差がその要因。そして、その背景には、半導体に対する両社のリソースの集約度合いに関する差があった」「ソニーの経営陣はリソースを集約すべき選択をミスし、社内のリソースが分散した。その分、デジタル家電に明確にリソースを集約させた松下電器産業との間で、半導体やパネルの開発や製造の厚みの差が埋まれ、コスト競争力の差になった」と分析する。
松下電器産業は、PDPテレビ受像機(プラズマテレビ受像機)とDVDレコーダー、デジタルカメラの三つの製品に対象を絞り込み、それら(特にテレビ受像機)に技術者や投資を集中させた。対するソニーは、テレビ受像機「ベガ」、パソコン「バイオ」、ゲーム機「プレイステーション(PS)2」の三つを選択した結果、リソースが分散した。PS2は成功したが、バイオは利益を生まず、テレビ受像機に関してはFEDや有機ELなどの次世代技術に視線を向けすぎて開発に時間をかけているうちに、液晶やプラズマテレビ受像機の市場が立ち上がった。同時にDVDレコーダー市場も誕生し、デジタル家電ブームが到来した。これに気付いたソニーは、2003年の年末からようやく液晶テレビ受像機やDVDレコーダーの本格的な市場投入を開始したが、松下電器産業には製品化で約3年、投資ではざっと5年遅れた。ソニーはこの出遅れをカバーできず、松下電器産業に比べて高コスト設計になっていると三浦氏は指摘するのだ。
同誌では、Part2で、ソニーの製造技術の力や商品企画力をとりあげ、ソニーの製造現場の力は国内でもトップ水準にある。また、元ソニー取締役の黒木靖夫氏の言葉を引用して、「ソニーの潜在的な商品企画力そのものは全く心配していない」と指摘している。現場の技術者のものづくりへの情熱も決して薄れていない。問題は、おもしろいアイデアを持つ現場の技術者の意見を吸い上げられない組織にあるというのである。
2.井深大の「夢」を見通す力の強さ
特集の中で黒木氏は、「大切なのはものづくりへの原点回帰」として、最近のソニーが業績不振となった根本の問題は「大きくなりすぎたことにある」と言っている。「出井さんは、新しいことをやろうとしてeコマーズやネットバンキングなどを打ち出しました。しかし一方で、ものづくりに関しては「デジタル・ドリーム・キッズ」という陳腐なスローガンしか発表できませんでした。これでは、社員はどうしてよいか分からなくなってしまいます」。黒木氏は、感動価値を与えない開発製品の例をだして、「こうした失敗は、ソニーがこれまでものづくりを軽視してきた後遺症だと私は感じています。それが現在のソニーの業績不振にもつながっているのです。今こそ「ソニーらしいものづくり」への原点回帰が必要です」
ソニー中村研究所の中村末広氏は、著書「ソニー中村研究所 経営は「1・10・100」」で、[法則2]「感動を与えられる「夢」を持つことが、ものづくりビジネスの出発点」などの50の法則を取り上げて説明しているが、その[法則4]「一気通貫こそビジネスを成功に導くキーワード」で、大切なことは、第1ステップの「夢のシード」となるキーテクノロジーを見出した時に、第二「商品化する技術」、第三「市場でのマーケッチング」のステップに至る道筋をイメージできるかどうかだと言っている。なお、著書の題名「経営は「1・10・100」」は、三つのステップをクリアするのに必要なエネルギーについて、第一ステップが「1」とすれば、第二ステップが「10」、第三ステップが「100」とする、井深大の言葉を引用して付けている。
法則4では、「発明されたもの、あるいは昔に発明されて眠っているもの、それを使った商品の新需要を予見し、プロダクトプランニングし、世に送り出して成功させる??それが日本企業の創造性だ」との盛田昭夫の言葉を紹介し、経営者には「1・10・100」のステップを見通す力が重要になってくる。この力を持てないのであれば、経営者の座を去った方がよい。
「一気通貫こそがビジネスを成功に導くキーワードだと強調している。
この事例として、「井深大の「夢」を見通す力の強さ」を語っている。ソニーがアメリカでトランジスタラジオを発売して間もない1960年代の初頭、井深は新井氏(ソニー・アメリカ副総支配人)に「家庭用の小型のVTRを作るよ」と話していたというのだ。そして、「家庭用に1000ドルで売るんだ」と井深は大真面目で説いていたそうだ。新井氏は、「ソニーっていう会社は夢を持っている。町工場が、ただラジオを売りにきたんじゃなかった。夢をもってきてくれたんだ」と感激したという。
記者会見で、ストリンガー次期会長は、「ソニーを最強の企業に変えたい」と表明し、中鉢次期社長も、「高機能半導体「セル」もや次世代ゲーム機への投資戦略は変える必要はない」としながらも、セルをいかに活用するかを課題に挙げたほか、商品力を復活させるために「消費者の目線に立ち返る」などモノづくりの原点を見直し、競争力のテコ入れを急ぐとしている。
GEの経営者だったジャック・ウェルチ氏は「ソニーの新製品開発力とトヨタの生産管理技術を学べば、最強の会社になる」と話したと伝えられている。新しい商品、革新的な商品を開発して、市場を開拓するという「表」の競争力の代表のようなソニーの新社長が、「消費者の目線に立ち返る」などモノづくりの原点を見直すことを表明されたのは複雑な心境である。「ソニーが事業再編に遅れたのは、プレイステーションが高収益をあげていた時期があり、そのため主力のエレクトロニクス部門が抱える問題がみえにくくなっていた」とか、「多角化することによってソニー共通の企業文化が薄まってきた」との指摘があるが、新経営陣はどのような舵取りをしていくのであろうか。
1.問題解決のための論理的思考
本書(大前研一著、講談社発行)は、論理的思考をベースに、ビジネスマンに必要不可欠な思考方法について紹介している。第1章「思考的回路を入れ替えよう」では、著者が30年の間に行ってきた数千件のコンサルティングのノウハウを基にした、問題解決のための正しい論理的思考の方法を取り上げている。第2章では経営コンサルティングの最終段階であるプレゼンテーションのノウハウをもとに、人を納得させるための方法を伝えている。
続く第3章「本質を見抜くプロセス」と第4章「非線形思考のすすめ」では、世の中で起こっている現象の本質を見極め、解のない問題に正しい方向性を見つけるための思考法について書いている。さらに第5章「アイデア量産の方程式」、第6章「5年先のビジネスを読み解く」、第7章「開拓者の思考」の各章では、新しい経済の中で新しい価値観を生み出し、ビジネスを成功させるための思考回路について記している。
「問題解決のための論理的思考法」について、大前氏は次のように説明している。経営コンサルタントの仕事は、業界のデータや顧客である企業のデータを分析することから始まる。データを分析して出してくるものは仮説にすぎないのだが、日本のほとんどの経営者やビジネスマンは、その仮説を結論だと思いこんでしまう。重要なのは、「仮説」ではなく「結論」を導き出すことである。
「すべてに頑張れ」という考えは間違いだとして、「マーケットシェアが低い」という問題の場合、仮に「A社のマーケットシェアのカバー率は7割ある」「A社の入札時の競合勝率は2割である」ことがわかったとしよう。この場合、「カバー率は60%でいいから、競合勝率を50%に高める」ことを目標にすれば、今の倍以上の30%のシェアをとれることになる。このケースでは営業マンは、「足を棒にして歩くのはやめなさい。必ず勝てる提案書を書きなさい」である。
次に「本当の原因を探るフィールドインタービューの技術」「絶対に必要な検証のプロセス」「解決策にならない結論は、結論ではない」の項で、A社のケースでは、全国から競合勝率の高い「売れる」営業マンを指名して、他の営業マンのトレーニングをしてもらうのが最善の方法であるとの結論を導いている。価格設定では、売上高の結果得られる限界利益の総和が増すことを確認できれば、値引きを検討してもよい。
プレゼンテーションは全体として過不足なく起承転結ができていると同時に、必要条件と十分条件を満たしていなければならない。通常であればプレゼンテーションでは全体の結論を先に言うほうがよい。プレゼンテーションの構成では、最初のページで全体の結論を言った後に、次の順序で構成していく。・業界の動向、・競合他社の動き、・当社の状況分析、・改善機械のための条件、・解決の道、・提言、実行計画。
最後は提言に基づいた「実行計画」である。いつまでにやるのか。実行責任者は誰なのか。体制や組織、レポートの頻度、何を成果としてモニターしていくのか、この計画の成否を判断する条件は何か。
プレゼンテーションにおける論理構成の基本となるのが、ピラミット構成法(ピラミット・ストラクチャー)という論理構成法である。この手法のベースになっているのは、MECE(Mutually
Exclusive Collectively Exhaustive)という概念である。直訳すると「重なりがなく、漏れがない」。ピラミット・ストラクチャーでは、MECE的な考え方でそれを分類し、整理していく。そして、あるデータなり証拠からある結論が導き出されると、その結論はまた次の証拠に対するデータになる・・・という具合に積み上げていく。そうすると必ず結論は一つになっていく。
その際には次の五つのステップで行うと効率がよい。@データや事柄を分析・検討し、導き出された結論・主張をリストアップする。Aリストアップしたものを、類似テーマごとに分類してグループを作る。B同一グループ内での結論・主張を順序別に仕分ける。C同一レベルに共通した結論・主張を検証し、そこから導かれる結論・主張を一段上に位置づける。D以上の作業を繰り返して、すべての主張がピラミットを完成するまで繰り返す。
2.5年先のビジネスを読み解く
第6章では5年後の世界を見通すための思考回路では「機能分解」をしてから考えることだとして、「携帯電話が5年後にどうなっているか考えてきださい」という練習問題を与えている。こうした質問に思いつくままに答えようとする人は、論理的思考力ゼロ、先見性は皆無。先見性の思考回路を鍛えるための考え方のポイントは、まずそれがもつ機能を分解することだ。そしてそれぞれの機能が将来的にどうなっていくかを見通すのである。
携帯電話の将来については、電子財布としての機能、パソコンとしての機能、パソコンのI/O機器としての機能に分けて考察している。1)身分証明書とクレジットカードと支払い機能、プリペイドカードとオレンジカードが全部入った、電子財布の機能を突出させた携帯電話もありえると考えられる。2)フルパソコン化し、しかも音声認識・音声出力をするようになる。3)ホームサーバーからお好みの音楽をダウンロードでき、カメラ、CDプレーヤーも入ってしまう。
携帯電話は誰とでも話せるコミュニケーションのツールであると同時にiPodなどの機能がオールワンになった音楽や映像を楽しむエンターテイメント機器であり、かつ電子財布であるというのが、論理的思考に基づく推論の結果である。なお、自分で立てた仮説を実証するにはフィールドワークしかないと強調しており、本書の中でも考察している。
経営者の中には、神の啓示か何かのように「突然のひらめきがあった」などと、予言者的なことを言う人がいるが、後で成功の原因を分析すると、非常に論理的な「成功のパターン」が整っていることが多い。そのパターンには、次の四つの要件がある。@事業領域の定義が明確にされている、A現状の分析から将来の方向を推察し、因果関係について簡潔な論旨の仮説が立てられている、B自分のとるべき方向についていくつかの可能な選択肢があっても、どれか一つに集中する。C基本の仮定を忘れずに、状況がすべて変化した場合を除いて原則から外れない。
1.本書の構成
近年、技術経営(Management of Technology)が注目されている。その理由は、近年、我が国の製造業において、研究開発成果が事業につながっていないという問題意識から来ている。本書(技術経営入門、日経BP社発行)の著者藤末健三前東京大学助教授は、このような問題点が、以下のようなところから発生していると考えられるとしている。1)経営戦略がないか、あっても機能しておらず、そのため、技術戦略が機能していない、2)技術戦略がないため、社内で研究開発すべきテーマの選定や外部との技術提携などの技術ポートフォリオができていない、3)経営戦略や技術戦略が機能していないため、研究開発の評価基準や管理ルールが明確でない。
本書は7章から構成されている。第1章では、日本の製造業を取り巻く環境の変化と製造業における技術革新の重要性を説明している。第2章では、技術の将来予測及び技術での事業への展開といった技術経営論の全体的な枠組みを示す。第3章では、経営戦略とそれを支える技術戦略の基本的な考え方を述べている。
第4章では、技術革新がますます加速し、技術開発の不確実性が高まる競争環境の中で、企業がどのように技術を獲得し、事業化していくかという技術獲得戦略のフレームワークを紹介。第5章では、研究開発組織体系や人材管理手法、研究開発リーダーや技術担当役員(CTO)のあり方について、第6章と第7章で、研究開発プロジェクトの管理や評価の手法、品質管理手法、生産方法といった現場で使われる技術経営論について紹介している。ここでは、第2章、第3章と第4章で取り上げている代表的なキーワードを簡単に紹介したい。
2.技術展開論・技術予測論:技術の役割も製品のライフサイクルとともに変わっていく
技術経営論で重要な点は二つある。一つは真のユーザーニーズに対応した新しい技術をどのようにして予測・確保するかということ。もう一つは得られた技術を活用・展開し、いかに自社の競争優位を確立するかということである。前者については研究開発の戦略の分析手法、他社との連携戦略、研究開発の海外展開戦略などがあり、また、後者については、技術のライフサイクルに基づくコアテクノロジー確立の戦略、標準化戦略などがある。
(1)イノベーション・ライフサイクル:ライフサイクルは、「S字カーブ」となる。キー・テクノロジーを育てるには経営判断(技術戦略)が不可欠
フォスターはどのような技術でも、その開発の努力に見合うような成果がコンスタントに得られるわけではなく、限界がある、ということを「S字カーブ」という概念で示している。ここで技術の成果と研究開発累積額との関係は、1期から3期までのS字型のライフサイクルを描く。領域1は、技術の成果が明確でなく、投資をしても容易に技術成果が得られるとは限らない萌芽期のエマージング・テクノロジー(Emerging
Technology)。領域2の前期の技術をペーシング・テクノロジー(Pacing Technology)と呼び、将来の競争を変える可能性があり、戦略的な判断が必要となる。さらに領域2の後期になれば、完成されたレベルの技術であるキー・テクノロジー(Key)は事業を支える存在になり、その有無が企業の競争力を大きく決定するので、改善・改良を積み重ねることが研究開発の目標になる。成長も成熟して領域3のベース・テクノロジーは、投資をしても技術的な成果が生まれないので競争優位にはつながらないが、改良による生産性向上の競争優位がメインとなる。
(2)イノベーションのジレンマ:技術の老化に気づかないと他の技術に抜かれてしまう
イノベーション・ライフサイクルにおいては、技術開発が連続して起こり、既存の技術が成熟し、研究開発の投資効果が落ちてきて、後発の技術に追い抜かれ交代していく。また、ここで重要なことは、技術とともに主役も交代していることである。技術開発に先行し成功した企業は、その技術に固執し、技術の老化に気づかず、他の企業が開発した後発技術に追い抜かれてしまうケースが数多く見受けられる。
クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」で、技術を持続的技術(サステナブルテクノロジー)と破壊的技術(ディスラクティブテクノロジー)の二つに分類している。優良企業は、持続的イノベーションを乗り越える能力は持っているが、破壊的イノベーションに直面すると多くの場合業界でのリードを失うという。優良企業は優良顧客の意見に対応するため、破壊的イノベーションを取り入れるのに障害がある。
(3)事業のライフサイクル:ライフサイクルの段階ごとに必要となる技術が変わる
事業のライフサイクルを経営戦略に重点化して作られたフレームワークに「BCG(Boston Consulting Group)ダイヤモンド」があり、事業のステージは、創業期、成長期、優位性確立期、効率性追求期に区分される。そして、事業のライフサイクルの段階ごとに必要となる技術革新は、BCGダイヤモンドを技術(シーズ)と市場(ニーズ)の二つを軸として、プロダクトテクノロジー創造期、プロダクトテクノロジー改良期、プロセステクノロジー革新期、プロセステクノロジー改良機の、四つのステージをもつマトリックスで表される。
(4)コアテクノロジー:コアテクノロジーは企業にとって差別化の源泉、重要性が高い技術を強化することが必要
競合他社との差別化の手段として、社内に蓄積されたノウハウや技術を強化することがあげられるが、このとき、差別化の源泉となるのがコアテクノロジー(Core
Technology:中核的な技術)である。コアテクノロジーの構築には、?企業、事業が明確な経営・技術戦略および事業戦略を有すること、?競争に生き残ったテクノロジーであること、?研究開発を戦略的・長期的に継続していること。
何がコアテクノロジーかを分析するためのポートフォリオの例としては、経営戦略からみた技術の重要度と事業にとってのメリットのレベルから判断される「技術の重要性」と自社がもつ技術競争力や技術の新規性・独自性から判断される「技術の優位性」の二つを軸としたものがある。このマトリックスで、1)技術の重要性が低い二つの領域は縮小すべきであり、2)技術の重要性が高く、また、技術の優位性が高い技術の研究開発は、コアテクノロジーとして戦略的に重点化し、投資を拡大していく必要がある。3)技術の重要性は高いが、技術の優位性が低い場合は、今後技術の優位性を身に付け、コアテクノロジーとするために、より本格的に研究開発を加速化すること(または外部からの技術の獲得)が必要になる。
(5)ドミネントデザイン:ドミネントデザインの獲得が大きな
利益を生む
ドミナントデザインは、イノベーションの進展によりその製品市場の標準的な技術の地位を占めるものである。
3.経営戦略と技術戦略
(1)経営戦略と技術戦略:企業の独自性を確立するのが経営・技術戦略
経営理念・ビジョンは、企業の社会における役割や果たすべき使命を普遍的に示した企業の基本的な価値観の表明。経営理念は、「経営に関する企業の普遍的な価値観や信条」をいい、ビジョンとは、将来の特定の時期にあるべき企業の姿(市場シェア、地域的な展開、利益率など)を示すものであり、企業活動の目標を示すものである。
全社的な活動分野の選択と集中と経営資源配分を決定するのが経営戦略であり、技術戦略は、経営戦略の一部分をなすものであるが、企業全体の機能の戦略となる。この経営戦略・技術戦略で目指すものは、「自社のコア・コンピタンスやコアテクノロジーを柱とする事業活動の明確な展望」である。経営戦略や技術戦略は、「経営理念に基づき、ビジョンに到達するまでの道筋や手段を示すもの」であり、かつ、「企業の競争優位を確保するための基本的な枠組みを示すもの」である。
企業による技術の選択は、技術の範囲とリーダーシップの二つの次元から分類できる。アーサー・D・リトルによれば、二つの次元に基づいて、技術戦略は、次の四つのタイプに分類される。1)リーダーシップ戦略、2)ニッチ戦略、3)追従戦略、4)合理化戦略
(2)技術ロードマップ:重要性が増す技術ロードマップ
モトローラのCEO、ロバート・ガルビンは、技術ロードマップの定義を「技術ロードマップは、特定の分野における集められた知見と最高のイマジネーションといった変化の源から成る技術の拡大された将来像を見せるものである」と定義している。このように、技術ロードマップを作ることにより、技術の将来的な「拡大分野」つまり体系から抜けている技術やその技術の組み合わせによる「技術の利用の将来像」を見ることができるようになる。
特に技術が複雑になり、また、複合化した技術から製品やサービスが生まれる時代において技術の体系化は必要不可欠なものとなっている。技術ロードマップの主要な利益は、技術の体系化を図ることにより、どの技術を開発すべきか、どの技術が最も必要かを分析できるようになり、より最適な技術投資が可能となること。技術ロードマップの事例としては、技術の事業化目標を短期、中期、長期に分けて示している。
シャーラは、質の高い技術ロードマップを作るための重要要因を以下のように整理している。1)マネジメントの参加(組織のトップの参画、報償やインセンティブ)、2)技術ロードマップのマネージャーの役割(境界条件・対象とする技術範囲の設定、作業チームの組織化など)、3)参加者の幅の原則(既存の技術に限定されず、体系の高い目標に関係する技術にも広がる)、技術ロードマップの範囲の決定(現実的と重要の定義)
(3)経営環境分析:事業の強みと弱みを自己分析する
事業の比較優位性、ポジショニングに関する分析に、「SWOT分析」がある。これは、事業の強みと弱みを分析する手法で自社のStrength(強み)とWeakness(弱み)を分析し、外部環境からの自社への影響について、Opportunity(機会)とThreat(参入者の脅威)をつかみ出して分析するものである。
マイケル・E・ポーターは業界を「互いに代替可能な製品を作っている集団」と定義した。また、業界の構造を新規参入者(新規参入が容易な業界は競争が激しくなる)、競合他社、代替品(価格や機能に優れた代替品・サービスが出現する可能性が高いほど、業界の利益への圧力は強くなる)、売り手、買い手の五つの要因により規定した。
(4)事業ドメイン:ドメインの決め方が企業の運命を変える
事業ドメインは、企業全体の活動領域を定め、経営戦略の対象を定め、企業全体の経営の方向性の指針を与えるものである。ドメインの定め方としては、1)どのような顧客の(市場軸)、2)どのようなニーズに対して(機能軸)、3)どのような自社の技術に基づく製品(技術軸)をどう定義するかによって明らかにされる。特に、このなかで最近は機能軸によるドメインの定義が重視される場合が多い。例えば、警備保障から出発したセコムは、当初の「ガードマン事業」から「顧客の安全を守る事業」、そして最近では「顧客の安全と健康を守る事業」という形でドメインを再定義し、その事業を拡大している。
(5)競争戦略:戦略の基本は、機能品質の差別化、低価格化、市場の限定
ポーターが提案した三つの基本戦略は、1)コスト・リーダーシップ戦略、2)差別化戦略、3)集中戦略。コスト・リーダーシップ戦略は、既存市場への新規参入、マーケットシェアの急激な拡大等に使われる。差別化戦略は、機能や品質などが決め手となる製品・サービスに用いられる。集中戦略は、市場を細分化した狭い市場や他企業が見過ごしている目立たない市場(ニッチ市場)で優位に立つ戦略である。
(6)市場シェア拡大戦略:シェアを伸ばすには、市場における自社の位置を知る。事業の拡大には既存事業との相乗効果が重要
フィリップ・コトラーは、市場における企業の占める位置をシェアの大きさと競争力の質の高さによって、リーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーの四つのカテゴリーに区分して、それぞれの採るべき戦略を整理している。ニッチャーの戦略としては、他社がこのニッチ市場に参入できないようにするためには、独自の技術や独自の販路などの確立が必要となる。
製品市場戦略の分析において有名なモデルは、アンゾフのマトリックスといわれ、横軸に既存製品と新製品、縦軸に既存市場と新市場のマトリックスを作り、製品と市場の組み合わせにより四つの戦略に分類される。このマトリックスは非常に単純なものであるが、事業の拡張には、製品や市場といったこれまで蓄積された経験を利用しなければならないことを示唆している。
4.技術獲得戦略
(1)技術提携戦略:技術提携は既存事業との距離で分析
技術戦略での主要なテーマの一つは、外部の技術資源を利用して、いかに迅速に開発を進めるかということである。つまり、いかに技術の内部蓄積と、外部利用とのバランスを図るかが、大きなトピックとなっている。提携戦略の理論的枠組みとしてはロバーツとベリーの枠組みがよく知られる。横軸に技術の関連性、縦軸に市場の関連性をとったもので、技術も市場もより関連性が高いほど自社で開発すべきであり、関連性がなくなるにつれて、ジョイント・ベンチャー、企業買収などの戦略を採用すべきとするものである。
技術を獲得するには、さまざまな形態があるが、ライセンス、研究委託、共同研究、ジョイント・ベンチャー(JV)、マイノリティ・インベストメント(投資)、吸収合併が代表例として考えられる。
(2)ライセンシング:ライセンシングのメリットは、すでにある技術を入手できること
企業はライセンシングを受けることにあまり積極的ではない理由としては、第一に、技術の経済的価値について、売り手と買い手の間で、その見積もりに差異がある。第二にはライセンシングを得ることに付随してさまざまな制限条項が付く場合が多いことである。このような特徴をもったライセンシング戦略としてのメリットは、短期間に新技術を獲得、吸収できるという点である。デメリットとしては、場合により、非常に高価な買い物になるということであろう。
(3)研究委託と共同研究:研究委託は外部の資源を活用する有効な手段。異分野で行うと効果が高い共同研究
研究委託は、技術開発の一部を外部に委託することと定義できる。新製品の開発そのものより、その開発の限定された一部、あるいは非常に専門化された領域を委託する場合が多い。研究委託のメリットは、委託可能な分野は限定されるが、非常に素早く、また経済的にその開発目的を達成できることである。デメリットとしては、重要な内部技術情報が外部に漏れる可能性があること、新製品が成功したときの報酬分配が難しいこと等が考えられる。
共同研究とは、ある研究のプロジェクトを企業外部の組織と共同で行うことと定義できる。なお、ここで共同研究にはライバル企業が参加する政府主導型の共同研究は含まない。共同研究を外部技術獲得戦略として考えた場合のメリットとしては、異分野間での技術者の相互作用によってシナジー効果が得られる可能性があること、ライセンシングのような一時的に大きな財政支出がないことなどが考えられる。
(4)スピンオフベンチャー:これから重要性が増すスピンオフベンチャー
経済産業省の2000年の調査によると、我が国の上場企業の7割が成功した技術の事業化を断念した経験を有し、社内ベンチャー制度を使って技術を事業化している企業は全体の2%しかなかった。一方、アメリカを見ると大企業が起業家人材を供給している。第二次大戦以降、革新的技術の約5割がベンチャー企業から発生している。
1.構想力とは
この本「経営の構想力」(ローランド・ベルガー代表取締役兼CEOの西浦裕二著、東洋経済新報社発行)は、「構想」とは何か、「構想力」はどのように磨けばよいか、について経営の観点から検討している。執筆のきっかけとなったのは、大前研一氏が主宰するBBT(ビジネス・ブレーク・スルー)というCS放送局における対談シリーズ「経営者の構想力」であったとのことである。西浦氏は、「企業経営者、あるいはビジネスリーダーと呼ばれる人々の重要な要件の一つは「方向性を決めること」であるとし、その時に拠り所となるものとして、その人なりの「哲学」、「大局観」や「洞察力」、「現実に対する勝負勘」の三つをあげ、こうした「拠り所」をすべて総合して、「構想力」という概念を使っている。
西浦氏は、「構想」を生み出すために、「編集」という行為ないしは能力が、極めて重要な役割を果たすとし、「こうした「編集」は、「構想」を生み出すための前工程である。ここから実際に「構想」につながるためには、「創造的な飛躍」が頭脳のなかで行われなければならない。それは「化学反応」の結果生まれる思考エネルギーの爆発でもある」と指摘している。そして、思考の化学反応を起こすためには、いくつかの条件があると、「徹底して考え抜くこと」「明確な哲学と、それに裏打ちされた使命感が存在する」「異質な世界との交流」の三つの条件をあげている。
組織としての「構想力」について、日本の企業や研究所は、チームワークは大切にされてきた。しかし、狭い組織のなかでチームワークを大切にすると言うことと、オープンな環境のなかで、「知の格闘」を行う(ナレッジ・マネジメントの考え)こととは根本的に異なると述べている。ここで取り上げているナレッジ・マネジメントとは、基礎的情報の共有ではなく、様々な知恵や情報が、たんに共有化されるだけでなく、合成され、化学反応を起こし、新しい「知」の創造(供創)につながらなくてはならないと指摘している。
また、ナレッジ・マネジメントの成果がなかなか上げきれていない原因は、ナレッジ・マネジメントというものに対する三つの「誤解」があるからだ。第一は、「ナレッジとは何か」に対する誤解、第二の誤解は、「IT(情報技術)によりドキュメントを電子化すればよい」というもの、第三の誤解は、ナレッジ・マネジメントは「現場の知」の共有化を目指すものであり、経営者が関わるものではないというものだと述べている。
「ナレッジに関する誤解」に関しては、たんなる「情報」の共有化から、本当の意味の「知恵」の共有化に進み得るか否かにかかっている。「ITに関する誤解」に関しては、知恵が活発に流通し活用されて自己増殖していくためには、ITの整備だけでは無理である。組織のあり方、社内運動、知恵の編集等々において、「人間」の工夫が不可欠としている。「現場の知に関する誤解」に関しては、経営者は、「大局的な視点」あるいは「理念」を現場に投げかけることによって、知の生成が可能。また、経営者自身が「現場の知」から多くのことを学び、「経営の知」に昇華させることができるとしている。
2.ナレッジ・マネジメントにおける人間系の工夫
先に述べた「人間系の工夫」に関して西浦氏は、「組織の工夫」「知のマップづくり」「編集者の配置」の三つのキーワードをあげている。第一の「組織の工夫」は、異なる知恵がぶつかりあうような「場」をつくっていくことが必要と、カルロス・ゴーンによるCFT(クロス・ファンクショナル・チーム)や、シリコンバレーでの知のコミュニティを事例にあげている。第二の「知のマップづくり」では、「社員がすでに持っている専門知識の把握、競走すべき市場に参入するために必要な知識・能力の目録化、さらに今後開発されるべき知識の方向を示すのが、マップ化の意義である」と、「知識資産の経営」の著者である紺野登氏の発言を引用している。
「人間系の工夫」の第三は、「編集者の配置」である。構想につながる「化学反応」を促進するためには、「編集」という行為が前段において必ず必要となる。「知のマップづくり」も、暗黙知の交流が活発になることを目指した「編集作業」の一環なのであると指摘している。編集作業は、まず社内に存在するナレッジを発掘し、価値を見極めることから始まる。そのうえで、無秩序なものを秩序だてながら、「知のマップ」をつくる作業の音頭を取っていく。別の言い方をすれば、企業内の才能や知恵が交流し、化学反応が起きる「場」をつくり、運営することである。さらに、知恵を生み出す原動力となっているのは、一人一人が持っている「問題意識」ではなかろうか。この問題意識とは、既存の情報や知恵の大海から、新たな知恵を抽出するための「釣針」であるとして、経営者は、こうした「釣針」を、組織全体が、従業員一人ひとりが持つように仕掛けていかなければならないと指摘している。ここで指摘しているのは、経営としての考え方(理念やミッション)を組織全体に浸透させていく努力のことである。
前半で取り上げたリーダーが持つ構想力のまとめで、一人のリーダーが構想力を持つためには、「大局的な視点」と「現場の視点」の両方が必要だと述べているが、組織全体の構想力のまとめでも、「ナレッジ・マネジメントの仕組みにおいても、「大局的な視点」と「現場の視点」の融合が重要である」と強調している。
本書の最後で、ローランド・ベルガー行ったアンケート調査の結果が紹介されている。アンケート調査の質問内容は、@あるべきリーダー像を考えていくうえで、参考となる経営者は? Aビジネスリーダーに求められる要件は? そのなかでも、とりわけこれからますます重要になってくることは? B企業経営を行ううえで役に立った経験は? Cトップに就任するまでにやっておくべきこと、就任してから必ずやるべきことは?
参考までに紹介すると、リーダーに求められる要件の結果は、過去・現在・将来を問わず、「構想力」「コミュニケーション力」ならびに「インテグリティ」(誠実さ、公平さやリーダーとしての規範)の三つが大切であるというものであり、なかでも「構想力」が極立って多い。また、社会的価値や社会貢献の指摘も多い。「企業経営を行ううえで役に立った経験」では、「海外経験」「子会社・関連会社での体験」が圧倒的に多かった。最後の「トップに就任するまでにやっておくべきこと」として多かった指摘が「思考力・経営知識の修得」「社外とのネットワークづくり」である。また、「就任してからやるべきこと」で圧倒的に多かったのが「社内とのコミュニケーション」「ビジョン・方向性の提示」の二つであった。興味深い内容である。
1.国際競争力の分析
なぜ、日本企業は弱くなったのか。何をすれば、再び戦えるのか。スイスのビジネススクールIMDの調査では、93年まで、5年連続で首位を維持してきた日本の国際競争力は、2002年には30位まで低下している。この調査では、各種統計データの他、世界中の3000人規模の経営者、学者のアンケート調査も加えて集計した結果をもとに、49カ国でランキングを付けたもので、世界のイメージ上での凋落と理解できる。細部を見ると、科学技術では2位を維持している。他方で、「起業」では49カ国中48位、起業家精神は最下位の49位と低い。
また、ハーバート・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授は、「Can
Japan Compete?」(邦訳「日本の競争戦略」)で、競争力の源泉をオペレーション効率と経営戦略に分け、日本企業が優れていたオペレーション効率は模倣が容易であるからアメリカ企業に追いつかれたという議論を展開している。そして、日本企業の競争力の低下は経営戦略に問題があると指摘している。
この本(日本経済競争力の構想、安藤晴彦・元橋一之著、日本経済新聞社)は、経済産業研究所の「国際競争力研究会」をはじめとして、可能な限り、計量的裏付けをとって、日本企業に関するこのような議論の妥当性について、検証しようと試みたものである。膨大なデータ分析・企業調査から、日本の国際競争力低迷の現状・要因を解明。まったく新しい競争に打ち勝つ戦略コンセプトを明示している。
第1章から第5章は、国際競争力に関するデータを点検することから始まる。まず、IMDの国際競争力指標によって日本の競争力を総合的にレビューした上で、イノベーション活動、輸出競争力、生産性の動向といった国際競争力を論じる際に重要なチェックポイントごとに日本の実力を明らかにしている。さらに、「国際競争力研究会」におけるアンケート調査をベースにポーター・フレームワークに基づく競争力分析を行うとともに、「組織IQ」という新しいコンセプトとそのデータを基に「経営のスピート」を検証している。
第6章から第9章では、国際競争ルールの変化を見た上で、現代の国際競争を勝ち抜くためのいくつかのチェックポイントについて触れている。そこでは、1990年代の国際競争力の相対的低下は、新しい時代の競争キーワード、「モジュール」「ベンチャー」「技術ロードマップ」「技術マーケティング」「知識管理」への対応の遅れ(特に、変化とスピードへの遅れ)と、硬直的な組織体制・運営(閉塞自社一貫・垂直統合型、総花的横並び主義)による閉塞感が大きな要因であると指摘している。
研究開発活動と経済パホーマンスのギャップについては、OECD(経済協力開発機構)の分析によると、日本はOECD諸国の中で研究開発投資と生産性上昇の関係が極めて弱いとされている。TFT(全要素生産性)の伸び率の変化と研究開発費の対GDP比率の変化の関係を見ると、日本は、研究開発費比率は上昇したにもかかわらず、TFTの伸び率は低下している。このことから、80年代後半の日本における旺盛な技術投資のうち、技術ロードマップや技術マーケッティングを踏まえた戦略的なものはごく一部だったのではないかと指摘している。
国際競争力を議論する上で、最も重要な経済指標は生産性であるが、本書では、全要素生産性(TFP:総労働時間当たりの生産性を表す労働生産性に設備投資の影響を修正したもの)を用いて各国の生産性を比較している。日本の産業別TFPのレベルについて米国を100として比較した図(1995年時点)によると、自動車や電機機械等のいわゆる日本の代表的輸出産業については、TFTレベルが100を超えており、米国よりも生産性レベルが高い。これらの輸出産業と対照的なのが、サービス産業の生産性の低さである。運輸や通信については米国の半分強、電力に至っては約1/3となっている。
2.組織IQ・モジュール化・技術ロードマップ・技術マーケティング
一般的に、企業が経済環境の変化に対応していくためには、次の5つの要素がポイントとなる。@外部情報認識、A内部知識発信、B効果的な意志決定機構、C組織フォーカス、D目標化された知識創造。組織のパフォーマンスを表す組織IQの計測の際には、こうした5要素についての30問の質問を設け、3つの階層別(トップ層、ミドル層、現場)、さまざまな職能別(研究開発、マーケティング、製造、サポート、調達、営業)に、各々の企業あたりで約15人以上に配布・回収し、設問ごとの企業別平均点を算出した。それを同じ質問票によって測定したシリコンバレー企業のデータベースと比較し、順位を付け、―1から1まで(プラスが優る)均等にスコア化して、組織IQを算定する。
日本のハイテク企業全体(17事業部門)で見ると、シリコンバレー平均に比べて、情報調整系が相対的に劣っている一方で、資源調整系は優れている。情報活動の中でも、「知識共有」(内部知識)が著しく低い。組織横断的な活動が弱く、また組織学習が十分機能していないため、情報による資源や組織の活用のボトルネックになっている。一方、「組織フォーカス」と「知識創造」の両要素は、それぞれシリコンバレー平均に比べて、かなり高い。日本企業がチームとしてがんばるという伝統的「よさ」「強み」が表れている。
情報通信技術(ICT)を活用した「現代の新たな分業スタイル」である「モジュール化」が進んでいる分野では、総じて競争力が弱く、全社的チーム力・調整力が重要な「統合型」ものづくり産業(例えば自動車では、設計の一部分を変更しようとすると、すべてのことに関連してしまう)では日本の競争力は健在だった。
技術ロードマップの中で一番有名で中心に位置しているのが「ムーアの法則」である。92年に初めて半導体の共通ロードマップNTRS92が制定された。委員会での議論・検討を踏まえて、半導体製造にかかわるさまざまな装置・材料が満たすべきスペックが明示されるようになった。99年には日本を含む外国勢を取り込みITRSが国際共通マップとして制定・公表されている。
シリコンバレーの中核企業は、共通ロードマップに加え、独自の自社専用のロードマップを極秘で持ち、絶えず磨いて練り上げている。インテルなどトップ企業は、この技術ロードマップを大いに活用している。共通マップに加え、独自に自社専用詳細マップを作り、絶えず点検し、いつ頃、どんな技術的課題が発生し、そのために何が必要かを精密に「予測」し、経営戦略に転化する。
技術マーケティングは、ベンチャー企業がひしめくモジュール・クラスターでの戦い方の作法である。イノベーション競争の中で、どのプレーヤーが最先端を走っており、それを追い抜く可能性があるのはどのチームかを絶えず点検する。よい製品を出すベンチャー企業とアライアンスを組んだり、さらにはM&Aで企業ごとに買ってくる。最先端をいち早く知ることができれば、それを取り組んで自社の競争力強化につなげることが一つの重要戦略となる。
1.戦略的適合の視点
この本「経営戦略の論理」(伊丹敬之著、日本経済新聞社)は、いい戦略の多くが共通に満たしている「論理」を体系的にまとめたものである。そして、その論理をなるべく多くの企業の具体例とともに解説した本である。どんな戦略が、どのような理由で成功するかという戦略の論理は書いてあるが、戦略のつくり方のハウツウは書いていない。
この本で説明している戦略的適合の視点は大別して、@市場適合(市場の状況に適合したような戦略の内容になっているか)、Aインターフェース適合(戦略がビジネスシステムや技術を適切に作っているのか)、
B内部適合(企業内部の状況に適合したような戦略の内容になってい
るか)の三つになる。
市場適合は、市場の二大構成要素である顧客と競争相手ごとにさらに細分化(「顧客適合」と「競争適合」)して考えることができる。その市場での認知を直接的に勝ち取るための手段が、ここでいうビジネスシステムというインターフェース(「ビジネスシステム適合」)である。また、そのビジネスシステムを作り上げ、それを実際に運用し、そこにきちんとした製品を開発・生産して供給できるためには、企業が適切な技術をもっていなければならない。サービスの技術を含めて、技術(「技術適合」)こそがビジネスシステムを動かし市場で認められるためのエンジンである。
そうして重要なインターフェース適合を達成できるためには、たんにインターフェースを適切に作ろうとする戦略があるだけではだめで、その戦略をきちんと実行できるような資源と組織(「資源適用」と「組織適合」)を企業がもっている必要がある。資源や組織がきちんとあるかを問うばかりでなく、戦略が資源の蓄積を促したり、組織を燃え立たせたりすることができるような内容になっているかを問う必要もある。
適合、あるいはフィット、という言葉には、一見すると「相手に合わせる」という受動的なニュアンスが含まれている。しかし、この本では「適合」ということをたんに受動的に捉えるのではなく、次のような三つのレベルで考えている。第1のレベル:「受動的適合」(戦略が適合すべき相手方の現状や障壁を所与として、それに合わせる)、第2のレベル:「能動的適合」(その要因の自律的な変化へ対応していき、さらには能動的に望ましい方向へ変化させていく)、第3のレベル:「テコ的適合」(その要因の本質や変化を逆手にとってテコとして利用する戦略をもつ)。
2.顧客のニーズの束
経営戦略の原点は、顧客のニーズにある。顧客がある製品を買おうとするのは、その製品に何らかの価値を見いだしているからである。その価値への欲求を「ニーズ」と呼べば、顧客のニーズは多面的である。そうした多面的なニーズの全体を、「ニーズの束」と呼ぶと、顧客のニーズの束には、戦略をつくる際に決して忘れてはならない三つの本質がある。一つは、ニーズは「束」であるということである。第二の本質は、ニーズの軸が市場の空間軸の上でもあるいは時間軸の上でも、均質でないということである。顧客のニーズの束についての第三の本質は、ニーズには相互作用があるということである。
本書の第1章「顧客のニーズをとらえる」は、ニーズの「束を」を取り上げている。その束は、一般的には次のような四つの要因に分類できる。製品そのもの、価格、補助的サービス、ブランド。顧客のニーズへの対応が戦略の原点であるが、ニーズを「誰が知っているニーズか」「すでに供給があるのか」という観点から、三つのタイプに分類できる。a:すでに供給もある、潜在化しているニーズ、キーワードは「奪う」、b:顧客は感じているがまだだれも供給していない、潜在的なニーズ、キーワードは「知る」、c:顧客自身もまだ意識していない、未知のニーズ、キーワードは「掘り当てる」。
潜在的ニーズを「知る」という作業を戦略的に行うためには、いかにして情報を的確に集めるかということがカギになる。未知のニーズの発掘のためには、基本的には二つの方針がありうる。一つは、顧客の現実の製品使用行動の「徹底観察」である。第二は、顧客に実際に新製品を提供してみて、それが未知のニーズに合っているかどうかを確かめるという、「試行実験」である。「徹底観察」のカギは「徹底」にある。顧客に言葉で説明してもらうと、そこにはすでに情報の歪みが生まれてしまう危険があるからである。開発者自身がそうした徹底観察を自分の目で行うことがカギになってくる。「試行実験」については、「提案を撃ち続けてニーズを射止めたい」というのである。
1.二つの営業部隊
経済ジャーナリストの財部誠一書、PHP研究所発行の本書は、「組織はいかにすれば生まれ変わるか」との副題にあるように、「事業部制」を解体し、各事業部から「営業」の機能をすべて奪い取り、それらを二つの巨大な営業部隊に統合した話を中心とした、松下電器の創造と改革の物語である。この二つの営業部隊とは、AV商品を扱うパナソニックマーケティング本部(PM本部)と白物家電を扱うナショナルマーケティング本部(NM本部)である。
2004年2月号の「フォーブス」は、アジア最高の経営者として松下電器産業社長の中村邦夫を選び、大々的な松下特集を展開した。特集記事のタイトルは「カメがウサギを飛び越えた」、松下電器をカメに、そして、ソニーをウサギになぞらえた。DVDレコーダーやデジタルテレビ、さらには新型のドラム型洗濯機など、十数年ぶりの大ヒットを連発し、松下電器のV字回復を強烈に印象付けるものとなったのに対し、ソニーは中間決算の発表会において「リバイバルプラン」を明らかにせざるを得なかった。財部氏は、今回の松下とソニーの明暗には重大な示唆があるとしている。松下は、日本国内でのモノ作りに執着した。松下の社内では、それを「ブラックボックス・ものづくり」、「超・製造業」と呼ぶようになった。
財部氏は、「組織の改革は「リストラ」に象徴されるような、単純な組織のスリム化では絶対に達成できない」、「間断なく、連続的にヒット商品を生み出していくには、創造的な仕事を阻む組織上の欠陥を取り除き、「創造し革新しよう」という潜在的なエネルギーを解き放ってやる以外にない」として、「創造し革新しよう」という人々の能力を発揮させる組織とないかなるものかを本書の中で明らかにしようとしている。
松下電器のおびただしい「破壊と創造」の改革劇のなかで、とりわけ注目すべきは「事業部制の解体である。事業部制廃止に合わせて、「開発の論理」から「営業の論理」へとパラダイムを180度転換させたところに、重大な秘密が隠されている。製品ごとの小さな単位で管理する松下の事業部制は、責任と権限が明確になり、効率のいい経営ができるということで、日本の製造業のお手本になった。ところが時代の変化のなかで、事業部制はそのメリットよりもむしろ弊害ばかりが目立つようになってきた。なかでももっとも悪しき弊害は、「開発の論理」が強すぎるあまり、結果として「営業の論理」が引っ込んでしまうことだった。
マーケット無視の論理ばかりが先行し、「開発は開発現場に任せておけばいい」という“論理の倒錯”が日常化してしまった独立王国にメスを入れるにあたり、社長の中村邦夫は各事業部から「営業」の機能をすべて奪い取り、それらを二つの巨大な営業部隊に統合した。AV商品を扱うパナソニックマーケティング本部(PM本部)と白物家電を扱うナショナルマーケティング本部(NM本部)である。そして中村は、この二つのマッケティング本部に強大な責任と権限を与えたのである。
「宣伝・パブリシティー・商品企画・営業施策・価格施策、そしてウエブサイトのデザイン・コントロールまで、すべてここで決めます」と、PM本部長の牛丸俊三は強烈な自負を持っている。だが、「権限」は常に「責任」との裏返しである。マッケティング本部の権限を担保するのは、「買い取り制」という究極の責任だ。社長の中村は、二つの本部のリーダーの条件を、「海外営業で成功体験を築いた人間にしか、この仕事はできない」と決めていた。また、組織の若返りと「フラット化」にこだわった。マーケティング本部の主力は30代だ。プラズマテレビの担当者は32歳、彼は上司である本部長の牛丸に報告、牛丸はダイレクトに社長の中村と副社長の戸田一雄につながる。しかも中村と牛丸との連絡・報告は携帯メールで行われている。
2.三つの開発ものがたり
本書の第3章は「成熟市場を成長市場に」と題して、松下が03年12月に発売した洗濯乾燥機を取り上げている。「Lab」と呼ばれるその洗濯機は、「ドラム式」だ。洗濯槽が斜め30度に傾いたドラム式なので、洗濯機を入れる際に、従来型のように腰を屈める必要もないというメリットもさることながら、デザイン性の高さで圧倒的な存在感を発揮した。欧米市場を見据えながら、なおかつ、水を節約できるドラム式で先行する三洋以上の価格で売れるような付加価値の高い洗濯機はないのか、会議の席で事業部の開発責任者が提案したのがLabの原型だった。
第4章の「「VIErA」サプライズ」は、プラズマディスプレイとテレビチューナーとを一体化した薄型テレビの開発物語だ。PM本部と開発現場とのあいだで、商品企画をめぐって激論が続いたが、そこで、PM本部の担当者の助川が提案したのは、「地上デジタルチューナーを入れ込みましょう」というものだった。それまでは「プラズマテレビ」といっても、薄いのはパネルだけで、VTRのような大きな箱型のチューナーを別に置かなければならなかった。「VIErA」の発売に当たっては、「13機種同時発売」「用意周到にタイミングを演出した三つの山場」により、発売2週間で売れ筋ナンバーワンになった。
第5章の「DVD戦線異状あり」は、松下のDVD開発競争物語である。ダビング速度でパイオニアに出し抜かれた02年の年末から、わずか2ヶ月のあいだに、PM本部の担当者の石原は設計変更を要求し、03年3月1日に{DIGA}が売り出され、松下はDVDレコーダーの国内市場でシェア40%を獲得した。BUを説得した石原の手法は、マーケットで起こっている事実を淡々と積み上げていくことだった。PM本部は、全国の量販店を回っている営業マンの生の声が集まってくるシステム(マーケティング・リサーチ・システム)を構築している。PM本部が必要な情報の提供を促すと、短時間のあいだに、量販店を回っている全国のセールスマンから情報が上がってくる仕組みである。
DVDレコーダーという新しい録画媒体を世の中に認知させ、松下製品へ消費者を誘うために、商品にバラエティを持たせて提案していこうというコンセプトがPM本部ではできていた。なかでも「DIGA」を大ヒット商品へと押し上げたトップモデルは、「DVDとVHSビデオの両方が楽しめる「DMR―E70」だった。ハードデスクとDVDが一体となったモデルの売れ行きも好調だが、松下は03年7月にはダビングスピートでパイオニアに追いついた。これは、発売5ヶ月前の大幅な設計変更だった。
第7章「中村改革の本質」の最後で、財部氏は松下幸之助の言葉を引用して、次のように結んでいる。「私は60年にわたって事業経営に携わってきた。そして、その体験を通じて感じるのは経営理念というモノの大切さである。いいかえれば“この会社は何のために存在しているのか。この経営をどういう目的で、またどのようなやり方で行っていくのか”という点について、しっかりとした基本の考え方を持つと言うことである」その答えを、中村は「超・製造業」と表現したのである。
1.ゼロのつぎ
第2次世界大戦で活躍した「ゼロ戦」。日本は戦前、飛行機も航空隊も、驚くべき高度成長をとげた。それが「ゼロ戦」の大活躍で開花するわけだが、その後、後継機はでないし、航空隊はどんどん消耗して弱くなつてしまう。どうしてそうなってしまったのかについて、小室直樹氏はその著書「日本の敗因」の中で次のように語っている。
大東亜戦争の展開を考えるとき、私はいつも「ゼロ戦」に思いが至る。ゼロ戦の後継機開発が早い時期に実現していたら。ゼロ戦が別のエンジンの搭載を前提に設計されていたら(ゼロ戦には、875馬力の「瑞星」エンジンが採用されたが、エンジンについては、生みの親である堀越技師が使いたかったという1070馬力の「金星」というもう一つの選択肢があった)。ゼロ戦の量産が、もう一年、早く始まっていたら。後継機開発が早い時期に実現していたら、歴史は確実に違ったものになっていた。
現実には、ゼロ戦の後継機は現れなかった。小室氏は、後継機が実現しなかった原因として、技師不足と海軍に「戦闘機無用論」が根強よかったことをあげている。堀越二郎は、上層部からゼロ戦を改良しろといわれたり、局地戦闘機「雷電」を作れといわれたりするなかで、心身ともに憔悴し、肋膜炎で寝込んでしまう。もし、指導者たちが、ゼロ戦の本当の力に気づき、制空権という考え方を真に理解していたら、ゼロ戦の使い方、後継機への力の入れ方は、まったく違ったものになっていたはずだと指摘している。
実はゼロ戦の後継機があった。それは後に烈風と呼ばれた機体で、しかもゼロ戦が制式決定された翌年の1941年(昭和16年)に三菱に内示された。堀越二郎が雷電を開発中で手が抜けなかったので、昭和17年4月から検討に入った。ところが、ここで日本海軍の用兵者が二つのよけいな注文をつけてしまった。一つは翼面荷重の制限で130kg/m2を要求した。その二の注文事項は中島飛行機の誉れエンジンを使えということである(佐貫亦男氏「発想の航空史」)。
ゼロ戦の開発で問題となった「金星」か「瑞星」かの紛糾が、ゼロ戦の次期戦闘機「烈風」の開発でも繰り返されることになった。堀越技師は三菱が当時試行中であったMK9Aを予定していたが、頑迷な海軍首脳は出力不足の「誉」エンジンを指定したのであった。烈風の原型試飛行は内示から満2年経過した1944年4月になって行われた。試験飛行にはいると、予想したとおり誉れエンジンは出力不足の上に故障が頻発した。その後、MK9Aを装備すると、烈風は生まれ変わったようにしゃんとして最大速度、上昇時間をほとんど満足させた。しかし、すでに手遅れであった。紆余屈曲のすえ、烈風は戦争に間に合わなかった。
2.無責任体制
小室氏はこの著書で、「敗因」は腐朽官僚制にありとして、真珠湾奇襲における外務官僚の怠慢・無知、「年功序列」で任用された連合艦隊幹部の愚行、「大和」「武蔵」の建造にみる戦争無知と怠慢、などをあげて、欧米の政局に疎かった日本の政治家と脈々と受け継がれている「高級官僚無責任体制」を紹介している。そして、「日本を経済大国にのし上げた日本型システムが、今も通用すると思ったところに経済敗因の原因がある」と、現在も続いている無能な秀才が国を動かす恐ろしさを論じている。
さて、先の参議院選挙では自民党が縮小し、民社党が躍進したが、この選挙の最大の争点は年金問題であった。年金制度の実施庁である社会保険庁の事業運営のあり方についても様々な問題点が指摘され、その改革に早急に取り組むことが重要な課題になっている。そこで総理が指示した改革は、民間((株)損保ジャパン代表取締役副社長)からの社会保険庁長官の起用、民間スタッフ(顧問・アドバイザー)の参画を得て新長官を支える体制の整備、などである。
この提案を否定するわけではないが、日本の年金問題は、一担当庁に民間人を送り込んだらすむという問題ではない。そもそも、日本の年代別人口分布の変化により年金財政の収支バランスが大幅に悪化してきており、若い世代にとって現行制度の国民年金は魅力がなくなってきている。これが、国民が年金を払わなくなってきている背景である。基本的な基礎年金は何らかの全国民拠出方式にしなければ、財政計画が成り立たなくなってきている。社会保険庁の年金無駄遣いは犯罪行為といえようが、これだけなくせば解決するというような問題ではない。
与野党が国民不在で足の引っ張り合いをし、「税金方式にすると必要な税額が幾らに増えるかわからず、現実的ではない」「国民年金の一本化は多くの課題があるので容易には実現できない。とりあえずは現行制度での収支バランスの見直しをしたい。」「議員年金の廃止には関係者の異論も多い」「社員もいろいろ、会社もいろいろ」などと、人ごとのように言っていればすむことではない。それぞれの方式を選んだ場合の、定量的なデータを国民に明示し、どの方式が公平で信頼される制度なのか、冷静な議論をして、最終的な判断は国民にまかせればよいことであろう。
このような重要な課題を今まで先送りしてきた、小室氏が指摘する「高級官僚無責任制度」は、中国の科挙を手本にしたペーパーによる高級官僚の公募制度と、その後の年功序列制度から成り立っている。科挙は、無一文の人でも、才能と努力さえあれば、一国を動かすことができる立場になれるということで最高の制度であった。ところが、受験勉強だけが得意な高級官僚が生まれてしまい、自由な発想で企画を立案したり、状況に応じて臨機応変に判断できる人材が育たない。
もちろん、ペーパーテストができる人間がみな、企画、状況判断や実行力に劣っているというわけではなく、優れている人も少なくないであろう。しかし、人間を一定時期にペーパーテストで評価して、あとはその選ばれた人種の間で年功序列により昇進させるという、民間では従来の銀行以外ではほとんど採用されてこなかった官僚の任用制度をなぜいつまでも続けなければならないのか。実績の評価と結果責任を明確にして、この日本特有の官僚制度そのものを抜本的に改革しなくては、国際社会の中で日本は勝ち残れない。
1.ケース・メソッド
山根節慶応義塾大学ビジネススクール教授と山田英夫早稲田大学ビジネススクール教授共著であるこの本(日経で学ぶ「経営戦略の考え方」、日本経済新聞社発行)は、日本経済新聞の記事をケース・メソッドのケースに見立て、自ら考えながら読み進むことができるように構成を工夫した経営戦略の学習書である。事例をベースに論理的かつ体系的に考えることを読者に要求している。
ビジネス教育では、実務家や学者が、経験や理論をベースに一方通行で話すレクチャー方式が多かったが、経営教育については、レクチャー方式の有効性はあまり高いとはいえない。経営の場面はすべて異なるので、理論を覚えたとしても、わからないことのほうが圧倒的に多い。経営センスを身につけるには、経営の場面に身を置いて、自ら考え、自ら結論を出す“実習”が必要なのであるが、実際には、誰もが実践の場で実習できるわけではない。そこでバーチャルではあるが、実践に使い経営能力を鍛錬する方法として開発されたのが、ケース・メソッドである。
ケース・メソッドでは、企業事例をコンパクトにまとめた「ケース」が事前に提供される。参加者はケースを事前に読み、自分の考えをまとめ、グループやクラスに参加し討議する。
本書で著者は、優れた経営戦略をデザインするための条件として、計画性、整合性、目的性、重点性、大局性の五つの条件を満たすことであると考えている。各章をこの五つの項目に分けて、ケース・メソットを紹介している。
プロローグの「ケース・メソットと本書の読み進め方」で、ビジネススクールは出来合いの理論を受け売りで覚える場ではない。「経営を考え抜く」「意思決定を訓練する」場所と捉えている。「自分で考え」「自分なりの答えを導き出す」訓練の場である。“Know―How”の場ではなく“Know−Why”を考える場であり、意思決定の訓練期間である。
本書では、新聞記事の場面の当事者になったつもりで、まずケースをじっくり読んでほしい。設問を一応用意してあるが、それについて自分なりの結論を出すようにしてほしい。ケース・メソッドは与えられた情報の範囲内で、分析・意思決定することを原則としている。したがって、この新聞記事(および「業界になじみのない方へ」)の範囲内で考えて欲しい。さらに本書は、「一人で読むだけでなく、何人かが集まって行なわれる勉強会にも適していると思われる」と、グループ討議の重要性を指摘している。
2.事例
第T章の計画性を見るでは、「ブラザー◎デジタル化が変えるビジネスモデル「もうミシンと呼ばないで」」が紹介されている。成熟したとみられた家庭用ミシンがITと融合、新たな需要を喚起している。パソコンやデジタルカメラ、インターネットから画像を取り込み、刺しゅうができる。花嫁道具からデジタル機器に進化、ソフトウエアでも稼ぐ。ビジネスモデルはゲーム機だ。
ブラザー工業が発売したソーイングステーション「INNOVIS」。専用のソフトを使えば、デジタルカメラで撮影した映像やスキャナーで取り込んだ画像をパソコン上で刺しゅう用の縫製データに変換できる。刺しゅうデータは模様を運針や布送りの距離・方向などのデータに変換し、メモリカードに記憶しミシンの側面に直接差し込んで読み込む。1980年代以降、運針や布送りはカムを用いた機械的制御からマイコンによる電子制御に移行しており、刺しゅう機能はこの制御を応用した。
家庭用ミシンの世界出荷台数は2002年度で約五百万台とみられ、15年前とほぼ同じ、だがブラザーや蛇の目ミシン工業の出荷台数はそれぞれ2倍近くに伸びた。特に1999年に米大手メーカーのシンガーが経営破たんして以降、米国での市場地図が大きく塗り変わった。米国での顧客は50歳以上の女性が主。インターネットのホームページ上で自作の刺しゅうやキルト作品を披露したり、刺しゅうデータを作成してダウンロードできるようにしている。ブラザーの刺しゅう編集ソフトの売上げは年鑑1万個と日本の約10倍。
足元の日本市場は顧客離れや特約店・販売店の疲弊で、「パソコンでソフトを使いこなせる層に製品を紹介できなかった」。このためブラザーは販売戦略を抜本的に見直した。20歳代の女性向けに女性誌で広告を展開し、パソコンと組み合わせて使うことをアピールする。米国で成功したキャラクター戦略も強化し、子供を持つ30歳代前後の母親を取り込む戦略だ。刺しゅうミシンのデザイン性にも着目した。
さて、このテーマの設問は、Q1:アナログ機器がデジタル化すると、競争はどのような変化があるのでしょうか。Q2:デジタルミシンを普及させるには、どのようにしたらよいのでしょうか。Q3:デジタル化されたミシンで、どのように利益を上げるモデルを作っていけばよいのでしょうか。
ケースの後には、この設問に対する分析が書かれているが、この分析を読む前に、まずケースをじっくり読んで考え、問題意識を究めることが大切である。まず設問について自分なりの結論を出し、その後筆者の分析と比較しながら、読者間で鋭い意見交換が行なわれれば、学習効果が高まると思われる。
1.ビジネス・エコノミクスとは
経済の現場を見ていると、面白い現象を目にすることや興味深い話を聞くことも多い。なぜかそうした面白い話の背後には、かならず経済学的な論理がある。そうした事例を整理して、ビジネス・エコノミクスという形で論理の筋を通した書籍をまとめたいと考えたのが、東京大学大学院経済学研究科教授の伊藤元重氏が本書(ビジネス・エコノミクス、日本経済新聞社発行)執筆の理由とのことである。
本書は、序章「ビジネス・エコノミクスとは」、第2章「価格戦略と儲けのしくみ」、第3章「価格からビジネスの構造が見える」、第4章「市場メカニズムを活用する」、第5章「エイジェンシーの理論」、第6章「ビジネスは「ゲーム」だ」、第7章「経済学で競争戦略を解剖する」、第8章「デジタル革命は何を変えたか」、第9章「ビジネスは世界に広がる」、終章「ビジネス環境は変わり続ける」から構成されている。
序章では、ビジネス・エコノミクスについて概観しており、序章を読めば、本書で何が取り上げられているのかを理解することができる。18世紀の経済であれば、「市場経済論」という切り口で、市場の構造や価格形成の話をするだけですんだが、21世紀初頭の現在、経済の話をしようとするなら、企業行動やビジネス活動抜きには語れない。ビジネスの現場で起きていることは、経済についての理解を深めてもらうための格好の素材である。
ビジネスを扱う学問として経営学がある。経営学は企業経営全般について扱うものなので、経済学だけでなく、心理学、社会学、統計学など、さまざまな学問分野の手法を取り入れている。本書では、あえて経済学的な考え方にこだわっている。たとえば、薬局がどのように薬を売っているのか、メーカーのマーケティング戦略がどう変化しているのか、なぜディスカウンターが出てくるのか、こうした問題を考えようとすれば、個別企業の行動だけを見たのでは分からない。流通の構造を理解し、その背後にある経済的メカニズムを明らかにしなくてはいけないのだ。また、流通の現場で起きている現象をエイジェンシーの理論という経済分析の手法を利用して分析すれば、その現象が金融や雇用の世界で起きていることと共通性を持っていることが分かる。
伝統的なミクロ理論(価格理論とも呼ばれる)は、古くからある経済学の理論ではあるが、意外と役立つ。そうした伝統的な価格理論は、さまざまな企業の価格の問題に深く切り込むことができる。百貨店の伊勢丹が展開する「アイカード」の戦略、東京ディズニーランドの価格設定から自動車や化粧品の製品ラインの価格付けまで、第2章から第4章までさまざまなケースを使って価格についての分析を行なっている。
ビジネスの世界の諸々の現象を分析する上では、近年になって急速な発展を遂げてきた不完全情報の経済学(第5章)が非常に有効である。情報の経済学は、モラルハザードと逆選択(アドバース・セレクション)の二つのキーワードを原点に、さまざまな経済現象を解明するために利用されてきた。情報の経済学の枠組みの中で、企業や市場での経済組織を分析するために、エイジェンシー理論というものがある。エイジェンシーとは代理人契約ということであり、依頼人と代理人の関係として、経済関係を分析しようというものである。
この本で取り上げるもう一つの重要な分析手法は、「ゲームの理論」だ。第6章でゲーム理論的な枠組みを利用してビジネスのさまざまなケースについて考察している。「なぜイオンは郊外を中心に店舗展開していくのか」「なぜ松下電器はマネシタ電器と言われながらも成長してきたのか」――こうした現象は、ゲーム理論を利用すると分かりやすい。オークションや企業買収の問題からカルテルの形成や取引相手との交渉の仕方まで、ゲーム理論は実に多くの問題に利用することが可能なのだ。
第7章では、ハーバート大学ビジネススクールのマイケル・ポーター教授の経営戦略論を出発点として、企業の経営戦略について経済的な分析を展開した。ポーターのフレームワークでは、基本的に企業の競争条件を規定するものとして五つの要件がある。これらの要件は、1)新規参入の可能性、2)サプライヤー(部品や原材料の供給業者)の競争力、3)顧客(買い手)の交渉力、4)他産業の中にいる代換的な財・サービス、5)同業者との競争――の五つである。
ここでは、経済学の産業組織論で議論される諸々の現象、たとえば参入阻止行動、規模の経済性や経験効果、ブランド戦略、製品多様化などが取り上げられている。経済学の世界では、この30年ほどの間に企業や産業の理論が急速に発展している。先に上げたゲーム理論や不完全情報の経済理論の発展が、企業や産業の分析にも大きな影響を及ぼしているのだ。第7章の分析などでも、そうした新しい展開を、可能な範囲で取り組むように配慮している。
2.技術革新と国境を越えて広がるビジネス
第8章ではデジタル革命・IT革命という技術革新が、ビジネスの世界をどのように変えようとしているかを取り上げている。技術革新の大きな波は、NTTのような既存勢力の企業にとっても、時代にあったビジネスを展開するかぎりは大きなチャンスを与えてくれるものでもある。携帯電話は、通話の手段としてだけでなく、メールやデータのやり取り、電子マネー、個人認証、位置情報提供など、多様な機能を兼ね備えようとしている。携帯電話やICタグなどによって実現するユビキタス社会は、私たちの日常生活を変えようとしている。
第8章では、「補完と代替」という経済学の基本概念を利用して、デジタル革命が既存のビジネスに及ぼす影響について分析している。そこでの基本的な考え方は、ITにできないこと、すなわちITと補完的な機能を磨くということだ。この章ではコンビニの情報化戦略を取り上げているが、こうした補完関係の視点から見ると面白い。すなわち、IT革命によって情報化が進展したとき、インターネットなどIT関連の技術に代替される機能しか持っていない企業や産業は淘汰されてしまうだろう。しかし、ITにできない機能を持っているビジネスは、ITとの補完性でシナジーを発揮できるのだ。
第9章では、ビジネスのグローバルな側面を扱っているが、この章でも多くのケースを取り上げている。自動車メーカーがアメリカに出ていった経緯、家電メーカーがダンピング訴訟にどう対応したのかといった問題などは、貿易摩擦に対する日本企業の対応を知る上で有益である。
1.企業や個々の経営者の役割
「ビジネスモデルを賛美する評論家たち」の序章ではじまるこの本(木村剛著、ダイヤモンド社発行)は、「デフレで需要不足だから企業は儲けようがない。だから財政を大々的出動するしかない」という論調を流してきた無責任な評論家たち――本書では「評論家エコノミストと総称している――が展開するマクロ経済学に反論し、ミクロ経済の重要性を主張している。また、多くの評論家エコノミストが主張している、「新しいビジネスモデルを確立することが成功の鍵だ」などという言説が、経営者としての筆者の実感とは乖離した経営談義であるとし、「ビジネスモデルでは商売できない」ということ証明しようと試みている。
世の中で「ビジネスモデル」として崇められているものは、伝統的な「経営戦略論」の上に、トッピングとして「その企業にしかできない特殊なもの(その企業の特性もしくはコアコンピタンス=競争力の源泉)」をあてはめるという形式になっているものが多い。業界分析、自社のポジショニング、競合他社の分析、ポジションの検討、オプションの創造、自社の能力の評価、戦略の選択、という7段階の分析と検討をこなすことが「経営戦略を策定することだ」が、これらの戦略策定プロセスは間違いなく役に立つ。その意味で「経営戦略」には意味があるし、「経営戦略論」をベースにした「ビジネスモデル」は確かに経営の役に立つ。だからこそ、「コンサルティング」というビジネスも成り立っている。
しかし、そのことは同時に「役に立つ」以上の存在ではないことも意味している。これらのテクニックは、真の意味で、「ビジネスを成功させる決め手」にはなり得ない。「役に立つ」という意味合いと「ビジネスを成功させる」という現実の間にはとてつもなく大きな距離が残されているので、「新しいビジネスモデルを確立することが成功の鍵」というコメントは完全なミスリーディングなのだと、木村氏は強調している。
そして、日本経済を語る際には、もっと個々の企業や個々の経営者の役割を重視したうえで、「経済」を眺めるべきではないだろうか。経営者や企業の役割をクローズアップしながら、「経済」のメカニズムを思索することはできないだろうかと指摘している。本書は、筆者が10人の経営者たち(京セラの稲盛名誉会長、キッコーマンの茂木社長、オリックスの宮内会長、信越化学工業の金川社長、森ビルの森社長、HISの澤田秀雄社長など)に、「経営とは何か」「経営を動かす力とは何か」「経営を成功させるための秘訣は何か」という点についてインタビューしながら、「戦略経営の発想法」を見極めようという試みをスタートさせ、その結果を取りまとめたものである。
第1章の「評論家エコノミストに日本経済は救えない」では、ピーター・ドラッカーやジョゼフ・シュンペーター、マイケル・ポーター/竹内弘高の著書を引用して、ケイジアン的なマクロ経済学を批判している。ドラッカーは、「ミクロ経済はマクロ経済に大きな影響を与える」「今日の経済政策は、政府の政策と、あらゆる種類の集団戸個人の行動が互いに絡み合う今日の経済において、ほとんど力を発揮し得ない」と言っており、シュンペーターは、「資本主義の本質的事実は「創造的破壊」であると喝破した。
そして木村氏の見解は、「堅実なマクロ経済政策や、反映した政治体制や法体制等は、経済繁栄の潜在的成長力を規定する要因にはなる」としながらも、「日本が抱える真の問題は競争に直接関わるミクロ経済に存在するのであって、史上最大規模といわれるマクロ経済的な景気刺激策をいくら打ち出したところで解決される問題ではない。生産性向上のための土台となるのは、相互に関連しあう二つのミクロ経済的要因である。一つは企業のオペレーションや戦略の高度化を図ることであり、もう一つはミクロ経済的なビジネス環境の質を向上させることである」(マイケル・ポーター/竹内弘高「日本の競争戦略」)という、竹内弘高氏たちの考え方に近いとしている。
2.「戦略経営の発想法」としての十大法則
本書では、ところところで、ピーター・ドラッカーの箴言(戒めの言葉)を「ドラッカーの法則」としてピックアップしており、9個の「ドラッカーの法則」に「ビジネスモデルは後知恵である」という命題と加えた10個の法則を「戦略経営の発想法」としての十大法則としてあげている。経営の本質を書き綴ることを目的として執筆した著者の思いこの法則の中に言い表されているので、最後に引用しておきたい。
ドラッカーの第1法則
・利益は、企業や企業活動にとって、目的でなく条件である。
ドラッカーの第2法則
・市場をつくるのは、神や自然や経済的な力ではなく企業である。
ドラッカーの第3法則
・市場調査や顧客調査による予測が的中することはない。
ドラッカーの第4法則
・確実なもの、リスクのないもの、失敗しようのないものは、必ず失敗する。
ドラッカーの第5法則
・全人的な献身と信念がないかぎり、必要な努力も持続するはずがない。
ドラッカーの第6法則
・財務金融の人間に事業を理解してもらうことは不可能に近い。
ドラッカーの第7法則
・変化の先頭にたたないかぎり、生き残ることはできない。
ドラッカーの第8法則
・経済的な成果は、人間によって実現されるのである。
ドラッカーの第9法則
・意味があったのは、才能ではなく、勇気であった。
ビジネスモデルの法則
・ビジネスモデルは、後知恵である。
1.エバーグリーンプロジェクト
筆者たちがエバーグリーンとよぶプロジェクトは、“永遠に色あせない”ビジネスの成功の手がかりを、統計的に厳密に調査しようとする初めての試みである。50人以上の第一線の学者、コンサルタントが、一般に認められているリサーチ・ツールと手続きを用い、何十という企業の実践を、10年間(1986年〜1996年)にわたって調査し、照らし合わせ、分析してきた。その結果から導き出されたのが4+2の理論であり、この本(ウイリアム・ジョイス、ニティン・ノーリア、ブルース・ロバーソン著、渡会圭子訳、ソフトバンク・パブリッシング発行)の中心となっているテーマである。
著者たちは、株主総利益(TRS)に直接関わる八つのマネジメント要件を特定した。そのうちの四つが必須条件、残りの四つが補助要件である。そして成功している企業は四つの必須要件すべて、さらに補助要件のうち二つを高いレベルで満たしていることがわかった。不調の企業はこの条件を満たしていなかった。4+2という名称も、そこからきている。
最初の企業リストから詳細な調査対象として160社を選び、それらをグループ分けした。各グループは、細かく40に分けられた各業界を代表する。10年たつと会社は違う方向に発展を遂げる。10年を5年ずつ二期に分けて見ると、はっきりとした違いが現れたので、各業界の4社を勝ち型、上昇型、下降型、そして負け型の、四つのアーキタイプに分類した。上昇型は前半では遅れをとっているものの、後半で巻き返している。逆に下降型は、前半で他社を上回りながら、後半で伸び悩んでいる。
このプロジェクトの特徴は、勝ち型企業と負け型企業を比較するだけでなく、上昇型企業と下降型企業にも注目している点である。業績の伸びの傾向が(よい方向あるいは悪い方向に)変化した企業を同時に調査することで、原因と結果を区別することができた。
4+2でとりあげた八つの要件は、下記四つの必須条件と、四つの補助条件である。
必須条件:1)戦略、2)業務遂行、3)文化、4)構造
補助条件:1)人材、2)リーダーシップ、3)イノベーション、4)合併と提携
2.各要件に必要な原則
「4+2」は単純な公式であるが、細かく見ていくと、それを実現するのは容易でないということがわかる。たとえば必須要件の第一にあげられている「戦略」という項目ひとつをとっても、勝ち型企業の特徴と認められた戦略マネジメント実践の原則にどのように取り組んでいるかを見極めていくと、必要な五つの原則が浮かび上がる。1)その戦略は、顧客の、顧客へのはっきりした価値提案を中心につくられているだろうか。2)顧客、提携先、投資家についての深い理解に基づくものだろうか。3)その会社には、市場で起こりそうな変化に気づき追跡できる人材がいるだろうか。4)戦略を組織の内部、外部関係者に、明確に伝えているだろうか。5)主要なビジネスと関連ビジネスの両方で、大きな成長を目指しているだろうか。
以下、各要件に必要な原則を簡単に紹介しておく。
必須条件1)明確で、目的を絞り込んだ「戦略」を立てる
・顧客のための価値提案を中心に戦略を立てる
・外部からの反応を取り入れて戦略を立てる。顧客、提携先、投資家の意見、またその行動を基本とする
・常にアンテナをはって、マーケットの変化に合わせて戦略を調整する
・戦略を組織の内部、顧客、その他の関係者に、明確に伝える
・コア・ビジネスの成長を第一に。なじみのない分野では慎重に
必須条件2)顧客を失望させない「業務遂行」
・常に顧客の期待に沿った製品やサービスを提供する
・顧客のニーズに対応できるよう第一線の社員に権限を与える
・生産性を向上させ、あらゆる形の過剰や無駄をなくすよう努力を続ける
必須条件3)実績主義の「文化」を築く
・全社員が全力を尽くすよう奨励する
・実績に対し賞賛と金銭的報酬で報いつつ、ハードルは下げない
・やりがいがあって満足のいく、しかも楽しく仕事ができる職場環境を整える
・明確な企業価値を築いて、それを忠実に守る
必須条件4)「構造」:すぐに動けて、階層の少ない組織をつくる
・組織の余分な階層と官僚的な構造や行動を減らす――徹底的な単純化
・社全体の協力体制と情報交換を促進する
・優秀な社員をビジネスの現場に配置し、第一線で活躍する社員は、実力を発揮できる場所から動かさない
補助条件1)優秀な「人材」をつなぎとめ、さらに育てる
・中位、高位のポストは、できるだけ生え抜きの社員を配置する
・最高レベルのトレーニング、教育プログラムをつくる
・有能な社員を引きつけ、やりがいを感じさせる業務計画を立てる
・新しい人材を熱心に育て、見つけようとする
補助条件2)「リーダーシップ」:リーダーと取締役を業務に積極的に関わらせる
・経営陣が社内すべてのレベルの社員との関係を強化するよう仕向ける
・チャンスや危機をすぐに察知する能力を磨かせる
・会社の成功が自分の経済的利益に密接に関わりを持つメンバーを取締役として迎える
・リーダーの報酬は、大部分を実績とリンクさせる
補助条件3)業界を一変させる「イノベーション」
・これまでのやり方を一変するテクノロジーやビジネスモデルを導入する
・新旧のテクノロジーを活用して製品を企画し、経営を強化する
・既存の製品のマーケットに食い込むのを厭わない
補助条件4)「合併と提携」による成長
・現在のカスタマー・リレーションを強化する、新しい事業を獲得する
・現在の会社の強みを補完する新しい事業に参入する
・パートナーとともに、提携によって集まった人材を活用できる事業に参入する
・適切な相手を特定、選抜し、契約を結ぶための体系的な方法を開発する
1.日本は円安を主張できる
最近、円安論が少しずつ注目されるようになってきた。竹村健一氏が講演や雑誌で問題提起し、議員の有志も提言するようになってきた。藤巻健史・宿輪純一著の「円安VS円高」で、モルガン銀行東京支店長で伝説のデーラーといわれた(株)フジマキ・ジャパン代表取締役の藤巻健史氏が、「日本は円安を主張できる」との議論を展開している。(1)日本はもはや「貿易立国」ではない、(2)他国も円安に反対しない、(3)為替の安定を望むのは経営者の発想、という次のような主張である。
(1)日本はもはや「貿易立国」ではない
「円安論」がよいというと、自国だけでなく他国との問題があるから難しい、という主張がよくあるが、間違いである。一つ目の理由は、日本経済がこれだけ悪くなれば、他国のことを考えるより、まず自国のことを考えるべきだ。2001年の貿易・サービス収支は約4兆円で、昔にくらべるとはるかに小さくなっている。現在の日本の経常収支が大きいのは、所得収支(海外の子会社からの配当金や利息)が大きくなってきたからである。日本の現状をみると、モノの黒字はまださすがに大きいものがあるが、一方でサービスの赤字も非常に大きいので、合計すると黒字は大きくない。
(2)他国も円安に反対しない
また、もう一つの誤解として、よく「他国」が反対するからという理由が挙げられる。しかし、果たして本当に反対している国があるのであろうか。とくに今、アメリカは円安を認めやすい時期にある。スノー財務長官の発言をみると、今、アメリカは、日本の円安を「必要不可欠」ということで認めているのではないかと思われる。
2003年9月のG7共同宣言後、マーケットではこの共同声明が「円売り介入を牽制する内容だ」と理解して円が急騰した。円が急騰したもう一つの理由はマーケットがアメリカの経常赤字に注目し「経常赤字があるからドルは下がるべきだ」と考え始めたが、これも本当にそうなのかと疑問を提示している。ドルは機軸通貨なので、世界経済が拡張していくならば、ドルはその分世界で必要とされるのである。また、欧米のエコノミストのなかには、円安しか日本経済を良くできないという意見が非常に多い。
(3)為替の安定を望むのは「経営者の発想」
日本では為替が安定していた方が良いという誤解もある。為替が安定した方が良いというのは「経営者」の主張である。しかし、消費者も含めたマクロ経済的には、経済が弱くなったときには円安になり、円安になって日本に国力が戻ったら、また円高になるという循環が必要なのだ。
藤巻健史氏の低迷日本経済への処方箋は「円安による資産デフレ脱却論」である。藤巻氏は、この10年間で日本が駄目になった理由は二つあるとしている。一つは、日本が実質、社会主義だったからである。「大きな政府」があり、ありとあらゆるものに「厳しい規制」をかけてがんじがらめにしてきた。しかし、この構造改革には非常に時間がかかるので、すぐには解決できない。この十数年間日本経済が駄目だった第二の理由は、国際競争力がなかったからだと思う。なぜ昔、非常に強かった日本の国際競争力が低下したのかというと、円が実体経済に比べて強すぎたからである。円が強すぎたがために、国内観光業は国際競争力を失い、日本の農業は国際競争力を失った。工業の分野では、ドルに対する固定相場制になっている人民元の為替レートが極端に安くなったために、工場が中国にシフトして土地・資産の値段は下落し、日本の製造業の空洞化が進んだ。
一方、議論の相手をしている東京大学大学院MOT教官・UFJホールディングス経営企画部調査役の宿輪純一氏は、「円高こそ日本経済を救う」といっている。「資産効果」から景気回復に向かうプロセスの重要性は、両者とも同意見であるが、二人の意見が違っているのは、その「資産インフレ」になるプロセスの部分である。宿輪純一氏は「円高」方が、資産インフレが起こる可能性が高いと考えている。円高になると外からおカネが入ってきて資産におカネが向くというのである。このように、円高がよいか円安がよいかの議論は分かれるのであるが、為替政策が日本経済にとって、非常に重要なものであるという認識は共有している。
2.日本の通貨政策
さて、藤巻健史氏は円安を導く方法としては、1400兆円の「個人資産」を動かすことが一番の方法だとしたうえで、(1)大量介入、(2)アメリカ国債の購入とドル建て日本国債の発行、(3)通貨庁の創設をあげている。通貨庁をつくり円安が必要だという国民世論を作ることが必要である。これが起爆剤になって個人資産1400兆円が動けば、為替レートは簡単に円安に動くだろうというのである。これまでは、為替レートが変動したときにそれを安定させる通貨政策しか持っていなかった。国益を増すための通貨政策が欠如していたというのである。
2月9日の日経新聞夕刊によると、米国で開いたG7財務省・中央銀行総裁会議は7日夕、共同声明を採択して閉幕した。声明は焦点のドル安問題で「相場の過度な変動や無秩序な動きは経済成長に望ましくない」と指摘、為替安定を重視する姿勢を打ち出した。昨年9月の前回会議声明で相場の「柔軟性」を求めたのを受けて円高、ユーロ高が加速、自国経済への影響を懸念する日欧に配慮したのである。
前日の新聞によると、谷垣財務相はスノー米財務長官との会談で、最近の円高・ドル安に懸念を示すとともに、「為替相場の過度の変動には必要な対応をとる」と述べ、相場安定に向けて市場介入を継続する方針を伝えた。スノー長官は「為替問題で良い方向を出す必要がある」と語り、為替相場の安定が重要との基本認識で一致したことを伝えている。
円高に歯止めをかけるため政府・日銀は2003年中に約20兆円、年明け後も7兆円の円売り介入を実施した。しかしながら、G7後の市場の反応は、今後もゆるやかな円高が進むと予想しているようである。谷垣財務相が言っている「為替相場の過度の変動には必要な対応をとる」という為替政策は、為替の安定を望む経営者に配慮した主張であろうが、ゆっくりした円高シフトは仕方がないとも読み取れる政策である。そこには、国力から遊離した円高へのシフトに対しては断固とした対応策を取るという日本政府の明確な通貨政策が発信されているようには思えない。
「円安」VS「円高」という通貨政策の選択で見れば、日本政府は、為替ルートを実体経済に見合った「円安」にシフトして、経済安定を図ろうとしているようである。それにしては、為替政策が中途半端で、国民にも政府の意図が周知されていない。日本政府は、1〜2年内の中期的な為替相場の安定を図ることにより、為替レートを実体経済に見合ったレベルに安定させて、日本経済の再生を図るという為替政策を国民と世界に明確に発信し、期限を明示した構造改革の政策とともに、確実に実行すべきではないだろうか。為替ルートは変動することが問題ではなく、国力から遊離した値に固定化されることが問題なのである。
1.調査報告
日本ベンチャー学会の「ベンチャーズ・レビュー November 2003」に、上智大学 山田幸三・UFJ総合研究所 江島由裕両氏による論文「創造的中小企業の経営と戦略的決定」が掲載されている。この論文では、1995年の「中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法」で認定された中小企業の経営の特徴について、トップマネジメントを中核とした戦略的決定に焦点を当てて分析している。この研究では、2000年10月の調査実施時点における創造法認定企業5437社に郵送質問票調査を実施し、1365社から回答を得た。
得られたサンプルから創造的中小企業とトップマネジメントのプロフィールをみてみると、会社設立年は、1995年から2000年に創業した企業が25.4%で最も多く、1990年以降の創業が全体の約40%を占める。会社規模は、創造法申請時点での平均従業員数は26.4人、従業員20人未満の企業が55%を超える。創造法申請時点での研究開発・試験研究費の平均は2077万円、所属業種は、電機機械器具11.1%、一般機械器具9.3%、情報処理サービス8.1%、精密機械器具6.2%などである。創造法認定事業分野では、新製造技術関連分野(28%)、環境関連分野(22%)、情報通信関連分野(14%)で60%以上を占める。創造法認定事業で計画した活用技術は、社内の既存技術を応用したケースが60%を超えており、他産業からの新技術の導入・共同開発は17%である。
トップマネジメントに関する実態は、社長の年齢は50歳代以上が69%を占め、30歳代以下は5.7%にすぎない。創業経営者が社長である企業は71%あり、3親等以内の直系が社長である企業を含めると90%を超える。社長の学歴は大学卒業が最も多く約47%を占め、大学院終了は3.3%である。学部あるいは大学院での海外留学の経験を持つ社長は5%にすぎないが、外部での勤務経験をもつ社長は80%を超える。こうした創造的中小企業の調査で得られたサンプルは、既に報告されているベンチャー企業の調査サンプルと基本的に類似しているということである。
創造的中小企業を創業時期で3つのグループ(1976年以前、1977-1992年、1993年以降)に分けて、戦略的決定とトップマネジメントの特徴を比較分析している。まず、全体的な特徴をまとめると、戦略的特徴は、「将来を見据えたドメイン定義が明確であり、業界の慣例にとらわれない」「全社的なポテンシャルを高める技術・ノウハウの蓄積を重視している」「独自の製品企画・開発力が競争力となり、競争者に比べて高品質の製品を開発している」「フォロワーの利点を追求せず、新製品・新市場開発のリスクを回避しない」ことである。
トップの特徴は、「環境変化に敏感であること」「自社の将来あるべき姿を明確にもち、トップの価値観を戦略や管理制度に繁栄させている」「突出した戦略を打ち出し、過去の決定にとらわれない」「現場の自発性・提案を重視し、トップ自ら現場の状況把握に努める」「トップマネジメント自身が外部に多様な情報源をもち、外部の技術情報に敏感である」
グループ別の比較からは、最も若いグループ(創業が1993年以降)は、ドメインの定義が最も明確で過去の慣例にとらわれておらず、独自の製品企画・開発力を競争力として、競争者に比べて高品質の製品を開発している程度が高い。さらに、経営トップ自らが現場に出向いて状況把握に最も努めているのも、企業年齢の若いグループである。
最後に、過去3年間の売上高伸び率(成長性)、および新製品売上高の売上高全体に占める比率の平均(革新性)について、成果の良好なグループとそうでないグループに分け、戦略的決定とトップマネジメントの特徴が成果に及ぼす影響の違いを分析している。成長性に関しては、戦略的決定の中のドメイン重視と独自性・先駆性重視について高成果グループの方が明確であり、統計的に有意な差も認められた。トップの特性については、現場重視の一部を除いて高成果グループの方が企業家的であり、統計的な優位さも認められた。
革新性に関しては、戦略的決定およびトップ特性のすべての項目について高成果グループの方が企業家的であり、統計的に優位な差も認められた。
2.中小企業創造活動促進法
この調査は、中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法」(平成7年法律第47号)で認定された中小企業を対象に行なわれている。これは、中小企業の創業及び技術に関する研究開発等を支援する措置を講じ、中小企業の創造的事業活動の促進を通じて、新たな事業分野の開拓を図ることを目的に制定された法律である。「中小企業創造活動促進法」とも言われている。
「創造的事業活動」とは、創業や事業化を通じて、新製品・新サービス等を生み出そうとする取り組みのことをいう。ここでは、東京都産業労働局のホームページ(下記)に掲載されている資料をもとに、簡単に紹介する。詳細は下記のページを参照いただきたい。
http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/sozohou/1gaiyo.htm
東京都では、国との連携の下に、都内の意欲的な中小企業者や創業者が積極的に技術開発、研究開発、事業化するための活動を支援するため、この法律の下に、研究開発等のための補助金(助成金)、金融、税制などの幅広い施策を準備しています。
本法による支援を受けるためには、二つの段階を経る必要があります。まず、第一段階として、東京都所定の「研究開発等事業計画に係る認定申請書」(以下「認定申請書」という。)を作成して、東京都に申請し、審査の後、都知事の事業認定を受けることが必要であります。その上で、さらに支援を受けたい事項ごとに所定の申請を行い、審査を受けること(第二段階)になります。
認定対象となる「研究開発等事業」とは、@著しい新規性を有する技術に関する研究開発、A研究開発成果の利用(事業化)、B事業化のために必要な需要の開拓、の3つの事業をいいます。
なお、事業の目標として、「新たな事業分野の開拓につながるもの」であることが必要です。認定の対象となる「研究開発事業」の具体的な考え方については、技術の範囲は、製造業、商業、サービス業その他の業種を問わず、技術分野の限定もありません。また、自然科学系の技術のみならず、経営上のノウハウも含まれます。ただし、生産、販売若しくはサービスの提供に関する技術であること及び「著しい新規性」を有するものであること(法第二条4項)が必要です。
さて、この「創造的事業活動」とは、創業や事業化を通じて、新製品・新サービス等を生み出そうとする取り組みのことをいい、認定した企業は、上記の基準に従って審査した企業である。「企業家的なトップを中核として明確な戦略的決定を行なっている」という結果が得られるのは当然であるとも思われるが、このような調査研究は少ないだけに興味ある実証研究である。
なお論文では、「成果の高い創造的中小企業の戦略的決定とトップの特徴は、成果の低い企業と比べきわだって企業家的である」としている。調査は、過去3年間の売上高伸び率(成長性)、および新製品売上高の売上高全体に占める比率の平均(革新性)を評価基準として採用しているが、むしろ、利益の伸び率(成長性)を用いたほうが良いのではないだろうか。また、インタビュー調査も行なっているので、モデル企業のインタビュー調査から得られた戦略的決定とトップマネジメント以外の企業経営の条件についても言及していただけると参考になる。
1.ソリューション営業
今や過酷な時代に入っている。商品や価格による差別化が困難な時代、競走優位を実現できるものはいったい何だろう。その一つは、競合が真似できない「顧客との関係」を構築し、確実に利益を確保することである。この本(恩蔵直人監修、(株)富士ゼロックス総合教育研究所著、ダイヤモンド社)の著者たちはこのテーマに対する答えとして、「プロフィタブル・パートナーシップの確立」を提案している。すなわち、顧客の利益と自社利益の向上を同時に達成し、他社が真似することのできない長期にわたるパートナー関係の確立である。
このプロフィタブル・パートナーシップを確立するためには、営業スタイルもその関係づくりを目指したものでなければならない。従来の営業活動に革新をもたらすものは、真の「ソリューション営業」以外にはないと著者たちは考えている。ソリューション営業とは、顧客のビジネス上の課題に対して、複合的かつ創造的な解決策を、自社の総力をあげて(必要であれば提携先企業とともに)、スピーディに提供し、顧客ロイヤリティを長期に維持する営業である。顧客のビジネスを成功させるために、コンサルティングの姿勢をもってソリューションを提供する営業ともいえる。
勿論、すべての取引、すべての顧客にソリューション営業を実践する必要はない。顧客ニーズや売上げ・利益が大きく、主要な顧客が法人で、顧客との関係が長い分野が、ソリューション営業を強化すべき営業である。本書の第3章では、このソリューション営業の三大要素として、情報活用の重視、プロセスの重視、チーム営業の重視を取り上げている。
「情報活用の重視」では、セールス・フォース・オートメーション(SFA)を活用した三つの事例が載せられている。SFAは、ンピュータとネットワーク技術を利用して営業活動の効率化を支援し、営業の生産性を向上させようとするものである。ここでは、その一つの、提案書資料作成における情報活用に特化した富士ゼロックスの事例紹介を簡単に引用しておく。
富士ゼロックスの「ナレッジ・シェアリング・センター(KSC)は、提案書を中心とした営業向けドキュメント・データベース(DDB)である。ウエブを活用したKSCは、以下の四つのカテゴリーに分かれている。
・提案テーマや商品別に提案書が登録されたシェアリングフェイズ。
・各種フォームや図形集、文例集などのテンプレート、ビジュアル化のノウハウなどが収められたクリエイションフェイズ。
・他データベースとリンクした情報収集データベース。
・その他のツール類。
提案書を作成する営業パーソンは、KSCにアクセスして自分のテーマに有用なドキュメントを検索し、必要なファイルをダウンロードする。提案書のフォームや挿入するグラフを一から作る必要がなく、テンプレートを自分なりに応用する。各省庁の統計データをダウンロードしたり、ビジネス雑誌に掲載されたインタビューを商談中に顧客と閲覧することなども可能だ。
2.営業パーソン・営業マネジャーの役割と行動
新しい営業活動を展開していくためには、直接携わる営業パーソン自信が変わらなければならない。また、営業パーソンの能力を活かし、彼らをリードしていくマネジャーも、過去の姿から脱皮して新しい営業マネジャーにならなければならない。それぞれについては、第5章の「営業パーソンの役割と行動」と、第6章の「営業マネジャーの役割と行動」で取り上げられている。このでは、この営業パーソンと営業マネジャーの役割と行動を紹介しておこう。
優秀な営業パーソンの行動を見ると、1)ビジネス・コンサルタントとしての役割、2)A戦略的コーディネーターとしての役割、3)長期にわたるパートナーとしての役割、の三つの役割を果たしていることがわかるとしている。三つの役割は相互に関わり合い、また補い合っている。役割をすべて実行することで、営業パーソンはソリューション営業の定義「顧客のビジネス上の課題に対して、複合的かつ創造的な顔決策を自社の総合力をあげてスピーディに提供する」を満たせるのである。
ビジネス・コンサルタントの役割は、一言で言えば顧客の課題解決のよき相談相手となることである。必要な情報を収集・分析して、顧客のビジネス上の課題を総合的に理解し、顧客に確認をとりながら効果的な解決策を提案していく。
戦略的コーディネーターの役割は、顧客を最大限支援するために、連絡窓口となって、社内の関連部門や社外リソースと顧客の関係を調整することである。チーム営業によって社内外の人材と協働する際、その中心となってスムーズな営業活動を進める営業パーソンにとって、こうした役割はとても大切である。
短期的な成果にとどまらず、長期的な視点で顧客をとらえ、継続的なビジネスの関係を築くことが「長期にわたるパートナー」の役割である。現在では顧客企業自身が「顧客の顧客」の刻々と変化する要望に直面しており、その対応に追われている。新しい取引先を検討したり、新たな契約を結ぶ時間的な余裕はない。そのため、顧客は自社のことを十分理解し、目先のことだけではなく長期的な視点を持ってビジネスを支援してくれる企業を厳選し、末永く関係を維持していきたいと考えている。
また、これまでと質的に異なる営業マネジャーの役割として、1)戦略化としての役割、2)コミュニケーターとしての役割、3)コーチとしての役割、の三つがあげられている。
戦略家としての役割は、顧客とのプロフィタブル・パートナーシップを構築し、ソリューション営業を展開するために、自分自身で描いたビジョンに向けて戦略を計画・実行していくことである。また、実行した戦略を自ら評価し、継続的に改善活動を行なう。
コミュニケーターとしての役割は、戦略に基づいて情報を受け取り、加工し、伝えることによって、効果的なコミュニケーションを円滑に進める。また、チーム営業に必要な社内外の人材のコーディネート、顧客の社内における支援でリーダーシップを発揮し、顧客の課題に対して最良の解決策を提供していく。
コーチとしての役割は、営業パーソンの動機づけになるものは何かを理解し、それに基づいて営業活動を支援しながら、部下を指導・育成する。模範となる行動を示しながら部下を従わせるのではなく、部下と協働しながらその能力を引き出し、伸ばしていくことである。
1.大前氏の経験
この本(大前研一著、小学館発行)は、大前研一氏の数多くの著書の一つである。序章の、「年収大格差時代の到来」で、高年収体質になるためとして、次の4つの提言をしている。1)人生の俯瞰図を持とう、2)寄り道型人間になろう、3)商機を見つけるものさしを持とう、4)企業力を身につけよう。しかし道は険しい。<IT><英語><財務>という<新・三種の神器>を駆使して、ジャングルを縦横無尽に駆け回るには、より高度なビジネス能力が必要とされる。
この本では、このようなビジネス能力を如何に身に付け、発揮したらよいかを取り上げている。各章は、(今までのやり方をする)<生活習慣癖>を撃退しようで始まり、「企画発想力」「会議力」「交渉力」「人材育成力」「営業力」「人間力を鍛え直そう」「外国人ビジネスマン攻略法」「後悔しない転職の掟」「失敗しない起業の鉄則」、そして最後に、「人生設計を見直そう」で締めくくっている。
このなかで、「人間力」「転職」などで紹介されている、大前氏自身の経験を述べている部分と、大前氏特有の斬新な発想を披露している、「交渉力」が特に印象に残ったので、その内容を簡単に紹介したい。
大前氏が高校時代に夢中になったのが、クラリネットだった。早稲田大学に入った彼は、手っ取り早くクラリネット購入費を稼ぐ方法を調べ、通訳案内業、つまり日本に来た海外旅行客たちのガイドのギャラがいいことがわかった。その日から、家では毎日欠かさずFENを聞き、通学途中は目に入る光景すべてを英語で表現する訓練を始めた。こうして大学1年生、19歳のうちに通訳案内業に合格した彼は、ガイド業をスタートした。
早稲田大学理工学部応用化学科では、さまざまな原料を用いて工業製品を化学的に作る方法が研究されていた。代表的な原料は石油であったが、アメリカで発表された論文を見て、石油化学の未来に見切りをつけた彼は、早稲田を卒業したらどこかの大学院で原子力を研究することにし、東京工業大学大学院に合格することができた。東工大大学院で2年間の修士課程を追え、さらに博士課程に進んだが、英語で修士論文を書き、それを英語の学術専門誌に投稿していた。その論文を添えてMIT大学院に応募したところ、高い評価を受け、授業料と生活費を給付するという条件まで提示されて合格し、MITに留学した。
1970年に日立製作所に入社したが、当時、動燃や東京電力などは、米大手原子炉メーカーのGEのお墨付きのない技術の採用に難色を示していた。現状打破のため日立はGEと技術提携し、同社からの技術導入を決定した。技術力に劣るわけでもないのに、第三者の技術にすがらなければならない。設計者にとって、こんな屈辱的なことはない。原子炉設計の世界に一生を捧げることはできないと判断した大前氏は、日立を退社し、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社した。
29歳でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社した時点で、彼は経営コンサルタントの「け」の字も知らなかった。マッキンゼーでは当初見習い級だった。初仕事は、ある日本企業のアメリカ進出に関するコンサルティングで、この案件では、プロジェクトの統括責任者のウォータマン氏とアベイ氏が、OJTで指導をしてくれた。この仕事を半年で終えて帰国し、次に国内の仕事を手がけた。ある日本企業の業績を立て直すためのコンサルティングで、1年がかりの仕事になった。チーム唯一の日本人である彼は、顧客企業が組んだ25人の債権チームとマッキンゼー・チームの橋渡し兼板挟み役を努めたが、これが、地獄の特訓よろしく、仕事を覚える上で大いに勉強になったとのことである。
この見習い時代、彼は担当した仕事とは別に、個人的にある作業を続けていた。マッキンゼーのライブラリーには、同社が過去に手がけた仕事に関するリポートが、マイクロフィッシュ(カード状のフイルム)の形で保存されていた。彼は土日の休みも返上し、1年ほどかけてそのすべてを読破した。ある程度読み進めると、経営とは何か、経営コンサルティングとは何かということがわかるようになり、そのポイントを意識しながら、リポートを呼んでいくようにしたとのことである。
この作業で得た知識と、先に述べた実際の仕事で理解したこと経験したことを、彼は、大学ノートに記録していたが、これが日本のビジネス誌「プレジデント」の編集長の目にとまり、出版されたのが「企業参謀」である。「企業参謀」はベストセラーになったが、これを見て経営者たちから「コンサルティングを頼みたい」という依頼が殺到した。東京事務所は開設当初、大した仕事がなかったが、「企業参謀」1冊で、スタッフは多忙を極めるようになったとのことである。
2.交渉力
交渉を成功させるために必要なポイントがいくつかあるが、まず交渉を始めるときに見抜かなければならないのが互いの「利害対立の構図」を正確に把握することだとして、捕鯨問題を取り上げている。鯨資源の保護という環境保護の観点から、1980年代半ば以降は商業捕鯨が全面的に禁止されるようになった。これに対して日本は、「先住民生存捕鯨」に準じる伝統文化という立場から反対している。これに対し大前氏は、ホエール・ウオッチングというもう一つの側面があると指摘している。現在、日本が調査捕鯨によって得られる鯨肉の市場価格は約100億円といわれているが、ホエール・ウォチング市場は世界規模で数千億円、日本がどうすべきかは自ずと答えが出てくると言うのである。
交渉を成功させるための大切な3つの考え方として、@1年後、3年後、5年後のビジョンを明確にした上で、その要求項目を満たすことが、自分たちにとって本当に利益となるのかを検討する。A特定グループの利益を尊重するのではなく、あくまで組織全体にとっての利益とは何かを考える。B @とAを念頭に、交渉相手に絶対に譲れないポイントと譲ってもいいポイントを明確にし、柔軟な姿勢で交渉に臨む。
日本企業の経営が傾き、有力な外国企業の傘下に入ることで経営の立て直しを図ろうと、交渉にいどんだ場合、大抵の日本企業は、「社員を1人も解雇しないことを約束しろ」と迫る。倒産になれば全員が会社を去ることになるのに、経営幹部が外国企業との交渉において非合理的な要求をしてしまうのは、ひとつに、全体利益を考えず、組合を始めとする社内の提携反対派の意向ばかり気にしているからである。
この節の最後では、究極の難問は「パラダイムシフト」で解決を図ることや、損をしない妥協ポイントの見分け方を取り上げている。交渉で実行可能かつ有益な決定を得るために重要なポイントの1つが「組織能力」である。理想的な交渉とは、「交渉が成立したら、あとは寝ていられる」交渉結果、決定を得ることであるが、そのためには、この組織能力を正確に把握することが大切なポイントになる。組織能力を見極めたら、次に、利益も配分もフィフティ・フィフティにする合意を心がけることが重要である。
最後のポイントは、メリットのない妥協を避けることであるとしている。たとえば、日産自動車はカルロス・ゴーン社長の号令で、部品納入業者を従来の1100社から600社にしぼった。仮定の話だが、500社側が、「部品単価を要求どおりに値下げするから今までどおり取引を継続させて欲しい」といい、その要求を日産が受け入れたとしたらどうなるか。これでは根本的なコスト削減をしたことにはならない。何の利益も期待できない妥協は、将来に不安を残すだけの愚策でしかないとしている。
1.優秀企業の抽出と調査の方法
優れた企業とは一体いかなる特質を有しているのか。どうすれば優れた企業に変革しうるのか。優れた経営とは一体いかなるものなのか。戦前、戦中、そして戦後の国土荒廃の中、今の日本を背負っている多くの企業が産声を上げた。これらの企業の創業者は、日々の事業を推進する中で、企業の「本質」をそれぞれ経験的に学習した。それを当時の時代環境に合わせて具体的な経営活動に表し、企業の「形」を作り上げていった。しかし、次代環境は移り変わり、かって本質から生み出された「形」は時代との間でズレを生じることとなった。「形」が時代に合わなくなった今、我々が行なわなければならないことは、もう一度、事業の「本質」まで立ち戻って、時代環境の変化を踏まえて、考え直すことではないか。この原点復帰がこの本(日本の優秀企業研究、企業経営の原点――6つの条件、新原浩朗著、日本経済新聞社発行)の著者が抱いてきた問題意識だった。
著者は、独立行政法人経済産業研究所コンサルティングフェロー(経済産業省情報経済課長兼任)であるが、本研究も、経済産業研究所の場を借りて、3年ぐらい前から調査検討を積み重ねてきたものの成果である。本研究の目的は、優秀企業を抽出して、そこに共通点を見出せて、しかも、そうでない企業に見出せない特徴を探すことである。サンプルの抽出は、企業の収益性、安全性、成長性の三つの要素に着目し、過去15年にわたる数字を追って、リストアップした企業から、約30社を優秀企業のモデル企業として選んで、どのような要因がうまくいっていない企業との違いかを調査した。
調査では、約30社の優秀企業のモデル企業全般の共通的特徴を抽出し、その上で、六つ抽出された一般的法則のそれぞれをビビッドに説明するためにわかりやすい例示を個々のモデル企業に関する情報の中からピックアップして本文の例示としている。企業の競争力には、「オペレーションによる競争力」と「経営能力による競争力」あるが、この研究では後者、すなわち、経営トップの戦略策定能力、それを実施する実行力、そして本社機能や官設部門に焦点をあてている。
2.優秀企業六つの条件
その六つの条件と優秀企業として取り上げられているケースを羅列すると、
1)「分からないことは分けること」:優秀企業に共通する第一の条件は、取り組む事業の範囲についての考え方で、「分からないことは分けること」である。「今までになかった新しい娯楽、つまり新しい楽しさと面白さをユーザーに提供すること」をコンセプトとした任天堂。「単品」に絞った専門店ビジネスで世界市場で勝負するマブチモーター。「最終消費財で、かつ、アウトドアで使われるもので、極限的な性能や高度な金属加工が要求される」コンセプトとしたシマノ。
2)「自分の頭で考えて考えて、考え抜いていること」:優秀企業に共通する第二の条件は、「自分の頭で考えて考えて、考え抜いていること」。「顧客の視点で素人のように考え抜いた」セブンーイレブン。「力の勝負を避け、他社と違う軸で競争する」任天堂。「機能的につながっている部品を組み合わせて全体をシステムコンポーネントとして統合した」シマノ。
3)「客観的に眺め不合理な点を見つけられること」:優秀企業に共通する第三の条件は、改革のため、自社を「客観的に眺め不合理な点を見つけられること」である。良好な成果を上げている企業、特に企業改革に成功した企業の経営者は傍流体験をしているというのである。キャノンの御手洗富士夫社長。花王の後藤卓也社長。ヤマト運輸の小倉昌男社長。
4)「危機をもぅて千載一遇のチャンスに転化すること」:優秀企業に共通する第四の条件は、「危機をもぅて千載一遇のチャンスに転化すること」玩具用のシェアが100%であったマブチモーターは、日本製玩具の鉛毒問題で大打撃を受けたからこそ、モーターの多様途化という基本戦略を確立した。長距離輸送への進出に出遅れたからこそ、ヤマト運輸は、宅急便市場を切り開いた。
5)「身の丈に合った成長を図り、事業リスクを直視する」:優秀企業に共通する第五の条件は、「身の丈に合った成長を図り、事業リスクを直視する」経営方針である。自らが生み出したキャッシュフローの範囲のなかで、身の丈に合った研究開発、長期投資を行っていくというのが、優秀企業に総じて観察された考え方であった。花王、キャノン、信越化学などの事例。
6)「世のため、人のためという自発性の企業文化を企業に埋め込んでいること」:最後の、優秀企業に共通する第六の条件は、お金以外の「世のため、人のためという自発性の企業文化を企業に埋め込んでいること」である。優秀企業には、企業とは「利益を上げることを通じて長期にわたり社会に貢献することを目的とする組織」との企業観がある。個人の意識や心のありよう、会社の文化といったものに従って、経営者や従業員が自らを自己規律する「自発性のガバナンス」をどう実現するかが大切。ホンダ、ヤマト運輸、花王、キャノン。
著者が最後にたどりついた優秀企業の企業像とは、「自分たちが分かる事業を、やたら広げずに、愚直に、真面目に自分達の頭できちんと考え抜き、情熱をもって取り組んでいる企業」である。
この本を読んで抱いた疑問は、このように至極シンプルで当たり前すぎる結論であるならば、その当たり前なことがなぜできなくなったのであろうかということである。新原氏は終章で、戦後、わが国経済が成長し、企業が大きくなるに従い、あるいはバブルの時代を通過して、この原点が見えにくくなったのではないかと指摘している。時代が変わり企業の表に現れている「形」が時代に合わなくなった今、企業の本質までいったん戻って、今に時代にどうそれを適用するかを考え抜く、その上で、新しい「形」をつくり上げるべきだということであろう。企業の創業理念、経営理念などの優秀企業の本質は変わらない。そこで、「形」を真似るのではなく、企業の本質までいったん戻って、もう一回見定めれば、そこから見えてくるものが必ずあるというのである。優秀企業の「形」は一つではない。
1.幼年時代からミュシュランでの研修まで
この本(カルロス・ゴーン、フィリップ・リエス著、高橋優訳、日本経済新聞社発行)は、AFP通信社の東京支局長であったフィリップ・リエスがカルロス・ゴーンにインタビューしてまとめたものである。インタビューは2002年から1年がかりで行なわれ、そのあとリエスの原稿にゴーンが補筆するという形で完成した。インタビューに答えるという形式なので、ゴーンの生の言葉が伝わってきており、大変興味深い内容になっている。
また、ゴーンの生い立ち、幼年時代、学生時代も含めて、日産に来るまでのゴーンの半生が詳しく描かれており、ゴーンの生い立ちのなかに、経営者としてのゴーンのルーツを発見することができよう。
ゴーンの祖父は、若いときにたった一人でレバノンからブラジルにわたった。さまざまな職に就いたが、暮らしを立てられるようになると、今度は自分で仕事を始めた。祖父の死後、家族経営の会社は、すでに父親の会社で働いていた子供たちにそれぞれ引き継がれたが、カルロスの父親となるジョージは、航空関係の仕事を引き継いだ。
カルロスの病気を治すために、カルロスが6歳の頃、母親は子供たちを連れてベイルートに移り住んだ。彼はそこで小学校から高等卒業まで一貫教育の行なわれる学校に通った。カルロスは、イエスズ会系の学校で学ぶようになるが、教養あふれる、素晴らしい教師が大勢いた。17歳で高等教育過程を終了すると、パリのサン・ルイ高校で、エコール・ポリテクニーク(理工科学校)向けの数学準備学級に入学する。その後、エコール・ポリテクニークを卒業してエコール・デ・ミーヌに入学する。この学校は理科系のなかでいちばん評価の高い学校である。
エコール・デ・ミーヌを卒業すると、ミシュランから誘いがあり、78年9月に入社した。ミシュランは将来、ブラジルで大きなプロジェクトを立ち上げようとしており、ブラジルをよく知っていて、ポルトガル語も話せてフランスで教育を受けた技術者を探していた。ミシュランは、将来の幹部候補生が一日でも早く会社の一員になるように、“SPスタージュ”という社員研修システムを採用していた。このシステムは、インストラクターの指導のもとに、全員3ヶ月の研修を受け、寝食をともにする。研修では各部門のトップの講義を聴くだけでなく、実践的な訓練も行なわれる。実際に会社が直面している問題を課題として研修生に解決させようという内容である。
SPスタージュが終わると、研究生はそれぞれの部門に振り分けられて、実地訓練を受ける。ゴーンの場合、行き先は工場だった。入社するとき会社はゴーンに研究所で働いて欲しいと言ったが、ゴーンは製造部門への配属を希望したからである。こうして工場で6ヶ月間過ごしたあと、今度は技術者としての研修に参加するため、ドイツのカールスルーエ工場に行く。そこから戻ってくると、次はトゥール工場で工場組織に関する研修を受ける。この研修が終わったところで、いよいよ本当の仕事に就くことになる。工場内の生産部長として、ショレの工場に赴任したのだ。この工場で、ゴーンは80年を終わりまで過ごしたのち、そこでゴーンは工場長の辞令を受ける。
2.ミシュランとルノーの時代
このル・ピュイの工場長時代、ゴーンは指導者として大切なことをたくさん学んだ。工場長としての生活が2年近く経とうとしていた83年の初め、ゴーンは突然、クレルモン・フェランの本社から呼び出された。ゴーンを呼んだのは、社主のフランソア・ミシュランである。83年6月、ゴーンはル・ピュイの工場を去り、クレルモン・フェランの本社にいるグループの財務部門を統括する責任者のもとに派遣された。関連企業であるクレベールの状況を分析するためである。
クレベールは、乗用車と小型トラックのタイヤを製造していた。ゴーンはこの会社を徹底的に分析調査し、10月に結論を出した。農業用タイヤでの分野ではクレベールが成績がいいので、ミュシュランの農業タイヤもクレベールの工場で製造することにした。また乗用車タイヤの分野では、ゴーンはクレベールをミュシュランに統合するように提案した。その場合、クレベールの位置づけはミュシュランの第二ブランドである。また、この分析の経験から、ゴーンはその後繰り返し使用することになるあるアイデアを引き出した。英語で“クロス・マニュファクチュアリング”といって、別のブランド名で販売する製品を同一の設備で製造するというものである。
提案の大部分は採用されたが、それを実行するときにはゴーンは研究開発センターの責任者に任された。その後1年間研究所にいて、ゴーンは南米事業を統括する最高執行責任者として、ブラジルに行くことになったのである。
ブラジルのCOO(最高執行責任者)となったゴーンの最初の仕事は、経営の状態についての診断書を作ることであった。会社の状態はひどく悪化していたが、それはこの状況に対する経営の判断にも原因があった。これには外的要因と内的要因があった。その手始めは、本社にいてブラジルの状況が何もわかっていない人々に余計な口出しを謹んでもらうことである。
こうして、まず経営の主導権を確立すると、次の課題は本来あるべき姿に基づいたチーム作りだった。各部門の責任者に集まってもらい、経営会議を行なって、責任者たちが一体となって効果的に働ける体制を作った。会議の結果、ブラジルの事業部は、本社のやり方をそのまま踏襲していたのだった。そのやり方は、欧州や米国の経済環境ではうまくいっても、85年のブラジルには通用しなかったのである。
負債を処理するには、まずキャッシュフローの状況を改善しなければならない。次に、投資は必要最低限に抑え、製品在庫を減らし、納入品の支払い期間を短縮して、不必要な資産も処分した。ゴーンがブラジルに敷いた体制は、やがて着実に実を結んでいった。その後の88年、ゴーンは、北米の子会社の最高経営責任者(CEO)として米国に赴任することになった。
ゴーンからしてみれば、この北米での事業は、それまでの経験を実践で活かす場であったとも言える。クレベールの問題を分析した時に欧州で学んだこと、さまざまな国籍からなる経営チームのトップとしてブラジルで学んだこと、そうしたことが、この米国で実を結ぼうとしていた。端的に言えば、それは二つの言葉に集約できる。クロス・マニュファクチャリングとクロス・ファンクションである。クロス・ファンクションというのは、エンジニアリング、製造、マーケッティング、販売といった異なる部門の責任者たちを一堂に集め、ひとつの問題をさまざまな角度から検討して、その解決を目指すというものだ。
96年4月、ヘッドハンターからの電話がかかってきた。ルノーのルイ・シュヴァイツアーがナンバー・ツーを探している。こうして96年の10月半ばにルノーに入社すると、ゴーンはまずは会社全体を見てまわった。そして、わずか2ヶ月の間にルノーの問題点を把握する。96年の12月に正式に副社長に就任すると、会社の方針に従って、すぐさま“200億フラン削減計画”を発表し、行動に着手した。
ルノーに入社して3年後に、ルノーと日産の提携が実現するが、この著書の半分は、日産に来てからの物語である。日産再生のドキュメントやその経営法については、すでに何冊かの本も出ているので、ここでは省略する。ただ、この本のオビに書かれている、「経営者のやるべきことの中で最も重要なことは、従業員のやる気を起こすことだ。彼らのやる気こそが価値創造の源泉となる」「困難の原因はいつもその企業自身のなかにある」「経営とは実践であって学問ではない」「企業とは物ではない、数字の総計でもない。現場に出かけるところから改革は始まる」というカルロス・ゴーンの言葉を紹介しておきたい。なお、この本はインタビューに答えるという形式なので、ゴーンの生の言葉が伝わってくる。ぜひ一読を薦めたい。
1.選択をやめた日本人
大前研一氏はその著書「一人勝ちの経済学」で、一人勝ちの現象について次のように述べている。「一つの「現象」が、近ごろの日本で非常に目につく。それは・・・・・熱狂的な“メガヒット商品”の誕生だ。と同時に、そのヒット商品の寿命の短さ、ブームの移ろい易さである。その一方で、ヒットしなかったものはさっぱり売れないという傾向に拍車がかかっている」
「これは、商品を売る側から言えば、いまの日本にはビックチャンスが転がっているということを意味している。どんなものが「一人勝ち」するかを分析すれば、大いなる成功に結びつく可能性があるからだ」「しかし、同時に、それは日本社会の危うさを現していると、私は考えている。「一人勝ち」を生み出す土壌が持つ、けっして無視することのできない危険性である」
宇多田ヒカルやGLAYのメガヒット、「タイタニック」や「もののけ姫」の大ヒット、タレント、出版、パソコンソフト、玩具、またナイキのシューズ「エアマックス」。ナイキが新しい機能の製品を次々に売り出しているのに、古い95年モデルを欲しがる。機能で選んでいるのではなく、キムタクと同じだから買う、みんなが買いたがるものだから買う。
この現象について、大前氏は「人は選択肢が増えると、かえって選択しなくなるのではないか」と指摘している。「自分自身は判断基準を持たないで、自分以外の大衆の選択に乗る。「一人勝ち」の経済学の裏側に見えるものは、みんなが求めているものを互いに確認しながら、その一点に集まっていくという、日本人の非常に危険な国民性である」。大前氏が先に論じていた「日本社会の危うさ」とはこのことを指している。
もっとも、「一人勝ち」現象を生み出すことに加担している消費者が圧倒的に多い一方で、最近は、きちんと自分の「選択」をする人々も確実に増えている。本当に欲しいものは、たとえ高価でも買おうという現象も少しずつだが、たしかに見受けられるのである。また、種類が多く価格的に何段階も揃っているような商品の場合、たとえ値段が2倍、3倍であっても、自分にとって本当に価値があると思うほうを選ぶ傾向も目につく。
2.「一人勝ち」時代の経営戦略
では、売る側にとって「一人勝ち」経済の時代を生きるには何が必要であろうか。大前氏は、現代の特徴は、先頭を走っている企業を逆転するのが難しい分野が増えているとしている。たとえば、半導体、石油、自動車、製薬、ゲームソフト、映画などだ。各業界とも、世界競争の時代となり、生き残りのためのハードルはどんどん高くなっている。体力勝負となっているから、体力のある企業ほどますますチャンスを掴み、体力と経営力のない企業は成功するのが難しくなっているというのである。
一方、飲料・食品など消費者商品の場合には、資金的な敷居が比較的低い。だがこちらではムードという、目に見えない壁が問題となる。「なんとなく」「みんなが買っているから」という、「一人勝ち」現象を生み出している源泉だ。このムードを変えることは非常に難しいがそれを変えないかぎり、いくら金をかけても無駄だ。だから一位企業以外の戦略は非常にはっきりしている。消費者商品であればまずムードを変えていくことが不可欠だ。そのためには、アサヒビールやホンダのように、いくつかの商品に絞って、突出させることが大切になる。その先兵によって、旧来のムードという壁を突破するのである。そして、先兵製品が売れ出しているあいだに、実力に転化する。
このような「一人勝ち」時代に、中小企業がニッチな市場を深く掘ることによって利益を上げるには、特定市場の中にお客を集中してつくり、業界全体の中における自分の会社の売上げ比率を高めること、すなわち「市場占有率を高める」ことが重要になる。市場占有率の対象となるものは、商品や有料のサービス、営業地域、営業手法、業界や客層である。商品で1位になることが難しければ、特定の客層を狙う、顧客サービスでナンバーワンを目指すこともできる。
新製品や新市場開発に関しては、研究開発部門のプロジェクトを調べ、顧客ニーズという点から価値の少ないプロジェクトを中止し、その分の資源を上位のプロジェクトに振り分ける。「選択と集中」が必要である。そして、研究開発検討会議ですべてのプロジェクトに対して厳しいチェックをしていく。このようにして、現場の心構えを飛躍的に向上させ、データに基づいたより正確で現実的なデータが戻ってくるようにする。
最終的には、成果を見込めるものについてはゴーサインを与え、潜在的価値もリクエストも大きい主要プロジェクトでは他社との共同開発契約を検討し、自社でやっても大きな価値につながらないと判断したプロジェクトは取りやめる。中小企業が自社の技術や市場をベースに、新たな専門品を開発するということは、ニッチ製品ということであり、そこで重要なのは、市場での顧客ニーズと製品バリエーションを見つけ、それに取り組むことである。
1.全体の構成
「この本は、絶頂期を体験し、現在経営難にあえいでいるすべての経営者が読むべき本である。日本企業再生に向けての処方箋は、数多くの著者からも学ぶことができる。しかし、この本は、根底にあるマネジメントの考え方を基礎から見直さなければ再生はありえないことを教えてくれる。本書が示すマネジメントの考え方の基礎は、ドラッカー教授、ポーター教授等の理論的枠組みをベースに構築されており、その土台は堅牢である」
「また、この本はこれからの経営を担う人々が読むべき本である。この本によく登場するイーベイ、インテル、デル、ウォルマート、トロタ、GE、サウスウェスト航空などのケースは、実践から学ぶ格好の教材である」。一橋大学大学院の竹内弘高教授が日本語訳版によせる序文でこのように述べているように、本書(ジョアン・マグレッタ著、山内あゆ子訳、ソフトバンク・パブリッシング発行)は、「ハーバーと・ビジネス・レビュー」の編集に長年携わってきた著者らが、同誌の持つ、ビジネス・スクールでの研究を実践の場につなぐという優れた性格を受け継いでいる。
本書は二部に分かれている。第一部の「計画/なぜ、どうやって人は共に働くか」では、全体像を見ている。最初の四章では、「なぜ、そしてどうやって人は一緒に働くか」という包括的な疑問に答える。
第1章の「価値の創造/外側から内側へ」は価値の創造から始まる。価値の創造とは、現代のマネジメントとその主要な任務を活性化する原則であり、マネジメントの基本的な疑問である「なぜ」という問いに答えるものだ。一方、第2章の「ビジネスモデル/洞察力を事業に変える方法」とは、組織がいかにして目的を達成するか、価値を創造するために必要な主役たちのシステムを説明するものだ。
第3章の「戦略/優れたパフォーマンス」では、そうしたシステムを、競合する他者といかに異なったものにするか、またそうすることによって、いかに組織のオーナーを満足させ、自立するに足る価値を創り出すかに取り組む。第4章の「組織/どこで線を引くか」は、組織の境界線の内側(もしくは外側)に力を合わせて働く人々を配し、共通の目的を追求するすべてのプレーヤーにもっとも適した仕事のルールを確立して、包括的な疑問に対する答えをまとめている。
第二部の主題は、「実行/行動に移す」、つまりプランを行動に移すことである。戦略と、その中に含まれる組織の計画は、優れた実行への青写真であるが、青写真は計画にすぎない。それを単に「実行」するだけでは構想から現実に到達することはできない。実行することは気が遠くなるほど大変なのだ。
第5章の「現実に立ち向かう/どの数字が重要か、それはなぜか」では、優れたマネージャーが、どの数字に焦点を絞るべきかをいかに良く理解しているか、なぜ基礎的な数量的思考にそれほどの力があるのかを探る。同じように重要なのが、誰もが同じ方向に向かい、成功に向けて力を合わせられるように、マネジメントが組織の目的を具体的にするということだ。第6章の「「本当」の最終損益/使命と評価基準」では、優れた行動の測定基準がいかにこれを実現し、組織の本当の最終損益を明らかにするかを説明している。組織の目的をはっきりさせることは、マネジメントの原則の中でもっとも強力で、何よりも人の集中力を保ち、大勢の人を同じ方向へと引っ張っていく力だ。そのためにマネジャーがすべきなのは、組織の使命を誰もが具体的だと思える成功、一連のゴール、実行の評価基準に、移し替えることである。
第7章の「未来を予想する/イノベーションと不確実性」では、どうやって短期的な成績と長期的な成績のバランスを取っていくかについて見ている。先行きが不確かな今、マネジャーは資源への目配りも忘れてはならない。つまり、資金をどう使い、いかに革新するかである。また、マネジャーは自分自身も含めて全員が当面の重要課題に集中し、必要な部分に資源が投入され、組織が常に前進し続けるようにしておかなければならない。これが第8章の「結果を出す/まずは焦点を絞ること」のテーマである。結果を出す能力はほんの一握りの基本的な実行方法を身につけることにかかっているとして、「パレートの法則(80−20ルール)」と「改善」の原則をあげている。
最後の第9章の「人をマネジメントする/どの価値が重要か、それはなぜか」では、マネジメントにとってどうして評価がこれほど重要なのか、優れたマネジャーが、それを乱用することなく、いかにうまく使いこなしているかに注目している。
2.第4章「組織」でのケースメソッド
第4章の組織と戦略の関係で取り上げられている自動車業界の例を見てみよう。1903年のフォード自動車会社設立から数年のうちに、ヘンリー・フォードの野心は具体化した。彼の夢は、車を大衆のものにし、働く人誰もが買える車を作ることだった。1908年から1912年までの間に、実に30%パーセントもの値下げを可能にしたイノベーションの突破口は、組立てラインだった。フォードは、シカゴの食肉加工工場で目にした解体ラインにヒントを得たのだった。
製造ラインの領域をひとつのモデルに限定したことが、フォードの夢を叶えた。パーツもプロセスもすべてが分析され、効率を最大にしコストを最小にするために、もっともシンプルな部品に細分された。フォードの戦略にあった組織は、典型的な命令と管理の組織だった。細部に至るまで、すべてがトップダウンで決められ、階層を通して管理されたという、フードその人が命令を下す中央集権的な組織だった。
1920年代初頭、GMのアルフレッド・スローンは、フォードの低価格T型フォードに対抗するために、シボレーを基本的な交通手段以上のものと位置づけた。バラエティに富んだ製品群と顧客の分割こそが、スローンが編み出したGMの戦略だったのだ。
しかし、その実行には組織設計の抜本的な刷新が不可欠だった。この難問を、スローンは複数事業部制という新しい組織構造で解決した。独立したそれぞれの部署がそれぞれ特定の顧客に集中することで、製品とマーケティングについてより良く把握した上で決断が下せる。
1950年代、小さな国内向け自動車メーカーだったトヨタには、当時の自動車産業で行われていたゲームに張り合うだけの規模も資本もなかった。自前で部品を作ることもできず、部品製造会社を所有することもできなかったトヨタは、原料のみならず、ブレーキのような複雑なシステムに至るまで、社外の供給業者に頼るしかなかった。これは二つの意味で、昔ながらの知恵を活用することにつながった。まず、供給業者と情報をシェアし、パートナーのように扱うことになった。第二に、在庫は必要悪だというのは、製造業における昔ながらの知恵だった。
トヨタは、「ちょうど間に合うように手元にくる(ジャスト・イン・タイム)」という方法を編み出した。このために製造工程を確実なものにするために、問題が発生したときに、労働者に製造ラインをストップできる権限を与えた。労働者に、クオリティを低下させる問題の原因を特定できる自由を与えたのである。従業員主導によるトヨタの品質管理は、問題解決を製造現場で働く労働者の手に委ねた。トヨタは製造工程のクオリティを高める多くの技術(「トータル・クオリティ・マネジメント」(TQM))を発達させた。
1.利益モデル
「どうすれば、ビジネスで「利益」を生み出せるのか?」。本書(エイドリアン・スライウオツキー著、中川治子訳、ダイヤモンド社発行)は、この問いに、ストーリー形式で答えるビジネス書である。大企業デルモアの戦略企画部門で働くスティーブは、自社の業績落ち込みで悩んでいた。そんなとき「ビジネスで利益が生まれる仕組みを知り尽くした男」デビット・チャオと出会い、その教えを請うことになる。深い洞察と豊富な経験を持つチャオは、利益を実現する23の方法を一つずつスティーブに話しかける。約8ヶ月にわたる二人だけのレッスンのなかで、スティーブは23の利益モデルを学び、宿題をこなし、幅広い課題図書を読むことになる。そして、次第にものの見方や考えを深め、利益の本質を学び取っていくのである。
「プロフィット・ゾーン経営戦略」の著者として知られるスライウオツキーは、「利益が生まれる仕組みは多種多様だが、企業がどこで利益を上げられるかを決めるのは顧客である」。「成功している企業は、自らの顧客をしっかりと見据えたうえで、パワフルかつユニークな利益発生のメカニズム:利益(プロフィット)モデルつくりあげている」。このような視点から、アイデアや理論を提示するだけでなく、一人ひとりの読者が独自の考えを深めるための方法論を提供している。
冒頭にある「読者の皆さんへのお願い」で、「この本に登場する「利益モデル」をスティーブとともにじっくり考えながら読んでください。その際、自分の会社のビジネスを念頭に置き、以下のような問いを想定して読むことをお勧めします」と、次のような項目を記している。
・自分のビジネスはどの利益モデルを使っているか?
・競争相手のビジネスはどの利益モデルを使っているか?
・もっと利益を上げるために、現在の利益モデルを使って新たにできることはないか?
・まったく新しい収益源をつかむために、新しい利益モデルは使えないか?
・自分の仕事はどのように利益と結びついているか?利益と無関係な業務はないか?
・将来の事業計画は、どのようにして自社に利益をもたらすだろうか?
・自社の計画のなかに収益性を損なう可能性があり、中止すべきものはないか?
・自社は業界のなかで、まったく新しいユニークな利益モデルをつくれないだろうか?
2.23の利益モデル
本書で取り上げている23の利益モデルは、顧客ソリューション利益モデル、製品ピラミット利益モデル、マルチコンポーネント利益モデル、スイッチポート利益モデル、時間利益モデル、ブロックバスター利益モデル、利益増殖モデル、起業家利益モデル、スペシャリスト利益モデル、インストール・ベース利益モデル、デファクト・スタンダード利益モデル、ブランド利益モデル、専門品利益モデル、ローカル・リーダーシップ利益モデル、取引規模利益モデル、価値連鎖ポジション利益モデル、景気循環利益モデル、販売後利益モデル、新製品利益モデル、相対的市場シェア利益モデル、経験曲線利益モデル、低コスト・ビジネスデザイン利益モデル、デジタル利益モデル。
ここでは、本書で取り上げている23の利益モデルのうちのいくつかを紹介する。
1)顧客を知ることが利益のはじまり:顧客ソリューション利益モデルデータハウス社のライバル企業ファクトセット社は、潜在顧客と見込んだ会社に対して、2、3人のチームを送り込んだ。こうした貴重な情報に基づいて、ファクトセットは顧客の特色や経済状態に合わせてカスタマイズした情報製品やサービスを開発した。そして、首尾よく契約を獲得できた暁には、今度は膨大な時間をかけて自社製品を顧客のシステムに統合していった。「時間とエネルギーを注いで、顧客について知っておくべきことをすべて知ること。そして、その知識を顧客固有のソリューションの開発に活かすこと。短期の損失には目をつぶり、長期の利益を実現しろ」ということだ。
このときの宿題は、「ファクセットの利益曲線について考えること。それから、顧客ソリューション利益モデルが適用できるビジネスを検討すること。そして、その可能性をリストすること」
2)同じ製品で異なるビジネスを:マルチコンポーネント利益モデルチャオの友人バートンは、書籍販売では、店頭売りという基礎の上に新たな高収益コンポーネントを築けると考えた。すなわち企業向け販売、読書サークル向け販売、個人向け直販といったコンポーネントだ。そして、書店協会の協力で何ヶ月かの調査を行ったのち、彼らの外商活動を徹底的に強化するプログラムを開発した。
その内容は実にシンプルだった。二人の顧客担当マネジャーが、まず企業の図書室や人材開発部門を訪ねて新刊を売る。次に、地域の読書サークルにサービスを提供し、最後に高額購買層の個人向け販促を展開するというものだ。20人ほどのメンバーが、バートンのプログラムを実行に移したが、結果は予想を遥かに超えるものだった。プログラムを導入した書店の大半は、200件の法人顧客、100件から200件の読書サークル、500件を超える高額購買層の個人や家庭を開拓することに成功した。
3)臨界点を目指せ:スイッチボード利益モデル
ハリウットの名高いタレント・エージェントのオーヴィッツは、テレビタレント・エージェントとして出発した。タレント・エージェントが脚本家、主演俳優、デレクター、助演陣を一括して完全なパッケージを番組制作会社に送り込む。オーヴィッツはこの方式をテレビの世界で完全に自分のものにしたあと、映画制作の世界へ持ち込んだ。
パッケージにするというコンセプトはスイッチボード構築のための第1段階にすぎない。オーヴィッツの第二段階は脚本の調達だった。そこで、彼は当時ニューヨーク最大手の著作権代理店を営んでいたモートン・ジャンクローに近づいた。ジャンクローは国内でもトップクラスの小説家や短編小説家、ジャーナリストの著作を扱うエージェントだった。彼らがオーヴィッツのストーリー調達源となった。第3段階は量である。傘下に入るアーティストが増え、臨界点が上がれば上がるほど、有用なパッケージを提供できる可能性が高まる。こうなると映画会社は彼と取引せざるを得なくなり、スターたちもあなたと取引したいと思うようになる。そのクロスオーバー・ポイントは、だいたい15%から20%である。
4)利益追求に驀進する情熱:起業家利益モデル
チャオの友人ジャック・サンダースは四つ目のベンチャーを手掛けているが、最初の三つは大金と引き換えに手放した。一番重要なことは、彼が宣教師のように倹約を説くことである。たとえば、飛行機ならエコノミー、先方に出向く場合の移動も、必然性に照らしてできる限り節約する。電話やFAXですませられないかと相手に打診する。
彼はコミュニケーションを非常に重視するタイプだ。顧客ニーズやコスト削減や売上げ増大といった、きわめて実際的なテーマに焦点を絞って話し合う。そして、非常に明確な目標を設定する。ジャックはサプライヤーに手強い要求をする。徹底して最低価格を追及するが、そのために必要な創造性と新しいアイデアも追求する。
徹底した倹約精神と明確なコミュニケーション、スピート、挑戦、仕事を面白がることは起業家精神につながる。ビジネスの世界ではこれこそが最強の武器だ。この精神があればこそ、合理性と常識をどこかに置き忘れることなく、全社一丸となって利益の追求に驀進できる。ビジネスの世界で最も難しいのは、成功した後でも起業家精神を持ち続けることである。
5)ニッチな市場を深く掘れ:専門品利益モデル
ニュージャージーにある特殊化学製品会社の話である。ここはテクノロジーを専門とする会社で、売上げの70%が専門品だったが、その割合は急激に落ち込んでいた。研究開発部門のトップ、アン・リネンとチャオは、数あるプロジェクトの調査を開始し、10件を超えるプロジェクトを中止し、その分の資源を上位10件に振り分けることにした。その後、毎月の研究開発ポートフォリオ検討会議を再開し、すべてのプロジェクトに対して毎月同じ厳しい質問を投げかけた。すると、現場の心構えが飛躍的に向上し、データに基づいたより正確で現実的な答えが戻ってくるようになった。
他社がやってもらうほうが大きな価値につながると判断した7件のプロジェクトをスワップし、短期的な成果を見込める4件についてはライセンスを与え、潜在的価値もリクエストも大きい3件の主要プロジェクトでは共同開発契約を結んだ。プロジェクト総数は35件に削減され、その価値は飛躍的に向上し、3年で成果が現れるメドがついた。専門品というのは、ニッチ製品ということだ。そこで重要なのは、間違いなく顧客ニーズと製品バリエーションを見つけ、それに取り組むことだ。
1.本書の構成
本書(大江建著、日本経済新聞社発行)では新規事業を「既存事業の水準を超えて、企業が新たに学習しなければならない未知の事柄が含まれる事業」と定義している。コーポレート・ベンチャリング、社内ベンチャー、社外ベンチャー、分社、新事業など、さまざまな呼び名を使って、既存事業とは異なる事業内容や事業形態の事業を推進しているが、本書ではこれらを総称して新規事業と呼んでいる。
新規事業が成功したという話をあまり聞かない理由は、新規事業には新しい部分や未知の部分があり、既存事業と比べて学習しなければならないことが格段に多いことに原因がある。試行錯誤が多いこと自体が、新規事業失敗の可能性が高いことを示唆している。企業が新規事業で失敗するもう一つの理由は、新規事業を展開する企業内の管理上の問題である。新規事業のように「知らないことが多い」事業や「学習していく必要がある」事業においては、既にいろいろな経験を積み上げてきた既存事業向けの推進方法や管理方法が役に立たないばかりでなく、失敗の大きな原因にもつながる。
新規事業が企業の柱となる事業として育つまでには、「事業コンセプト段階」「事業立ち上げ段階」「事業急成長段階」「事業統合段階」の四つの成長段階を通過しなければならない。この新規事業の推進には、「企業内の誰が関わることが必要か」を考えてみる。大企業の場合は、数人から百人近くの新規事業推進部や新規事業推進室が設置されている。これらの組織が受け持つ新規事業の推進・支援機能を観察してみると、「新規事業を実際に推進する」「新規事業を直接的に支援する」「新規事業を間接的に支援する」の三つの機能があることがわかる。
これらの三つの機能を誰が受け持つかは、企業規模や企業の経験などで異なる。従業員三百人以下の企業では、社長が新規事業の指針を出し、新規事業を実行し、新規事業のための支援を取り付ける機能を一人で果たしている場合がほとんどである。規模が三百人以上の企業になると、三つの機能をそれぞれ別の人たちが手がけている。事業の実行機能は社内起業家と呼ばれる新規事業推進室が担当し、新規事業への直接的支援機能は新規事業推進室などと呼ばれる「社内インキュベーションセンター」組織や「インキュベーションマネジャー」が受け持っている。他方、新規事業の間接的支援機能は経営トップが果たしている。
本書の第1章「新規事業の本質」では、新規事業の定義を詳しく述べ、新規事業がなぜ必要かをカメラ業界を例に挙げて説明する。第2章では、事業コンセプト段階での経営トップが果たすべき役割である「新規事業の目標と分野」設定のための方法論を示す。第3章では、事業コンセプト段階で社内起業家が果たす役割のうち、「新規事業アイデアの創出」の方法論を示し、「社内インキュベーションセンター」が果たすべき役割である「事業の選択方法」について詳しく言及する。また、事業コンセプト段階で社内起業家に求められる「事業コンセプトの明確化」の手法を、とくに顧客の定義、アトリビュート分析および消費チエーン分析による差異化の面から説明する。第4章では、事業アイデアの評価方法について説明する。第5章では、新規事業の戦略作りに欠かせない要素として「参入戦略」、成長を持続するための「儲けの戦略」「反撃戦略」について説明する。
第6章では、立ち上げ段階と急成長段階における社内起業家の役割と、「社内インキュベーションセンター」が果たすべき「事業の進捗管理」の方法を説明する。「仮説のマネジメント」の手法である逆損益計算書、利益源泉図、マイルストーン計画などについて詳述べする。この部分が本書の中核である。第7章では「組織の編成」について述べ、第8章には社内インキュベーションセンターが提供すべき支援策について、事業コンセプト段階、立ち上げ段階、急成長段階に分けて示してある。終章では、これからの企業における新規事業の果たすべき役割について改めてまとめる。
2.仮説のマネジメント
新規事業は「仮説をマネジメントする」ことである。新規事業の推進には、@仮説を作り、A仮説を検証して、B仮説を管理する―――という三つのマネジメントの要素が必要である。「仮説のマネジメント」において使う「仮説」とは「事業計画を立てるとき、その土台となる企業の考え方や戦略、社会のトレンド、計画の出発点として想定されるもの」と広く定義している。まず、「仮説の数値化」が可能かどうかと、「自社でコントロール可能か」という二軸で「仮説」を分類してみると、自社でコントロールできる「内的仮説」とコントロールできない「外的仮説」に分けられる。
新規事業の計画は仮説に基づいていて、知識に基づいていないので、でたらめになってしまうのではないだろうか。しかも、ほとんどの仮説が明示されておらず、暗黙の仮説にとどまっているのである。新規事業を推進することは、まさに「仮説を知識化していくプロセス」なのである。しかし、仮説を検証して知識化するためには、「仮説を明文化」しておかないと、暗黙の仮説が新規事業計画に潜り込んでしまう。仮説を作って、それを明文化する必要がある。
仮説を作るときには、「逆損益計算書」という考え方を導入する。通常の損益計算書の逆の順序で作っていくのである。「はじめに利益あり」である。売り上げ予測から始めて利益を算出するという考えではなく、「まず目標利益から始める」ものである。次に、必要売上高を算出して、目標利益を確保するための許容コストを決めるという手順で損益計算書を作り上げる。
仮説は検証されて初めて知識化されるのであり、検証なくして仮説が知識になることはない。そこで有効になるのが、「マイルストーン計画」である。アポロ計画は、「アメリカは1960年代が終わるまでに月へ人類を着陸させ、安全に地球へ帰還させるであろう」という当時のケネディ大統領の演説によって明確な目標が示された。アポロ計画はAからGまでの七つの段階(弾道飛行、月着陸のためのランデブーやドッキング、宇宙遊泳、司令船と機械船と月着陸船からなる宇宙船、無人探索機、有人飛行月軌道周回と降下検証、人間の月面着陸)に分けられ、G段階の「人間の月面着陸」に向けて、仮説を立て、検証して、仮説を修正し、また検証して、仮説の知識化を進めていった。
仮説のマネジメントは次のような九つのステップからなる。「目標の設定」「利益源泉図の作成」「利益構造図の作成」「シミュレーション」「仮説のリスト化」「マイルストーン計画による進捗管理」。仮説のマネジメントの実践例として、ロボットなどの産業機械メーカーA社が新規事業として画像計測エンジン事業への参入を検証している例を取り上げている。
このような仮説リストに載っている仮説を、いつ、どのくらいの予算で検証するかの「検証プラン」がマイルストーン計画である。前記の画像計測エンジン事業を例にして次のようなアイルストーンを検討している。「マイルストーン1=事業コンセプト」「マイルストーン1=事業コンセプト」「マイルストーン1=事業コンセプト」「マイルストーン2=企業化調査」「マイルストーン3=製品開発」「マイルストーン4=試作検証」「マイルストーン5=市場調査」「マイルストーン6=生産開始」「マイルストーン7=先行販売」「マイルストーン8=競争相手への対応」「マイルストーン9=損益分岐点」。
1.全体の構成
本書「コトラーの戦略的マーケティング、フィリップ・コトラー著、木村達也訳、ダイヤモンド社」は、Kotler
on Marketing to Create、Win、and Dominate Marketsの全訳である。「マーケティング原理」「マーケティング・マネジメント」などの著書でのフィリップ・コトラー教授が、20年間にわたって企業の経営幹部を対象に行ってきたマーケティング・セミナーのエッセンスをもとに描いた、戦略的マーケティングの現在と未来である。
本書は四部からの構成になっている。第T部は、マーケティングの戦略面がまとめられている。市場機会の見つけ方から、バリュー・ポジションの創造とブランド・エクイティの構築の仕方までのプロセスが解説されている。
第U部は、マーケティングの戦術面に関する部分である。マーケティング情報の開発と利用法や、伝統的な4P理論への修正を加えて上での製品、価格、流通チャンネル、プロモーションの四つから成る効果的なマーケティング・ミックスの実践。および、顧客の獲得と顧客価値の創造法が提示されている。
第V部は、マーケティング管理を、プランニング、組織、評価、そしてコントロールの側面から説明している。マーケティングが戦略的かつ戦術的に優れていたとしても、マーケティングの管理がうまくいかなければ、失敗することがある。マーケティング管理とは、適切なマーケティング・プランを準備し、かつ実行できる能力を有することである。日本企業が今後もっとも目を向けなければならないテーマが取り上げられている。
最後の第W部が、グローバル・マーケットのなかで、ますますその重要性を増す、電子マーケティングについてである。競争の領域が、マーケット・プレイス(地理的場所)からマーケット・スペース(インターネット上)に拡張するなか、消費者の購買行動の変化を予測して確実に適応する手法として,いかにしてサイバースペースを攻略すべきかを提唱している。
2.戦略的マーケティング
第2章の、「価値を創造し、伝達するためのマーケティング」では、売り上げを増加させるためにマーケティングが果たすべき役割について検討しているが、企業が収益を上げられる市場規模については次のように解説している。市場をどの程度均質なものと見るかは、それぞれの企業が決定しなければならない重要なポイントである。その一方の極にあるのが、市場全体に標準化された製品やサービスを提供するマス・マーケティングである。マス・マーケティングよりも市場を細分化したものが、ターゲット・マーケティングである。
ターゲット・マーケティングでは、市場全体を一つとみなさず、一つあるいは複数のセグメント(区分)を対象にした製品やサービスを開発する。ターゲット・マーケティングを実施する場合、市場はいくらでも小さい「セグメント」に切り分けることができる。
実際、コトラーは市場を、ブランド・セグメント・レベル、ニッチ・レベル、マーケット・セル・レベルの三つに分類している。最も市場を細かく細分化した顧客レベルのマーケティングは、個々の顧客に焦点を合わせたオファーとコミュニケーションを提供する企業が実践している。
マーケティング・マネジメント・プロセスは、以下に述べる五つのステップから構成されるとしている。R=調査(市場調査)→STP=セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング
→MM=マーケティング・ミックス(一般には4Pとして知られているもの。つまり、製品、価格、流通チャンネル、プロモーション)
→I=実施 →C=コントロール(フィードバック、結果の評価、STP戦略とMM戦術の見直し、もしくは改善)。
第3章の「市場機会の発見とバリュー・オファーの創造」では、新製品やサービスをもたらす良質なアイデアを数多く開発するためのモデルを提案している。企業は新しいアイデアを得るために、さまざまな情報源を利用している。たとえば、自社の営業マンが顧客のニーズを聞き出すことや、新製品のアイデアがR&Dグループから出てくることを望んでいる。しかしながらそこには問題がある。コトラーが提案する二つのモデルの一つはアイデア・マネジャー・モデルであり、もう一つは戦略的ブレークスルー・モデルである。
戦略的ブレークスルー・モデルとして、コトラーが指導したGEメディカル・システムズの事例を紹介している。同社は20名の上級管理職を集め、「ブレークスルー」セッションに一日がかりで取り組んだ。20名のマネジャーは4チームにわけられ、それぞれが違う課題を与えられた。課題は、「新しい顧客とセグメント」「新しい営業戦略」「新しい価格設定および機器のための融資解決策」「新しい製品特性」である。各チームは、午前中はグループ単位でブレーン・ストーミングを行い、午後の早い時間には全員が集合して、グループ全体に自分たちのアイデアをプレゼンテーションした。最後まで残った二つのアイデアが実行に移され、大成功を収めた。
3.マーケティング管理
第9章の「より効果的なマーケティングのためのプランニングと組織づくり」では、マーケティング・プランニングとマーケティング組織を取り上げており、以下のマーケティング・プランは、主要なマーケティング活動のそれぞれの局面で作成される必要があるとしている。「ブランド・マーケティング・プラン」「製品カテゴリー・マーケティング・プラン」「新製品プラン」「市場セグメント・プラン」「地域市場プラン」「顧客プラン」。
また、最低限、マーケティング・プランには以下にあげる項目が含まれていなければならない。「状況分析」「マーケティングの目的と目標」「マーケティング戦略」「マーケティング活動プラン」「マーケティング・コントロール」。ここで状況分析は、次の四つの要素から構成される。現在の状況についての記述、SWOT分析(SWリスト=強み、弱み、OTリスト=好機、脅威)、ビジネス上の課題、将来についての主たる前提。また戦略は、以下の六つの側面から記述される。ターゲット市場、コア・ポジショニング、価格ポジショニング、トータル・バリュー・プロポジション、流通戦略、コミュニケーション戦略。
第10章の「マーケティング成果の評価とコントロール」で取り上げている効果的なマーケティング組織とは、適切なマーケティング評価とコントロールの手順を開発し、活用している企業である。とりわけ、次の二つの手順が重要であるとしている。「現状を評価し分析し、間違いがあればそれを正す」「マーケティング効果の監査を行い、重要だが弱点になっている点を改善するためのプランを作成する」。
コトラーは、企業が年度ごとの業績を評価する際に、三つの異なるスコアカードを利用することを提案している。それは、「ファイナンシャル・スコアカード(損益計算書など)」「マーケティング・スコアカード(市場シェア、顧客維持、顧客満足、相対的な製品品質、相対的なサービス品質、その他の指標)」そして、「ステークホルダー・スコアカード(ステークホルダー:従業員、納入業者、流通業者、小売業者、コミュニティ)」の三つである。
1.実践コミュニティのコンセプト
監修者の富士ゼロックス潟iレッジ・ダイナミックス・イニシアティブ野村泰彦氏の序文によると、現在、欧米で最も注目されているナレッジ・マネジメントのコンセプトが、「コミュニティ・オブ・プラクティス(実践コミュニティ)」である。欧米のナレッジ・マネジメント先進企業は、情報や知識そのものを管理するのではなく、知識を維持・向上するための実践コミュニティの育成を徹底的に行ってきた。実践コミュニティは、著者の一人であるエティエンヌ・ウインガーたちが1991年に名付けたコンセプトである。そして、「共通の専門スキルや、ある事業へのコミットメント(熱意や献身)によって非公式に結びついた人々の集まり」を実践コミュニティと名付けたのである。
本書「コミュニティ・オブ・プラクティス(エティエンヌ・ウェンガー、リチャード・マクダーモット、ウイリアム・M・スナイダー著、桜井裕子訳、翔泳社出版)」は、このコンセプトンの提唱者であるエティエンヌ・ウェンガー自身が、初めてビジネスパーソン向けに書き下ろした、実践コミュニティの手引書である。世界銀行、マッキンゼー、ゼロックス、シェル石油、ダイムラー・クライスラーなど多くの事例を用いて、グローバル企業がいかに実践コミュニティを核とした価値創造を実現してきたか、その物語を伝えている。
本書は、まず1章と2章で、実践コミュニティとは何か、なぜ組織にとって重要かなど、このコンセプトの基礎について説明している。第3、第4、第5章では、コミュニティ開発という技術について、基礎的な設計原則から各発展段階の支援プロセスに至るまでを議論する。第6章では分散型コミュニティという特別なケースを考察し、第7章ではコミュニティに起こり得る不調を詳細に見ていく。次に第8章では評価と管理というチャレンジに目を向け、第9章では全社的な知識推進活動を運営するという難題を扱う。最後に第10章では実践コミュニティが単独の組織という枠を超えて、より一般的に社会の中で体系化するという、もっと大きな可能性について思いをめぐらせている。
実践コミュニティには多様な形態があるが、基本的な構造は同じであり、実践コミュニティは、次の三つの基本要素のユニークな組み合わせである。一連の問題を定義する知識の「領域」、この領域に関心を持つ人々の「コミュニティ」、そして彼らがこの領域内で効果的に仕事をするために生み出す共通の「実践」である。また、コミュニティは他の生き物と同じように、完成した状態で生まれてくるのではなく、誕生、成長、死、という自然のサイクルを経験する。著者たちはコミュニティの発展には五つの段階があることを発見した。潜在、結託、成熟、維持・向上、変容である。
コミュニティの発展段階について紹介すると、コミュニティは、すでに存在する社会的ネットワークから始まる。組織の重要な問題に関心を持つ人々が集団を形成し、これらの人々がネットワーク作りを始めることが多い。初期段階の実践コミュニティの三要素は、領域の範囲を定義し(領域)、既にネットワークを築いている人たちを見つけ出し(コミュニティ)、メンバーがどんな知識を必要としているかを割り出すこと(実践)である。
実践コミュニティはさまざまな意図を持って始められるが、本書では、米国生産性品質センター(APQC)による探索的研究で明らかにされた、次の四種類に分けている。
1)助け合いのコミュニティ:メンバーが日常的な問題を解決したりアイデアを共有するのを助ける。インターネットのカスタマイズされた掲示板で支援や意見を求めるなど。
2)ベスト・プラクティスのコミュニティ:特定の実践を開発、検証し、広める。構造化された審査プロセスがあるため、文書化された実践を共有することに重点が置かれる。
3)知識の世話人のコミュニティ:フォーラムを開催し、日常に用いる知識を体系化し、更新し、浸透させる。社内にある情報を見つけ出し、体系化し、前者に広めるなど。
4)イノベーションのコミュニティ:アイデアやイノベーションを促し、そこで生まれたアイデアを新製品や改良品という形で実現させるための道筋を提供。
2.価値創造の評価・知識推進活動・企業横断型のコミュニティ
学習とイノベーションを促すために、コミュニティを組織的に浸透させ、組織と融合させ、影響力を持たせたいと考える組織は、コミュニティを評価および管理しなくてはならない。実践コミュニティは、貴重な知識資源を世話することで価値を創造する。知識資源は、それを世話するコミュニティと同様、評価することも管理することもできないとする議論は多いが、その知識が流れることによって価値を生み出す「ナレッジ・システム」であれば、評価し管理することはできる。
著者のモデルでは、ナレッジ・システムを全体的にくまなく吟味する。実践コミュニティに始まり、知識資源がビジネス・プロセスに適用されるまでを追跡して、顧客や関係者に価値を提供する上で、コミュニティの活動がどのように役立ったかを評価する。この手法は二つの補足的な方針に基づいている。つまり物語を通じて因果関係を実証し、そして徹底的な文書調査によって、それが体系的であることを保証する。
第9章では、世界銀行の「ナレッジ・フェア」を例に、「コミュニティを核とした知識促進活動」を取り上げている。コミュニティを育成する際には、集団を組織するだけでなく、それが属する組織そのものを変容させることを考えなくてはならない。つまり、コミュニティはコミュニティそれ自身のために立ち上げるのではなく、組織の学習とイノベーションにまつわるあらゆる能力を高めるために立ち上げなくてはならないのだ。
あらゆる変革推進活動と同じように、コミュニティ主体の知識推進活動もさまざまな段階を経験する。推進活動の各段階―準備、立ち上げ、拡大、統合、変容―は、コミュニティの発展段階と非常によく似ている。準備段階に重要なのは、この時期に推進活動を事業戦略と強く結びつけることだ。このための方法としては、組織の能力やビジネス・プロセスを分析したり、場合によっては初期の行動計画を策定する。準備段階で特に注意を払うべきもう一つの側面は、技術インフラである。ホームページ、オンラインの話し合いの場、研究報告書などの文書を集めたレポジトリー、検索エンジン、会員名簿、電子コラボレーション、コミュニティ管理ツールは、特にコミュニティに役立つオンライン機能である。
実践コミュニティは、グローバル化、技術革新、人口統計的変動、権限委譲などの、新たな経済環境におけるさまざまな脅威や機会に企業が適応するのを、いくつかの方法で助けることができる。すなわち、新しいビジネス・チャンスを創り出す、専門知識を再構築する、人材育成競争に勝つ、複数の組織にまたがる「価値の網」をフルに活かす。コミュニティが組織を変容させる力は、非公式の機構を従来のように「管理する」のではなく、「育成する」というパラドックスをいかに実現するかにかかっている。
そして最後の第10章で取り上げている、単一の組織の境界にとらわれないコミュニティ、「拡張型ナレッジ・システム」では、サプライヤー、流通業者、顧客、その他社外のさまざまなパートナーやコミュニティが含まれる。B2B(企業間電子商取引)クラスターでのコミュニティ、消費市場でのコミュニティ、企業横断型のコミュニティである。そして、今後企業をベースとしたコミュニティ開発の経験が蓄積するにつれて、このような方法を企業以外に、そして企業のネットワークさえも超えて適用することが、容易になるはずだ。将来的には市民セクターのコミュニティが、企業や顧客を含め、市場を組織化するようになるかも知れないと指摘している。
本書冒頭の推薦する言葉で、慶応義塾大学総合政策学部の花田光世教授が、「本書は企業の方針・価値との一体化や単なる情報の共有化という、古くからある「場」の概念を超え、価値創造のダイナミックなメカニズムを提供している。組織の中のネットワークの質を高め、その活動をサポートするコーディネーターの役割を説き、コミュニティの活動を評価するメカニズムの提案など、行き場を失った組織内のコミュニティ、自信を失った中間管理者、価値創造の評価の基準づくりに迷う経営者に本書が与える影響は大であり、日本企業のトランスフォーメーションに大きな参考になるものであると信ずる」とエールを送っているが、まさに適切な指摘である。
1.シュムペーターとフィッシャー
本書(「経済論戦は蘇る」竹森俊平著、東洋経済新聞社版)は、慶応義塾大学経済学部教授である竹森氏が、平成不況の原因とその処理の仕方について闘わされている経済論争を、シュムペーター的とフィッシャー的という二つの軸を用いて整理している。こうして論点を整理しながら、個々の政策提言の意味と限界とを読み取ろうとしている。
「清算主義」に立つ経済思想として、最も良く知られ、今日にいたるまで影響力を持つものは、オーストリアの経済学者、ヨゼフ・アロイス・シュムペーターによる「創造的破壊」の考え方である。一言でいって、シュムペーターは、長期的な視点からみると、不況は経済にとって有益な働きをするものと考えた。「不況」を通じて、いらなくなったもの、老朽化したもの、非効率的なものが市場から退出する。そうなれば、新しい技術を体系化した、より効率のよいものが市場に参入し易くなる。
一方、「デット・デフレーションの理論」と呼ばれる経済理論がある。「不況」は経済社会にとって、有益どころか、きわめて有害であり、それを財政金融政策によって解消をはかるかわりに放置すると、やがて経済システムは「デフレ・スパイラル」によってメルト・ダウンする危険があるとするものである。そして、デフレの進行を拡張的な財政金融政策でくい止めるという「リフレ思想」である。生まれたのは、やはり大恐慌のときで、この名前をつけたのは、アメリカの経済学者、アービング・フィッシャーある。
本書では、1920年代から30年代ごろに勃発した大恐慌が起こった時代の世界経済の仕組みと、大恐慌が起こったメカニズムを説明している。そして、大恐慌のときに、シュムペーター的な「清算主義」で経済を運営した国は、どこでも、不況が極度に進行した。「清算主義」は失敗したと断定している。そして、大恐慌の経験は、当時、人気のあった一つの経済思想(シュムペーターの「清算主義」)を徹底的に敗北させ、それに対立する経済思想(ケインズやフィッシャーの「リフレ思想」)に完全な勝利をあたえることになったと指摘している。
第2章の「日本経済の遭難」では、タイタニック号の遭難と日本経済の長期低迷を対比している。強気の見通しに立つ急速な設備投資の拡大をした企業。強気な見込みをさらに増長させ、設備投資にいっそうの拍車をかける好況下の日銀の低金利政策、余剰資金の処分に困る銀行セクター。バブルの発生は、こうしたさまざまな要因と、さまざまな偶発的要素が重なって起こったものとしている。
一方、その崩壊は、地価高騰に対する国民の不満の高まりと、湾岸戦争の勃発によるインフレへの警戒から、日銀が5回にもわたり公定歩合を引き上げた結果といわれる。ともかく上昇基調から、急に下方への軌道修正が起こったことは、氷山との衝突にも似た衝撃を経済に対して与えたのだとしている。このような過剰投資と過剰投機とは、不況の発生にとり重要な要因となる。しかし、それらが借りた資金でなされているのでなければ、その影響ははるかに小さいだろうとし、企業の過剰債務が、過剰投資と過剰投機とを深刻な問題にしたと指摘している。
第3章の「構造改革とデフレ対策」で、「将来不安」から消費は低迷しているといわれるが、財政の建て直し以外に、国民の将来ビジョンの改善を生む産業政策が「構造改革」によって提案されるなら話は別であるが、今日の「構造改革」はわれわれの将来についての「予想」の改善効果はあまりないのかも知れないとしている。
小泉政権が成立して1年を経過したところで、政府からは、消費の不振挽回につながるような「新産業、新事業」の提案はなかった。また、規制緩和についても、その規制がなくなれば、一気に新事業、新産業の勃興が始まるような切り札は存在しなかった。「積極的な期待改善」ではなくて、財政赤字を減らし非効率な公共事業を廃止させることで、将来の負担をいくらか緩和するといった「消極的な期待改善」でしかない。
このような考察をもとに、「構造改革」自体が消費ブームを引き起こす力は弱いから、有効需要の創出のためにはデフレ対策、つまり積極的な財政金融政策が必要であるとしている。問題は、デフレ対策の推進が、「構造改革」の目標と両立するかどうかどうかであるが、マクロ経済政策によって、「不況」に歯止めをかけることが、長期的な経済成長を達成するためにも、重要だと指摘している。
2.デフレ・スパイラルとリフレ政策
4章では、「不良債権処理」を取り上げている。資本の最終的な提供者である「一般会計」から「起業家」に対して「富の移転」がなされたなら、「デフレ・スパイラル」が終わるかもしれないとの経済理論分析をもとに、この性格を持つ政策として、二つのタイプがあるとしている。
第1のタイプは、「借り手」が持つ債務を軽減することを狙った処置。法人向け「不良債権」の「債権放棄」をする平成の「徳政令」である。ここでは、ドストエフスキーの「罪と罰」の一場面と対比している。「何の目的もなくただカネを持っているだけの人間」からカネを奪って、「何百、何千という立派な仕事や計画」に使うことができれば、世の中がよい方向に回転していくという考えである。第2のタイプの政策は、「インフレを起こすこと」である。
公的資金を使った「資本注入」に関しては、比較的に健全な銀行が「増資」と「貸し出し」を過小にしか行わないという数値例をもとに、健全な銀行に対しては「資本注入」をすべきだとしている。具体的には、政府は「資本注入」の条件として、すべての銀行に標準的な利益の支払いを要求すればよい。その条件を満たせなかった銀行は「不健全」と判定して、しかるべき処置をとればよいのであるとしている。
最後のエピローグで、成田空港の拡張をするためや、下水設備の改善をするためといった有益な公共事業を行い、その財源は、国際を発行して調達する。すると、金利が上昇気味になるからそのときをねらって、日銀が大量に国債の買い入れをし、貨幣の供給をすることを提唱している。
公定歩合の操作と違い、経験の少ない量的緩和だから、2%のインフレをねらったところで、20%のインフレが生じてしまうといったことが起こらないとはかぎらない。しかし、過去の前例がない今日の日本経済が置かれている状況のもとでは、どのような政策を行うことも、実験であり、冒険である。量的緩和だけで、「リフレ」を達成することの危険については、さまざまな議論がなされているが、その危険はあくまでも、デフレを放置することの危険との比較のうえで、議論されるべきものである。それが、われわれが大恐慌から得た教訓といえるだろうと結んでいる。
このような目標インフレ政策についてはその危険性を指摘する意見も多いが、目標インフレを提唱する経済学者の理論的背景を知る上で大変参考になる資料である。しかし、今の政府が「新産業、新事業」に結びつく構造改革や規制緩和が提案していないから、過去に前例のない「リフレ」政策をとらざるを得ないという意見には首を傾げざるを得ない。中央政府ができないというのなら、外国並みの地方政府による構造改革を行い、地方や民間の活力に期待してはどうであろうか。
1.大規模な変革を推進するための8段階のプロセス
この本「企業変革力、P・コッター著、梅津佑良訳、日経BP社発行」の第1章「企業変革はなぜ失敗するのか」でコッター教授は、「企業組織における大規模でしかも痛みを伴うような変革の試みは、過去20年間に急増しているが、多くの企業では、この種の改革はさしたる成果に結びつかず、大規模な人員削減に伴って、資源の空費が発生し、人材には燃え尽き現象、恐れ、フラストレーションが生じている」と指摘し、多くの過ちの代表的な例として次の八つの過ちを挙げている。
1)従業員の現状満足を容認する。
2)変革のための連帯を築くことを怠る。
3)ビジョンの重要性を過小評価する。
4)従業員にビジョンを周知徹底しない。
5)新しいビジョンが立ちはだかる障害の発生を許してしまう。
6)短期的な成果をあげることを怠る。
7)早急に勝利を宣言する。
8)変革を企業文化に定着させることを怠る。
変革に伴う八つの過ちのいずれも、変化のゆっくりした、競争も激しくなかった時代にはそれほど大きな問題とはならなかったが、今日のわれわれにとっての問題は、安定が続く状態はもはや望めないとし、この変革の試みに伴う八つの過ちの一つでも犯せば深刻な結果を招くと指摘している。
そして、各企業が変革を進めていく際にたどっていくべき八つの段階を論理的に、明確に描きだしている。このプロセスには八つの段階が含まれるが、それぞれの段階は、第1章で紹介した変革の進行を停滞させる八つの過ちのそれぞれに対応する。
1)企業内に十分な危機意識を生み出す。
2)変革を推進する連帯チームを形成する。
3)ビジョンと戦略を立てる。
4)変革のためのビジョンを周知徹底する。
5)変革に必要とされる広範な行動を喚起するために人材をエンパワーする。
6)変革の勢いを維持するために短期的成果を挙げる。
7)短期的成果を活かして、さらに数々の変革プロジェクトを成功させる。
8)新しく形成された方法を企業文化に定着させ、より一層たしかなものにする。
一般的に、組織を変革、転換させようとするときに、第5、第6、第7の段階のみを実践しようとしがちである。特にそのような変革では、たった一つの方法、たとえば組織変更、企業買収、従業員のレイオフを実行すれば、必要とされる変革が実現できると考えられるときに、先のような行動に走りがちであるとしている。
また、成功を収める変革は、70から90%はリーダーシップによってもたらされ、残りの10から30%がマネジメントによってもたらされるという事実が浮かび上がってくるが、ほとんどの人たちが、変革を推進するのではなく管理する問題としてとらえてしまっていると指摘している。
ここで、マネジメントとは、人材と技術を管理する複雑なシステムをつつがなく進行させるためのさまざまなプロセスであり、リーダーシップは、まず組織を誕生させる、あるいはその組織を激しく変化している環境に適応させていくさまざまなプロセスである。
2.これからの企業像
第11章「これからの企業像」では、21世紀で成功を収める企業はどのような姿を見せるのだろうか。この本でこれまで検討してきた事実から、かなり明確な将来の企業像が浮かび上がってくるとして、次の項目に分けて説明している。
1)つねにある危機意識
2)上層部のチームワーク
3)ビジョンを生み、それを広く伝えられる人材
4)従業員全員をエンパワーする
5)短期的業績の達成とマネジメント機能の委譲
6)不必要な相互依存性を排除する
7)適応性の高い企業文化
この中で、危機意識を高く保っておくためには、今日われわれが眼にしているよりは格段にすぐれた、業績フードバックのための情報システムが必要とされること。変化の激しい環境にあっては、チームワークがほとんどの場合大いに力を発揮すること。マネジメント機能が現状に取り組み、リーダーシップ機能が変革に取り組むことから、21世紀にはいると、リーダーを生み出すことに企業がさらに熟達していくことが求められることなどを説明している。
最後の第12章「リーダーシップと継続的学習」では、成功を収める21世紀型企業を作りだし、維持していくために不可欠な条件は、リーダーシップの発揮であると言っている。いくつかの例をあげて、今後一生を通じた学習によって自らの能力を向上させるリーダーの数が増加するが、競争を勝ち抜いていくためには、競争に挑む意思と生涯学習の2要件が必要である。すなわち、競争に挑む強い意志が生涯を通じて学習を促すことと、その生涯学習が技能と知識、とくにリーダーシップ技能のレベルを向上させると指摘している。
著者は日本語版新版への序において、「日本という国が保ってきたあらゆる強味を認めつつ、21世紀の世界で中心的なリーダーの役割を果たしていくというすばらしいビジョンを実現するためには、日本の経営者、マネジャー、政治家がさらにすぐれた変革リーダーになることが不可欠の条件となる」「だれでもすぐれた変革リーダーになり得るが、そのためには強い意思とスキルが要求される。スキルは、いかにすれば組織をさらに向上させる変革に成功するか、または失敗するかについての分析を通じた深い洞察から生まれる。強い意思は、この本を通じて紹介されるインスピレーション(奨励)と日本で伝統的に受け継がれている意思との組み合わせから生まれる」と述べている。
1.組織のつくり方
「東大先端研での実験的経営教育の記録!」とのサブタイトルが付けられているこの本(柴田英寿著、実業の日本社)は、2002年の夏学期に行った東京大学先端学際工学専攻の大学院生向け講座を下敷きに
したものである。
今回の講座は、5つのセクション、12回講義から構成されている。最初に、セクション1で「事業が生み出す価値の測り方」について話をしている。セクション2は、「落とし穴にはまらないためのリスクマネジメント」がテーマである。続いて、セクション3で事業を行っていく母胎になる「組織のつくり方」、セクション4では、「事業を始める際の資金調達の方法」について学ぶ。そして、最後は事業を成功させるためには欠かせない「リーダーシップ」でまとめる。
どのセクションも講義ではなく実際の事例を分析する演習中心になっている。演習課題については、講義の際に受講者が発表(プレゼンテーション)する。演習を考えるのは講義以外の時間になる。ここでは、セクション3とセクション4について取り上げ、この講座の雰囲気を味わってもらうことにする。
セクション3の「組織のつくり方」では、1回目は、組織について基本的なことを議論している。残り2回は、事例企業の分析を通じて具体的な組織のつくり方を考えていく。基礎知識では、「なぜ組織をつくるのか」「組織が果たさなければならない役割は」「みなさんが、お弁当屋さんを始めるとしてどんな組織をつくっていくか」などの設問をしながら、どのようなプロセスを経て、どのような商品やサービスをお客さんに提供し、どうやってお金を回収するかというビジネスモデルを考えていく。
講義の最後に、「キーエンスという会社を題材に、組織と経営戦略の関係について考えましょう」として、課題:「利益を生む会社の組織−キーエンス」を与えている。情報源として、キーエンスを取り上げた書籍等の刊行物やホームページを読んで、「キーエンスの好成績を生み出している背景を以下の4つの視点から検討してください」が、課題の内容である。
その視点は、1)製品別事業部製:キーエンスの組織は製品別になっており、顧客別にはなっていません。2)直販営業体制:キーエンスは、国内では原則として販売代理店を活用しない直販体制をとっています。3)汎用品主義&在庫販売、4)ファブレス(工場を持たない)主義。課題を考えてみて、組織と戦略とは非常に関係が深いものだということをわかってもらうように進めていく。
1チームに発表してもらいそれをもとにさらに考えていく。「顧客にコンサルティングするなら製品に詳しいより顧客に詳しいことが重要では」「なぜ競合他社は直販体制にしない」「在庫販売をしなくてはならない理由は」「営業が顧客から聞いてくる情報は」。最後に、いくつかの視点について捕捉して、この課題を締めくくっている。
次の課題は「キーエンスの管理制度」である。前の課題と同様に、三つの視点から課題を検討してくるよう演習を出し、次の講義で発表させる。この発表をもとに質問をしながら議論を進めていく。
2.事業を始める際の資金調達の方法
いよいよ、事業のために資金をどうやって集めるかについての検討となる。事前に取り組む課題にあたっては、「ベンチャー企業」(松田修一著、日経文庫)の3章、4章を参考にしてくださいとして、次の課題を与えている。
あなたは2年前の卒業を期に、大学院時代の同級生ふたりと、自分の研究テーマをもとにJAVAをベースにしたソフトウェア開発会社を設立した。設立後は大企業からのシステム開発の仕事を順調に受注した。その間、受注業務のかたわら、独自のパッケージソフトの開発を手がけ、今月、ようやく試作品が完成し、パソコン専門雑誌にも取り上げられた。
資金計画を策定したところ、総額約1億円の資金が必要となることがわかったが、ベンチャーキャピタル会社数社から出資をしたいとの申し出がある。また、東証一部上場の事業会社からも出資の打診がある。政府系金融機関から低利での借り入れが可能と思われる。
そこで、資金調達の方法に関して、次の項目を検討したうえ、項目ごとに「出資」と「借入」の優劣とそう判断した理由を述べよ。@経営権の確保、A資金コスト、B事業計画の数字が変更となった場合の影響度、C事業拡大への寄与、Dその他の検討項目。講義では、事前に提出された回答を見ながら解説し、質疑応答をしていく。
次に、「ベンチャー企業の資金政策」として、サイバーレーザー椛纒\取締役の関口仁志氏の講演を取り入れている。関口氏は、大手電機メーカーの研究所時代の留学体験したシリコンバレーのカルチャーに触発されて「21世紀の光産業」をつくろうと考え起業した。直接金融と間接金融の割合、持株比率、VC、補助金や助成金などについて話しているが、先の課題について事例を通して理解することができる。
最後の課題は、大学院在籍中にインターネットを活用したIR情報提供サービスを検討し、IRネットコンファレンスおよび関連事業について、米国の市場調査結果も踏まえて、起業したベンチャーD社(仮定)を取り上げている。課題は総合演習のかたちになっており、事業差別化戦略、マーケティング戦略、投資/資金調達戦略、知識創造戦略について、想像力と分析力をフルに使って取り組む。参考資料として、「インターネット戦略入門」とカンパニーホットライン、イー・アソシエイツのホームページを挙げている。
課題発表の後、分析が足らなかった点を見ていく。「理念と差別化」では、競業の大手証券会社のサービスはオンデマンドサービスだけであるが、これは、アナリストの仕事との競合に配慮していると考えられること。D社は、大手だけでなく、同業のイー・アソシエイツ社とサービスの開発競争をしなくてはならないことを捕捉している。また、「知識創造戦略」では、ベンチャー支援専門家、業界のオピニオンリーダー、ベンチャーキャピタル、システム・ベンダー、IRコンサルチング会社などの、パートナーについて紹介している。
1.キャノン 高収益復活の秘密
先日、日本経済新聞社編の「キャノン 高収益復活の秘密」を呼んだ。キャノンは、御手洗が社長に就任した1995年以来、連結経営、キャッシュフロー経営を実行した。連結経営は事業部制の障害を正すこと、キャッシュフロー経営は資本の回転効率を上げ、利益重視の姿勢への転換を促すことが目的だった。また、財政面では「事業本部別連結業績計算制度」の導入で、事業部内の本社・グループ会社間の関係を見直した。
パソコンなど不採算事業からの撤退は、キャッシュフロー経営の具体化の第1弾と位置づけられる。無駄な仕事が利益確保のために邪魔だというメッセージをショック療法の形で示した。それに続き実施したセル化への転換という生産革新もキャッシュフロー経営の一環だった。御手洗にとってセル化の最大のメリットはつくり過ぎを防ぎ、在庫の削減に役立つ点にあった。
序章は、「技術者は泣いたー事業撤退の衝撃」である。パソコン、FLCディスプレーからの撤退の経過を描いている。米国にあるキャノンの子会社ファイアーパワーは、IBM、モトローラなどが共同で開発を進めていた新型MPU(パワーPC)に期待を寄せ、これを使ったチップセットと呼ばれる回路を設計した。ところが、パワーPCのライバル製品であるインテルの「ペンティアム」を大多数のパソコンメーカーが採用し、パワーPC陣営は屈した。独自技術の開発にこだわるのがキャノンの伝統だが、数々の成功の陰で負の側面も徐々に広がっていた。御手洗はパソコン撤退を決断することでそうした社内構造に改革のメスを入れるつもりだった。現実の利益であるキャッシュを生み出さない事業からは早く撤退すべきだと主張したのである。
御手洗はパソコン事業終息とともに、不採算事業からの撤退を次々に断行した。こうした不採算事業撤退の動きの中で、パソコンと並ぶ「大物」がFLC(強誘電性液晶)だった。シャープが力をいれていたTFT(薄膜トランジスタ)に比べ、FLCは実に多くの癖を持っていた。開発部隊の努力が実って、95年には14.5インチサイズのカラーFLCディスプレーの発売にこぎ着けたが、半年もしないうちに、TFT最大手のシャープは遜色ない製品を出し、1年後には完全に追いつかれ、性能、コスト両面で負けてしまった。FLCディスプレーは、速度を補うためやカラー表示の濃淡をつけるため特別の装置を必要とした。
御手洗は、「トップダウンをしろ。まず第一に正しい目標設定をする。そのときに部下の意見を絶対に聞くな。目標にむかうための戦略は周囲とよく調整しなければならない。細かな戦術については部下の意見を良く聞け。そして実行に移すときは率先垂範する。そうしないと、実際の進捗状況がわからなくなるからだ」と語りかけた。2001年になると御手洗は改革へのビジョンを長期計画のようなわかりやすい形でまとめて示さなければいけないと思うようになり、「全体最適の実現に向けたグループ連結経営」「利益体質への転換を目指したキャッシュフロー経営」などを旗印にしたビジョンの骨格をまとめた。
一方2000年7月、キャノンは「イメージランナー・iR5000」「同6000」という複写機の新製品を発売した。通常の複写機として使えるだけでなく、ネットワークを通じた文書情報の集配信、内臓ハードディスクへの大量の文書データ蓄積など多彩な機能を加えた「マルチファンクション」が売り物だ。この複写機を制御するコントローラには、パソコン残党がつくった半導体回路チップNADAが使われている。事業から撤退しても技術は捨てない。とことん深く耕す。技術そのもの、あるいは技術者を無駄にせず、使い回す。それがキャノン流だ。
FLCディスプレーから開放された一部は、CMOSと呼ばれる構造の素子を使った高性能エリアセンサーの開発を行った。CCDに比べ省電力で値段が安いが、画質は今ひとつというのが従来のCMOSエリアセンサーだったが、以前に特許を取ったノイズ除去法技術を取り込み、高品質の画像を高速で読み取れる総画素数345万のセンサー開発に成功、2000年10月に発売した高級デジタル一眼レフカメラの「EOS D30」に搭載した。最大の売り物は省電力。普及タイプのスキャナーにも使われるようになった。
キャノンはコラボレーションによる開発力の向上にも力を入れている。 「KI、三次元CADシステム、品質工学。この三つの組み合わせで、開発力は2倍になった」。デジタルフォト部門でインクジェットプリンターを設計する部署の野田は独自の開発革新をこう説明する。まず第1のKI活動は、正式には「技術KI計画という名称で、日本能率協会コンサルティング(JMAC)が編み出した手法。開発しようとする新製品に必要な技術の内容、課題を細かくばらして分析する「技術ばらし」のような、わいわいがやがやミーティングを開いて、参加者全員に「見える計画」にして早め早めに問題を解決していく。
2.トヨタ方式に見る「日本的改革」
「トヨタ式最強の経営」(柴田昌治・金田秀治著、日本経済新聞社)によると、1949年、大野氏がアメリカに追いつくために考えた基本的なアイデアは「ムダを徹底的に排除する」ことである。この「ムダを徹底的に排除して、働きだけで生産しろ」という課題(コンセプト)から「段取り替え時間を3分にしろ」という常識的には実現不可能と思われる指示を出した。
次にムダと思われるのが、せっかく加工した製品が不良で「手直し」を必要とする作業である。そこで機械工場長に就任した大野氏はムダな「手直し工場をなくせ」というさらに新しいコンセプトを設定した。これを可能にするアイデアは「組立ライン中で不良が発生したら、いったんラインを止めてその場で速やかに手直しをし、手直し後再度ラインを稼動させるというものである。問題を顕在化させて、困ることで知恵を出させる「トヨタ改善方式」がここで生まれる。
三番目に、多種少量生産型の日本が勝てない要因として固定費の問題がある。そこで大野氏は「固定費をゼロにする」というアイデアを考え、「管理部門をなくせ」という具体的な課題を打ち出した。ここから管理部門の生産計画に頼らず、現場の自律的制御で在庫を不要とする「かんばん方式」がつくられていく。大野氏はアメリカに出張したときにスーパーマーケットを見て、「売れた分だけ売り場に補充」というやり方から自律神経系を生産システムに組み込むヒントを得た。
一般的にはピラミット型組織は「今日の業績」向上のためにつくられており、「明日の準備」への活動はうまく機能しない。そこで「明日への準備」への活動を実現するための一つの方法は、フレキシビリティのある新しい組織形態につくり変えることである。この道を選んで成功した代表的な企業がアメリカのGEである。もう一つの方法は、このフォーマルなピラミット型組織を基本としながらそのなかに、「明日の準備」への活動が自主的に起きるようなインフォーマルな組織(仕組み)を組み込むことである。トヨタは世界の企業に先駆けてこの仕組みをつくり上げた。
欧米型のように「あるべき形」として全体システムを描き直してトップダウンで構築するのではなく、日本型では「ありたい形」を共有して、まず「どこから変化を始めれば全体が変わり続けるか」というシナリオ展開を考える。辺境のサブシステムが変化して中心のサブシステムに「ゆらぎ」を与え、「気がついたら新しい全体システムができていた」というのは日本型のシステム構築の進め方である。
GEのウエルチ革命は、トヨタ方式にもヒントを得て「進化し続ける組織」をつくり上げたともいわれている。GEはイノベーション活動を展開するために「ピラミッド型組織」を「統合ネットワーク型組織」へと組織造そのものを変化させてきている。これに対しトヨタでは外見上の組織構造はピラミッド型組織を保ちながら、革新運動はインフォーマルな「仲間集団型組織」を形成して展開する二重構造になっている。
キャノンの経営システムについて、「キャノンの御手洗社長と日産自動車のカルロス・ゴーン社長のやることは95%同じ。唯一異なるのは、工場閉鎖などに伴って人員削減をするかしないかである」との指摘もある。トヨタとGEの違いもやはり5%なのかもしれない。これら欧米流経営との違いは少ないとも言えるし、「従業員との運命共同体の考え方と実力主義の両方を企業文化の根っこに持ち続けるかどうか」という5%の差は大きいとも考えられる。
キャノンの御手洗社長は世界の主要企業を、「純粋専門企業」「コングリマリット(複合企業)」そして、この「二つの中間的な形態の企業」に分けている。御手洗は、トヨタは一つの専門分野を特定して成長を目指す純粋専門企業と位置づけ、キャノンは関連があるもので構成されながら、なおかつ、コングマリット的な経営形態をとる中間型に向けて指針をとるべきだと位置づけている。このような違いはあるかもしれないが、企業・地域の歴史や伝統、文化を大切にしながらグローバルな日本企業へ進もうとしているトヨタとキャノンには相通ずるところが多いようだ。
1.金融腐敗列島
先日、高杉良の小説「金融腐敗列島」と、「再生」を読んだ。「金融腐敗列島」は平成9年に刊行された。題名の通り、昨今の金融不祥事の実例数件を題材としたノンフィクション・ベースのフィクションであるが、いろいろな意味で非常に考えさせられる内容である。
この本では、大手銀行の次長クラスを主人公に、銀行の不良債権問題を取り上げている。協立銀行総務部主任調査役の竹中治夫は、同行会長の鈴木一郎と娘の三原雅枝に苦労をさせられる。雅枝がらみの融資が持ち込まれ、鈴木の懐刀で“柳沢吉保”とも呼ばれる秘書役の佐藤昭夫によって、ダーティな相手の男川口の調査や子会社の協立リースを介した融資への対応をさせられる。
その後、竹中はプロジェクト推進部で不良債権処理を担当することになるが、関連会社共鳴興産の不良債権飛ばしにからんでの暴力団の介入、その後の川口への不正融資に関しての内部告発などと展開していく。
巻末で作家の佐高信氏が解説を書いているが、ミドルの切ない話、苦闘を描くこの作品で、著者が最も悩んだのは「ヒーロー不在」ということだった。それでも、やはり、これは頑張ったな、とか、これは救いがあるな、ということもあるんですねと高杉は語っている。
この作品で、鈴木の前任者磯野相談役が頭取の斉藤にこういう「鈴木がバブル期の放漫貸出でどれほど不良債権を膨らましたか、きみ考えたことはないのか。そのうえ人事を壟断し、銀行を私物化する。鈴木が協立銀行をどれほど悪くしたかわからない」
「再生」は、金融3部作の最終編である。平成9年度から11年度、公的資金投入がなされるまでの銀行が最も厳しくつらい時期を、「金融腐食列島」のその後という形で書かれている。
竹中は、梅田駅前支店長になるが、12章の「貸し剥がし」では、銀行自らがつくった不良債権が増大し、融資したカネの回収が至上命令となる。そのため、銀行は一度の延滞もなく、おカネをきちんと返している優良融資先(中小企業)からも強引にそれを回収していった。
「再生」の最後では、フィクサーを利用して頭取になろうとした“柳沢吉保”の佐藤常務が失脚し、辞任して熊野建設にいくことになり、斉藤頭
取が会長に、ニューヨークの阿川専務が頭取になる。新しい会長と頭取により再生への芽を期待して物語は終結する。
2.天下りによる組織生産性の問題点
伊丹敬之一橋大学大学院奨学研究科教授は、「一橋大学ビジネススクール、知的武装講座」(プレジデント社)の中で、「なぜ、日本企業の生産性は低下したのか? 天下りによる組織生産性の問題点」について述べている。特殊法人などの改革問題が政治の大きな焦点になっているが、なぜ「誰が考えてもわかる」非効率があるのにいつまでも改革が先送りされているのかは、「公務員の第二の人生の雇用確保」という理由である。
民間版天下りの場合も、その存在理由も弊害も、官庁版天下りとあまりかわらない。それは、「自社の従業員たちの第二の人生の雇用確保」という理由による。この問題の焦点は、天下りの存在をかなりの程度認めたうえで、天下り後の役回りと賃金の設定をいかに適切にするかの一点に絞られる。生産性に応じた賃金という原則は、守る必要があるが、彼らは「自己の概念の連続性」を維持したい要求が働くので、ジレンマをはらんでいる。
このように述べたうえで、90年代の日本の低迷の一つの大きな背景として、冷戦の崩壊による世界の軍事政治構造の変化、IT革命による技術構造の変化、東アジアの台頭による世界の競争地図の変化、という三つの大きな外的環境構造変化以外に、官民を問わず、「天下り」による組織生産性の低下という大問題があるのではないかと指摘している。
「金融腐敗列島」でも、銀行の子会社である協立リースを介した不正融資、社長を送り込んだ共鳴興産での不良債権飛ばし、などの話がでてくる。また、天下りした銀行会長(実力でなった方もいると思われるが)も含めて、こうなると単なる経済合理性という視点を超えて、大きなマイナスの組織生産性を生み出している。
昨今の牛肉偽装事件にしても、直接の現場は雪印食品、日本フードという子会社であり、結果的に偽装の隠蔽に協力した形になったのは業界団体である。なぜこのような偽装事件が生じたのか、天下りによる組織生産性の低下という視点から問題を見つめなおす必要があるのではないだろうか。
また、最近の外務省不祥事に関連して話題になっている、外務次官経験者等の大使赴任やロシア大使館等の豪邸建設、瀋陽領事館のドタバタ騒ぎなども、同じ性質の問題が含まれているのであろう。
1.ゲームの理論
ビジネスは、「パイ」を作り出すときに協力し、その「パイ」を分けるときに競争するものなのだ。ノヴェル社を設立したレイ・ノーダの言葉にあるように「競争すると同時に協力しなければならない」のである。この本「コーペティション」(B・J・ネイルバフ、A・M・ブランデンバーガー著、嶋津祐一、東田啓作訳、日本経済新聞社)は、競争(コンペティション)と協調(コーペレーション)を合わせた言葉として、レーダの用いた「コーペティション」(co-opetition)をタイトルにしている。
本書は、読者が知っているような企業や人物も含めて現実に起こった出来事を通じてゲーム理論を解説しており、成功や失敗を説明するために、ゲーム理論を用いている。ゲーム理論の実践は第二次世界大戦の初期に、ドイツの潜水艦と戦っていたイギリス海軍によってなされた。後によってゲーム理論として知られるようになった考えを用いることによって、イギリス海軍のミサイル的中率は飛躍的に伸びたのである。
ゲームの理論の理論的な定式化は、その後1944年に、数学者ジョン・フォン・ノイマンと経済学者のオスカー・モルゲンシュテルンとによって書かれた「ゲームの理論と経済活動」の中で行われた。それは、経済学、政治学、軍事戦略、法律、コンピュータサイエンス等の各分野において専門的な論文を生み出すことになり、そして今、ビジネスを変えようとしている。ゲーム理論とは、複数の当事者(個人、企業、政府等)の行動の帰結が互いに他者の行動に依存している状況において、それぞれの効用に基づいて各人の行動を予測し、意思決定を導くプロセスを分析する学問である。
ゲーム理論を知ることによって、他者がある行動をとったときに、自分にとって最も良い行動は何かということをより簡単に知ることができるようになる。また、現実には相手の行動を確実には知り得ないケースも多くあるが、このような状況において、どんな戦略が考えられるか、その結果としてどんな帰結がもたらされたかといったことの分析も可能である。
本書の第T部は、三章から成っており、ビジネスにおけるゲームの概要を述べている。第1章はオリエンテーション、第2章は「価値相関図(Value
Net)を作成して、各プレイヤー間の種々の競争と協調を分析している。第3章においては、ゲームの理論がどのように現実のビジネスに応用できるかを説明し、実例を用いてゲームが最後まで終わったときに何が起こったのかを議論する。
ゲームの理論を理解すると、ゲームの五つの基本的な要素に分けることが可能になる。それらは、プレイヤー(Players)、付加価値(Added
Values)、ルール(Rules)、戦術(Tactics)、範囲(Scope)の五つであり、略してPARTS(パーツ)と呼んでいる。PARTSは、価値相関図とともに、ゲーム理論をビジネスに応用するための重要な概念的体系を与えてくれるものである。本書の第?部は、ゲームの五つの要素のそれぞれについての章からなる。
2.価値相関図と五つのパーツ
価値相関図には、垂直軸に従って、顧客と供給者とが描かれている。天然資源や労働などの生産要素が、供給者から中心に書かれてある「企業」へと流れ、製品やサービスがこの「企業」から顧客へと流れている。お金の流れは全く逆であり、顧客から「企業」へ、「企業」から供給者へと流れている。
また、水平軸に従って、競争相手と補完的生産者とが描かれている。補完的生産者とは、「自分以外のプレイヤーの製品を顧客が所有したときに、それを所有していない時よりも自分の製品顧客にとっての価値が増加する場合、そのプレイヤーを補完的生産者と呼ぶ」。補完的生産者を見つける方法は、顧客の立場に立って、次の質問に答えてみることである。「顧客は、自社の製品の価値を高めるために、他に何を購入するだろうか」。
第3章では、「カードゲームにすべてが見える」として、一見簡単そうに見える単純なゲームを取り上げている。ハーバーとビジネススクールにおいて、アダムはMBAコースの26人の学生とあるカードゲームを行っている。アダムは26枚の黒のカードを持ち、そのうえで、それぞれの学生に、1枚ずつ赤のカードを配った。アダムであれ学生であれ、黒のカードと赤のカードとの1枚にずつのペアを作って提出したものに、百ドルの賞金を与えるとしている。アダムと学生とは、自由に交渉を行ってよいが、ただ一つの条件は、学生が団体で交渉を行ってはいけないということである。
バリーは同じゲームをエール大学で行うことにした。ただし、バリーは3枚だけ少ない23枚の黒のカードをもっているものとする。この場合、バリーは23枚しかカードを持っていないので、3人の学生は確実に、何の利益も得られないのだ。これは他のすべての学生にも当てはまる。バリーの提案を拒否した学生は誰でも、何も得られなくなってしまう可能性を持つようになる。それゆえ、学生はバリーの提案を受け入れざるを得ないのだ。
このバリーのカードゲームと同様のことを行うことで、任天堂やナショナルフットボールリーグ(NFL)は大きな利益を得ることができたと説明している。このようにゲームの理論は、カードゲームから、ビジネスのゲーム、人生のゲームに至るまでのすべてのゲームにおいて、誰が何を得るを理解するための一般的な原理を与えてくれる。
この場合に、誰が力を持つかを理解するためのカギとなるのは、「付加価値」である。プレイヤーの付加価値は、(そのプレイヤーを含めたゲームにおいて出来上がるパイの大きさ)−(そのプレイヤーを除いたゲームにおいて出来上がるパイの大きさ)である。最初に取り上げたアダムのゲームにおける学生の付加価値は1人につき1000ドルであるが、バリーのカードゲームでは、それぞれの学生の付加価値はゼロ(1人減っても賞金総額は変わらない)である。
また、ビジネスにおける交渉においては、多くのルールが存在する。ルールがゲームをどのように変えるかを見るために、先のカードゲームにあるルールを加えている。それは、アダムだけが価格の提示を行うことができることゝ、1回きりの受け入れるか拒否するかの交渉―「最後通牒」というものである。このゲームを分析するために学生の立場に立ってもらいたい。そうすれば、いくらかでも利益が得られる限り提案を受け入れることが理解できるであろう。受け入れるか拒否するかの二者択一を迫るルールにおいては、提案を行う主体にすべての力が存在する。
この章では、二人で組んで新規の事業を始める時、そのうちの1人が共同事業をやめたくなった時についてのルール等を使って認識について説明している。そのルールの中で最も良く知られているのが、「テキサス・シュートアウト」である。まずやめようとする方がある価格を提示する。もう一方は、その価格でパートナーの持分を買い取るか、あるいはその価格で自分の持分を売るか、そのどちらかを選択する。たいていの読者は、パートナーがどちらを選択しようと自分に等しい利益をもたらす価格を提示すべきだと考えるだろう。この中で、パートナーの評価を知っていれば、これよりも有利な状況に持っていくことは可能であることを説明している。
どんなゲームも、異なる人間の異なる認識によって大きく影響を受けるが、他者の認識を変えることで、彼らの行動をも変えることができる。この認識を変えるための策略は、「戦術」に属する。
認識についての議論は、当然ゲームの境界、範囲についての議論を引き起こす。範囲とは、人々が暗黙のうちに定義するゲームの範囲のことである。ある一つのゲームをそれだけで分析してしまいがちだが、どんなゲームにも他のゲームと必ずかかわりを持っているのだ。第3章で取り上げているエプソンのレーザープリンター市場への参入の結果は、個々のゲームを正しく見ても全体を見なかった場合にどうなるかを表している。
こうしてゲームの五つの要素が出揃ったが、それぞれの詳細は、第U部の各章で詳しく取り上げている。本書は、実証的研究を基盤として理論が構築されているため具体例が豊富で、それぞれの章では、いくつもの詳細な実例をあげて説明されている。
1.新大陸にある四つの独立した空間
人類の歴史をひもといてみると、大変革が突然起きるときは、新世界の発見がそのきっかけになっていることが多い。もっと言えば、新たな地域がもつ我々とは全く異なる生活や習慣が広く知られることが変革の契機となっていることが多い。たとえば、コロンブスに始まりオレゴン街道の開拓者まで新大陸であったアメリカ大陸を切り開いていった道筋は、新大陸と故国であるヨーロッパとの間に、情報と人類の交流をもたらした。
この15年間に我々が経験した変化は、宇宙飛行に匹敵するほどのスピートで起こり、しかもそれが休みなく継続している。これはあたかも新大陸が発見されたときに起こる大変化のようだ。そして、実のところ、陸地という実態はないが、「新大陸」の発見があったのだ。唯一過去と違うのは、今回の新大陸には陸地が全くないことだ。つまり、新大陸は我々の頭の中に存在しているだけである。だからこそ、この新大陸を「見えない」大陸と呼ぶことにした。
この本(「新・資本論」、大前研一著、吉良直人訳、東洋経済新報社発行)の第1章で、著者は新大陸をこのように定義している。この新大陸には四つの独立した空間が存在する。すなわち、「実体経済の空間」「ボーダレス経済の空間」「サイバー経済の空間」「マルチプル経済の空間」である。
量子力学が認識されているにもかかわらず、我々は日常生活では重力の役割が大きいニュートン力学で考えている。それと同じように、(新大陸でも)旧世界の経済的尺度をすべて捨て去るわけではない。しかし、この実体経済の空間それだけでは、現実社会を十分に反映できないケースがますます増えてきている。
実体経済の観点からすれば、企業の価値とは将来にわたる期待収益の正味現在価値(NPV)に基づいたものだ。ところが、見えない大陸に存在を確立しようとしている企業の場合には、この企業が「将来占領するかもしれない領土の生み出す富」への期待値によって、企業の市場価値はゼロから無限大の間のどの値にでもなる。だから、高いマルチプルという高水準の株価を使って、アマゾン・ドット・コムが、株式交換を使って他の企業をいくつも買収することが可能となるのだ。
この本では、各国政府や企業がどうすればもっと効果的に新大陸に定住できるかを取り上げている。第2章「富はプラットホームから生まれる」では、見えない大陸がグローバルな存在になることを可能にした運営管理基準、つまり新大陸の限界や構造を設定するデファクト・スタンダードや合意事項といった概念を考えている。
第3章「アービトラージの本質」は、見えない大陸の経済的基盤とそれが土地を基本にした旧世界とどのような関係にあるかを考えている。アービトラージとは、何かモノを買う場合、ある売り手をもう一つの競合と競わせ、製品やサービスの価格を継続的に下げつつ品質を上げさせることである。見えない大陸では、新しいプラットホームが次々と継続的に生まれることから、あらゆる情報を時空を超えて入手でき、アービトラージの機会が多くなる。
第4章「目覚めよ 企業参謀―戦略は根本から変わった」では、ここまで得られた洞察を収益を達成することや競合優位性をいかにつくり出すのかに適用してみている。
第5章「勝者となる地域と敗者となる国家」は、見えない大陸の地政学的な意味合いを論じた最初の章となる。この章では、国家がアービトラージを行う者たちやコジラ企業に対してかに脆弱かを検証し、なぜ国家の力がわずか10年のうちに弱くなり、国民国家の力が経済的な圧力や国境を超えた地域経済機構へとシフトしている理由を考えている。
次に第6章「長いトンネル」では、政府が今後何年か直面するであろう問題に目を転じ、もし見えない大陸の四つの空間それぞれについて積極的な戦略を実施しようと思うなら、各国の選挙民が必ず遭遇する危機を説明している。
第7章「新しい冷戦」では、見えない大陸のもつ危険性と世界規模での経済崩壊の可能性に話題を戻し、特に重大かつ深刻な米国に対する意味合いを考えている。
最後に第8章「ワイルド・ウェストを飼いならす」では、管轄権が重なり合い、常に変化する時代に、住民参加型運営管理が新大陸と旧大陸にもたらす意味合いを論じている。
2.日本への四つの提言
第7章「新しい冷戦」の中で、「日本への四つの提言」として、次のような提言をしているので、紹介しておこう。
提言1 国民への呼びかけ
90年代中頃、経済危機が日本を襲うと、日本の指導者たちは日本のビジョンを語ることをやめてしまった。その代わりに、話し始めたのが日本の抱えている問題である。たしかに、このごたごたを片付けられたら、有害な問題は解決されることにはなる。しかしこの問題が解決したからといって、日本に輝かしい未来像が浮かぶというわけではない。私が日本の指導者から聞きたいのは、90年代を通じて重ねてきた失敗の数々を公式に認めたうえでの、国民への呼びかけである。
提言2 痛みを伴う改革へのプロセスを実行する
これを実行するには、日本経済に関して犯罪的とも言える失敗を犯した人たちを罰する法律を実際に使わなければならない。これまでの銀行制度は瓦解してしまうかも知れないが、日本の優れた工業インフラストラクチャーは残ることになる。日本の50ほどの企業は金融機関になる資格を十分にもっているのである。改革のプロセスは非常に痛みを伴うものであり、ニュールンベルグ戦争法廷の経済版といった様相を呈するだろう。しかしそれも6ヶ月もあれば終わる。
提言3 ビジョンの共有化を図る
総理大臣がこうした未来像を描いた後、集中的な議論が始まることになる。私の想像では、多くの日本人にとっての素晴らしいライフスタイルとは、職場に非常に近く、本質的にもっと住み心地のよいコミュニティーの中にあり、家族との時間をもっともてる、よりよい住環境をもつことを意味しているのではないかと思う。たとえば、それは政府の規制から解き放たれた幅広い住宅の選択肢が国民に与えられることを意味する。
提言4 減価償却の概念を導入する
この改革を加速するためには、日本政府は課税と会計制度に減価償却の概念を導入する必要があるだろう。日本の税制が貯蓄と土地だけを富と規定するのではなく、住宅のような資産を富であると認識するように変わればよいのである。特に、法人会計で行われているように、減価償却の概念を個人の税制に導入すればよい。そうすれば、個人にも富を形成するための住宅という高価な道具に投資するという選択肢が生まれ、何年かにわたって減価償却を税金の申告時に計上し、税金の払い戻しを受けることができる。
最後に著者はエピローグで、我々は次に示す二つの基本ステップを実践しなくてはならないとして「オールドエコノミーの固定概念から自由になること」「「見えない大陸」でサバイバルするための準備をすること」をあげている。前者のためには、規制緩和と国家主導型から消費者・市民主導型の社会へ移行し、生活者がそれぞれに選択できる余地が与えられなければならない。
また後者のためには、国家にとっては、サイバー社会に対応したインフラと金融システムを再構築すること。企業にとっては、ネットワーク型、ウェブ型の組織をつくり上げることである。また個人にとっては、スキルや言語能力を身につけ、世界中どこへ行っても生活できるようにすることであるとまとめている。
1.中国の成長は止まらない
「中国は完全に目覚めてしまった。「眠れる獅子」と呼ばれた時代は、沿岸部にかぎっていえば、すでに過去のものとなっている。12億人を超える人口を背景にした安価で良質な労働力と、最新鋭設備を取り入れた産業基盤を背景に発展する中国経済の力強さは、もはや疑いようがない。圧倒的なコスト競争力が引き起こす価格競争から、日本企業だけが逃れることはできないし、かといってこれと正面からぶつかっても勝てる見込みはまったくないのだ」
この本「チャイナ・インパクト」(大前研一著、講談社発行)は、このように強烈なプロローグから始まる。この巨大な国家は、政治的にはまだ北京の中央集権国家なのだが、経済的にはすでに別の国に生まれ変わってしまったとしている。朱鎔基(シュヨウキ)が首相になって始めた改革により、経済面では地方に権限が移譲され、実質的には連邦制の統治機構になってしまったというのである。その中でも特に発展し、経済的な自立を果たしているのが、「珠江デルタ」「長江デルタ」などの、沿岸部の六つの地域である。
これらの地域は、それぞれが独自性を持って発展しており、独立性が高い。面積や人口、経済力からみても、中国の一部というよりは、一つの国家として認識したほうがより正確に把握できるとして、著者はこれらを「メガリージョン」と呼んでいる。中国は、このメガリージョンが互いに競争しながら、外資系企業を呼び込み、その力を借りながら経済発展するという、著者が言う貸席経済で伸びてきた。
第1部は、「中国の成長は止らない」である。中国は、経済特別区(経済特区)や経済解放区を設けるなどして、1979年から部分的に市場経済の実験も試みてきたが、92年に?小平はこうした経済開放区を32ヵ所に拡大した。そして1998年、首相就任から数ヵ月後、朱鎔基は「三つの約束」を掲げた声明を出し、活力のある自立した経済を実現するために、三つの思い切った政策を行うことを公約とした。それは国有企業の改革、金融システムの改革、行政のスリム化であり、朱鎔基は三年以内にこれら改革に目処をつけると約束したのだ。
赤字国有企業改革の手始めに、大きな赤字を出した経営責任者には、1年目で警告、2年目には更迭する方針を打ち出した。2年連続して赤字決算となった企業は閉鎖もしくは売却し、責任者はクビにすると脅したのだ。それと同時に、それまで中央が持っていた国有企業への権限を地方政府にどんどん移管していった。これが中国の統治法が急速に地方分権化する大きな刺戟となった。
朱鎔基の手腕は並外れていた。まず20001年に7月の党大会で、1番目の公約はすでに果たしたと宣言した。中国の国有企業は、収益を上げるか、さもなければ民営化か閉鎖のいずれかを選ばされたのだ。続いて2番目の公約について、不良債権を処理するため、各行にそれぞれ資産管理会社を設立させた。そこに不良債権を買い取らせ、回収や株式転換へ向けた軌道作りに取り組んだ。その過程で、金融機関の50人以上の責任者がクビにされた。3番目の公約についても大幅な進展を遂げていた。中央政府の規模は3万4000人から1万7000人へと削減された。
彼の三つの公約はこうして、活力に満ちた資本主義制度に欠かせない、公平な競争の場と法規範を中国に作り上げた。さらに、国有企業改革と外資の導入、この二つが主なきっかけになり、分権化が一気に進んだ。
著者が中国の発展を確信するのは、「富の創出機構」「連邦制」「四つのC」のキーワードが実現しているとみているからだ。この四つのCとは、キャピタル(資本)、コーポレーション(企業)、コンシューマー(消費者)、モミュニケーション(情報)である。著者は、この四つの要素を世界中から取り込むことが、その地域の経済発展に重要な役割を果たすようになってきていると強調している。
2.日本経済はどこへ向かうのか
今の中国は、100年前にアメリカが世界史に台頭しはじめたのと同じぐらいのインパクトがある。著者はこのような歴史的な位置付けをしている。中国が今後、紆余曲折はあるにしても、世界の中で有力な国家、特にアメリカとヘゲモニーを二分するような国家になっていくのは間違いない。そのとき日本は下手をすると中国の周辺国家に成り下がってしまう可能性があると警告している。
中国において、世界中から富を呼び込むという、メガリージョン同士の健全な競争が始まっているときに、日本は子孫から富を借りてきて使っている。国債、地方債、特殊法人の隠れ負債という形で膨れ上がった国民の借金のことだ。このようになっているのは統治機構の差からくる問題であって、日本の中央集権という管理機構が、ネットワーク型の21世紀の社会に合わなくなっているのだ。
このように、なかなかバラ色の展望が見えてこない中国との関係だが、著者は次のようなあり方を提案している。それは、「東京vs北京という国民国家的構図から抜け出すことである。地域国家やメガリージョンとの付き合い方というものを一段深め、彼らが日本なしには立ちゆかないくらいの「相互依存体制」に持ち込んでしまえばいいのだ」
日本も道州連邦化し、その道州が中国の一つか二つの地域と極めて密接な付き合いをするべきだというのだ。中国を地域としてとらえる経済戦略を考えた場合、幸にして日本はまだ有利な位置にいるので、現在の時点で道州制を取り入れれば、まだ日本の経済はその巨大さが光るとしている。
日本は今、中国からの輸入が急増している。これを恐れるあまり、日本は中国脅威論で覆われてしまったようだ。しかし、輸出元は中国に進出した日本企業だ。日本企業がこの戦争への参加を拒否しても、結局日本マーケットには、日本製以外の「メイド・イン・チャイナ」が氾濫することになる。
最後に、日本企業の中国移転が進とすれば、考えなくてはならない問題が二つあるとして、国内の雇用と産業空洞化をあげている。著者は、アメリカの例をあげて、輸入が増えてもアメリカの雇用が減ったということは全然ない。製品を作ろうとすれば、設計、販売、金融、ファイナンス、ローン、ブランドマネジメント、広告宣伝などが必要になり、そうしたあらゆる付加価値は、アメリカの国土に残るのだとしている。また、失業率が高まらないと産業構造が変わらない。日本は、中国が隣で製造してくれるようになったのだから、サービス産業やプロフェショナル産業にシフトしなければいけないと強調している。
産業の空洞化に対しては、今までに空洞化して衰えた国はないとし、企業が競争力をつけるには、海外で競争に晒される必要がある。国内から動く力も意欲もないというのが一番困ることであり、空洞化するということは産業にとって極めて健康なことだと強調している。また、空洞化するということは、企業が海外に出て行くことだが、本社機能や重要なマーケッティング機能などは残るとも指摘している。
1.事業モデル世界が注視
日本経済新聞では第一面で、「産業力、ジャパンモード」という特集の掲載を4月8日から始めている。「日本経済は依然、危機的状況にある。しかし、その危機感をバネに、閉そくを突き破る力強い動きも出てきた。第一部では奥田氏(トヨタ自動車会長)をはじめとする変革のプロジューサーにスポットを当て、日本の浮沈を決定付ける産業力の「モードテェンジ」の方向性を探る」という書き出しで、変革のプロジューサーたちの紹介がはじまった。
第1回は奥田 碩トヨタ自動車会長、第2回は井植 敏三洋電機会長、第3回は渡辺邦幸日産常務、第4回は後藤和明らでぃっしゅぼーや商品部長、第5回は北野宏明ソニー研究者、そして第6回は越智直正ダン社長などを取上げた「事業モデル世界が注視」である。
「日本の中小靴下メーカーの戦略を探れ」として、米ハーバード大ビジネススクールなどが異例の事例研究を進めている。教授たちが3年にわたり追いかけているのは、大阪市にある社員百人弱の会社、ダン。情報システムを駆使し、在庫と欠品をなくすビジネス・モデルを、「日本の新しい競争力」と見たからだ。
製造小売のダンは国内7工場と約200の販売店をオンラインで直結、5000種にも及ぶ靴下の売れ筋を瞬時に把握する。工場は好調な商品を翌日に補充、不調なら生産を即刻止める。「売り逃がしと売れ残りをなくせ。日本の勝機はそこだ」社長の越智直正の号令がやまない。 国内の靴下生産量は約10億足、この10年で半減した。ところがダンの売上高は2002年2月期に88億円と、逆に10年で倍増。在庫日数は業界平均の十分の一だ。
ここでは、日中漢の中小企業60社を結集、共同受注を始めた大阪府にある社員84人のオーテックも紹介している。設計、金型、プレスなど、独自技術を持つアジアの中小メーカーを束ねる「総人員3、000人超のアジア部品連合」だ。三次元設計図がネット上で飛び交う。設計は日本、プレスは中国と分業も可能だ。月100件前後の受注リストには、各国を代表する企業の名前も現れてきた。
また石川県の中村留精密工業。従業員約400人ながら、レンズ加工機などで世界一シェアの商品を続々と生む。独光学機器大手、カールツァイスも得意先の一つだ。社長は「技術だけではこれからの国際競争は勝ち抜けない」と知り、開発したのが、パソコンを使った仮想実演販売で世界を相手にする新製品の営業手法だ。
2.ビジネス・コンセプトのイノベーション
90年代の企業戦略のコンセプトとなった「コア・コンピタンス」の提唱者、ゲーリー・ハメルが書いた「リーディング・ザ・レボリューション」の中で、ハメルはビジネス・コンセプトのイノベーションを論じている。彼が取上げているイノベーションの意味は一般に言われている新製品や新技術であるよりも、「まったく新しいビジネス・モデル」ということに比重がかかっている。
まず時代による産業の変転について、「進歩の時代は終わった。それは14世紀のルネッサンスのころに誕生し、18世紀の啓蒙主義時代には順調な成長期を体験して、18世紀末の産業革命期のゆるぎない成熟期を経てから、21世紀を目前に控えたいま、死を迎えようとしている」「そして、われわれは、いまや新しい時代に入ろうとしている。革命の時代だ。イノベーションの時代には、機会が急激なスピートであらわれ、たちまち消え去ってしまう」と述べている。
ハメルが定義しているビジネス・モデルは、次の通り四つの部門で構成される。
・ コア(中核)戦略
コア戦略は、ビジネス・コンセプトの第一の構成要素である。これは企業がどのようにして競争するかを選ぶための本質となるものだ。コア戦略には、下位部門としてビジネス・ミッション(戦略の全般的な目標を明確にしたもの)、製品と市場の範囲、差異化の基礎がある。
・ 戦略的資源
名前をつけるに値するような競争優位は、企業の独自の資源がかならず裏付けになっている。戦略的資源には、コア・コンピタンス(技術や独自の能力)、戦略的資産(ブランド、特許、インフラ、顧客データなど)、コア・プロセス(企業で日常的に行われている業務)がある。
・顧客とのインターフェース
ビジネス・コンセプトの三番目の構成要素は顧客とのインターフェースである。これは、顧客満足とサポート、情報と洞察力、関係の力学(メーカーと消費者の相互関係)、価格構造の四要素から構成されている。
・価値のネットワーク
ビジネス・モデルの構成部門の四番目は価値のネットワークだ。これは企業の周囲にあって、企業がもつ経営資源を補完し、増強するものである。今日、企業の成功を左右する重要な資源は、企業の管轄外にあることが多い。価値のネットワークの構成要素は、サプライヤー、パートナー、連合である。価値のネットワークを設計し管理するのは、ビジネス・コンセプトのイノベーションの重要な基礎になる。
この四つの構成部門は、次のような三つの「ブリッジ要素」によって結びつけられている。
・ コア戦略←行動のコンフギュレーション→戦略的資源
コンフィギュレーションは、コンピタンスと資産、プロセスを独自の方法で組み合わせ、関連づけるもので、特定の戦略をサポートする。
・コア戦略←顧客の利得→顧客とのインターフェース
顧客の利得は、顧客に実際に提供される利得の集合体だと思えばよい。利得とは、顧客の立場から見た、満たして欲しいニーズだ。
・戦略的資源←企業の境界(守備範囲)→価値のネットワーク
企業の境界(守備範囲)の意味するところは、望ましい企業行動と価値のネットワークを利用し、外部に発注すべき業務を決めることである。
また、ビジネス・モデルをサポートする要素は次の通り四つあり、これらはいづれも利益を決定する大事な要素である。
・効率性
・独自性
・適合性
・利益を増進するもの(利益ブースター)
ハメルは、21世紀の富は、イノベーションから生まれるとして、「過去を尊重する企業と将来に賭ける企業のあいだには、明白な違いがあるだろう。ただし、その違いはオールド・エコノミーとニュー・エコノミーの違いに起因するものではない。それは、組織内部にイノベーションを起せるか否かをめぐっての違いに帰着すべき問題だ」述べている。
また、「イノベーションの出発点として、産業の革命家たちは、製品やサービスにとどまらず、ビジネス・コンセプト全般を視野に入れている。その理由は、競争が製品やサービスのレベルで起こるのではなく、ビジネス・コンセプトのレベルで起こることを彼らが理解しているからだ」「イノベーションが技術指導によって進められると信じる人も多い。多くの場合、確かにそうだろう。しかし、ビジネス・コンセプトのイノベーションは、技術とほとんど関係がない場合もある。問題は、技術をユニークな方法で応用できるか否かだ」とも言っている。
先の特集でも、総務省によると国内の中小製造業は99年時点で約60万社。3年で1割近く減ったが、「生き残り組のうち約1割は着実に成長軌道にある」と、商工総合研究所主任研究員の望月和明が指摘している。そのキーワードはやはり、ビジネス・モデルだとしているが、新しい産業の有力なキーワードがビジネス・モデルであることは間違いない。
1.TOCと思考プロセス
エリヤフ・ゴールドラットの小説スタイルのビジネス書「ザ・ゴール」が昨年5月に日本でも出版されて大きな反響を呼び起こした。TOC(Theory
of constraints:制約条件の理論)の提唱者である著者のゴールドラットは、イスラエルの大学で物理学を研究していたが、知人からの相談がきっかけで生産スケジュール・ソフト「OTP」を開発し、事業化に成功した。博士は、その基本原理をわかりやすく解説した小説を書いたが、それが「ザ・ゴール」である。
「ザ・ゴール」以降、著者はTOCを単なる生産管理手法から、マーケティングから教育まで、さまざまな業界のあらゆる問題解決に応用できる思考プロセスへと発展させた。その成果としてまとめられたのが、本書「ザ・ゴール2−思考プロセス」(エリヤフ・ゴールドラット著、三木本亮訳、ダイヤモンド社)である。この本の巻末には、ジェイビルサーキットジャパン(株)社長の稲垣公夫氏の詳細な解説が載っており、それを読むだけでも、本書で紹介されている<思考プロセス>の概要を理解することができる。
前著「ザ・ゴール」の中で、企業の目的が金を儲けることである以上、スループット(売上高から材料費を引いたもの)を最大にすることが最も重要であるという考えから出発する。スループットを最大化するには、それを阻害しているもの、つまり工場の中のボトルネック工程を探せばよい。ボトルネックに徹底的に集中して改善を加えれば自然とスループットは最大化する。これがTOCの生産改善手法の考え方である。
しかし「ザ・ゴール」の出版後しばらくしてアメリカの景気が悪くなると、多くのメーカーが工場の人員整理を行った。そこで博士は、TOCはあくまでも需要が供給を上回っている場合にのみ行うべきである。市場にボトルネックがある場合には、市場のボトルネックを解消する活動を始める必要があると感じた。そこで博士は市場のボトルネックを解消する手段として<思考プロセス>を開発したが、この<思考プロセス>を解説する小説が本書である。
「ザ・ゴール」にも登場した主人公、アレックス・ロゴは工場長からユニコ社が多角化のため買収した三つの多角事業グループを統括する副社長に出世している。ところが会社の業績不振を理由に、アレックスは会社のトップからこれらの事業グループを売却すると通告された。そこで多角事業グループの売却を防ぐために各社とも数ヶ月以内に業績を挙げるという難題に挑戦することになる。
短期間に業績を改善するには物理的製品はそのままで、製品に付随するサービスや販売条件などを変えるだけで売上げを圧倒的に増やす必要がある。そのためにTOCの二つの手法が活躍する。一つは、これら3社で導入済みの生産改善手法である。このおかげで3社とも業界水準よりはるかに短い製造リードタイムと少ない在庫水準を達成していた。もう一つの方法が<思考プロセス>で、これによって生産上の優位性をマーケティングに応用して急激にシェアを伸ばす方策を考え出すことができる。
2.思考プロセスのマーケティングへの応用
本書は<思考プロセス>のマーケティングへの応用を中心に展開している。まず本書の中では「企業は自社の製品の価値をそれにかかったコストをベースに考えるが、市場はその製品を使った便益をベースに価値を考える」という問題意識から出発する。本書では製品自体はそのままで、それに付随したサービスや売り方を変えることによって顧客に対する価値を創造して他社に対して差別化するという考え方が出てくる。
<思考プロセス>とは「変化を起こし、実行に移すための手法」である。変化を実現するには「何を変えればよいか」「どのような姿に現状を変えればよいか」「どのように変化を起こせばよいか」という質問に答えることが必要になってくる。<思考プロセス>では、これらの質問に対して順次答えていくためにいくつかのステップがある。「現状問題構造ツリー」「対立解消図」「未来問題構造ツリー」「前提条件ツリー」「移行ツリー」の5つのステップである。
顧客の悩みを<現状問題構造ツリー>で分析して、個々の問題点に対する解決策ではなく顧客のコアの問題に対する解決策を製品の売り方の中に売り込めば顧客は飛びついてくる。しかもその売り方が小ロット生産が効率的にできるといった、他社に対して優位に立っている要因に立脚していれば他社は容易に追従できないという筋書きである。
本書にでてきた化粧品会社(アイ・コスメチックス社)の例では、この会社は全米にある数千の小売店に化粧品を直接販売しているが、従来は地区倉庫に大半の在庫を置いていたのを、TOCの生産・物流改善手法により生産を小ロット化し、在庫を集中化し、また小売店への配送頻度を増やすことにより自社の在庫を激減させることに成功した。
しかし、小売店自身が単価を抑えるために大量発注して、多くの在庫を抱えていることが問題だった。この化粧品会社は小売店に対して次のような提案をする。「わが社の製品に一定以上の棚スペースを割り当てた場合は、貴店の店頭在庫はわが社が負担します。つまり貴店はわが社の製品が売れた時点で支払いただいて結構です。ただし買掛金の支払いは従来より半減してください」というものだ。
高圧蒸気会社(プレッシャー・スチーム社)の例では、この会社は蒸気製造装置とそのスペアパーツを販売している。価格競争が激しく売上が伸びないでいたが、<思考プロセス>を使って新しいマーケティング・ソリューションを見つけていく。すなわち、設備やスペアパーツや保守の人間など、客の高圧蒸気のニーズを全部こちらで丸抱えするゼロックス方式を提案し、新しい工場や既存の設備を拡張する新規のクライアントに提供する。毎月、固定料金プラス使用量に応じた金額を請求する。
新しい流通システムの導入により、必要なパーツはみんな数時間内に届けることができる、メンテナンスも客の何分の一かのコストで一定の時間(たとえば24時間以内)に復旧させることができる。ここから、「必要な場所で、必要な時に、必要な量だけ高圧蒸気を提供する」と書いて、<未来問題構造ツリー>の構築を開始した。
最後の章でロゴは、企業戦略について語っている。企業の目的は、「現在から将来にわたって、お金を儲ける」「現在から将来にわたって、従業員に対して安心して満足できる環境を与える」「現在から将来にわたって、市場を満足させる」の三つの必要条件があり、企業の経営者はこの三つすべてを実現しなければいけない。
まず、三つの必要条件のいずれかと衝突するような戦略は切り捨てる。 そして、確固たる競争優位性を構築することから始める。独自の技術や非常にすぐれた製品がなければ、多角事業グループがやったと同じことを行う。市場側の問題を解消するような小さな変化に専念する。次は、市場をセグメントする。プレッシャー・スチームでやったが、クライアントのニーズに合わせて製品を大きくカスタマイズして、セグメントごとに確固たる競争優位を築く。
それだけではまだまだ十分とはいえない。市場が変動して不況に追い込まれるかもしれない。キャッシュがないときには従業員を解雇しなければならないが、市場が悪化して会社の利益がどうであっても、従業員をクビにしてはならない。利益が会社の生存能力を超えるところまで市場が悪化しても、従業員全員に十分な仕事を与えられなくなるような自体は避けるには、全ての従業員がいくつかの仕事に対応できるように柔軟性を持たせる。従業員に柔軟性を持たせるためには、従業員でなく市場にセグメントしないといけない。
1.長寿型企業
先日の新聞で、昨年9月に東京地裁へ再生手続きを申立てた?ベンカンが、保全管理人によって2ヶ月で黒字化したとの話が載っていた。毎週の会議で社員の知恵やノウハウを出し合ってきた成果とのことである。ベンカンの社長は東京商工会議所の副会頭までやった人であり、住宅用、事業用配管機器製造販売のベンカンのほか、半導体・液晶製造用のバルブ・継手のベンカンユーシーティーなどのグループ会社を有する企業に発展させた。
そのような人でも構造的な環境変化に対応できなかったのであろうか。企業を長期的に競争優位を保ちながら存続することは容易ではないようだ。
慶応義塾大学ビジネススクールの柳原一夫教授ほかの「最強のジャパンモデル−知恵と和で築く絶対優位の経営(ダイヤモンド社)」では、景気の影響を受けずに元気で社会的使命を果たす長寿型企業を「ストック型」企業モデルとして紹介している。
この「ストック型」経営モデルの特徴として、1)問題解決の先送りをしない、2)個人的な能力に依存せず、システムとしての競争優位を確立、3)規模拡大・シェア拡大を重視しない、4)短期環境変化に対して安定的な企業システム、5)環境の構造変化に対して安定的な企業システム、6)本業重視、7)社員重視の経営風土と学習する組織、8)経営理念の浸透と継承、の8項目をあげている。
このうち、共有ビジョンや学習する組織に関係する、2)、7)、8)項目を取上げると、2)の「システムとしての優位性」では、「(個人のアイデアから生まれる)製品やサービスによる差別化だけでなく、(システムから生まれる)製品やサービスをつくり出す技術やノウハウ、あるいはシステムの差別化によって、競争優位の長期的な持続が可能」であるとしている。
また7)の「学習する組織」では、「「ストック型」企業は、学習する組織であり、学習した成果をシステム化する企業である。社員の知恵の力をシステム構築に結集するには、社員一人ひとりが共通の目的を持ち、目的の実現に協力的な知恵を出し合う力が必要となる」としている。
最後の8)の「経営理念の浸透」では、「共有化されたビジョンは社員間のコミュニケーションを効率化し、それによって組織を目的に向かって結集する上で重要な働きをする。「ストック型」企業では全社員に経営理念が浸透している必要がある」としている。
2.ラーニング・オーガニゼーション
ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)というコンセプトの提唱者であるピーター.M.センゲは、「最強組織の法則−新時代のチームワークとは何か」の中で、「ラーニング・オーガニゼーションの五つの鍵」として、次の5つの要素を挙げている。
1)システム思考:
システムを理解するには、パターンの個々の部分でなく、全体を考慮しなければならない。システム思考は、全体のパターンを明らかにし、それを有効に変えていくすべを人々に把握させるための知識とツールの総体なのだ。
2)自己マスタリー:
マスタリーは高いレベルの習熟を意味する。自己マスタリートは、個人をつねに明確にし、深めていくことを意味する。エネルギーを集中し、忍耐力を養い、現実を客観的にとらえるのである。
3)メンタル・モデルの克服:
「メンタル・モデル」とは、われわれの心に固定化されたイメージや概念のことである。激変するビジネス環境のなかでたえず適応し、成長できるか否かは、組織的学習、すなわち経営チームが会社や市場や競争相手に関して共有するメンタル・モデルを変えていけるかどうかにかかっている。
4)共有ビジョンの構築:
何らかの偉業を成し遂げた組織で、目標や価値観や使命が組織全体に浸透していない例をあげるのはむずかしい。しかし多くの経営者の場合、個人的ビジョンはあっても、それが共有ビジョンに翻訳され、組織全体を刺激するまでにはいたっていない。共有ビジョンをつくるのに必要なものは、共通の「将来像」を掘り起こす技術だ。
5)チーム学習:
チーム学習は「対話」ではじまる。メンバーどうしが個々のメンタル・モデルを棚上げして、本当の「共同思考」に入るのだ。ラーニング・オーガニゼーションは人間行動におけるイノベーションなので、構成部分たる五つの鍵は「ディシプリン(学習し修得するべき理論および技術の総体であり、実践されるべき課題)」としてとらえる必要がある。
さきにあげた柳原氏の著書も、長寿型企業の特徴としてラーニング・オーガニゼーションが重要な役割を果たしているとみているようである。柳原氏は、長寿型企業を「ストック型」、短期的成果や株主重視に代表されるアメリカ型経営を「フロー型」として対峙させているが、ラーニング・オーガニゼーションの重要性はどこの国の企業でも共通のようである。
1. ナレッジ・イネーブリングへの旅
本書(「ナレッジ・イネーブリング」ゲオルク・フォン・クロー、一條和生、野中郁次郎著、東洋経済新聞社)はナレッジ・イネーブリングのコンセプトと実践を記した本である。組織は知識をマネージ(管理)することはできない。組織にできることは、知識をイネーブル(実現可能にする)することだけであるというのが、著者達の強い信念である。
野中郁次郎と竹内弘高の共著による「知識創造企業」が1995年に出版されてから、知識が競争優位の源泉であるという考えは世界の実業界と学会から非常に注目されるようになった。しかし、ビジネスの現場で実際にどのように知識を創り出したらいいかという点に関しては、同書はあまり詳しく述べてはいなかった。それにたいして本書は知識創造に関するより実践的なガイドを提供することをめざしている。また、知識を創造する組織の構造に成功した多くの企業の最新事例を、世界中から集めている。
ナレッジ・イネーブリングとは、知識創造を促進させる組織活動を指す。ナレッジ・イネーブリングとは、組織または地理的な境界や文化の壁を超えて知識を共有し、会話や人間関係を促進することである。本書では、ナレッジ・マネジメントが抱える理論的限界を超えて、刻々と形を変えて進化しつづけていく人間の知識活動にどのように取り組んだらよいか、その実践的な方法を論じている。
著者達は本書のなかで、シーメンス、スカンディア生命保険、資生堂、ソニー、東芝、前川製作所、ファナック、アドトランツ、GEなどの企業の事例を研究している。こうした企業事例に基づいて、著者達は知識活動を起こす役割をナレッジ・イネ−ブラーと定義し、次の五つにまとめている。(1)
ナレッジ・ビジョンの組織内への浸透、(2)従業員間の会話のマネジメント、(3)ナレッジ・アクティビストの動員、(4)適切な知識の場作り、(5)ローカル・ナレッジのグローバル化。
第5章から第10章まではこの本の核心部分であり、各ナレッジ・イネーブラーを丁寧に検証している。第5章「第一のイネーブラー−ナレッジ・ビジョンの浸透」では、ビジネス戦略の仕組みを説明するとともに、およそいかなる組織にとっても知識に関する包括的なビジョンの創造が不可欠であることを明らかにしている。ここで、資生堂による新製品のビジョン作りの手順について分析している。第6章「第二のイネーブラー−会話のマネジメント」では、組織のメンバー同士が会話しあう方法を検証している。ここでは、前川製作所とGEが行った具体的な取組みを比較している。第7章「第三のイネーブラー−ナレッジ・アクティビストの動員」では、知識創造を引き起こすために、組織の変革仕掛け人であるアクティビストがもつ役割について明らかにしている。ここでは、シーメンスのヘルムート・フォルクマンの事例を紹介している。
第8章「第四のイネーブラー――適切な知識の場作り」では、ソニー、前川製作所、東芝の事例を例に取りながら、組織構造、組織戦略、ナレッジ・
イネーブリングという三要素の密接な関係を展開している。第9章「第五のイネーブラー−ローカルナレッジのグローバル化」では、知識を組織全体に普及させる段階で直面する複雑な問題を考察している。ここでは、アドトランツの事例を使って検証している。最後に経営コンサルティング会社の事例を扱った第10章「ナレッジ・イネーブリングの実践――ジェミニ・コンサルティングによる知識に対する障害の克服」、そして第11章「エピローグ−ナレッジ・イネーブリングへの旅」で本書は完結する。
2. 適切な知識の場作り
第8章では四つ目のイネーブラーであるイネーブリング・コンテクスト(知識創造の場作り)について触れている。これはすべての鍵を握る重要なイネーブラーである。「適切な知識の場作り」には、強固な人間関係と効果的に協力しあう組織構造の二点が必要であり、何よりもこのステップは、コンセプトの正当化(つまり、新しいコンセプトと自社の戦略目標が合う)の二点である。
この章では、リスクの高い新しいビジネスへの挑戦、自社内での新製品の開発、他社との提携等を通じた新しいビジネス・プラットホームの構築、プロセス・イノベーションの四つ戦略目標をあげ、それぞれに応じた組織構造が必要となるとしている。そして、各戦略目標がどのように関連し合っているかを、一方の軸は新規ビジネス、既存ビジネスを表わし、他方の軸は新しい知識の創造と既存の知識の利用からなる、戦略目標と知識の関係表を示している。そして、この4つのケースを、ソニー、前川製作所、東芝のケースで検証している。
既存の知識を生かす既存のビジネスにとって基本となる戦略目標は、プロセス・イノベーション、コスト効率の追求と経営の迅速化である。ここで重要な点は、ビジネスの業務やプロセスを改善し、既存の知識を最も効率よく、かつ十分に活用することである。ここでは、「権限を委譲された部門」が示された戦略目標の達成に最も適しているとして、ソニーの例を検証している。
既存のビジネスで新しい知識を創造しなければならない場合は、さまざまな機能分野に属する人々を集中的かつ柔軟な方法でたくさん集めなければならない。この場合、タスクフォースやプロジェクト・チームが知識創造を実現する組織構造となる。タスクフォースは個人が抱える知識の共有を可能とする適切なコンテクスト(場)を提供することができる。各メンバーを巻き込んで会話することで暗黙知は明確になり、メンバー同士で共有され、新しいコンセプトやプロトタイプに発展していくとして、前川製作所の例を検証している。
次に、既存の知識を発展させて新しいビジネスを起こそうとする場合には、さまざまな企業と協力して新しいビジネス・プラットホームを作り上げることが戦略目標となる。他者と提携したり協同したりせずに企業が単独でのビジネス・プラットホームを作るためには、別会社を使うのがよいとして、ソニーの例を検証している。
最後に、新しい知識を元にして新しいビジネスに取り組む場合、組織のメンバーには新しい分野を開拓する能力がなければならない。組織構造に関しては、企業全体から強力なサポートを受けている事業部門横断型ユニットが効果的である。トップ・マネジメント直属のユニットは、新しいビジネスに完全な責任をもたなければならない。事業部門横断型ユニットはタスクフォースよりも長く存在できるとして東芝の例を検証している
1.三つのギャップの解消
本書(日本経済新聞社発行)は、経済産業省職員である小林敬一郎(経済産業研究所研究員)、加藤創太(経済産業省課長補佐)の両氏が、経済産業省として感じ続けてきた組織的・概念的な制約を振り払い、何が日本全体にとって問題なのか、何が日本全体にとって今必要なのか、という点につき、自由な立場で掘り下げたものである。
本文中で述べているように、日本の経済運営や組織運営、さらには政策担当者などの思考枠組みは、時代遅れの様々な「仕切り」によって分断されている。こうした概念的・制度的な「仕切り」が、日本経済にとって真に必要な「グランド・デザイン」の構築を妨げた。代わりに、各種政策の「パッチワーク(つぎはぎ合成)」による整合性のない、歪んだ経済運営が行われてきたというのが、著者達の主張である。
例えば、金融監督当局は、金融システムの安定に焦点を絞り、景気回復が確実になるまで不良債権処理を先送りする戦略をとった。財政当局は、財政赤字を解消するため消費税増税を指向した。総需要収縮に懸念を抱くマクロ経済学者は、財政金融政策の発動を説き、企業の国際競争力に懸念を抱く市場アナリストは、規制緩和やリストラの必要性を説いた。
本書は、90年代が日本経済にとって「失われた10年」になった根本的理由であるとしている、三つのギャップの解消を目指している。一つ目のギャップは、「需要サイド論 対 供給サイド論」、あるいは「ケインズ政策論対構造改革論」という単純な二元論のギャップを埋め、両者をつなぐような政策案を「第三の道」として提示するという、「不毛な二元論からの脱却」である。
著者たちは、需要サイド論者の多くは、短期的な対症療法であるはずのケインズ政策が、なぜ10年もの間、日本経済を低迷から脱出させることができなかったか、という点に対して十分な答えを提示してこなかった。一方、供給サイド論者は、規制緩和やリストラなどの供給サイド改革が、なぜ需要サイドの拡張をもたらしうるのか、という肝要な点についてはほとんど何も説明してこなかったと指摘している。
著者達が指摘している、日本経済低迷の最大要因と考える「バランスシートの罠」は、この需要サイド論と供給サイド論をつなぐことによって、初めて浮かび上がる。つまり、供給サイドに構造的に仕掛けられた「バランスシートの罠」を取り除くことによって、需要サイドの持続的拡張が可能になるという主張である。
なお、二つ目のギャップの解消は、経済政策を実施する際の理論的根拠は、国民に対し説明責任を負う政策当局者の怠慢などにより、有限者に十分なコミュニケートされなかったという、平易な説明による「コミュニケーション・ギャップの除去」である。そして三つ目のギャップの解消は、著者達が現在所属する経済産業省、あるいは日本政府とは一切無関係な個人的立場で書かれているという、「制度的・組織的制約からの開放」である。
2.バランスシートの罠
本書は各章毎に独立して読み進められるよう工夫されている。また、各章の<問>と<解題>だけを読んでも概要がわかるように書かれているので、後半の章を先に読みたい読者は、前半の章については<問>と<解題>を先に読むとよい。
本書の第1章では、「失われた10年」において日本経済が実体的・指標的にどのような動きを示したかを簡単に復習する。第2章においては、経済政策について通俗的に理解されている根拠や効果について掘り下げた分析を行い、それら通俗的見解の誤解を正している。
第3章では、バブル崩壊後に日本経済が需要収縮に陥ったメカニズムを概観する。ここで中心的課題となるのは、従来ミクロ経済学的な問題とされてきた不良債権問題が、どのようにしてマクロ経済学的な需要収縮を引き起こすか、というメカニズムの解明である。
次に第4章では、「不良債権処理」の「先送り」を通じ、日本経済が「バランスシートの罠」に陥っていることが理論的に示される。また、この「バランスシートの罠」に陥った日本経済において、産業組織構造の劣化や萎縮が起こっていることが、理論的・実証的に示される。
そして第5章では、前章までの分析に基づき、日本経済を「バランスシートの罠」から抜け出させ、持続的回復を実現するため必要となる処方箋を提示している。さらに第6章では、日本経済の将来について四つのシナリオを提示し、最後の第7章では、それまでの議論の簡単なまとめを兼ね、今後のあるべき経済理念・制度の姿について述べている。
90年代を通じ不良債権処理は「先送り」され続けた。こうした「先送り」は、企業間ネットワーク構築に必要な企業間の信頼を損なわせ、結果としてネットワークを分断する外部不経済効果を生じさせる。つまり、「ペナルティの先送り」は「悪い均衡(企業双方がお互いに相手に対し不信感を抱けば、各企業は単独で事業を進めようとする。これが悪い均衡である)」を成立させる可能性を高めるのだ。これが本書でいう「先送りによるディスオーガニゼーション(組織破壊)である。「悪い均衡」に陥ると、銀行は不良債権処理を進めるインセンティブを失い、「悪い均衡」が持続する。
アダム・スミスは、需要が拡大し経済活動の分業や専門分化が進むと、経済全体の生産性が向上することを指摘したが、日本経済全体が、企業間の相互不信により「悪い均衡」に陥ってしまったため、生産性が恒常的に低下し、日本経済はいつまでも低迷から抜け出せなくなった、と考察している。90年代の日本経済は、この「バランスシートの罠」に陥ってしまった
からこそ、潜在成長率が1%強にまで急落してしまった。
第5章で提示している処方箋は、一つは、司法による経営責任の追及や、会計基準を厳格化することで、銀行による不良債権処理の先送り事態を認めないことと、一方、公的資金を積極的に活用することも必要になる。他方、企業の過度のリスク回避指向や市場に存在する各種の「情報の非対称性」を助長させている制度的・慣行的要因を取り除くことも重要であるとし、企業金融手法の多様化、企業会計の信頼性の向上、行政手続きの透明性・予測可能性の確保、各種法的制度の整備を通じたコーポレート・ガバナンスの強化、などを進めるべきだとしている。
一方、企業も社会もそこに生活する人間の集まりである。世界で競争優位を発揮する代表的な企業では、トップの強いリーダーシップと従業員の協業による多彩で豊かな知識創造が伝えられている。著者達は、旧ソ連諸国における「経済のディスオーガニゼーション(組織破壊)」と同様のメカニズムが、日本においても発生していたことが、各種データから推測されるとしている。
1.改革のコンセプトを探す
日本経営をめざましく生き生きとした組織に変えるためには、われわれはどんな壁を乗り越えなければならないだろうか。本書は、こうした疑問に一つの答えを提供することを目指したものである。本書のストーリーは、この本(三枝 匡著、日本経済新聞社)の著者が過去にかかわった日本企業5社で実際に行われた事業改革を題材にしている。この5社は、いずれも東証一部上場企業ないしは同等規模の会社である。
仮定の企業太陽産業は東証一部上場で売上高3,200億円。5つの事業部の一つであるアスター事業部は赤字に転落し、5億円の欠損を計上した。社長の春日は、大阪にある関連会社、東亜テックの社長である黒岩を東京に呼び、執行役員でアスター事業部の事業部長に就任すると言う人事を内示した。黒岩との間に、2年以内に黒字にできなければ事業撤退か閉鎖と言うトップの覚悟を社員に示すことなどを打ち合わせた。また、黒岩は経営コンサルタント五十嵐を社長に引き合わせた。
第3章の「改革の糸口となるコンセプトを探す」では、次のようなストーリーで、人材の選定から問題点の抽出、改革のコンセプトまでを描いている。なお、改革のコンセプト1は、事業の原点「商売の基本サイクル」、コンセプト2は、「戦略の連鎖」、そして、コンセプト3は、「マインド連鎖」である。
黒岩はすぐに、管理職や若手など約50名と個人面談を行う予定を組んだ。黒岩は2ヶ月ほどの「静かな観察期間」が終われば、直ちに数名の「改革タスクフォース」を編成し、この事業をどう改革するか、そのシナリオ作りを始めるつもりだ。面談スケジュールが終わりに近づいた頃、黒岩は興味ある1人ミドル、生産管理室長川端に出会った。黒岩はかなり細かい質問をしたが、川端の答えは的確だった。以前川端は、厳しい合理化計画を作成し会社に進言したので、若手に人気があったが、上層部には煙たがられていた。
黒岩がアスター事業部に着任してから2ヵ月後に、事業改革のシナリオ作りを目的とする改革タスクフォースが発足した。黒岩は最初に、面談の中でもっとも注目した男、川端祐二を選び、タスクフォースの主導チームを形成することになった。翌日から黒岩、五十嵐、川端の3人はメンバーの選定に当たり、フルタイムの選任メンバー4人と兼務の4人が決まった。
経営会議の席上、黒岩は幹部に言明した。「改革タスクフォースは、事業部長の直轄とする。兼務メンバーが作業経過をそれぞれの所属長に報告することはない。必要な社内説明は、すべてこの私が一本化して行う」
改革タスクフォースの最初のミーティングは、いきなり2泊3日の合宿だった。黒岩は話し始めた。「われわれの任務は、これから4ヶ月間で、つまり遅くとも3月末までに、事業部の改革案を実行可能なところまでまとめ上げることにある」「君達の検討に聖域はない。すべての選択肢を考え抜いてもらいたい。何でもありだ」「改革タスクフォースは、この事業を利益の出る「勝ち戦」に変える方法を探す。しかし、それが難しいと判明したら、タスクフォースは直ちに「事業撤退の方策」を検討する」
次に五十嵐が立ち上がった。「まず、「負け戦」の原因を徹底的に洗い出すところから始めます」「今から皆で問題点をカードに書き込み、それを壁に貼りながら「改革の切り口」を整理していく作業を行いたいと思います」
顧客の不満は何か。なぜわれわれはそれを満たせないのか。競合はなぜわれわれより強いのか。その負け戦の原因は何か。部署と部署の連携の問題点は。リーダーシップの取り方とそれについて起きている問題は。これまでの事業戦略の問題点は。の視点から500枚のカードが並んだ。
次の日、五十嵐が改革の基本になるべきコンセプトの説明を始めた。「「創って、作って、売る」は組織の価値連鎖を表わすと言いました。それは同時に「時間連鎖」を表わしています」「もしアスター事業部の「時間連鎖」をダントツに速くすることができたら、どんな効果を生むのか討議したいと思います。発想の原点は「小さい組織」です」「そこで今日は仮説として、たとえばD商品群を独立させてミニ会社にする。D商品群のビジネスユニットを作ると解決ないし大幅に改善できるカードを隣の壁に移してください」。こうして500枚のうち、実に300枚近いカードが、「解決、または、かなり改善可能」ということで、隣の壁に移ってしまったのです。
合宿の最終日の朝、まず、五十嵐がたった。「たとえ「商売の基本サイクル」を速く回せる組織が実現しても、「戦略」が曖昧なままだったら効果はでません」「今のアスター事業部では、会社が何をやろうとしているのか、皆に戦略のストーリーが見えていない」。そして彼は、この現象を二つの原因に分けて考えたいと言った。「社員に戦略が見えないというときに考えられる第一の原因は、戦略が「組織末端まで伝わっていない」これを五十嵐は「「戦略連鎖」が崩れている」と呼んだ。
「今日はあとに残ったこの200枚を整理してみましょう」そういって五十嵐は、「事業全体の「事業戦略」を明確に示せば解決できる問題点」「個々の「商品戦略」を明確に示せばよくなる問題点」という視点を提示した。これで約70枚のカードが減った。
次に五十嵐は「関節・サポート部門」に関係するカードを整理させた。「「人の評価」システムを変えれば解決できる問題点」「「数値管理」つまり経理報告や原価計算などの手法をよくすれば解決できる問題点」「「情報システム」を変えれば解決できる問題点」「「教育・トレーニング」のプログラムを充実すれば解決できる問題点」などの質問が続いて、あわせて50枚のカードが移った。
最後に残った80枚は「商売の基本サイクル」「戦略連鎖」「関節・サポート機能」のどれにも属さない問題であり、各部署の固有問題として、それぞれの内部で解決改善に取り組むべき問題点である。
ここで黒岩が立ち上がり、「われわれは、組織の「マインド連鎖」を生み出さなければならない」と説く。事業を元気にするには、「商売の基本サイクル」を貫く「五つの連鎖(価値連鎖、時間連鎖、情報連鎖、戦略連鎖、マインド連鎖)」を抜本的に改善しなければならないのである。
2.事業変革の成功要因
第4章の「組織全体を貫くストーリーをどう組み立てるか」では、改革のシナリオを作り、戦略の意思決定を行うプロセスを描いている。まず、タスクフォースは現状のひどさを浮かび上がらせるために、データを集め、それを鋭い表現で指摘するパワーポイントのページを作っていった。
次のステップは「改革のシナリオ」を作ることだ。つまり第二作業は全体戦略と組織案の検討だった。ここまでの分析で、新事業のうちF商品群の撤退を決めた。こうして走りながら考えつつ、タスクフォースは「それぞれのビジネスユニットの基本戦略を立案する」という第三作業に入っていた。このビジネスユニットごとの戦略案を「ビジネスプラン」と呼んだ。
第5章の「厚き心で皆を巻き込む」では、改革シナリオを現場に落としこむプロセスを描き、第6章の「愚直かつ執拗に実行する」では、改革を実行するプロセスを描いている。
最後のエピローグで、著者は、アスター工販の改革がうまくいった要因を次のような項目にまとめている。
「改革のコンセプトへのこだわり」「存在価値のない事業を捨てる覚悟」「戦略的思考と経営手法の創意工夫」「実行者による計画作り」「実行フォローへの緻密な落とし込み」「経営トップの後押し」「時間軸の明示」「オープンで分かりやすい説明」「気骨の人事」「しっかり叱る」「ハンズオンによる実行」
1. 風土・体質の変革
著者の柴田昌治氏は、前に「ビジネス戦略ストーリー なぜ会社は変われないのか」を出版している。そこでは、日本の改革の最大課題として、「波風を立てない」「言ってもムダ」といった組織の風土・体質の根深い問題が障害として横たわっている。分権化したり、実力主義に転換するなど、組織再編や制度改革を断行することは難しくないが、風土・体質の変革なくしては成功するはずはないということを、実際にコンサルタントをしているいくつかの会社のケースを下敷きに、ドラマ仕立てにして描いている。
この「実践ガイド なんとか会社をかえてやろう」(日本経済新聞社)は、前著のストーリーだけでは十分に解説できなかった要点をできるだけわかりやすく解き明かし、「問題を見えやすくする仕組みをつくる」「正しいことを言いすぐない」「感度の悪い人をキーポジションにつけてはいけない」など、実践ですぎに使えるようなメッセージを覚えやすいフレーズにして工夫したテキストである。
序章「意識改革では変われない」で、問題のある組織の体質をひと言で表現すると、「なるべく波風は立てたくない」という感覚が蔓延している状態であり、そこから「問題を先送りする」とか「臭いものにはファタをする」という体質が形成されていく。その結果「後ろ向きの調整」が発生し、「出る杭を打つ」ことになる。
悪い調整文化がはびこると、「信頼し合わない」「お互いに隠し合う」体質が目立ってきて、「表立っては何も言わない」「陰で非難し合う」ことになり、「牽制と足の引っ張り合い」が起こってくる。著者は、この問題をなんとかしないと日本の明日はないということを強調している。
組織の体質が悪化すると情報の流れが一方通行になり、「情報不足、大局感を見失っていく」という問題に行き着き、「全体が見えないためやる気、危機感をなくす」ということになる。情報を「データ系の情報」と「現場感覚系の情報」に分けることができるが、現場情報系の情報は人のエネルギーを通じて伝わりやすい。これが不足すると、量だけ増えて質が低下する。
会社を変えるには「問題を見えやすくする」ことがキーポイントである。ハードの改革でシステムや組織を変えるのも、問題を顕在化して見えやすくするであるが、ハードの改革を成功させる前提条件としてのソフトの改革が必要である。日本では建前を押し通すことが正当化され、日常化しているが、そういう問題に切り込んでいくソフトの改革について、リ・コミュニケーションという用語を使って、「情報の流れ方と質を変える」ことであると説明している。
2. 問題の顕在化とリ・コミュニケーション
このような視点から本論に入っているが、第1章で「問題を見えやすくするには」、第2章で「風土・体質を変えていくプロセス」、第3章で「気楽にまじめな話をする場づくり」、第4章で「キーマンと人材育成」を取上げている。この本が特に強調しているのは、問題の顕在化とリ・コミュニケーションであるが、問題を見やすくするには、「困らせる仕組みづくり」が大切で、それがアンテナを立たせることになる。例えば、トヨタ生産方式では、改善のシステムを回していくために、「不良が出たらラインを止める」という現場の人たちを「困らせる仕組み」が組み込まれている。また、リ・コミュニケーションの具体的方法は、「気楽に話をする場」である。
日本的な波風の立て方である「リ・コミュニケーションの基本的スタンス」は、「形式ばらずに気楽な雰囲気をつくる」「結論を出すことをノルマにしない」「人の話をまず「聞く」という姿勢を持つ」「立場を離れる努力をする」「相手にレッテルを貼ったままにしない」「正しいことを言い過ぎない」「相手をやっつけすぎない」「自分の弱みを率直に見せる」ことである。
「気楽にまじめな話をする場」の種類として、「オフサイトミーティング」「コアミーティング」「ミニミーティング」「三角パスミーティング」の4つを取上げている。コアミーティングというのは、社内の改革推進の中心(コア)になるメンバーの集まりであり、ミニミーティングというのは1対1出やるものである。
最近は三角パスミーティングと呼ばれる場も出てきた。三角パスと言うのは、例えばAさんがBさんに何か情報を伝えたいのに、2人の間にコミュニケーションがないというときに、Cさんが仲介役になって2人をつないでいく、というやり方である。
第5章の「人事制度と組織の変革」では、問題を顕在化させる評価システムとして、「ハードで問題を顕在化させるには」「競争原理で問題を見えるようにする」「問題を見えやすくする自律分散体制」を取上げ、第6章の「責任の明確な意思決定ルール」では、「問題を顕在化させるハードとソフトのリンク」「衆知を集めて1人で決める」というテーマを取上げている。
1. 日本経済のユニクロ化
先日読んだ大前研一氏と田原総一郎氏との対談集「「勝ち組」の構想力」で、大前氏は「世界の産業構造の変化とともにソフト化が起きて、いわゆる知的付加価値の産業に変化したが、日本がそれをできない最大の理由は昔の成功した原因を忘れてしまったことにあると思う。一番問題なのは「日本は不況だ」と言いつづけてきたことにある。不況じゃなくて時代が変わったのだとリーダーが認識しなくてはいけない」としたうえで、「日本の貸席経済化」と「個人消費が市場に向かうようにすること」を提言していた。
まず、「世界でいま繁栄しているところは、貸席経済です。どこも自分の力ではないものが世界中からきています。すなわち、人も企業も情報も資金も、全部外から来ているのです」とし、特に、金融、情報関係、建築方面を呼ぶことが効果あるが、そのためには規制緩和が必要であるとし、多くの規制がさまたげになっていることを、例をあげて指摘している。
具体的な構想としては、湾岸百万都市構想や築地の再開発をあげて、世界の人も企業もきたくなるような町並みをつくることを提案している。街並みができれば、世界中から建設費も含めてお金がくるという。
また、「日本は、個人金融資産1400兆円、1人当たりGNP世界で2位という国民の富があり、1人あたりの消費額はアメリカより多い。今日本がやるべきことは、1400兆円の個人金融資産が市場に向かうようにすることです」とも指摘している。
具体的には、住宅の建設費が日本ではオーストラリアの5倍かかる。住宅や構造上の基準の相互認証制度をつくって、海外の住宅やその部品を輸入できるように、規制の緩和や流通の改革をする。「1400兆円出動」のカギは建て替え需要だと提案している。
一度この道を選んでいただいたら、失業率は一時的に増えますが、その後20年間は大建設ブームになります」といっているが、このような大胆な変革がはたして今の日本でどの程度受け入れられるのであろうか。新しい経済の育成しなくては21世紀の日本はないので、この提案を真剣に受け止めてもらいたいものである。
規制改革といえば、通信事業に関する規制の改革だけで、携帯電話をはじめとして振興ビジネスが生まれ経済の目玉の一つになるまでに大きく成長した。今後も、少子高齢化、環境問題、経済空洞化など、規制緩和によって日本経済の発展方向に合致した需要創出の可能性がある分野も多い。
小泉総理は「聖域なき構造改革」というスローガンを出しているが、具体的政策が見えてこない。公団等を民営化しただけで日本再建ができるわけではない。経営陣の入れ替えは勿論、経営が破産し市場からの退席が求められている事業と再建可能な事業を分けて、後者の再建を、具体的なシナリオと強力なリーダーシップのもとに図っていくことになろうが、大事なことは国民にわかりやすい政策とその具体的な道筋を提示し、未来への希望を共有することである。
2. ユニクロ化時代の中小企業
「ボーダーレス経済」と「ネットワーク社会」化で、日本の製造業も生産の部分が中国等に行き、国内の製造業は空洞化している。このような時代に日本の中小製造企業にはどのような進む道があるのであろうか。その処方箋を書きだすと、次のような対応が考えられると思う。
1)製造業の中の知的付加価値部分を受け持つ
ボーダーレス経済になると生産部分は中国等に行き、国内産業の空洞化が生まれるが、最近の製品は生産コスト以外の知的付加価値の部分、設計とかデザイン、開発研究や改良、アフターサービスの部分が多くなっている。このサービス部分は全体の70%になっているとも云われているが、知識産業化しているモノづくり企業の知的付加部分、サービス部分を受け持つ。
例えば、自らの技術を武器に世界に知られた独自の製品をつくる「小さな日本一企業」、独自開発の加工ノウハウを生かし、ハイテク分野の加工機械を供給する、などがこの分野に入る。
2)製造専門会社に特化する
産業がユニクロ化し製造の部分は第三者に出すようになると、委託されてそれを供給する製造専門会社が生まれてくる。こういう形態をとれば、単なる生産部分だけでなく知的付加価値部分も受け持つので、人件費が高い日本国内でもやっていける。その企業の個性的な技術やサービスをもとに、オンリーワンの製造専門会社として生きてゆく。
ハイテク分野だけでなく、他社に真似のできない深絞り技術、CAD/CAM技術や表面処理技術をもとに、特殊な技術を要して付加価値の高いものを狙うのも、この分野に入る。
3)競争優位の地域経済のネットワークを形成する
近年、産業クラスターという考え方が注目されている。この産業クラスターは、競争優位を有する産業を中心に、地域資源や技術力、専門人材を集積し、新たな産業の創造を目指す地域経済産業政策として具現化されている。地域に強い産業クラスターが形成されれば、そこに多くの技術、情報、資金が集まってくる。内発型の起業化活動も活発になり、競争優位を築くことができる。
産業クラスターとしては、アメリカのオースティン、シリコンバレーなどが知られているが、日本でも、東京都渋谷区のビットバレーなどの自然発生的なものの他、北海道や大田区などで、地域主導で政策的にクラスターを形成しようとする試みが行われている。
1. トヨタ式企業革新
この本「トヨタ式最強の経営、柴田昌治・金田秀治著、日本経済新聞社」は、企業文化・風土改革に取り組んできた柴田氏と、トヨタグループ企業の内外で長年トヨタ式企業革新を実践・指導してきた金田氏が協力し、それぞれの独自の経験と視点を活かしてトヨタの強さの秘密に迫り、その分析を基にしてさらに日本的経営改革への道を示そうという企画から生まれたものである。金田氏が企業革新手法としてのトヨタ方式を語り、柴田氏がそれをどのようにとらえ、日本的改革への方法論へと結び付けるかということで議論を重ね、まとめあげた。
敗戦(1945年)後の廃墟のなかから生産を再開した日本の自動車業界は、各社苦境に陥っていた。20世紀初頭にアメリカではフォード自動車がフォード方式と呼ばれる大量生産方式を生み出し、以後、アメリカは世界の産業界のなかで圧倒的優位に立つことになった。自動車産業の日米生産性格差は10倍あると言われた。1945年、豊田喜一郎社長は「3年でアメリカに追いつけ」という決意を表明した。この常識的に考えれば実現が不可能なスローガンを「なんとか可能にならないか」と考え、行動を起こしたのが、1949年に機械工場長に就任した大野耐一氏である。後に彼はトヨタ生産方式の生みの親と呼ばれた。
大野氏がアメリカに追いつくために考えた基本的なアイデアは「ムダを徹底的に排除する」ことである。作業の中身をよく眺めてみると、実際に付加価値を生み出している作業(加工)と、何ら付加価値を生み出さない作業からなっている。大野氏は前者を「働き」と呼び、後者を「動き」と呼んで区別した。この「ムダを徹底的に排除して、働きだけで生産しろ」という課題(コンセプト)から「段取り替え時間を3分にしろ」という常識的には実現不可能と思われる指示を出した。
次にムダと思われるのが、せっかく加工した製品が不良で「手直し」を必要とする作業である。そこで大野氏はムダな「手直し工場をなくせ」というさらに新しいコンセプトを設定した。これを可能にするアイデアは「組立ライン中で不良が発生したら、いったんラインを止めてその場で速やかに手直しをし、手直し後再度ラインを稼動させるというものである。問題を顕在化させて、困ることで知恵を出させる「トヨタ改善方式」がここで生まれる。
三番目に、多種少量生産型の日本が勝てない要因として固定費の問題がある。そこで大野氏は「固定費をゼロにする」というアイデアを考え、「管理部門をなくせ」という具体的な課題を打ち出した。ここから管理部門の生産計画に頼らず、現場の自律的制御で在庫を不要とする「かんばん方式」がつくられていく。大野氏は「本来生き物としての生産システムは自律神経系で異常発生にすばやく反応して制御されるべきであるのに、その自律神経系が企業に欠けているために、やむをえず反応の遅い大脳系の管理部門が制御している」と考えた。こうして「生産活動のなかに自律神経系を組み込め」というアイデアが生まれた。
大野氏はアメリカに出張したときにスーパーマーケットを見て、「売れた分だけ売り場に補充」というやり方から自律神経系を生産システムに組み込むヒントを得た。このヒントを基に最終的に後工程引き取りのカンバン方式を考え出したのは鈴村氏であった。
トヨタ生産方式と呼ばれるものは「生産方式」「改善方式」「企業革新方式」という三つのレベルで解釈されるが、カンバン方式を例にとると、「かんばん」は生産システムを「動かす」という指示の役割と、「動かし続ける」という制御の役割を果たすと理解すれば「生産方式」であり、問題を顕在化し改善運動を起こさせる仕組みと捉えれば「改善方式」と理解できる。
しかしカンバン方式は実はトヨタ「企業革新」方式なのだと著者達はいっている。この仕組みから「常識はずれの自主的改善運動」が必然的に巻き起こされ、その結果生まれたアイデア、知恵を集大成して結実したものがトヨタ生産方式である。
2. トヨタ方式に見る「日本的改革」
6章では、トヨタが構築した日本的イノベーションのやり方を取上げている。一般的にはピラミット型組織は「今日の業績」向上のためにつくられており、「明日の準備」への活動はうまく機能しない。そこで「明日への準備」への活動を実現するための一つの方法は、フレキシビリティのある新しい組織形態につくり変えることである。この道を選んで成功した代表的な企業がアメリカのGEである。もう一つの方法は、このフォーマルなピラミット型組織を基本としながらそのなかに、「明日の準備」への活動が自主的に起きるようなインフォーマルな組織(仕組み)を組み込むことである。トヨタは世界の企業に先駆けてこの仕組みをつくり上げた。
著者達は、トヨタが行ってきた「仲間集団」で「自主的」に展開する「常識はずれの改善運動」とはトヨタ式企業革新手法であり、ここではそれを「日本的イノベーション」であると位置付けた。企業が革新を起こすには、そのための新しい「組織と人材」が前提条件として必要とされる。
GEはイノベーション活動を展開するために「ピラミッド型組織」を「逆ピラミッド型組織」にひっくり返し、さらに「統合ネットワーク型組織」へと組織構造そのものを変化させてきている。これに対しトヨタでは外見上の組織構造はピラミッド型組織を保ちながら、革新運動はインフォーマルな「仲間集団型組織」を形成して展開する二重構造になっている。だからトヨタの企業革新手法は外から見えにくいわけである。
欧米型のように「あるべき形」として全体システムを描き直してトップダウンで構築するのではなく、日本型では「ありたい形」を共有して、まず「どこから変化を始めれば全体が変わり続けるか」というシナリオ展開を考える。辺境のサブシステムが変化して中心のサブシステムに「ゆらぎ」を与え、「気がついたら新しい全体システムができていた」というのは日本型のシステム構築の進め方である。