★ネタバレ感想★


3000年の密室

柄刀 一


 洞窟の中より発見された3000年前の縄文人のミイラ。彼は何者かに殺されていて、死後、右腕を切り落とされ持ち去られていた。しかも洞窟は内側から石を積まれた状態――密室だったのだ。一方このミイラを発見した男が不思議な死を遂げる。その状況は事故にしか見えなかったが……。


 この物語の1番のミステリイな所って現在の殺人事件でも3000年の密室の謎でもなくて、縄文人“サイモン”の正体ですよね。3000年の密室はスケールの大きな謎だったけど(笑)――サイモンが時代の先駆者だった、そしてそのために殺されることになった、という所がふたばがこの作品のテーマだと考える部分にも重なっていて1番面白かったです。サイモンの正体を学者連中が集まってディスカッションする所はまるでミステリィの謎解きのようですね。最後の謎解きよりも、むしろこちらのほうが作者の力が入っている気がします。考えてみると考古学とミステリィって似てますね。

 過去と現在さらに新たな世界の可能性としてヴァーチャルリアリティにまで触れられていて、過去・現在・未来が交錯しているわけですが、ただそういう場合に普通語られそうなテーマである「時の流れ」や「変化・革新」といったものをあまり感じませんでした。それよりも、いかに時が流れ生活や文化は変化しても、その時を生きる人間の精神はいつの時代でもほとんど変わっていないということをふたばは強く感じました。いつの時代も、新たな世界を築こうとする一握りの人を、自分たちの世界が崩壊することを恐れて旧態にしがみ付く大多数の人たちが弾圧し可能性を潰している。人間は新しいことが恐ろしいのでしょうね。それがいかに人間を向上させるものであっても、自分の足元を切り崩されるような衝撃には長く生きていればいるほど耐えられない。縄文の古代や架空世界が現実となっているだろう未来など、人は今ここではない世界に夢やロマンを求めてしまうものだと思います。けどどんな世界に生きている人々だって、その時代その世界なりの「現実」を生きているんですね。正直、3000年の昔に人を殺すほどの強い感情が存在したなんてふたばは考えもしなかった。でも考えて見れば、いつ何処で生きたってそこに生きるのは人間。ふたばたちと同じように――あるいはその世界なりの欲や執着、苦悩があってもおかしくない。太古のロマンに彩られた縄文時代も人間感系のしがらみを捨てた理想郷であるヴァーチャルスペースも、現在を生きるふたばたちにとっては想像するしかない夢のような世界だけど、きっとそこにだって苦しみや執着はある。その世界なりの「現実」を生きていかなければならないんですね。

 ふたばがこの物語に感じたテーマは「現実から逃げては行けない」といことでしょうか。主人公の真理子さんは両親が亡くなったことで「人が死ぬ」という当たり前の「現実」が受け入れられなくなった。そこから逃げ出すことで安定していたんだけど、でも逃げ出して辛いことは封じられても、それと一緒に両親との暖かい思い出まで封じてしまいました。苦しくてもその裏側には楽しいことはあった。楽しくてもその裏側には苦しいことがあるでしょう。夢の世界も、太古も、未来も、結局はそこに生きている限り「現実」です。

 

「わたし達が新しい世紀へ進化を遂げる時、捨てていってしまうものもあるんでしょうか……」
「どうだろう……。でもそれを捨ててしまっては進化しても意味がないってものもあるんじゃないかな」

――神崎一郎


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