★ネタバレ感想★
QED 東照宮の怨
高田崇史
<あらすじ>
八重垣リゾート社長・八重垣俊介が、自宅で身体中をめった突きにされて殺された上、金庫にあった佐竹本三十六歌仙絵が盗まれるという事件が発生する。新聞記者・小松崎良平は三十六歌仙絵が拘わっているということで、桑原崇を捜査をムリヤリ依頼。タタルは捜査の手始めに日光東照宮の調査に出かけた。QEDシリーズ第4弾。
<感想>
「QED」シリーズ第4弾。このシリーズを読んで毎回思うことだが、作者が一番書きたいものは歴史的謎を背景とした現代に起こる殺人事件ではなくて、その歴史的謎そのものに対する作者の説を登場人物の口を借りて語ることにあると思う。今回一番描きたかったことは、もちろん東照宮の怨――後水尾天皇が下賜した36枚も歌仙絵の勅額、本来、円を書くようにきれいに繋がる36首が繋がない――という事実から発した徳川家と天皇家がお互いに命脈を絶つために仕掛けた「呪」の存在であろう。この作品で展開されるその謎への解答が、学術的にどれほど確証があることなのかは知らない。しかし、そのアプローチには、真実への自在な思考の飛躍とその論理的展開の見事さで、確かに、「これが真実である」――と読者に感じさせる壮大さがある。少なくともふたばレベルの読者を納得させる、リアリティが確かにあるのだ。昔の人のあらゆる行動に対して意味の持たせようとする思考には恐れ入る気分である。――それだけ神と悪魔が身近にいたということだろうか?
しかし、である。それに比して、それを背景にして起こったはずの現代の殺人事件の何たる卑小さなのか。徳川家の仕掛けた東照宮の怨を利用し南光坊天海の作り上げた自己と生地・会津の神格化。それを断とうとしたことで起こった殺人事件。それと同じことが数百年前にはたしかに起こり、リアリティを持っていたというのに、現代では全く説得力を持たない。なぜ八重垣俊介は周りの反対を押しきって多額の資金をつぎ込んでまで天海しかけた呪のラインを断とうとしたのか?松丸はなぜそこまでそのラインにこだわったのか?――きっとその人にしか分からない、重ねられた過去があるのだろう。しかしそれがあってところでやはりその思考の卑小さは拭いきれない。同じ行為であっても歴史がもつ壮大さは感じられない。あるいはこの差異こそが作者が描きたかったものだろうか?
俺たちは皆、籠の中の鳥にすぎないんだよ。――現在という力場からは、どうしたって逃れようもないんだ。そして現在は、過去から未来への流れの一部だ。縛られたくなくても、知らず知らずのうちにきちんと縛り付けられている。色々な、呪によってね。
――桑原崇