★ネタバレ感想★
悪魔と詐欺師
高里椎奈
「これらの事件には共通点がある。当ててみろ」――ネット上の情報屋「シャドウ」から指摘された事件を調べ直す高遠刑事と御刑事。しかしすでに解決されたこれらの事件には何の疑問点も共通点も見出せない。手に余って高遠刑事は、かつてある事件を解決した深山木薬店の店主・秋のもとを訪ねるが……。薬屋探偵妖綺談シリーズ第3弾。
薬屋探偵妖綺談シリーズ第3弾。4つの短篇と1つの中篇からなり、短篇が最後の中篇に関わってくるという趣向です。こういう遊びはとても好き。ただ肝心の関わりの部分が弱い。真相を知って膝を打つような快感がなかった。これはいただけない。つまりそこがやりたかった事ではないんでしょうね。最後の中篇がこれまでの作品とは色が違っていて、しかもそれが非常に良かったのでそれだけ取り出して長編に仕立てた方が良かったのではと思いました。
タイトルの『悪魔と詐欺師』は、悪魔=ゼロイチ、詐欺師=深山木秋でしょうか?
第一幕 暗鬼
普通のミステリィ。でもトリックが特別に優れているわけではなく、高遠三次というキャラを紹介するためにだけ書かれたような話。ただ肝心の高遠三次が魅力的に思えない為、非常につまらない作品となった。なぜ魅力的に思えないのかといえば、たぶんこのシリーズの登場人物の中で1番性格がふたばと似ているからだろう。だらしなくやる気がない――ように見える。だけど好奇心と反骨心は人一倍あり、つまり端から見ると可愛げがない。そんするタイプ。そして、そんな自分を「気に入っている」わけです。――なるほど、端から見ると可愛げないな。気をつけよう。
第ニ幕 再鬼
リベザルと総和の再開の話。このシリーズはやはりリベザルを視点に描くのが正しい。「自分で何もせずに結果を待ち構えるだけ」。つまり自分から歩いていかなければ、外の世界を見ることは出来ない。世界は誰に対しても開いている。閉じているのは自分の心だ。
第三幕 夜鬼
おそらく長編短編を通じて、最も「薬屋探偵妖綺譚」らしい話。妖怪の「ヘラ」は頭良いんだか悪いんだか、幼いんだか妖しいんだか分からないキャラで魅力的ですね。再登場を願いたいです。判別つかないリベザルの漢字から、カルテがわざとその書いた医者にしか分からない文字で書かれていると連想するところは、非常に感心した手がかりです。
第四幕 回鬼
おそらく長編短編を通じて、最も「ミステリィ」らしい話。ただ、なぜそんな回りくどいことをしてまで、パトカーのトランクに死体を入れなければならないのか?という疑問は残るが。どんなに平凡な人にだって、殺人を犯す可能性はある。それが間違っていると分かっていてもだ。正邪に関わらぬその衝動を「鬼」と喩えている。「人生には、命に匹敵する出会いはあるんだ」という犯人のセリフが、次の中篇の引きだと思った。
最終幕 惹鬼
「ユタ」にとって、李和との出会いがそれだった。彼は自分の魂を悪魔に売ってでも、彼女との約束を果たしたかった、そして礼が言いたかったんだろう。ハンデを免罪符に心の中に閉じこもっていた自分を外の世界に連れ出してくれた李和に。生きる糧をくれた李和に。「ユタ」にとってそれこそが「命に匹敵する出会い」だった。殺人はあるいは余技だったのではないか?「ユタ」にとって李和と出会い、握手をすることが人生のすべてだったのだ。
カーテンコール
人物紹介に名前が出ている「ゼロイチ」ですが、いつまでたっても出てこないと思っていたら、ここにきて登場。しかも実は主役だったという、これが今作の最大のミステリィでした。ゼロイチは秋のことを毛嫌いしていますが、彼と共にいた「ユタ」は、秋のことを「友達」と言いました。覚えていないはずの出来事に涙を落とすゼロイチ。ラストはとても良いですね。『エヴァンゲリオン』の「涙」を思い出しました(綾波レイですね)。ゼロイチの心はわずかに開かれ、彼は今までとは違う秋の姿を見たのかもしれません。
今作のテーマは、「Open Your Heart 心を開き外の世界へ」。――高遠三次、リベザル、双海由高、そして「ゼロイチ」――彼らの心が開かれた時、外の世界は少しだけ違った世界を見せてくれるかもしれません。
……タイトルの『悪魔と詐欺師』、悪魔も詐欺師も、秋のことかもしれませんね。
「――私は、叶える者。貴方に希有り、心有ることを信ずる。だが、私は舵であり、帆であり、風ではない。
糧は貴方自身である」冒頭引用