★ネタバレ感想★
バルト海の復讐
田中芳樹
15世紀、ハンザ同盟が栄えた頃の冬の北ドイツ。弱冠22才と言う若さで一本柱帆船(コツゲ)の船長に抜擢されたエリックは、リトアニアで琥珀を積んでリューベックに帰る途中、親友のブルーノ・目をかけていた部下メテラーに裏切られ、冬のバルト海に投げ込まれた。岸まで泳ぎきり、崖を這い登って命をつないだエリックは、謎の老婆ホゲ婆さんに助けられる――。
田中芳樹お得意(?)の過去現実世界を舞台にした架空の冒険活劇。いつも通り申し分なく面白い。中世ヨーロッパ、バルト海、ハンザ同盟――学生時代日本史ばかりを選択してきたふたばにはほとんど馴染みない過去の異世界を垣間見えさせてくれる。その時代を知り、その世界に触れるのが、冒険心をくすぐりスリリング。中世のヨーロッパがこんなにも暗く暑く黒い雲がいつも頭上に覆い被さっているような世界だったとは知らなかったし、このころの中国がヨーロッパよりもはるかに進んだ文化を所有していたというのも目新しい。しかもこれらはかつては現実にあった世界なわけで、全くの異世界を舞台にしたファンタジィふわふわ軽い感があるのに対して、こちらはしっかりと大地に足をつけた重みがあるとおもう。この現実から少しずれた世界に触れるのがふたばにとっては喜びなのだなっと再認識。
世界の目新しさが嬉しい反面、物語の密度がいつもと比べて薄い気はした。それに復讐物語であるのに主人公の深刻度はそれほど重くない。あと登場人物も特に魅力的な人物だと思える人に出会えなかった(ホゲ婆さんと黒猫の「白」(ヴァイス)くらいか。もっとも共に田中作品では良く見かけるタイプの登場人物である)。あ、魅力的ではないけど、メテラーというキャラクタは面白いと思う。もちろん上げた欠点も、他作品と比べてらどれも水準以上だし、当然、面白い物語ではある。けど「もっと面白くなるんじゃない?田中芳樹作品ならば」って気がする。――これは望んでも良いだろうと思うけど。
「他人を見る目のない善人ほど、始末に悪いものはないね。自分の甘さを反省するより、相手を責めることばかり考える。そして性懲りなく、同じ過ちを繰り返すのさ」
――ホゲ婆さん