★ネタバレ感想★


『クロック城』殺人事件
CLOCK END

北山猛邦 


 もうすぐ滅びることが決まっている世界――。過去、現在、未来――三つの時を象徴する別の時を刻む大時計が飾られた「クロック城」。そこに棲みるく時を飛び越える魔物スキップマンを退治して欲しい――「クロック城」の住人・黒鴣瑠華にそう依頼された通常の人が見えないゲシュタルトの欠片を見ることができる探偵・南深騎は、彼につきまとう謎の美少女・志ノ美菜美と共に「クロック城」を訪れる。


 解決部分を袋とじまでして、トリック重視のの超本格ミステリィと思いきや、実はそうでもない。少なくともふたばにとって面白かった部分とは、この作品を包みこ夢のような世界自体。この現実から逸脱したあいまいで不確かな雰囲気にとても惹かれました。思わせぶりで、結局最後まで明らかにされなかった「真夜中の鍵」や「ゲシュタルトの欠片」となったという菜美の謎も好き。これは世界観を伝える雰囲気でしかないのかもしれないけど、不可能犯罪の謎よりもずっと興味の惹かれるところでした。解かれない事もまた良し。解かれないことで人は見える部分を背景にして色々想像し、「カニッツァの三角」のようにそこには存在しないはずの三角形を見るでしょう。まるで夢のような世界――だからこの世界は誰かの見ている夢なのかもしれないし、だからこそ「真夜中の鍵」は世界を救うことと滅ぼすことの両方の鍵になっているのではないか、夢から覚めれば、現実世界へ復帰するということで、世界は復活する、しかし夢の世界自体は消滅してしまう――とかそんなことを考えましたね。
 
また、真犯人の動機や首の切断した理由といった通常では理解しがたい狂気でしかない部分も、現実から逸脱した世界という雰囲気をよく伝えていると思う。この「現実ではない」夢のような雰囲気は、全編を通して貫かれていて、むしろ袋とじにまでして持ちあげた時計の通路のトリックが、現実的すぎて作品の雰囲気から浮いてしまった印象を受けてしまったのが皮肉。――人は時計という本来物体のはずの存在を時という抽象へ変換する、という概念自体は面白かったんだけどね。

 ゲシュタルトの欠片――菜美は、死ぬことで深騎の一部になりたかったんでしょう。――グラスを背景としてみることで、今まで背景だった部分に向かい合った人が現れる「ルビンの杯」のように。死ぬことで、深騎というグラスを通して現れる存在へとなった。それほどに、深騎と一緒にいたかった、深騎の現実となりたかったのでしょうね。――きっと、世界が滅んでも、ね。

 

「ねえ、ミキ。おしまいの瞬間、私たち一緒にいられるのかな」
菜美は深騎の左腕を抱いて顔を寄せた。

 

「僕はもう行くよ、約束があるんだ」
深騎はトランクを拾い上げると、中にボウガンをしまった。
「ミキ」
菜美が駈け寄ってきて、深騎の右手を抱いた。
二人は小さな紺色の傘の中に入った。
「私はここにいるよ」


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