★ネタバレ感想★
殺竜事件
上遠野浩平
戦争状態にある二国間の停戦のため中立地帯で調停が行われることになった。その地ロミアザルスが小さな村ながらどこからも侵略されず中立を守っていられるのはひとえに、その地に住む竜のおかげだった。しかし無敵のはずの竜が、結界に守られた洞窟の中で刺殺された。一体、どのようになぜ竜は死んだのか?――無関係な第三国から派遣されていた女騎士レーゼはその謎を解明するた為に、風の騎士・クリフ、そして戦地調停士・EDとともに竜と面会した人々を追って旅に出る。
「無敵の竜はいかになぜ死んだのか?」――謎の設定が抜群に興味惹かれるファンタジィ世界を舞台にしたミステリィ。SF・ファンタジィ畑出身の作者が自分の得意な舞台にしてどんなミステリィを見せてくれるかが非情に興味深い点でした。そもそも作者は本当にミステリィのつもりで書いているのか?何となくミステリィっぽい雰囲気を漂わせた単なるファンタジイではという心配もありましたが、いらぬ心配でした。――何百年も前から竜を殺す、そのためだけに存在した村、風習など何から何まで村自体が竜を殺すための巨大な装置――痺れましたね、この設定に。そもそもこんな大掛かりなトリック(?)を荒唐無稽にせず成立させるなんて現代が舞台では無理で、ファンタジィ世界ならではの壮大なトリックといえると思います。パズラとして成立しているか――という点では正直疑問だけど、それにしてもファンタジイ+ミステリィという部分に正当な理由がある、いや見事な「ミステリィ」だったと思います。
あとがきを読む限りこの作品のテーマは「旅」だったようです。ただその点に関しては上手くいっているかは疑問です。というのも次の章ではもう次の目的地に付いていて目的地と目的地の間の描写がほとんどなくて、旅をしているような雰囲気が出ていないのです。現代の旅とは違い、こういう世界の人々は故郷を離れず一生を過ごすのがほとんどのはずで、道もろくに整備されていない野党や怪物がいつ現れるか分からないファンタジィ世界での「旅」とは生命掛けでやらねばならないもののはず。その危険なはずの道中の描写がないというのはやはり「旅をするように描こうとした」たというには無理があると思います。どうやらこの世界はそら飛ぶ乗り物もあるようだし、旅することがそれほど危険でなく短期間で移動できるようですが。ただ、それでも「旅」がテーマで、それによって「人生を投げ出さず未来と向き合うべきだ」ということを描こうとしているのなら、旅の苦労を設定を変えてでも描写するべきだったと思います。物語において「旅」とは「人生」そのもので、たとえ未来は定まっていないという結論であったとしても、人生の苦労と重ね合わせる「旅」の苦労を描くべきだったと思います。それにレーゼが3人の旅は楽しかったと思うシーンがあるけど、旅の苦労があればこそまた楽しかったとも思えるだろうし、そであってこそ読者も共感できるはずですから。
「竜はそこで未来を守ったのではないかと思います。たとえ己が何千年か何万年か、長い生涯を経てきたとしても、それよりも
これからどうなるかわからない可能性のほうが価値がある、そういう意志を世界に示したのではないかと思うんです、僕は」――"ED" エドワース・シーズワークス・マークウィッスル