★ネタバレ感想★


四季
The Four Seasons Black Winter

森博嗣


<あらすじ>

 妃真加島での事件以来、姿を消した真賀田四季。すべてから超越した孤高の天才が、その果てに辿りついたものとは?――『四季』四部作完結編。


<感想>

 『四季』シリーズの完結編――なんというか……すごいね。まさかこんなところまで――「百年」シリーズ(というのか?)にまで繋がってしまうとは。――この飛翔感、奮えました。すべてをコントロールし、すべてを内包したこの「世界」を作り上げた森博嗣という才能に脱帽。・・・・・・確かに「百年」シリーズの主人公の名がサエバ・ミチルという名だったのに対して、森センセイはよっぽど「ミチル」という名が好きなんだな?とか思ったのですが――そこで気付いても良かったね。つまり『迷宮百年の睡魔』の女王・メグツシュカ四季というわけなのか。そういえば『迷宮百年の睡魔』を読んだ時、メグツシュカと紅子さんが似ていると思ってネタばれ感想にもそう書いたのですが。……なるほど似ていて当然。四季は自分に一番近いのは紅子だと思っていたし、――つまり四季が大人になると紅子さんみたいになるわけだね。容量が大きすぎて大人になるまで百年かかりましたが、――ついには矛盾を整合させたというところかな。
 あとラストが『すべてがFになる』のラストの犀川との邂逅のシーンに繋がっていくところがとても素敵。個人的に『F』あのシーンがすごく好きだし。それとラストの一文が『春』のラストの一文と対照されるところもね。「今は春。彼女はそれを思い出す」と「今は冬。彼女はそれを思い出す」と言うように。――やはり「季節」は、巡らないとね。

 空間、そして時間。それらのいずれとも、彼女は乖離しているという。なぜなら彼女の思考はそばにいる人たちも、そして環境もすべて自分のうちに取り込んでしまう。そしてそのままどこにようがそれを再現できてしまう。――つまりこれは彼女の中にもうひとつの世界があるというのと同じ。いや、彼女が世界を創ったというのと同じことなのだ。さらに、彼女は経験したすべての事柄をそのままそっくり違わず再現できる。匂いや触感はもちろんその時の彼女の気持ちまで相手の気持ちまで寸分違わずに。これはもはや過去や思い出といったものではない。すべての過去時間をいつだって現実にすることができるのだ。それに優れた思考は未来にある出来事すら予測できる。彼女は未来にも縛れない。――つまり彼女は時間すら支配している。
 世界を作り、コントロールし、時間を支配する――それは神の属性だろう。
 ゆえに、この物語はひとりの受肉した女神が誕生する物語といえるかもしれない。
 そして彼女は肉体すら捨て去ろうとしているかのように肉体と思考を切り離すための実験を繰り返す。ウォーカロン。肉体と思考の分離。ひとりを二人に分ける――。彼女自身もう肉体を失っているのかもしれない。
 ――それでも。
 彼女は女神ではない。
 彼女自身、神ではない科学者だと語っている。だから言い換えよう。
 ――ひとりの「女王」が誕生する物語だ――と。
 神のように超越してるのに、人間であることを止めない――その矛盾。肉体の制限を厭いながら、しかし、ときにその肉体を、欲求を、愛しく思う人の心。
 神のようにすべてを俯瞰し、大切なものを切り捨てて、彼女は彼女になった。そして去るのはいつも世界であり、時間であり、彼女ではない。――神のように崇高で、傲慢で、慈悲深く、残虐。
 ――それでも、彼女は神ではなくて人、人をすべる人――女王だ。彼女にも切り捨てられないものがある。とり込めない、いや、とり込まないもの。あるいはそれは彼女の中に最後に残された矛盾――それこそが人の心

 彼女は『迷宮百年の睡魔』サエバ・ミチルに「人間としての誇りを持ちなさい」と言った。自由な思考を妨げる肉体を持った人間、その肉体をたとえ脱ぎ捨てても、それでもさまざまな矛盾を、錯覚を持つ人の意志。しかし、そんな人間であることが、その抱える矛盾こそが、この世のなによりも貴いものだ。

 ――それは、とても綺麗で、とても愛しい。

 だからこそ、彼女は、人でいる。きっと。

 人の世を――空間と時を巡りつづける。

 ――季節のように。

 

人間がお好きですか?」犀川は尋ねた。
 四季は口もとを緩ませて、そして微笑んだ。
 「ええ……」
 彼の姿を見る。
 彼の思考を見る。
 それは
綺麗だった。
 「綺麗だから」
 だから、
自分のものにしたかった
 自分も、綺麗になって、自分のものにしたかった。
 彼も、彼女も、
 あの心も、あの精神も、
 あんなに綺麗だった。
 
矛盾しているから。
 とても
綺麗に矛盾している


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