★ネタバレ感想★
落下症候群
館山 緑
中学2年の伊藤章生は学習塾の窓から向かいのビルの屋上にたたずむ少女を見かけた。その直後、学習塾の屋上より塾生が飛び降りた。「天使を手に入れるために飛び降りた」をいううわさが流れる中、章生は屋上にいた少女・滝嶋美影と知り合う――。
『落下症候群』というタイトルや「私が欲しいなら、飛び降りて見せて」という帯のコピー、冒頭のシチュエーション、そして作品の持つ雰囲気が艶っぽく好みだったんだけど、肝心の内容が――(苦笑)。想像していたのと違ったし(これは自分が勝手に想像しただけだけど)、物語が密度も薄い。Jr.向けとはいえ、ミステリィ&サスペンスだし、ないようもヘビーなはずで、もっとどっしりとして欲しかったなあ。エピローグ――話の落ち着き方は日溜りの中に居るようなほんわかとした雰囲気で割と好きだったんですけどね。それを引き立たせるためにもサスペンスフルな部分もっとしっかりどっしり描きこんで欲しかったです。それとヒロインである滝嶋美影さんの描写も不充分。他のキャラよりはしているんだけどまだ足りないと思います。なぜ大勢の少年たち、そして大の大人までもが犯罪に染めるほど美影さんに惹きつられるのか?――美影さんをもっと魅力的にもっと蠱惑的に描写したほうが説得力があったんじゃないかなと思いますね。
鳩山佳織さんと美影さんの間にもっと同性愛的な関係を期待しちゃってたんだけど(笑)。佳織さんが美影さんを天使と評するのは、男たちが思う意味でではないでしょう。男たちは美影さんを思いこみのフィルタで見つめ、勝手に壁画に描かれたような無垢な天使のイメージと重ねたのだけどでも美影さんもただの女の子に過ぎない。佳織さんにとっても美影さんというのは、「無垢」の象徴だったけど、それは美影さんに向けられたものというより、きっと自分に向けられたもの。――自分自身が何の憂いもなくただ一心に絵を描くことだけに集中してそれが大好きだったころの、もう過ぎてしまった、きっとその最後のころに描いた「壁画」――それを象徴する存在が美影さんだった――つまり美影さんは佳織さん自身が無垢な天使だったころの象徴なんですね。
後で壁画を見上げた者は、彼女の影しか見えないまま。
多くの波紋が現れ、そして消えるまで。
彼女の影だけを追ってゆくことになる。
そこではただ、壁画に描かれた
『天使』が微笑んでいる。