★ネタバレ感想★


探偵伯爵と僕
His name is Earl

森博嗣


<あらすじ>

 夏休みの直前、小学生の僕は「探偵伯爵」と名乗る黒ずくめの男と知り合いになった。夏休みに入り、友人のハリィ、ガマが相次いで行方不明となる。共通するのは現場と思われる場所に残されたトランプのスペードのカード。僕は探偵伯爵と共にふたりの行方を追うが、今度は僕までも犯人に狙われてしまう。


<感想>

 少年の日常の中にふと入り込んできた殺人という異常。
 体裁はジュブナイルですが、ここに描かれたテーマはかなりハードだと思う。
 殺人というのは子供だけでなく大人にとってだって異常な出来事。痛ましいし悲しいことだけど、でも「犯人は僕たちとは違う異常な人間だ、異常な精神状態にあったのだ」と思いウコンで僕らはそれを切り捨てる。犯人が同じことを繰り返さないように捕まえればそれで終わり。その後は異常な人物を日常から消してしまうために、あるいはあとに続くものがい内容に見せしめのために罰を与えて終わる。あくまで殺人は僕らの日常から遠い異常。特別な例外。
 ――しかしそれを本当に異常として切り捨ててしまうだけで良いのか、というのが本作のテーマ。いくら異常さを自分たちの世界から遠ざけ切り捨ててても、現実の中から殺人はなくならない。勿論、自分のそばにそれがやってくるのはほとんどの人はない。いくら怖い出来事でも、自分に降りかからなければ対岸の火事。でもひたすらそれが自分のところへ訪れないことを祈るだけで何もしないで本当に良いのか?
 それを見つめ、何故それが起こるのか、どうしたら防げるのかを考えなくては、いつまでたってもそれは終わらないだろう。――大人が子供を世間から隔離するように、近づかなければそれが消えてしまうわけではないのだから。

 ラストの手紙で明かされる、殺された子供たちの性別が違うということは、つまりこの殺人事件が連続少女殺人事件だったということを示しているのでしょうね。男が少女を殺す――というのはつまり単純に考えれば特殊な性癖を持ったセックス殺人ということ。勿論、男が少年を――というケースもあるけど、日本ではまだ少年が大人の男に対して抱く警戒ってそちらの意味は少ないでしょう。それが少女となると、その意味が俄然強くなります。
 本文の半ばまでは動機は特に浮かび上がらず、むしろ壊れた人間による「災厄」であるという感じに描かれていた主人公たちを襲う殺人者の暴力。しかし実は自分の子供すら陵辱し殺した殺人者の欲望の発露であったわけです。
 主人公がそれをあえて性別を入れかえることで隠していたということは、つまり自分と同じ人間がこれほどの醜さを持つことが出きるということへの恐怖だったのでしょう。
 そしてこの伯爵からの手紙はそういう人間の醜さから目を背けてはいけない、見つめ、考えなくてはそれを消すことができないという、子供たちへのそしてかつて子供だった大人たちへの探偵伯爵からのメッセージだったというわけですね。

 

 まず、子供たちに、大人は偉いと見せかけている、これはなかなか大掛かりなトリックだ。

――探偵伯爵


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