★ネタバレ感想★


解体諸因

西澤保彦

 


 死体解体をテーマにしたロジックパズル短編集。匠千暁シリーズ第1弾。


 死体解体(?)を題材にした短編集。ロジックパズルで「死体を解体した理由は何か?」という問題を、推論だけで解き明かす。描写に無駄がなく、書かれている事はほぼ事件を解き明かすためのヒントとなっている。与えられた条件をすべて成り立たせるように推論を重ねていく様は、まるで数学の証明のようだ。後にシリーズものの主人公となる匠千暁が登場するが、今回はあくまでロジック的なパズルを楽しませようという趣向なのか、あえてキャラクタ性を排していて、人物を記号のとして扱っているようだ。

第1因・解体迅速
 特異な格好の死体を解体した意味は、犯人を同一犯と思わせて自分は運良く殺されなかった思わせるため。特に際立ったところもない普通のミステリィ。ここでの匠千暁には何の魅力も感じない。普通の無気力な酒のみである。

第2因・解体信条
 死体解体は、手に握られて取れない念書を取り出すため。そんな事のために死体をばらばらにするのかという疑問は残る。ここで登場する逸見祐輔も後にシリーズ物のキャラクタになるようだが、やはり、人間的な魅力は感じない。

第3因・解体昇降
 死体解体は、持ち運ぶのに重かったから。それよりも閏年の2/29を利用して1日ごまかそうと言う発想が面白いし、その理由がHビデオをコッソリとダビングしたかったからという事が爆笑ものだ。ただ、エレベータが降りている間に中の人がバラバラになっているという謎については、何だかかわされてしまった感じで残念。こじつけでも直球な解答が聞きたかった気がするが、これは贅沢だろうか。

第4因・解体譲渡
 死体解体の理由は、細切れにしてゴミと混ぜてそれを他人に出させる事で、罪をきせるため。それよりもHな雑誌を大量に買っていったおばさんの謎が面白い。何だか無理矢理殺人事件と結び付けられているが、とても面白い解答だった。後にそれは間違いだと分かるわけだが、こちらのほうが面白いので支持したい気分だ。今作の祐輔はとても人間くさい。Hな雑誌を一心不乱に見つづけていたという事件には無駄な部分が祐輔の魅力となっている。

第5因・解体守護
 死体、ではなくクマのヌイグルミの手が千切れた理由は、幼い弟が理解できない現実を自分の理解できる現実に補う為。幼い子供にとっては大切にしているヌイグルミは実際に生きているものと同じ、という発想が非常に面白い。お母さんが子供の発想をつぶしたくなくて、クマの千切れた腕に汚れたハンカチを巻いてあげたという最後のオチも可愛くてとても素敵。この短編はとても好きだ。それにこの話の千暁は第1因に出てきたときよりずっと魅力的だ。タカチの存在や涎のくだりなど、事件とはあまり関係ない無駄な部分が、彼を魅力的にしているのだろう。

第6因・解体出途
 死体解体の理由は、犯行現場をごまかす為。すでに解体してある死体の腕だけを見せ掛けの現場に持ってきてそれをさらに切断、そこを犯行現場に仕立てようとした。この話は千暁の一人称で書かれるため千暁の魅力が出ている。でも、それよりも凄いのは娘の恋人と寝て自分の方が魅力的だと言い放つ千暁の叔母の存在だろう。

第7因・解体肖像
 ポスターのモデルの顔が切取られている理由は、モデルの顔を分からなくするためとそのポスターを回収させる為。ここでの千暁は正義の味方ですね。第1因の時の千暁とは雲泥の差。

第8因・解体照応
 首のスライドの理由は、殺人順序をごまかす為。舞台仕立てで完全コメディ。無駄が多いがその無駄が好き。トリックも秀逸。ただ、最大の疑問点は、なぜ本人を殺さなかったのか?という事、だ。

最終因・解体順路
 首の入れ替えの理由は、その現場にもう1度戻って来なければならないという事。今までの作品が伏線になっていている。そして、おそらく今作の中で最も良く出来た死体解体の理由だ。これには思わず唸った。これまでの理由は正直、論理的帰結とはいえ論理の為の論理というか、無理矢理にこじつけたというものもあった気がする。が、この話は正直参った。もっともシンプルでしかし最も納得いく理由だ。おそらく、この理由のためにこの短編は書かれたんだろう。

 

「ノリくんのやったことは無駄じゃなかったのよ、意味のあることだったのよと、言ってあげようとしたんだろう。思いきってハサミで自分の友人を傷つけてしまったことに何らかの形で意味を持たせてあげるために、他にいい方法が思いつかなかったのかもしれない。でもとにかく、せっかく払った犠牲がまったくの無駄に終わることだけは、避けたかった。ノリくんを傷つけたくなかったんだね」

――匠千暁


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