★ネタバレ感想★


完全無欠の名探偵

西澤保彦

 


 山吹みはる――彼は前に立った人物の心の底に眠る疑問が引き出されその当人の中でその疑問を解決させてしまうという能力の持ち主。白鹿毛グループ総帥の孫娘りんはなぜ大学を卒業しても高知を離れようとしないのか?りん本人すらわからない疑問を解決するためにみはるは高知に事務員として送り込まれる。――「スパ・ナチュラ・シリーズ」。


 何よりも「触媒探偵」という設定が面白い。しかもその一見完全無欠であるはずのこの能力(設定)を逆手にとり実は関係者の認識がそもそも間違っていたと言うのがこの作品のミソ。つまりこれらの解決はその人の自己完結であり何の証拠も無いのだ。その人が持っている証拠・状況から導かれる解決でありそう納得しただけなのである。そしてそもそも事件の全体像を把握している人が誰もいなかったのもミソだ。みはるは「触媒探偵」で受動的だし、自分でその能力を知らないからすすんで事件に関わろうとするわけではない。そのためにそんなミステリィな――隠された部分が――が生まれたというわけだ。

 ふたばの1番好きなシーンはりんがみはるのサインに「完全無欠の名探偵」と書き添えるところである。何故ここが好きなのか?最初のフリが巡り巡って最後に帰ってくるという展開が個人的に好きだということもある。イキだと思うし綺麗だから。本編の最後で、みはるよりその能力を与えたより能動的なりんの方に本来贈られるべき称号だとある。たしかにそういうことならりんこそこの称号は相応しいかもしれない。でも、ふたばはこの称号はみはるにこそ相応しいと思う。なぜならみはるは何もしなかったわけではないと思うからだ。
 りんは瑞枝へ「圧倒的な憎悪」という感情を取り戻すがそれは同時に自分の心を間接的とはいえ殺した家庭教師への憎悪でもあった。つまり帰ってきた感情とは幼いころ受けた心の傷が再び戻ってきた瞬間なのだ。自分の感情と能力を引き換えにすることで実は自分の心を救っていたのかもしれないとも思う。しかしそれは一時しのぎでしかなくでは再びりんはそれと直面する。
 では今回りんの憎悪を解き彼女の心を救ったのは誰だろうか?みはるなのである。ウドの大木、ただいるだけの存在。みはるを見ると誰もが身体と性格のギャップにあっけに取られ「なんだこいつ」と思う。でも彼に接しているといつのまにか微笑んでいたりする。誰も彼を嫌いになれない。彼は鏡であり鏡を見て自分の姿を整えるように人の心の乱れを整える。彼には能力だけではなく人の心を癒す力がある気がするのだ。
 事件を解決してもそれに巻き込まれた人の心には遺恨が残るはずである。事件を鮮やかに解き明かすのが名探偵なのなら、それを超えて人の心を解き明かし癒すみはるは「完全無欠の名探偵」とはいえないだろうか。無意識にそう思ったからこそりんはみはるにこの称号を贈ったのだろうと思うのだ。自分の心を解き明かし癒してくれたみはるこそは「完全無欠の名探偵」なのだと。

 

……『山吹みはる』の名前の横に『名探偵』と書き加える。何か足らないような気がして首を傾げたが、すぐにその上に最上の形容詞を付け加えた後満足して手帳を玉子に返したのであった。すなわち、
『完全無欠の名探偵』――と。


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