★ネタバレ感想★


久遠堂事件

太田忠司


 失踪した財閥創始者・中井田那泰氏を探すために野上探偵と俊介は西巻村へ。そこに氏が失踪する直前突如作った巨大な涅槃像があるからだ。しかしその中に造られたお堂の中で中井田家の人々を襲う大量殺傷事件が発生。野上探偵が見た犯人は村の伝説に登場する天狗姿の怪人。しかも天狗は一瞬にして姿を消したと思うと白骨化した死体となって発見された――。狩野俊介シリーズ第12弾。


 狩野俊介シリーズ第12弾。
 前作が2分冊のかなり請った仕掛けだった反動か今作は小品。設定自体は面白いと思う所があると思います。大量殺傷は『八墓村』の元になった事件みたいで変わっているし謎の天狗や本堂を内包する巨大な涅槃像などとても面白く伝説に彩られた横溝的なオドロオドロしい事件が展開するのかと思ったのですが――残念ながらそうはならず。正直、設定を活かせてない気がします。構成も久遠堂に着くまでが助長と感じたし久遠堂に着いてからは性急過ぎると感じました。作品の焦点も合っていない。この作品で一体何が書きたいんだろう――っていうところが見えてきません。あとがきを読んで思ったことは、どうやらに作者が詰まって二進も三進も行かなくなり四苦八苦してようやく書き上げるだけは書き上げました――といった感じのようですね。謎だったことを唐突に現れた男1人だけですべて説明しちゃった所なんかにそれをひしひしと感じます。だから全体的にピンボケな感じを受けるんでしょうね。このシリーズの売りと言ったらなんといってもキャラクタの魅力で、少年探偵・狩野俊介は名探偵といっても12歳、いつか殺人やそれにかかわる人々の醜悪さが壊してしまうんじゃないかと思えるガラス細工のような繊細さ魅力。その保護者である野上探偵は一人称の視点でありワトソン役ですが、ただ名探偵を引き立てる無能な存在としてではなく、苦悩し時に壊れそうになる俊介を支える大人として保護者としてのワトソンという所が魅力です。でもその最大のウリが今作はなんだか減じている気がします。いや、ないワケじゃないんだけど、それが事件と繋がっていない。渾然一体となっていないんです。だから陰惨なはずの事件は空虚であっさりしすぎている。そしてそこでは野上さんは本当にただの無能なワトソン、俊介は解決するための装置みたい。それがとても残念でした。
 1番面白い感じた所は、涅槃像の中に本堂があり中に本尊がない、という所。でもそのことにはあまり意味はなかったのがやはり残念です。内と外の概念が逆になっているところが失踪をとげた中井田氏の謎めいた精神を象徴しているのか――とか色々想像していたんですが、ただ単に自己保身のための秘密の防空壕を作っただけだったとはだったとはね。「鎧」というのが精神をじゃなくてそのまま空襲から身体を守る防空壕を指していたとは。戦争中アメリカは由緒ある寺院を焼くことを嫌って京都などの古都の空襲は避けたという話を聞いたことがあるし、涅槃像の中に防空壕を作ることは理に適っているのかもしれないけど……。ただ一代で財を成した幼なじみの高富氏に自分の人生を放棄してその人生を見届けたいと思わせるほど人物が、いつかないとは限らないくらいの戦争に怯えて防空壕を作ったということに正直ピンときません。年を取るとどんな人でも変わってしまうんでしょうか……。俊介の繊細さも野上さんの包容力もいつか変わってしまうんでしょうか。出来れば良いほうに変わってくれと願いますが。

 

「世の中のことすべて自分の責任みたいな態度って、狩野くんの十八番でしょ?」

――芙蓉明子


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