★ネタバレ感想★


狂骨の夢

京極夏彦


 夫を四度殺した女・朱美。幼いころ見た夢を解くためにフロイトを学びフロイト自身に惑わされるようになった元精神科医・降籏。神を信じられぬ牧師・白丘。夢か現実か解らぬ出来事により翻弄される3人。まったく別々の出来事を結びつけるただ一つ要素は、髑髏だった。


 今回の事件を一言でいえば「骨に夢をかけて狂っていた人々の話」。

 今回の事件は、3つの勢力が一つの骨を巡り争ったことから複雑さを見せる。さらにそれを、巻き込まれた4人の人たちによって部分部分を語らせることにより、表層に現れた出来事は一見筋が通っているようで何処かちぐはぐで、語る人にとってはその後の人生を左右するほどの確かな現実なのに聞く人にとってはばかばかしほどの滑稽さでどうしたって現実の出来事とは思えなくなる。

 このちぐはぐさ、確かさ、現実感、ばかばかしさ――それはまるで夜見る「夢」のようだ。

 なぜそんな夢を見るのか、夢とは何か?――というのは一概にこれだということは言えないらしい。文化的、宗教的、心理的、その他様々な要素が複雑に入り混じり、そしてとても小さなとっかかりで繋がり、その混沌としたもののほんの断片が、偶然のように表層に浮き上がり、たまたま夢となって見えるにすぎないのだろう。だから夢は筋が通っているようでちぐはぐであり、話せば滑稽でしかないけど見た本人にとってはそれは断片とはいえ深層に潜む自分自身の断片にほかならなず現実そのものなのである。

 今回人々に憑いたのは「狂骨」。京極堂によれば3つの要素からなるこの複雑で「嫌らしい」妖怪は、その要素のごとく人々を混乱させ惑わせる。狂骨とは「井中の白骨」だそうである。井戸の中にあり中を覗くもの、また水を汲もうとする者へ、はなはだしい恨みを語り、人々を狂わせるのだろう。ただ思うのだ。実は狂骨に特別な力があるわけではない。ただの白骨に過ぎない。狂うのは人なのだ。人が白骨を見てそれに様々な想いをかけて勝手に狂うのではないか。――骨にかけた夢に狂い、いつしかその夢が消えて、骨自体が夢となる。――骨は夢を実現するための手段だったはずなのに、いつの間にか骨自体が目的となるのだ。骨に狂わされたのか?――いや骨は実は単なる骨だ。手段だったのだ。それをいつの間にか目的、夢にすりかえたのは人である。――人は井中に白骨を見たにあらず。実は水面に映る、自分自身を見たのかも知れない。

 

「生きている彼の人生はそこで終わっている。そして死後の彼を造るのは私達です。ああ、私はあの世がないと申し上げている訳ではありません。
死後の世界は生きている者にしかない
と云っているのです」

――京極堂・中禅寺秋彦


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