★ネタバレ感想★


名探偵の掟 

東野圭吾

 


 完全密室、時刻表トリック、バラバラ死体に童謡殺人。フーダニットからハウダニットまで、12の難事件に挑む名探偵・天下一大五郎。すべてのトリックを鮮やかに解き明かした名探偵が辿り着いた、恐るべき「ミステリ界の謎」とは?


  あらゆるトリックをおちょくったミステリィ自体のパロディ小説。「ミステリィ舞台裏小説」というのが適当かもしれない。ミステリィマニア(?)が、これを読んでどう言うか聞いてみたいものだが、個人的にはゲラゲラと笑って読んだ。ミステリィという小説形態がいかに特殊でお約束で成り立っているか改めて分かるだろう。
 実はミステリィほど筋が通った小説はない。予想もつかないようなトリックを望むと口では言ってもあまり突飛なことを書かれると腹を立てる。突飛過ぎて面白くないからだ。分かりそうで分からないというラインが望ましい。つまりミステリィファンほど保守的な読者はいないのだ。
 登場人物が影で「またか」とか言っているのが個人的のは面白いが、それがウザイ、興ざめだと思うかもしれない。

「プロローグ」
 ワトソン役が名探偵より実は犯人に早く辿り着いてなくてはならない、という話はなるほどと思う。探偵役を名探偵にする為にワトソン役が影で推理するという設定のミステリが書けそうだと思うが誰かがやっていそうだ。

「密室宣言――トリックの王様」
 まさに王様なトリックで個人的にも非常に好きだが、この結末は密室だけでなくミステリィ自体を完全否定する結末だと思う。でも面白い。

「意外な犯人――フーダニット」
 サル、人形、探偵、作者、読者までありとあらゆる意外な犯人が用いられたから、もう意外と思える犯人は創れないだろう。今一番意外なのは、犯人がいない――事件が起こりそうで最後まで起こらないということかも知れない。

「屋敷を孤立させる理由――閉ざされた空間」
 一番盛り上がるシチュエーションだが一番やり尽くされて苦しいものでもある。個人的に機械仕掛けのトリックというのは、密室で実は抜け穴があったと言うくらいズルイと思う

「最後の一言――ダイイングメッセージ」
 一番苦しい話。最後の一同の反応も分かる。

「アリバイ宣言――時刻表トリック」
 時刻表トリックって「鉄ちゃん」以外に喜ぶ人っているのか?!あらゆるミステリィの中で一番くだらないと思う。

「『花のOL湯けむり温泉殺人事件』論――二時間ドラマ」
 タイトルの変更、主人公が男から女へ、10:00ごろの温泉シーン、単純なトリックへの変更、スポンサーの意向など、言い尽くされた話である。そんなに変えるなら初めからオリジナルでやれば良いのに。

「切断の理由――バラバラ死体」
 二段落ち。初めの方の理由は笑えるシチュエーションだが、切実な理由だと思う。

「トリックの正体――???」
 一人二役。誰かに化けようなど、怪人二十面相と明智小五郎(TVドラマ版)しかしない。よって今やれば新しいかもしれない。

「殺すなら今――童謡殺人」
 結構深い話である。結末もウィットに富んでいる。これも今時やる人は少ない。よってやるなら今しかないだろう。

「アンフェアの見本――ミステリのルール」
 「書かない」ことがアンフェアかどうかは、各々感じるところがあるだろう。個人的に、「ここに書いてあるからフェアだ」と主張することほうがアンフェアだと思う。試験で「〜でないものを選びなさい」と記述するのと同様のいやらしさを感じるからだ。

「禁句――首なし死体」
 確かに人間言って良いことと悪いことがある。ミステリィの犯人は、よほど力の強い神様の加護があるのだろう。そしてその神様の名は作者というだろう。

「凶器の話――殺人手段」
 名探偵は決して間違えることはないのだ。すべての事象が名探偵に味方するだろう。「〜の推理は間違いだらけ」的な本を出すなど持っての外なのだ。

「エピローグ」
 確かに意外性を出す為の作者の苦し紛れだ。でも、もっとひどいことをしているミステリィ作家もいる。

「最後の選択――名探偵のその後」
 そもそもミステリィにシリーズ物の探偵が必要か?という話である。毎回、違う人物が探偵をすれば良いのだ。その方が、犯人像は絞られないはずだ。それでも僕らは彼らを望む。名探偵を。何故だろう?それはきっと、僕らが望むのが「話」ではなく、「人」だからだ。どんな優れたストーリーも半年もすれば忘れていき、印象は薄くなる。でも不思議と人物の印象は忘れないものだ。シャーロック・ホームズの「ボヘミアの醜聞」の話を詳しく話せと言われても良く思い出せない。しかし、シャーロック・ホームズがどんな人物か、誰でも知っている。

 

「数々の奇怪な事件に遭遇してきた僕でも、これほど複雑に入り乱れた糸をほどくのは、簡単なことではありませんでした。粘り強い調査と、わずかな矛盾さえも見逃さない観察力、さらに洞察力、直観力、そして、ある程度の運がなければ不可能だったでしょう。」

――天下一大五郎


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