★ネタバレ感想★


謎亭論拠匠千暁の事件簿

西澤保彦


<感想>

 タックシリーズの短編集。発端は小さな問題なのにそこから導かれる結論は驚愕の事実!!「こんなヤツいるか!」と叫びたくなるような犯人だったりもしますが、そこへ至る道程が見事に通っているので、思わず納得させられるし、その結末の意外さ犯人の心理の異常さに思わず息を飲んでしまいます。展開される論理のクラクラするような酩酊感が楽しい所ですね。

盗まれた答案用紙の問題
 犯人の幼児性のはての執拗さ、稚拙さが驚愕するし面白いところ。ボアン先輩が主人公だとどうしてもアレな方向へ話が行くみたいですね。その辺がパズラに拘わってきたらもっと良かったかも。

見知らぬ督促状の問題
 
積極的でないにしろ、そうなればと静観したりちょっとだけそう仕向けたりするってことあるかもしれません。レイプとか重大犯罪ならとかく大したことじゃない、ちょっと意地悪いしてやれ、いい気味だくらいの感覚ならば。そうであるかもしれない自分のことを考えると後味の悪い真相がもっと嫌な気分になります。

消えた上履きの問題
 
3年に1度くらいは新聞の地方欄をにぎわす上履き大量消失事件の謎に挑戦!!――という部分はさすがに交された気分でちょっとだけ残念。何でも水をささなければ気がすまないって天邪鬼な人いますね。でも自分の引き際までそうであった彼女は一貫していて逆に感心するくらい。むしろそれを容易周到に準備してまで隠そうとした意地悪3人組(意地悪する女性とって何で3人組なんだろうか)のほうがずっと恐ろしいです。死体を運ぶ準備するくらいなら自殺を止めるために早く学校へ行くべきでしょう。

呼び出された婚約者の問題
 
ウサコが結婚していることにビックリ!しかも知らないヤツと。うーんウサコこの人のどこが気にいって結婚したんでしょうか?この話で1番気になったのはそこだったりして(笑)。ミステリィとしてはずっと同じ部屋の中でウサコ自身が関わったわけでもない事件を夫と2人きりであれこれ推論するだけで、変化に乏しく平坦な印象。隣の芝生は的な被害者の性格はそのせいで人生を不意にしているだけに哀れみを誘います。

懲りない無礼者の問題
 
自分の息子が何のいわれもなく殺されしかも犯人が捕まっていないのならいかに冷静な人でも気が狂わんばかりのはずでそれを全く感じさせないというのはちょっと説得力が無いかな。その辺に真相がある気がしていたんだけど……。真相や犯人に性格など意外性が少ないのでいまいち切れ味に欠ける感じ。伏線や手がかりも張り巡らされているというわけでもなく、ばらばらだったパーツが隙間なく組みたてられるようなパズラとしての快感も少ないですね。それでもボアン先輩が事件に巻き込まれ(?)タックがそれを解決するという黄金のパターンを見るとなんだか楽しくなります(笑)。

閉じ込められる容疑者の問題
 
ヤキモチ焼きの女性さえも惚れるタカチの魅力爆発な話(笑)。同性にも惚れられる女性ってやはり性別を感じさせないカッコ良さをもった女性なんでしょうか。男っぽいというのも違う、女性らしいというのも違う、中性的な――それとも両方を併せ持っているのか。それとこの話の前や後を色々想像させる部分もチラリと。未来時制の話はこれまでもあったけど、それとは違う作者の未来を見据える明確な意志みたいなものを感じますね。このシリーズがこれからどこへ行くのか何を目指すのかがわかってきたという感じです。――正直パズラの部分はあまり度肝も抜かれなかったし普通。最初の密室の中に容疑者が閉じ込められているという状況は面白いけど、結末はそれしかないよなというオチでした。

印字された不幸の手紙の問題
 
ウサコの一人称で、前話と同じようにやはりシリーズものとしての前振りや未来を予測させるような意味部かな表現があり。その部分の雰囲気的にはプレ『依存』とも言えなくはないかも(あ、これ『依存』の後に書かれのか)。この話はもうパズラの部分が良いね。発端の興味そそられる不幸の手紙といい、結末のそれが自分を侮蔑する生徒をみつけだすため手段であったというところといい。特にわざわざ封書で送られた私製はがきの意味、めくられた切手の裏に書かれた数字――これには脱帽。「やられた」と思いました。

新・麦酒の家の問題
 
全く同じネタを使った殺人事件の話が『刑事コロンボ』でありました(笑)。ビール云々はなかったけど。まあそれくらいありふれたネタではあります。そのありふれたネタを使ってどれくらい面白くできるかは、いかに独自の要素を上手く盛り込めるかにかかっていると思います。この話の独自の要素はもちろん届けられた大量のビール。――でもまあこの辺が正直上手く処理できているとは言いがたいですね。ボアン先輩が送らせたのも大人げないし、それがになう意味もちょっと軽め。第一、それを知って驚愕しないもん。――この話で面白かった所はボアン先輩の愛の遍歴(?)が垣間見えるところと、タカチがボアン先輩を本気で張り倒すところ、そして女王様タカチ(笑)。

 

「うるさい民じゃの。わらわは気が短いのじゃ、さっさと口を割らんのなら、こうしてくれる」

――高瀬千帆(『新・麦酒の家の冒険』より)


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