★ネタバレ感想★


夢幻巡礼
POSSESSIVE

西澤保彦

 


 能解匡緒の部下・奈蔵渉は警官でありながら連続殺人鬼。その彼が十年前に遭遇した隔離された別荘での殺人事件と犯人と思われる沓水流の消失。そして十年後の現在、かつて本人が預言した通り沓水流は同じ別荘に出現して死んだ。神麻嗣子の「最後の敵」となる邪悪な意志はいかに生まれたのか?シリーズ第4弾。


 神麻嗣子シリーズ第4弾。残念なのは今作だけでは楽しめない点。しかしシリーズものとしては必要な作品なのである。今作のポジションはシリーズの背骨となる。以降の作品では、これまでのコミカルな雰囲気を残しつつ、今までにない「厚み」を感じるさせるようになるに違いない。それを喜びつつも、その構造の出現により否応なく見えてくる「終わり」を思い、寂しくもなる。

 奈蔵と母親、さゆりと流、これらの母子関係が二重に構造されていることで、今作のテーマが明確になっていると思う。いわく、今作のテーマは「歪んだ母性」であろう。奈蔵というシリアルキラーはその歪みから脱出する為の殺人を繰り返す。奈蔵は完全なマザコンで、不能の彼がたつのは、さゆりと由美だけ。さゆりは息子である流と結ばれようとしている近親相姦の徒であった。それゆえに奈蔵は擬似的にさゆりを母親にすりかえて欲望を抱く。由美については、それが真実かはともかく、奈蔵は自分の妹だと信じた。つまり血の繋がる存在→母親と転換したのだろう。もちろん奈蔵はそこから抜け出したがっていたが、長年すり込まれた歪んだ想いは、奈蔵を母親以外のものへ欲望を向けることが出来なくしていたのだ。奈蔵にとって殺人とは母親の呪縛を絶ち切るためのものだった。母親の呪縛を絶ち切ることではじめて他人との関わりを持てるのである。そしてその他人とは義母の伸子であり能解匡緒なのだろう。もちろん彼の歪みきった関わりとは、邪悪なものであるのだが。

 マザコンと言うと息子のほうがクローズアップされがちだが、むしろ母親のほうが問題であると思う。母親には自分が産んだ息子は自分の所有物という意識があるのだろうか。そのあまり息子には息子自身の自我があるということを忘れてしまうのかもしれない。母親にとって息子は自分だけの最も愛らしい人形でなくてはいけないのだ。実際、息子のうちはそうだ。母親こそが世界のすべてであり、息子は母親の意のままだ。でもだから母親は息子の自我が生まれるとそれを憎む。自分の人形が自分に逆らう意志を持つことを許せないのだ。だからなんとかその意志をスポイルしようとする。あらゆる手段を使って息子の意志を自分の意に沿うように軌道修正しようとする。息子は自分だけの人形だからそれは当然なのだ。人形には意志なんかないように息子にも意志は必要ないのだ。なら母親は息子の身体だけを愛しているのだろうか?人形に形だけしかないように。
 母親の身体から出たものを母親の身体に戻す。それこそ母親の究極の希望。母性というものかもしれない。

 今作で起こったことすべては、この「歪んだ母性」に起因した。奈蔵がシリアルキラーになったのも。さゆりがタイムリープ能力まで使って息子である流と契りを結ぼうとしたのも。とくにさゆりの流と結ばれようというその執念、その意志はおぞましい。そしてその邪悪とも言える意志こそが、神麻嗣子の最後の敵を生むことになる。

 

ダレニモ
 ダレ ニモ ワタサナイ
 ワタシ ダケノ
 ワタシ ダケノ ムスコ
 コンド コソ
 コンド コソ ハ
 ワタシ ガ
 ワタシ ガ
 アノコ ノ ハナヨメ ニ

――???


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