★ネタバレ感想★
Φは壊れたね
森博嗣
<あらすじ>
おもちゃ箱のように装飾されたマンションの一室で芸大生の宙吊り死体が発見される。現場は密室状態。その発見の一部始終が、しかけられたビデオカメラに録画されていた。タイトルは『Φは壊れたね』。たまたま現場に居合わせたC大大学院M1の山吹早月は、ことの次第を友人の海月及介、加部矢恵美へ話す。それがN大大学院M1の西之園萌絵にも伝わって――。新シリーズ。
<感想>
新シリーズ(Gシリーズだそうである)。今のところは特にひっかっかる部分がない。いつも通りの森節で、短いのが物足りないけど、でもやはり見えない部分の深さが面白いと思う。――逆に新しさを感じる部分もなかったのが不満といえば不満か。森ワールドの直系の作品で世界観が一緒。しかも『四季―夏』の直後の時間軸でありメンバも重なる部分が多くて、それはそれでその後の様子が知れて嬉しいけど、新味には欠けるのはたしか。多分新機軸が盛り込まれているのだろうとは思うけど、個人的な読解力のなさゆえか今のところは分らず。新主役キャラクタの3人も、今のところ特に萌える(笑)部分はなし。他のシリーズのキャラクタと比べて、今のところアクが少ない普通の人たちっぽいですね。探偵役(?)海月及介(くらげきゅうすけ)くんが、たしかに犀川センセイと似てると思ったけど、ただ若いからか、へっくんと同じくらい無口で存在感がない(笑)。――犀川センセイと海月及介くんが同じ系列の人だというそこらへんが今シリーズの引っかかりになるのかなあとも想像。たとえば、犀川センセイと似ててしかも若い及介くんに萌絵さんフラフラするとか、あるいは及介くんが犀川センセイの隠し子だとか(笑)。いやもしかして及介くんは犀川センセイのクローンだったり(笑)。もちろん作ったのはあの人ですけど(笑)。(この段落はこのシリーズが終わった時に読みかえすときっと笑えるだろうね。あまりの分ってなさに)
映画の中で俳優の視線で、画面には映っていない何かを表現するということが良くあるけど、もちろんその視線の先には何もない。それでもその映画を見ている僕らは、その先にある何かを確かに感じてしまう。それは僕らが見えない部分を推論で補って認識を補正しているからだ。初めから何もないところに僕らは何も見ないけれど、何かで隠れているものの先にはたとえ本当は何もなくても僕らは周囲の状況によってそこに何かがあるだろうと思い込むことがある。存在しないものを在ると認識する。そして一度そう認識してしまうと、もうよほどのことがない限りそれは揺らぐことはない。――人の認識や感情のいかに曖昧なものか。
本当は、僕らは自分が見ているもの以外に何かが存在していることを証明できないのかもしれないのだ。
なぜならそれを確かめるすべがないから。
そもそも自分自身の存在すら確かにこの世界にいるということすら証明できない。
「我思うゆえに我あり」と誰かが言った。もちろんその思考を認識できる本人にとっては確かに存在するのだろう。ただ思っている主体が確かに世界に存在しているという証明にはならない。
思考には形がない。
ゆえに視覚することが出来ず、あることが推論されるということに他ならない。
世界から本人が消え去る時にそれを認識できた存在はいなくなる。
――真実は常に本人にのみ。
この世に残るのはその人の思考の最もシンプルな形――その人が成し遂げた確かな成果だけである。その成果すら、その人が確かにいたという証明にはならず、それをかすかに感じ取れるというだけではあるが。
芸大の4人を巡る一連の事件が何のために行われたのか――結局本当のところは分らない。痴情のもつれから作品を撮るというふりをして殺されたということなのか、あるいはそれを知りながらあえて死に望み自分自身の生きた証として残した最後の形があのビデオテープだったのか。――その理由は見えない。――土のたくさん積まれたダンプと同様に、僕らに見えたのは小説として語られた一部だけ――目の前を走っていったその存在だけ。その見た存在を証明は出来ても、その存在には僕らが見ていない以前の状態があり、そしてその以後の存在もあるのだ。それを推論、あるいは妄想することはできる。――Φ(ファイ)の語感がある言葉に似ているとか。Φとは記号でありそこに何かが代入されるのかもしれない。それが《壊れた》といいたかったのかもしれない――とか。しかし見えないものは存在を証明することはできず――語りえぬものは沈黙するしかないのである。
「土を山盛りに載せたダンプ、という存在が永久的にあって、それが姿を変えず存続し、ずっと走っているのではない。たまたま、僕たちの前を通り過ぎたとき、その姿をしているだけだ。僕たちが見ているものは、すべてそうだ。ダンプは本来、その土をどこかへ運ぶために一時だけ存在している。土はどこかで積まれ、どこかで下ろされる。」
――海月及介
戻る