★ネタバレ感想★
λに歯がない
森博嗣
<あらすじ>
密室状態の研究所で、発見された身元不明の4人の銃殺死体。それぞれのポケットには「λに歯がない」というカードが。そして死体の歯が、全部抜かれていた。――Gシリーズ第5段。
<感想>
本作のテーマは「萌絵の成長」。
S&Mシリーズにおいて、萌絵は殺人事件に関わっていってたのは、ミステリィのヒロインだから――ではなくて、実は彼女の目の前で飛行機事故でなくなった両親の後を追い自殺したいという「死」への希求からだった。
自分の思考や感情にはプロテクトをかけながら、それでも死を身近に置き、眺め、魅入られていた。
しかし『有限と微笑のパン』において、「あの人」によってそれは開放されて、以降はパズルを解く興味だけで、事件に関わってきた。
しかし本事件では、萌絵は人の死を悲しいと思い、それを行った犯人の憎悪を切ないと感じる。それは「死」に対して感情を持つということは、実は彼女の中で「死」がようやく客観となった、ということなのだ。
――人は本当の悲劇に出会ったとき、感情など働かない。
萌絵も両親が死んだ瞬間、ただ何もかも壊して、無くしてしまいたいだけだった。
――世界も、
――自分も。
感情とは、後から思い出してつけた理由。
棚に貼るラベルのようなもの。
整理がついて、ようやく、あれは悲しかったと、死にたかったと思える、客観だ。
今回の事件が、森ミステリィにしては、そしてGシリーズにしては異例的に動機が語られるのも、萌絵が「死」を――被害者を悼み、人を殺すという激しい感情を思うという部分で必要だったからだ。
――人を生きている限り、変わっていく。
生きている限り、いつまでも愛せないし、
いつまでも死を思えない。
変わっていくことで、人は前へ進めるし、生きていけるのだ。
では、変わらなくなった時
――人は、「死」を選択するようになるのだろうか。
いずれにしても、人を殺そうと思う感情も、きっとあとづけの理由だ。
美しい思い出に縋って生きていくことしか出来ない静止した感情。
歯を抜く行為も、「λ」という言葉を残すのも。
美しい思い出の中に建つ屋敷。
いくら新しい家を建てても、
もう戻らない、
もう変わらない、
永遠となった、思い出。
そこから前へ進めるか、その場に留まってしまうかで、人の生と死は分かつ。
ならば、死んだ人間をもう一度生かす――そういうことこを目指しているという「あの人」は、その変化する生というものまで組み込んでいるのだろうか。
どうしてかしら。いったい、どうして涙が出るのでしょう?
悲しいって、一体なんだろう?
私か悲しいと思うことには、どんな意味があるのでしょうか?
――西之園萌絵
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