★ネタバレ感想★


ラグナロク洞《あかずの扉》研究会影郎沼へ
The Cave of Rangnarok

霧舎巧


<あらすじ>

 《あかずの扉》研究会に助け求めてきた匿名の手紙によって隠れ里のように存在している影郎村を訪れた書記の二本松翔と自称名探偵の鳴海雄一郎。しかしついて土砂崩れによって洞窟を利用した地下ホテルへ閉じ込められてしまう。同じように閉じこめられた人たちが次々と殺されていく。その死体のそばには常にダイイングメッセージが添えられている……。《あかずの扉》研究会シリーズ第3弾。


<感想>

 今回は嵐の山荘ものだそうで――嵐の山荘が地下ホテルだとは思わなかったですね。なかなか斬新かも。ただ閉じ込められて次々人が死んでいくのに切迫した雰囲気がない――というのがどうも。理由があるとはいえダイイングメッセージの講義までして絵空事の中のパズルを楽しんでいるとしか思えません。前巻前々巻でも書いたと思いますが、このシリーズは本格ミステリィという土台の上に立って成立しているます。だからどうしても登場人物のとくにレギュラーメンバーの感覚が普通の人ではないんだよね。とくにワトソン役であり記録者、一人称で読者の視点となるべきカケル自体が本格マニアでことあるごとに絵空事である本格ミステリィ世界の知識を前提に話す。絵空事を背景にしているので、どうしてもこの作品世界まで薄っぺらさを感じてしまうんです。もちろん小説である以上どんな作品だって架空には違いないんだけど、それを読者に感じさせては興ざめというもの。
 それに相変わらず物語・ドラマがほとんどないのが不満。本格ミステリィとは設計図に沿って話を組み立てていき最終的に組みあがった全体像の美しさを見せるもの――はかる尺度が間違っているといえばそれまでだけど、それじゃあミステリィはパズルなの?と思ってしまう。パズルならこんな長い文章は要らない。それなのにこんなに長い文章があるということは、そこに何かドラマティックなことを書くから――だと思うんだけど。

 ただ本格としてパズラとしてはとても面白かった。あとがきでそれを目指したとあるので成功したといえるでしょう。このシリーズ、トリックはいつも大掛かりだけど、くどくど説明しないと分からないようなものより、大味でも人目で分かるようなシンプルなもののほうがふたばは好きです。冒頭の引用でも「大勢の人間が首をひねって解読できんようなメッセージはとんでもない欠陥品や」とありますね。最高のトリックとは「何でそれに気がつかなかったんだろう?」です。部屋の繋がっている位置がずれているというのには感心しました。ダイイングメッセージも、鳴海が犯人を特定する為にわざとそれをしかけたという所には本格世界を背景にしたリアリティのなさを感じますが、ダイイングメッセージの使い方としてはリアリティを感じますね。それにミッシングリンク――これがふたばの1番好きな面白いと感じた所。殺される人たちが神の名を持つ人たちだったことと舞台が核シェルタであったことからタイトルにある北欧神話の神が滅ぶ終末像――ラグナロクに繋げているところが好きです。あらゆる宗教で語られる終末思想の中でも、ラグナロクは神まで死に絶えるというところが特異である――ということには正直今まで気が付きませんでした。それを巧に今回の殺人に繋げてさらにタイトルへにまで結び付けている。カケルがラグナロクの名が持ち出すのは唐突だと思うけど、こういうこだわりは好きです。
 ただ神をモチーフに使うんなら人の心や宗教観のもっと深く踏み込んだほうが良いと思う。この作品で登場する宗教観はアニメやマンガの影響を受けた中高校生が考えたように浅いです。これでは、単に名前の言葉遊びでパズルのための装飾としか思えません。折角タイトルにまで使っているんだから複雑な宗教談義をする必要はないけど、人の心がなぜ妖しげな宗教に結びつくのか――くらいの奥深さを感じさせて欲しかった。隠れキリシタンとはいえなんで彼らが人を騙し殺して核シェルタを造るほどいれこんでいるのか――?それが昔から隔絶している村の生活の一部だ、と言われたところで、年よりならそれも時代が現代でなればともかく、都会の大学にまで通っていた青年までが入れ込むかどうか納得いきがたいです。

 以前にも書いたと思いますが、どうもふたばは主人公であるカケルが好きになれません。それにヒロインであるユイも。カケルは視点として偏りすぎているのが馴染めないし、ユイは小悪魔的でそれでいて肝心の時には自分を頼り甘えてくる――といったそんな男にとって美化されたというか作為的なキャラに設定されている所が鼻につく。以前は探偵役である後藤悟もキャラクターが良く見えずあまり好きになれなかったけど、今回彼の背景が見えて、少しだけ好きになりました。最後に説教的なのがちょっと嫌だけど、彼の裡にも開かずの間があっていつも彼はそれを思い悩んでいて説教臭くもなるんだね。鳴海は好きなキャラクターですね。マンガ的でステレオタイプだけど、なんか好き。他のキャラクタはほとんどこだわりがありません。

 

「≪あかずの扉≫っていうのはね、物理的に開けられないケースはほんの少しなんだよ。ほとんどの場合は心理的に開けられないようになってるの」

――由井広美


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