★ネタバレ感想★


捩れ屋敷の利鈍
The Riddle in Torsional Nest

森博嗣


<あらすじ>

 秘宝エンジェル・マヌーバが眠るメビウスの輪の構造体「捩れ屋敷」。捩れ屋敷の密室の中で死体が発見され、秘宝も消えた。さらに「密室インポッシブル」と書かれ完全密閉された小屋の中にも第二の死体が。謎に挑むは保呂草潤平と西之園萌絵!?――Vシリーズ第8弾。


<感想>

 Vシリーズ第8弾。そして講談社20周年記念メフィスト賞作家による「密室」をテーマにした書き下ろし特別編。というわけで今回はいつものVシリーズとは違う番外編です。なんと短編『ぶるぶる人形にうってつけの夜』に続いて西之園萌絵さんが登場。ついでに犀川センセイもちょっとだけ登場して、VシリーズとS&Mシリーズがクロスオーバーするというファンには溜まらない趣向です。犀川センセイなんて萌絵さんと電話でちょっと話すシーンに登場するだけなのに、それでなんだかとても嬉しくなっちゃう(笑)。相変わらず話を聞いただけで、もうすでに分かってるという、キレ具合(登場時の寝ぼけ具合も)グーでしたね(笑)。どうせなら犀川センセイVS.紅子さん切れ者対決とか、紅子さんVS.萌絵さんのお嬢さま対決とか、根来VS.諏訪野の執事対決とか見たかったですが、そうなると話がムチャクチャ長くなるでしょう(笑)。

 基本的に登場するのは(事件に関わるのは)、保呂草探偵と萌絵さんのみ(あと萌絵さんの保護者的な立場で国枝桃子先生もいますが)。お互いが二人の想い人(?)に重なりあうという趣向がほんわりとありますね。特に紅子さんと萌絵さんの類似性が単なる偶然ではないようで、エピローグの保呂草探偵と紅子さんの意味ありげな会話が――もう気になる、気になる(笑)。これがVシリーズに深く関わる謎になるのか、それとも単なる洒落なのかは不明。後者である可能性は高いけど、ほのかに前者であることを期待しつつ(笑)。

 探偵が犯人を言い当てる前代未聞の手法とは「目撃してました」ってこと?――確かに前代未聞だ(笑)。なんだか世俗にまみれた人間関係から生まれる犯罪を嘲笑している感じ(笑)。そんなことよりもずっと面白く綺麗なことが行われようとしていた。それをすべて台無しにした犯人の欲と愚劣さを相手にしないことで批判しているかのようです。――破壊された美術品を見て怒りのあまり本当はすべてを蹴飛ばして逃げ出そうとしていたのに保呂草さんは、しかし萌絵さんを喜ばすために計画されていたとおりにモルタルを塗る。その後ろに紅子さんをすかして見つつ。紅子さんにすべてを話し、彼女の反応を見ることを期待しつつ。――今さらながらですが保呂草さんの行動原理が分かった気がします。――欲しいものは手に入れる、どんなことをしても――か。なるほどね。――いつもと違う相手である萌絵さんを見て、いつもの紅子さんをますます思うかな。保呂草さんのその行為がちょっと素敵だと思いました。 

 さてせっかく「密室」をテーマにした企画なので、今作の「密室」についても少し。密室の仕組み自体よりも、その思想が素敵だと思います。「エンジェル・マヌーバ」という鍵を内側に封ずるメビウスの輪の構造体のキーホルダー。内と外が反転する思想。扉が固定され建物が移動する「密室」。――この思想の愉快さ。確かにばかばかしいほどの大仰な仕掛けですけど、それが象徴するものの綺麗さにゾクゾクしました。そしてそれを利用して行われた犯罪の醜さ。その対比。――なるほど「利鈍」とはそういう意味かと思いました。

 

いつだって……、
綺麗なものが、汚される。
大切なものが、壊されてしまう。


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