★ネタバレ感想★


龍は眠る

宮部みゆき

 


<あらすじ>

 嵐の晩、雑誌記者・高坂昭吾は、自転車をパンクさせて立ち往生していた少年・稲村慎司と出会う。二人は子供の失踪事件に遭遇するが、慎司はその詳細を言い当てる。慎司は人の心や物からその残留思念を読み取れる超能力者だった。そして、慎司との出会いがその後起こるすべての事件の始まりだった。


<感想>

 ミステリイだが、実はそこにはベクトルが向かっていない。二つに事件をきっかけに、出会う稲村慎司と織田直也の二人の物語だ。同じ力を持った、でも違う道を選んだ少年たちの物語。臨まない力を持った二人の少年たちの希望と悲しみが描かれている。慎司はその力に希望を見出そうとし、直也はその力を呪った。物語冒頭で、「これは、ある決闘の記録である」と書かれている。二人が直接戦うわけではない。彼らの選んだ道が正反対をいく故に「決闘」なのだろう。

 口をきけない七恵と人の心が見える直也、一見、理想的とも思える二人が、なぜ結ばれなかったのか。どんなに人の良さそうな人でもその心の奥底にはドス黒い感情を隠し持っている。それは、七恵でも同様で直也のことを気に掛けながらも口のきけない自分にとって便利な人という感情はあった。その人の心の裏表の違いに直也は我慢できなかった。人の心が見えてしまうというのは苦痛でしかない。特に直也のような、純粋な少年にとっては。一番信頼できるはずの両親の醜い感情を間のあたりにして、彼の心は潔癖になった。心に隠されている感情が気になって、どんな人にも心を開くことが出来なくなった。

 同じ能力を持った稲村慎司と直也の違いそこだろう。慎司にも潔癖なところがあるが、慎司の潔癖は前を向いている。慎司にも苦しみはあるが、慎司はそれを理解してくれる両親や大叔母の存在があった。支えがあることで、彼は人間に直也ほど絶望せずにすんだ。苦しみながらも、自分の存在意義を考え、その力を前向きに使えるかもしれないと、懸命になっている。でもそれは直也にとっては苦労を知らない子供の青さに思えたのだろう。慎司も今度の事件でその青さを実感することになる。

 おそらく、直也は七恵が好きだったのだろう。でも、七恵の心の中にも裏表はある。もし七重が、直也を恐ろしいと感じるようになったら、それを力で自分が知ってしまったら、その感情がひどく醜いものだったら、直也にとって自分の力が知られることよりも、その事の方が恐怖だったに違いない。だから、彼は七恵の前から姿を消した。雑誌記者・高坂のことがなくても、いずれ姿を消しただろう。でも、七恵のことが好きだったから、直也は七恵の近くにいた。最後に高坂も気づくように、彼がそれをしたのは七恵の為だった。七恵の前から姿を消さなくてはならない直也がしてあげられる最後のこと、それは七恵の幸せの為の障害を取り除くことだった。そして、そのことが逃げつづけたの直也が、自分の中に眠る「龍」への恐怖へ立ち向かわせる勇気となった。

 

「自分一人で全部しょって立つ気構えがなかったら、他人の身に起こることに関わっちゃいけない」

――織田直也


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