★ネタバレ感想★


六人の超音波科学者
Six Supersonic Scientists

森博嗣


<あらすじ>

 六人の超音波科学者が集う土井研究所。そこへ通じる唯一の橋が爆破されて陸の孤島と化した時、そこで行われたパーティの最中に六人の科学者のひとりが死体で発見された。出席していた瀬在丸紅子たちは事件解決に乗り出すが――Vシリーズ第7弾。


<感想>

  Vシリーズ第7弾。包括すれば、科学の純粋な使徒だった科学者たちが、その科学の純粋さを維持するために犯した犯罪――かな。でも維持しようという感情がすでに純粋ではなく打算的。もちろんそれが間違っているというわけじゃないけど。科学者たちが行った犯罪計画が不確定な偶然から狂っていったというのがなんというか実に科学者らしい皮肉かもしれない。科学では計算された数値と観測された数値がずれるものだそうだから。

 紅子さんの練無に危害を加えたことに対して怒るシーンが見もの。自分以外のことに関して感情を剥き出しにする紅子さんの姿ってこれまでになかったんじゃないかな?死んだ人間の肉体に個人の尊厳はない、パーソナルを形作るのは人間の思考でありそしてそれが導き出した結果にある――科学者ならそう考えるものらしい。科学者である紅子さんも死体損壊や殺人自体には思うところはないようだし、他人のことでは常に冷静で、一段高いところから物事を見ている紅子さん。
 ――でもこの時の紅子さんの怒りは、科学者としての客観性と人間としての尊厳の葛藤の狭間で一瞬だけ発露したものだ。つまりそれが保呂草さんの言う人間から生まれる最初の「一瞬」にしか現れない「善」ということなのかもしれない。「善」という言葉自体すでに打算にまみれているけれど。でも人間から生まれる一瞬の感情の発露って理性や思考ではない。言葉に還元できないとても「純粋」なものだと思う。それは言葉に還元したとたん、きっと打算や思惑にまみれ、あるいはいいわけ理由づけとなって、それがどんなに理性的で理に適っていようとも、ある意味、不純なものになってしまうのだと思う。

 ――「殺したら、もとに戻らないのよ!」と叫んだ紅子さんがとても綺麗だと思いました。特にその時の様子が細々と書いてあるわけじゃない、セリフ羅列で、それこそいいわけ理由づけなのかもしれないけれど。そう叫んだ瞬間の、紅子さんの感情の純粋さが、とても「綺麗」だと思いましたね。

 

「だから、だから、だから、という理由で人はどんどん堕ちていく。人でなくなっていくのです。思い出しなさい。考えましたか?殺したら、もとに戻らないのよ!

――瀬在丸紅子


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