★ネタバレ感想★
スカイ・クロラ
森博嗣
<あらすじ>
いつかどこかの世界――。戦争を専門にする企業がいくつもあり、それが「職業」となっている世界。「僕」は戦争企業に所属する戦闘機のパイロット。「僕」はまだ子供で、だからこそ優秀な戦闘機乗りだった。今日も「僕」は大空を舞い、戦争を憎むわけでも嘆くわけでもなく、職業として人を殺していく。――「キルドレ」と呼ばれる子供たちが日常的に戦争を繰り広げる世界のどこかねじれた物語。
<感想>
まず感じたことは、この物語世界を染めている色は「透明」なんだということ。
キルドレと呼ばれる戦争を職業としている子供たち――地上にいる時の彼らはまるで夢の中にでもいるようにピントがぼやけ茫洋としてる。達観とした雰囲気もあるけど、どこかねじれているし、様々な想いにも囚われている。しかし空を舞う時の彼らは別だ。まるで彼らが舞う空の色のように、すべてから切り離され、つき抜けてしまっている。無限に広がる空のたったひとりの世界。それは孤独というのとは違う、自由というのでもない――やはり言葉で表現するとしたら「透明」だ。何ものにも囚われない色。空の無限さを表す色。その色で、この世界は包まれている。
キルドレにとって、この「透明」であることがすべてのような気がする。
死なないキルドレには、人としての「運命」がないのだという。永遠に生きる問いことは、時間の流れが存在しないということだろう。時間の流れが存在しなければ過去も未来も消え、現実は曖昧となる。しかしそれは永遠に生きるための防衛なのかも知れない。――心にいろいろなものが溜まらないように。生きていけば、人の心にはいろいろなものが溜まる。その汚れに耐えながら人は生きる。しかし死ぬことがないキルドレは、いろいろな物をためこんで、いつしか死なない身体を置いて心だけを壊していくしかない。――そうならないための防衛。それが出来たものがキルドレだ。
空を飛ぶことも同じだ。それは心を空みたいに透き通らせるための行為。地上にいる時も時間を曖昧にして考えないことで防衛しているけど、それでも心は次第にねじれていく。しかし空を舞う時だけは彼らはなにものにも囚われない。すべてから切り離され、ねじれ汚れた心は漂白され、透明な綺麗な心を持てるのだ。――まるで地上にいる彼らは夢の中の彼らで、空にいる時だけが本当の彼らのようだ。囚われる地上から飛び去り、青空をクリアな気持ちで泳ぎ回る。そこには死があり、そして生がある。――キルドレにとって、空を飛ぶ時だけ運命があるのではないか。
――死なない、殺しても生き返るのかもしれないキルドレにとって、死とは今いる世界から離脱することでしかない。夢から死ぬことで目覚めるのと同じ。それは散香が大地を離れ、空に飛びあがるようなもの。それでも彼らは空へと向かう。なぜならそれが唯一の彼らの運命だから。――しかし飛び立った飛行機は永遠には跳び続けることが出来ない。必ず地上に降りざるをえない。空を舞い、一瞬、心がクリアになっても、彼らは地上に降りてきて、いろいろなものを溜めていく。死んで世界から離脱しても、夢から覚めるようにまた、舞い戻ってくる、この世界に。
彼らは繰り返す。
繰り返すのだ――永遠に。
永遠に繰り返すために、心を綺麗にする。
――空を舞いつづけるために。
なぜなら、かれらは空のいきもの。
それは雲一つすみきった青空。
戦争を知らない大人たちに捧げよう。
彼らの過ちは、三つある。
子供たちが自分たちから生まれたと信じている。
子供たちより多くを知っていると思い込んでいる。
戻る