★ネタバレ感想★


水曜日のジゴロ
――伊集院大介の探求――

栗本薫


<あらすじ>

 大恋愛をしてそれを失ったあと、以前のように女性を愛せなくなったレズビアンの藤島樹。かといって男は今まで通り嫌いだし、女性を愛せないまま行きずりの女性と関係を持ち捨てる日々。そんなある日やはり行きずりの関係を持った女性が公園で強姦され殺されるという事件が起こる――。


<感想>

 伊集院大介シリーズ。50歳になったレズビアンが降りかえって思う「なぜ女を抱くのか」という問いへの物語。――だが結局は誰の心のな化にもある凶器という一般論に摩り替わってしまっているのが残念。レズビアンという特殊な(差別的な言だが)人の特殊な感慨も見てみたかった気がする。

 レズビアンといってもいろいろあるんだと思うけど、藤島樹の場合は男装の麗人――男として女性を愛するわけで、つまりこの場合ほとんど男性と女性の関係と同じだと思う。――愛してもないのに肉欲や征服欲の為に女性を抱く男性的一方的な欲望ではないだろうか。その男性的一方的愛情の権化のような男性が金田千秋。どこか女性的で女性を嫌いながらも抱くという行為、性別こそ違えど実はもう一人の藤島樹自身。樹は彼に無理やり犯されることで自分が女性にどんなことをしてきたかに気付く。――男は女性から奪う。時には命さえも、ということを。

 結局、千秋は人を殺してこそはいなかったけど自分のことしか考えないサディストで、顔こそ綺麗で特別の存在のように見えるけど実は男そのもの。いや綺麗だからこそ女性に飽きて女性に対する畏敬の念がいっそう剥げ落ちている。彼が人殺しのシリアルキラーではなかったことこそ実は現代社会に潜む恐怖だ。それは誰だってあんな風な一方的な思いの果てに人を殺しうるということがだ。樹も千秋にひどい目にあわせられたけど、でも実は樹自身も他の女性に同じことを――暴力こそはひどくないにせよ、思いをかけず身体だけを求める一方的な性を紡いでいる。樹が嫌いな男と同じように女性から奪いながら生きているのだ。樹は少女のころ男に犯されてさらに母親とも折り合いが悪く憎んでいる。女性を抱くのは女性が嫌いだからそれ確認するためとすら思ってしまう樹にとって女性とは千秋と同じように一方的な自分の思いを対象でしかない。いつ千秋のように逆上して人を殺しかけてもおかしくはないのだ。

 愛も死も実は同じところから来ている、と伊集院大介は言う。結局、人を愛することも、殺すことも、他人を見ていないから出来ること、自分しか見ていないから出来ることなのだと思う。――樹が自分の人生に迷ったのはそのことに気がついたからだ。大恋愛をしてそれを失ったあと、自分の思いを相手に投影することすら出来なくなった。だから迷ったのでしょうね。

 

「最悪の暗黒と最高の光とは、どちらも同じ人間のなかに存在しうるのだ」

――伊集院大介


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