★ネタバレ感想★


転・送・密・室

西澤保彦

 


<感想>

 <神麻嗣子の超能力事件簿>シリーズ第5弾。第2短編集。

現場有罪証明
 保科さんの一人称。別の場所にもう1人の自分を出現させる「リモートダブル」という能力が登場。
現場にいないことではなく、いたことを証明させるためにリモートダブルが使われるという逆転の発想が面白い。それよりも嗣子ちゃん、能解さん、聡子さんの女3人よればかしましいパジャマパーティがもう――ねえ(笑)。……気持ち分かるよ、保科さんという感じ。

転・送・密・室
 能解さんの一人称。時間を跳躍する「タイムイレーザー」が出てきます。
事件を的確に描写するところの能解さんの理性的な性格が垣間見得ますね。超能力を絡めた事件の手法はともかく、何が不思議なのかが見えずらく、その手法があきらかにされた時の驚きが少なかったのは残念。しかし、最後に明かされる動機にはぶっ飛びでした。これが一番の驚きでしたね。

幻視路
 聡子さんの一人称。「予知能力」が出てきます。
この話は前話とうってかわって最初から不思議がいっぱい。逆に超能力がらみの手法はないワケだけど、「風評被害」という事件の真相は、いつもよりぶっ飛んでない変わりにリアリティがあり、その目の付けどころが新鮮でグー。『念動密室F』とのからみ、シリーズとしてのフリもあり、さらにそれが間接的にではある事件の真相を気づかせる伏線へと結びつく、というシリーズファンにとっても実に興味深い話です。嗣子ちゃんの聡子さんに対するこだわりに、なにか特別なものを感じます。聡子さんは予知能力者だったわけだけど、「だけど、いつかきっと分かります」と言った嗣子ちゃんも、もしかしたら?――深いね。短編一つ一つに現れるシリーズとしてのフリから垣間見える作者の意図を見通すのも、シリーズファンにとっては楽しみなところです。聡子さんは良い女ですよね。波瀾好きという困った性癖はありますが(笑)。あ、でも「男」らしいのは能解さんよりもむしろ聡子さんですね。

神余響子的憂鬱
 神余響子ちゃんの一人称。「カンチョウキ」による「念動力」が出てきます。
が、今回の事件の扱いはとても軽い。「何のためにカンチョウキを使ったか?」という真相は意外にシャープでしたが、でもやはりミステリィとしては小粒な感じ。それよりも今回は、嗣子ちゃんの同僚(?)神余響子ちゃんの登場でこれまで一切謎に包まれていた「チョウモンイン」の存在がクローズアップされます。……本当にあったんだ――というのが正直なふたばの感想ですね。嗣子ちゃんがサイキックであることを隠すためでっち上げじゃなかったのね(笑)。――響子ちゃんは今回初登場(もしかして『念動密室F』に出てました?)の新キャラですが彼女の視点で描かれることによって、ますます嗣子ちゃんて一体何者なの?という不思議が浮きぼりに。響子ちゃんは姿が嗣子ちゃんにそっくりだというし、響子ちゃんの母親と嗣子ちゃんを重ねるシーンもあったし、誰も知らないはずの響子ちゃんの母親の存在を嗣子ちゃんはまるで知っているかのように振舞うし、まさか嗣子ちゃんは――?、とシリーズとしての謎フリが今回の目的かな。――確かに男の目から見たら可愛くてしょうがない嗣子ちゃんも、女性の目から見たら鬱陶しくてイライラする存在かも。しかも、イライラしながら、なぜかどんどん惹かれていっちゃうって、そのワケの分からなさがますますイヤなんだという感じなんでしょうね。

<擬態>密室
 再び保科さんの一人称。自分の姿を別の姿に認識させる「変身能力(デイスガイズ)」が出てきます。
保科さんの新担当・阿呆梨稀が登場。なにやら不可思議な力の持ち主と思われるけど……。能解さんと保科さんが妖しい雰囲気になったのは彼女の仕業なのでしょうか?――どうやら今作もシリーズとしての前フリが主目的のようです。ただ今作は前フリ部分と事件の部分がはっきりと二つに分かれてしまっているのが残念。せめて阿呆梨稀が事件に関わってくれば――という感じ。さてかんじんの事件のほうですが、保科さんが解き明かした事件の真相がどうも曖昧で偶然に左右される部分がたくさんあって、たとえ結果これが事実だったとしても、どうもしっくりきません。パズルの完成し1枚の素晴らしい絵を見せてくれるような――そんな爽快感がないからでしょう。まだピースが足りないのに、一応、絵の様子は分かるからそれで説明して見せた――そんな感じのところが原因かと。

神麻嗣子的日常
 なんと嗣子ちゃんの一人称!しかもこれでお別れ!?
――別れを覚悟しながら、家事の説明をしていく嗣子ちゃんの姿が健気で切ない。嗣子ちゃん側から描くことで嗣子ちゃんが保科さんを実はどんなに慕っているかということがあきらかになった。「ずっとこのまま保科さんと――」。嗣子ちゃんみたいな純粋無垢的世話好き少女の中にも、他人を押しのけてまで欲しいものを手に入れようという心がある――何となく『無限巡礼』の「あの人」の恐ろしい執念を思い出しました。誰の心の中にも秘めた恐るべき「想い」はあるのでしょう。――ミステリィだったらもっと良かったんだけどなあ――というのは贅沢?
 ――最後のアレは阿呆梨稀の仕業なんでしょうか?そして神麻嗣子という名は借りのもので、しかもまだ生まれていないかもしれない?――ああ、ますますワケ分からなくなった。――嗣子ちゃんって一体誰なの?姿がそっくりだという響子ちゃんとの関係は?なぜ保科さんと能解さんをくっつけようとするのか?なぜ聡子さんなら愛人でも良いのか?――ああ、早く続きを読みたいです。

 

これが保科匡緒……。見たことがある。この人と、どこかで会ったことがある。――ふとそう思いました。

――神麻嗣子


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