★ネタバレ感想★
空の境界
奈須きのこ
<あらすじ>
肯定の「式」と否定の「織」という二つの人格をもつ少女・両儀式。己の中に眠る「殺人衝動」を押さえて暮らしきたが、高校に進学し黒桐幹也という少年と出会ったことで彼女の中の何かが狂い始める。同時に現れた連続殺人鬼。――交通事故によって2年間の昏睡の後遺症によって式は、覚睡した時、当時の記憶を失い、変わりに、この世のあらゆる物を殺す「眼」を手に入れた。それ以降、次々と式を襲う怪異。暗躍する魔術師の存在。――そして式が記憶を取り戻した時、ふたりの前に再来する殺人鬼。
<感想>
1/俯瞰風景 /Thanatos.
普通「世界」といえば、知識として知っている脳の中で認識している広い世界。しかし人がその世界を実感できるのかといえば、そうではない。人は自分が見える範囲の世界しか実感は出来ない。しかし人は高い場所から俯瞰の風景を見た時、普通見ることが出来ず知識としてしか認識できない世界を「見て」しまう。見えている世界は実感できるはずなのに、見えるだけで実感できない俯瞰の風景。そこに齟齬が生じて、世界と「遠さ」に隔たりを感じてしまう。――死へと向かいつづける巫条霧絵の実感できる世界は病室の中だけだった。そこから彼女にとっての俯瞰風景である外の世界を見つめ続け、外の世界――生の世界との隔たりを感じてしまう。その齟齬が彼女をますます生の世界から遠ざける。生から置いていかれる霧絵にとって、唯一できる「死ぬ」ことだけが、最後に残された実感できる生。霧絵は死に逃避し浮遊する。――しかし浮遊では何処へも行くことはできない。
――両義式もまた生を実感できないでいる。何故なら彼女の眼は生きている世界ではなく、死を視る眼であるから。……見える世界が実感できる世界だというなら、彼女もまた生を実感できるはずがない。彼女にとって世界とは、その眼に視える死そのもの。死を視つめることが式の実感できる生そのものなのだろう。――霧絵と変わらない。しかし式は浮遊ではなく、戦うことを選ぶ。死に向かうのではなく、それに抗うこと己の生を実感する。ふたりは相克する螺旋。「我々は背負った罪によって道を選ぶのではなく、選んだ道によって罪を背負うべきだ」蒼崎橙子
2/殺人考察(前) /… and nothing heart.
両儀式と黒桐幹也――ふたりにとっての唯一の事件。世界を拒絶するあまり孤独なことすら気がつかない両儀式という少女を、黒桐幹也が救えるか、癒せるか――それこそがこの物語の主題。――肯定人格の「式」と否定人格である「織」。2重人格者であるため生まれながら他者の存在を知ってしまった式は、他者の醜さに絶望し世界を拒絶した。しかし自分の中に肯定と否定の両極を持つゆえに、皮肉にも独りだけで足りている。――しかし黒桐幹也の存在が式の世界を壊す。式の同級生で、唯一の友。惨殺死体の前に佇む式の姿を見ても、式を「信じる」と言った少年。外界を拒絶するゆえに外界からも拒絶されている式にとって、黒桐幹也ははじめて外からやってきて式を受け入れてくれるかもしれない存在だ。――幹也の笑顔に式は外の世界を初めて意識する。彼と共に行けるのではないか――そんな夢をみる。――しかし皮肉にも彼女の足りていた世界は、外の世界を望むがゆえに壊れ始めてしまう。望んでしまったゆえにその「遠さ」に絶望する。「私は、おまえを犯(ころ)したい」――黒桐幹也を求める心と壊してしまいたいと思う心。そのアンビバレンツ。両極ながら同じところから発する感情。――人を殺したいという衝動は、どこから、そしてなぜ来るのか?
3/痛覚残留 /ever cry, never life.
痛みがあるからは人は生きられる。その痛みがない藤乃は生の実感がない少女。存在しない身体、うつろな心。世界はTVの見ているかのようにうつろで空虚。彼女が初めて痛みを知ったとき、彼女は生を実感した。してしまった。再びそれが閉ざされた時、痛みを求めて人を殺す。人の痛みを自分の痛みの代償とするために。痛みを見て思う。生きていることが嬉しい。生きていることは気持ち良い。――しかしいつしか手段と目的が反転する。痛みをえるための殺人だったものが、殺人そのものが快楽となる。「殺す」ことが生の実感へとすり代わる。
両儀式もまた生の実感が乏しい。過去の記憶に囚われる彼女。しかもそれは自分のとは思えない過去。そんな彼女にとって確かなものは白熱に輝く「今」だけ。曖昧な彼女の持つ、たった一つのモノであるその命。それをさらして「殺しあう」ことが彼女の今、確かな生の実感。
――結局、藤乃の痛みは錯覚なのだろう。快楽とは脳が生み出す幻だから。だか人の痛みから彼女の得た生の実感もまた虚構。黒桐幹也は言う――痛みは耐えるものではなく、訴えるもの。痛みとは防衛本能。それは心の吐露。――もっと生きたいという叫び。……藤乃が真に痛みを、罪の意識と罰を得たとき、藤乃はは本当に告げたかった言葉を思い出した。「とても痛いす。わたし、泣いてしまいそうで――泣いて、良いですか」
4/伽藍の洞 /garan-no-dou.
人は独りでは生きられない。両儀式は内にもう一人の人格である織がいた為、孤立はしていても孤独ではなかった。独りで足りていた。しかし二年前の事故により、織は式と彼が大切に思ったユメを守る為に両儀の中から消えてしまう。昏睡から目覚めた式は今の自分に実感ができなくなっていた。自分と言う存在のアイデンティティーの断絶に苦しむ式。両儀式という伽藍の中にあいた洞。――それはこれまでこの空虚さを知らなかった式が初めて感じた「孤独」という感情。……きっとそれは誰もがそれを抱えている感情。――だから人は誰かと共にあることでその空洞を埋めていく。しかし式はその空虚さを埋めるすべを知らない。すべてを受け入れる式にその空虚さをすら受け入れることしか知らないから。
しかし死に触れて死と繋がってしまった式は、生まれて初めて死の受容を拒絶する。そしてその抗いの為の戦いにおいて、彼女は覚睡後、初めて自分が生きていると感じる。――もしすべてを拒絶する織ならば、きっと死を拒絶するために戦ったからだろうと思ったから。そう考えたとき式も死ぬことを拒絶していた。それは両儀式の中から消えたはずの織を感じた瞬間。――たとえそれが錯覚であっても。――ただ、拒絶することで、彼女は覚睡後はじめて「足りた」。本来は織の属性である拒絶を行うことで。式と識が存在して初めて両儀式という人間は足りるのだから。
いつも眠っていた織。夢みることが好きだったという織。――そして織が自分を消してまで守りたかったユメ。――夕焼けの教室で見た「彼」の笑顔。そこに見た普通に生きるというユメ。式と織は本来一つで、だから織が好きだったものは式だって好きだ。彼女を待ちつづけた「彼」ならば、伽藍洞となった両儀式の隙間を埋めることはできるかもしれない。「黒桐幹也。フランスの詩人みたいだ」
境界式
……それは人を越えるための儀式。目的の為に操られる人形(ひとがた)。定まった因果。求める唯一の数式を得るための数式の左辺。――「 」へ至る「空の境界式」を得るための。
5/矛盾螺旋 /Paradox Paradigm.
テーマは「肉体」とそこに宿る「意志」。――その肉体が本物だろうが作られたものだろうが、――その意志がコントロールされていようが繋がっていなかろうが、――そこにその肉体が在り、そこにその意志が宿り、――今そこに君がいて、今そこに生きているのなら、――それが本物か偽物かなど関係がない。――それは唯一にして絶対の真実。
螺旋とは人の生。――遺伝子によって定められた事象を行う人間そのもの。時が移り場所が変わろうと、総じて人間という群体の行う事は変わりない。同じ過ちを繰り返すばかり。進化はなく進歩もなく、ただ今をただ同じ場所を巡る螺旋。
矛盾とは人の性。――猿より進化してきた人類という種。しかし進化を極め完成に近づいたにもかかわらず、完成に近づくにつれ、存続したいが為に完成を拒むように停滞し生き続ける。また欲望の止められないはずの人類が、その果てに何度も滅びそうになりながら、なぜか滅びる手前で止まりつづける。――矛盾する人の性。
かつて僧だった荒耶宗蓮は、人の世を救済しようとして救うことができず、人でしかない自分に絶望し、何度救っても同じことを繰り返す救いえぬ人の性を憎悪する。――だから彼は人間を超えて存在しようとした。人間を滅ぼし、人間を超え、己の理想の人間像を構築する。――人の死を収集し、人間を縛る螺旋がどこから来るのか、その根源はどこかを知ろうとする。人には持ちえぬ強烈な意志をもって、人間の根源である「 」に繋がった式の肉体を手に入れようとする。
――荒耶宗蓮は人を越え自分の理想を追求する為に生きた。それが彼の強さであり、しかし同時に決定的な弱さだった。彼の理想は高いが、そうではないことに耐えられない。結局は、荒耶宗蓮は、彼ががもっとも憎んだ人という種の意志によって滅ぶことになる。――意識下で繋がって持っているという人の集団的意識である「アラヤ識」――彼と同じ名を持つ意識によって。
それは臙条巴と少年。ただの人間でしかない――いや人間ですらない荒耶宗蓮の実験の為に作られたまがい物の人間でしかない臙条巴。同じことを繰り返す螺旋に生きる臙条巴が生み出した小さな矛盾がその螺旋を抜け出させる。――そもそも荒耶は、人間が運命を超えられるかの実験をしていたのだ。初めての成功例が荒耶の中に矛盾を生み出す。――「荒耶」が生み出した臙条巴という人形が、彼を綻びさせたということは、結局、荒耶宗蓮は自らの矛盾によって滅び去ったということなのだろう。何度失敗しても、また同じことに挑みつづけるアラヤもまた、螺旋の中で生きているのかもしれない。前へ進んでいるようで、進まない、先を見すぎて、根源を見すぎて、実は動いていない。――荒耶宗蓮の起源は「静止」。
橙子はいう。「――かもしれない、ばかりさ。けれどそれが真実だ。箱を開けるまで生きているか死んでいるか判らない猫と同じだ。大事なのは今起きている現実だろう?」と。――人は同じ所を回っているかもしれない。人の生には意味はないのかもしれない。ただ懸命に生きる人の意志は、人を縛る螺旋をも越える――魔法すら越える矛盾。
6/忘却録音 /Fairy Tale.
テーマは「記憶」そして「永遠」。記憶の「再認」ができない魔術師・玄霧皐月。自分自身の過去が曖昧で今の自分が不確かな玄霧は必然的に未来もない。あるのは過去の記録を取り出せる力と「帰りたい」と望むかつて10歳の少年だった「想い」だけ。ゆえに永遠に変わらないものを求めて人の忘却している「記録」を収集する。しかし10才のまま止まっている少年にとって、世界は醜くさに満ちている。
――記憶は人の成長・変化に伴い色あせる。――その元になった「記録」は変わらないのに。ならば人の意志など切り捨てて、人が積み重ねてきた時間そのものをその人と認識してその「記録」として収集する。人の思いは変わるけど、積み重ねられた時間は変わらない。――なぜならそれは過去の出来事だから。過去は定まっている。――ゆえに「永遠」だ。――その忘れたい過去を突きつけられた時、人はかつての自分と再会する。
しかしそれにはもう意味がないのだ。人が忘却するのは、今の自分を守る為。それが辛い想い出だろうが、美しいユメだろうが。永遠ゆえにそれを取り出しては行けないのだ。――何故ならもう帰れない。時は未来へと進むから。永遠とは停止していることだ。でも人は今を生きている。
かつての自分は本物で、確かにそれは永遠となった。でも今の自分だって本物で、それは永遠になるだろう。結局、永遠なんてそんなもの。妖精のシッポと同じ。夢見ているうちが花。けっして掴めぬ幻想。ゆえに「報われないね。永遠なんて、何処にだってあるっていうのに」。そう何処にだってある。何故ならそれは――ユメだから。……僕らの中に。
境界式
……それは人を越えるためのはじまりの――しかし誤った儀式。目的のから外れ逸脱した者。狂った因果。唯一から外れた、異なった数式の右辺を求める左辺。
結果――ふたりの望まなかった始まりの儀式。空白を埋める式。そして現れる「空の境界」へ至るための道。
7/殺人考察(後) /…not nothing heart.
再び現れた3年前の殺人鬼。
――かつて黒桐幹也を殺そうとした式。しかしそれは殺人衝動を受け持つ織のせいではなく、式自らの中から出た衝動だった。過去を思い出した式は、まるでそれと呼応するかのように再来した殺人鬼の影を負い、黒桐幹也の前から姿を消す。――3年前の殺人鬼かもしれないということ以上に、今度こそ自分は黒桐幹也を殺してしまうかもしれない――そのことが何よりも式を苦しめる。再来した殺人鬼は何よりもそれを式につき付ける。
――かつて両儀式を救えなかった黒桐幹也。――ただ信じることしかできず、結局、彼女を何よりも追い詰めていたのは、殺人鬼よりも、式の肉体につがなった混沌よりも、式を解脱させようとした魔術師よりも、なによりも無力だった自分だと気付く。自分は式のために何が出来るのか?――再来した殺人鬼はそれを黒桐幹也につきつける。
3年前、両儀式という存在は一般世界に存在していなかったのだろう。何故なら彼女自身が世界だったから。しかし彼女は黒桐幹也に触れた。その暖かさと苦しみを知る。だからこそ、彼女は黒桐幹也を殺そうとした。彼女の中の殺人衝動ゆえではなく――彼女の肉体が繋がっているという混沌の渦「 」の為でもない。――彼女の黒桐幹也への想いが激しすぎて、彼女の存在のあり方とあまりにも違いすぎて――絶望的にまで彼女を苦しめていたから。――人が人を殺す理由、それは極まった感情ゆえの苦しみからの開放。――自分の許容範囲を超えた感情は苦しみへと変わる。それがきわまりすぎると、人はそれから逃れる為に人を殺す。「私は、おまえを犯(ころ)したい」
しかし彼女は、殺せなかった。彼女の中にある殺人衝動、何もかも無に返したいという混沌。そう生まれつき支配されているにもかかわらず、それであってもなお、彼女は人を殺せない。祖父の遺言は切っ掛けに過ぎないと思う。彼女はそうならないように殺人衝動を受け持つ式を殺し続けてきた。――しかし黒桐幹也を殺せなかったのは、きっと、彼がユメだったから。逸脱した自分と、共に居られる誰かを、式が求めていたから。織と同じはユメを式だって見ていたから。彼が許さないといったからそののちは殺せなかった、共に歩けなくなることを恐れて。彼を殺したから――だから殺せた。……もう歩けないから。
人は一人しか殺せない。――人は一人の死しか背負えない。――つまり自分の死しか。ゆえに、他人を殺すこととは、自分をも殺すこと。――他人を殺すことで、もう自分の死を背負えなくなる、自分の死を背負えないということは自分の生も背負えない。黒桐幹也は、式の罪を背負うといった。――だから、式は黒桐幹也と共にしか生きられない。
人間であることをあきらめてしまった白純里緒は式を人間の境界の向こう側に連れ去ろうとし、黒桐幹也は式を境界のこちら側へと戻そうとする。式はこの正常と異常――2つの世界の境界にいて揺れ動く。白と黒。その間にいる式。起源が「無」である式は、確かに白純里緒側の人間なのかもしれない。その本質は変わらないのかもしれない。それでも式は苦しんでいる。――彼女の境界はまだ決まっていない。たとえ異常な存在だとしても、その境界を引くのは式自身。――この『空の境界』という物語は両儀式という少女の救済の物語だ。黒桐幹也の、好きな人に向けるごく当たり前の愛情が、両儀式という特異な存在の少女を癒す。
結局、「殺人考察」という式と幹也、二人だけの物語は、二人にとって何が大切なのか? 二人は何を求めているか? それを確認する旅だった。
――初めて人を欲することを知った無垢な少女と
――私にしてみれば、おまえのほうがずっと奇跡みたいにキレイだった
――全てに優しいゆえに特別な一人を持たなかった少年の
――君に誓った。君のかわりに罪を背負うって。だから――僕が、君を殺そう。
――それは不器用すぎるほど純粋な恋の物語。
――彼女の心は空だった -and nothing heart-。
彼女はたとえ二人でも一人であり、世界から孤立していて、――そして本当は孤独だった。
――でも。もう彼女の心は空ではない -not nothing heart-。
彼女の空っぽは、黒桐幹也の愛によって埋められたから。
空の境界
雪の舞う夜、黒桐幹也はすべての始まりだったかつて出会った少女と再び出会う。――肯定に式と否定の織。――その両儀の間にあるもう一人の両儀式。両儀式という肉体自身が持った意識。式と織を生み出してその間に眠るもの。
「空の境界」とは、社会が恣意的に決める本来存在しない常識の境界のことであり、また通じ合えない人と人とを隔てる心の壁のこと。――決して無くならなず混じれないけど、それがいつの日かその境界は空っぽになって、人は欠けた部分を補えるのではないか――そんな祈りみたいな境界。
でけどもう一つ、個人的にはこの3人目の両儀式こそがタイトルの『空の境界』を指し示しているのではないかと思う(ついでに本文中にある「 」という部分も「空」のことではないかとも)。
つまり人の肉体こそが「空っぽの境界」だ。――人の意志が入る空ろな入れ物。人をその人足らしめる意志を生み出すという肉体というカラ。己と世界を――内と外を隔てる境界。――どちらが内でどちらが外かはその人次第かもしれないけど。
僕らは意志をこそ、人のパーソナルだと信じ込んでいる。掛け替えのないのは、肉体ではなくて、その人の意志だと。
――でも本当にそうだろうか? 脳は意志を生み出すといわれあたかも意志と同様に扱われることが多いが、その脳だって肉体の一つで――意志というパーソナルを包むカラに過ぎないとはいえないだろうか?
そもそもその意志というのが不思議なものだ。カラに過ぎない脳が発する単なる電気信号のノイズでしかないものが、僕らを僕らたらしめている。肉体が発するそんな些細で曖昧なものが僕らなのだ。
だとしたら、意志が肉体によって生み出されていると考えるより、むしろ意志は肉体と共にあると考えるほうがよいのではないあろうか?
肉体と意志は不可分で区別できないのではないだろうか。そもそも意志だけになったら、それはもう人とは呼べない。それは神なり悪魔なりといわれるものだ。
人は、肉体と意志があって、初めて人なのだ。
僕らもまた肉体という「空の境界」の中に、肉体と共にある不思議だ。両儀式は特異なキャラクタだけど、彼女のありかたが特別なわけではない。
――僕らだって、式と同じように、空虚さを抱えている。誰だって、時々何かを無性に壊したくなる。 傷つき、傷つけ、――そんな叫びみたいな想いに囚われる。――いつだって、人を隔てる境界を消して、誰からも誤解されることもなく、誰からも傷つけられることもなく、誰とも理解しあえるような、そんな一つになりたいと思う。
……けれど、その境界なくして、僕らは僕らとして存在できない。
――だから、この物語は式や黒桐幹也たちと同じ世代の少年少女たちの孤独を描いたのであり、救済であり、「僕ら」の特別な物語なのだ。
……両儀式のように意識を持って現れることはないだろうけど、僕らの「空の境界」も雪空の中で独り佇みユメを見ている。僕らは自分の「空の境界」のユメをおう。――誰かと共に歩めるというユメを。
人間は、一人一人が全く違った意味の生き物。
ただ種が同じだけということを頼りに寄り添って、解り合えない隔たりを