★ネタバレ感想★
冷たい密室と博士たち
Doctors in Isolated Room
森博嗣
<あらすじ>
同僚の喜多助教授の誘いで、N大学工学部の低温度実験室を訪ねた犀川助教授と西之園萌絵。衆人環視の実験室の中で、男女二名の院生が死体となって発見された。完全密室の中に、殺人者はどうやって侵入しどうやって脱出したのか?しかも、殺された二人も密室の中に入ることなどできなかったはずなのだ……。
<感想>
S&Mシリーズの2作目であるが、書かれた順からいけば処女作。その為か多少こなれない部分があり以降の森ミステリィに比べて、きわめてオーソドックスなミステリィとなっている。それでもその背後には森ミステリィ特有の隠された定理を感じる。
見所は、やはり犀川の謎解きだ。まるで見てきたように犯人の行動を推理し組み立てていく犀川の思考力。犀川がそれに気づくのが、木熊教授が自分の部屋へ帰る喜多助教授のうしろ姿を不安そうに見ていた、ということだけなのだから恐れ入る。犀川はよく「何が問題なの分かれば解ける」と言うが、わずかなきっかけで、犯行を見通す犀川は、その瞬間は天才と言えるだろう。
市ノ瀬里佳は「学問なんて虚しい」と言った。確かに一心に学問に打ちこんで得た物が、レイプされ、愛する人を失い、父親を殺人に駆り立て自殺にまで追いやり、自らも人を殺すと言うものなら虚しい。
学問は何も生み出さない。学問は一般的な社会生活には役に立たない。しかし、犀川はその学問の虚しさを知ることが、学問への第一歩だと言った。学問とは勉強して一番の成績を取れば良いのか?満点を取ることがゴールなのか?
学問とは競争原理とは関係ない。他者との比較において存在するものではない。学問には果てがない。ここまですれば終わりというゴールがない。一つの疑問が解ければまた新たな疑問が現われ、常に研究することであふれている。決して極めることのできないものへ一心を向けるその虚しさ。それを知ることが、学問への第一歩なのだ。
では、なぜその虚しさに研究者たちは向かうのか?難しいことではない。ただ単にそれが面白いからだ。生命に直接関係ない行為に喜びと価値を見い出すこと。
それは人間にしかできない。
「だいたい、役に立たないものの方が楽しいじゃないか。音楽だって、芸術だって、何の役にも立たない。最も役に立たないということが、数学が一番人間的で純粋な学問である証拠です。人間だけが役に立たないことを考えるんですからね」
――犀川創平
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