★ネタバレ感想★
真夜中のユニコーン
栗本薫
<あらすじ>
教授との恋に破れて、傷を癒す為にうらぶれたテーマパークへの住み込みのバイトへやってきた聡子。そこでパークを愛する青年諒や女子憧れのプリンス氏家らなどのグループと出会い彼らと仲良くなる。しかし猥雑な男女関係に悩まされることになる。そんなとき氏家と付き合っていたという数ヶ月前に行方不明になったアルバイトの女性が腐乱死体で発見された。
<感想>
伊集院大介シリーズ。――とは言うものの肝心の伊集院さんの出番が極端に少ないのが残念。弟子のアトムくんはもう少しは出てくるけどそれでもメインじゃないし。――名探偵とは「見る者」でありドラマの本筋に関わるものではない、とは思うものの、いくらなんでもここまで出番がないのはいかがなものかと(笑)。
人の寂れた遊園地の風景が、寂しいんだけどどこか純粋な「物」の風景という感じでどこか惹かれますね。特にラストのほうの真夜中に動き出したメリーゴーランドあたりの描写が好き。遊園地って夢の世界で、夢というのは人があってのもの。その人がいなくなった遊園地って、どこか夢の抜け殻みたいだけど、それが動き出した風景は寂しいのだけど、人間たちに負わされた夢からようやく開放された、「もの」のはかなさの美ともいうべきものを感じました。自然でも人の世界でもない、ただの抜け殻に過ぎない、これから朽ちていく「物」たち自身の最後の夢というのかな。
ユニコーンはその女性が清らかな存在かどうか見ぬけるという。ただしユニコーンはあくまでも人が作り出した存在でしかない。現実に人の心が見ぬける存在などいない。それは幻想である。つまり今作における「ユニコーン」とは「人が他人に描く幻想の象徴」なのだ。
自分のことだって分からない人は他人のことを自分というフィルタを通してみようとする。そのこと自体は当たり前のことだ。しかしそれが犯罪などの歪みへと転じるのは、他人という存在を意識しているかどうかが問題なのだと思う。それを忘れた時、ひとは他人を自分の妄想によって歪め、自分の夢で捉えようとする。ストーカは自分こそがその人を思っているのだという自分だけの幻想を追った結果であり、本当はその相手の存在を認識していない。レイプは相手を人間とすら思っていず自分の本能のみを開放した結果である。それよりは犯罪ではないという意味でもうちょっとましかもしれない不倫も「愛する」ということを神聖化して、それですべての行為が正統化されると思い込み、それによって多くの負担と苦痛あじ合う人たちがいるということを忘れてしまっていると思う。――すべてが他人を他人として認識していないことの結果だと思う。他人の存在を感じることを忘れた時、人は自分の中の幻想にそってのみ行動し相手や世界のほうを歪めてしまうのだ。幻想を持つこと自体は誰にでもあることだ。ただ相手や世界を歪め始めたときに、そこに不自然で犯罪的な行為が起こってしまう。
――ヒロインである聡子の抱えた問題も同じだ。自分のことしか見ていずに恋に恋してそれが破れると人を疎い人から離れようとパークへやってきた。そして自分に好意をもつ川田諒を自分の都合によって歪めて見て、一時は彼を好ましく思うが、彼女の幻想からはみ出していると感じたら拒絶してしまった。――それは彼女の人生経験が少なく、人を知らなすぎたことが原因だろう。人と接することになれなかったために、他人が自分とは違う考えを持ち行動することを受け入れられなかったのだ。人を知らなければ、想像することしかできない。想像はたやすく幻想へと転じ、それを通してしか物事を見られなくなる。
人が人である限り他人のことが判るわけはない。相手が自分を思っているような美しい存在であるはずがない。世界はその人の幻想だお売りではないのだ。――乙女を見ぬき乙女にしか懐かないというユニコーン。でもユニコーン自体が幻想なのだ。ひとはユニコーンではない。相手が自分とは違う他人であることを自覚することが人同士のコミュニケーションの第一歩だ。――ユニコーンの夢は終わったのだ。
「どうして、ひとって、遊園地なんか、作るんだろうね。――夢をみるため、なのかな。(中略)私……遊園地よりも、やっぱり……現実の生活の方がきっと好きかもしれない。遊園地のほうが、ずっときれいなんだけど」
――藤巻聡子
戻る/シリーズリスト