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覚書4 声の達人

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<準備中>と書いておきながら、遅々としてタイプできなくて、なかなかFTPできなかった。ここ1ヶ月ほどで生活環境が激変し、南河考研のコンテンツを従来通りに夜なべ更新することが難しくなっているからだ。
どこかのサイトの考古学コラムがコンスタントに新しい記事を提供し続けているのにくらべると、このコラムはお恥ずかしい状態だ。
とはいえ、これからも気のおもむくままにボチボチと記事を書いていくつもりなので、お暇なかたはときどきチェックしていただけると有り難い。


プロの仕事は、やっぱり素晴らしい。

少し前のことだが、ひさしぶりにプロの仕事ぶりに接することができた。
最近はどの分野でも、マニュアルに従って諾々と仕事をするだけの人間や、詐欺的な手法だけに頼って仕事をこなそうとする輩の多さが目についてしようがない。
だから、久しぶりに目の当たりにした本当の仕事師の仕事に、胸がスカッとするような爽快感を覚えたのだ。

今現在、某博物館の開設準備作業に携わっている。この博物館の展示には、発掘調査で出土したいろいろな遺物のような実物資料のほかに、模型やグラフィックや映像資料などが必要とされている。

そうした展示資料のひとつにコンピューターグラフィックを多用した映像資料がある。
この映像資料は、博物館でメインに展示している某遺跡の各時代のようすをコンピューターグラフィックで再現することを主な目的にしている。
来館者にわかりやすく親しみやすく解説するために、この遺跡に関わっている著名な歴史上の人物をアニメキャラクター化して、この映像の中に登場させたりもしている。
どんなアニメキャラクターか、ここで詳しく紹介できないのが残念だが、アニメキャラクターの雰囲気がこの映像資料の全体の雰囲気を方向づけているのは間違いない。そこで重要な問題なのがアニメキャラクターの声だ。どんな声優さんを起用するかで映像資料のイメージがかなり変わってくるだろう。
映像制作業者の監督さんが選んだ声優さんと打ち合わせして、スタジオでアテレコした。声優のかたがた皆さんは、それぞれに素晴らしいプロの仕事をしてくれた。

その中でも、まさに声の達人といえるプロの仕事ぶりを我々に見せつけてくれたのが、久米 明さんと池田昌子さんだ。
久米明さんといえば、テレビ番組等でおなじみの名ナレーター。味のある独特の口調は紀行ものなどのテレビ番組ナレーションに欠かすことができない。
また、池田昌子さんといえば、僕と同世代の人の多くが、人格形成期に多大な影響を受けたテレビアニメ「銀河鉄道999」メーテル役、そして「エースをねらえ」お蝶夫人役の声優さんだ。


池田昌子さんは今回、某女帝のアニメキャラクター役。
私の用意した台本をメーテルが読んでいることに感動していると、1度のテスティングで原稿内容を完全に自分のものにしてしまった。本番のレコーディングも、ほぼ1発で調整室側のオーケーが出た。さすがプロだ。ところが・・・。

「もう1度お願いします」
わずかなミスを池田さん自身で確認して、最初から全部の録音をやりなおしたいと即座に言われた。
再度おこなわれたレコーディングはもちろん完璧な仕上がり。素晴らしい集中力で池田さんの声はアニメキャラクター自身の声になった。
また、池田さんを声の達人たらしめる最大の要素は、その声質を長年のあいだ保ち続けていることだろう。僕が「銀河鉄道999」のTVアニメを毎週楽しみに観ていたのは、たぶん小学生か中学生の頃だ。おおむね勘定すると、15〜20年ほど前になる。
そのころの池田さんの声質と現在の声質との差は、よほど注意して聴き込んでも、ほとんどわからない。おそらく、声質の維持に相当の注意を払っておられるのだろうが、まさに声の達人だ。


久米明さんは今回、某名僧のアニメキャラクター役。
スタジオに入ってこられたときのその気さくな印象にまず爽やかさを感じる。
そして、おもむろに鞄から取り出した縦書きの台本。こちらが用意した横書きの原稿を、久米さんが手書きで写し取ったものだ。おそらく、自分の中で役作りをするために、ご自宅で筆をとり、新大阪駅までの新幹線の中で何度も目を通してくださったのだろう。
調整室内の椅子に座ってテスティングに入る。
実際の画面映像に合わせて、セリフを絞り出す。確かめるような感じでセリフを絞り出す。役作りを完全なものにする最終段階のようだ。
次に録音室に移動し、再度テスティング。
「あぁ、なるほど。ここはこういう感じか。うんうん」と納得しながら、個々のセリフのイントネーションを確認する。
いよいよ本番のレコーディングだ。キャラクターの気持ちを自分のものにしていくように、身振り手振りをしながらセリフを録音。

「そうだ! 石棺だ。石棺を使おう!」
録音室のテーブルの上に半身を乗り出し、両腕を大きく広げてキメのセリフをマイクにぶつける。
このセリフの設定は、アニメキャラである鎌倉時代の某名僧が、古墳の横穴式石室から刳抜式家形石棺を引きずり出して池の樋管に転用するアイデアを思いついたときに発するというもの。
このきわめて合理的な発想にもとづく盗掘行為は、当時の社会では至極妥当な行為だった可能性もあるわけで、現在の認識からすれば犯罪的なこの行為を映像の中でいかにポジティブに表現するかが課題でもあった。
久米さんの快活かつ味のある声で解説されると、観る人にすなおに受け取ってもらえる気がする。
久米さんの全身をマイクにぶつけるような録音は、アニメキャラクターに魂を宿してくれた。
気迫のこもったレコーディングは、まさに声の達人の技だ。

こうしてできあがった映像を観ていると、声の達人たちの仕事が素晴らしいのもさることながら、映像制作に携わったスタッフたちのプロの仕事ぶりが結集して作品が完成していることに今更ながら気づく。
コンピューターグラフィックとアニメーションを作成したスタッフ、そしてそれを1本の作品にまとめあげたスタッフ。彼らもまた寝る時間を惜しんで映像制作に没頭し、素晴らしいプロの仕事をしてくれた。
博物館がオープンしたらぜひ、この映像資料を多くのかたに観ていただきたい。達人たちの仕事の成果をかならず実感してもらえると思う。

あとは、我々学芸がプロとしていかに良い仕事をしていくか。それがこの館の展示を成功に導く条件なのだが・・・。

(1999年7月1日)



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